北海道(札幌)の弁護士が大量懲戒請求を受けたことに対する提訴予告及びこの間の東京、横浜で行われている大量懲戒請求に対する損害賠償請求訴訟について
 
弁護士自治を考える会
いわゆる大量懲戒について、自身も大量懲戒を受けたにもかかわらず、懲戒請求者らに対し原告弁護士らが報復的な損害賠償請求訴訟を提起した裁判の被告側の弁護もしておられる猪野亨弁護士(札幌)が北海道の弁護士らが新たに提訴した損害賠償請求についての意見を『猪野亨のブログ』で公開されました。第1回公判期日は12月に決まったようです。
http://inotoru.blog.fc2.com/blog-entry-4231.html
インターネットサイト「余命三年時事日記」が呼び掛け、全国の弁護士に対して行ったいわゆる大量懲戒請求事件について、北海道新聞7月12日付で、札幌の弁護士3名が計1650万円の請求を道内52名に対し、損害賠償請求訴訟を8月下旬にも行うと報じました(予備的請求は各人に50万円)。原告は、島田度、皆川洋美、池田賢太各弁護士です。
 これら弁護士の起こす訴訟を以下では「北海道訴訟」と表記します。
 この大量懲戒請求の件では、札幌弁護士会でも役員も含め大量懲戒請求を受けていました。私も大量懲戒請求を受けた1人です。
 私は現在、東京、横浜の訴訟において訴えられた被告の方々の依頼を受け、弁護士らによるかかる賠償請求が誤っているという訴訟方針で対応しています。
 北海道でも訴訟提起が予告されたことから、ここに私の見解を示したいと思います。 北海道訴訟の原因となった懲戒事由は以下のとおりです。

 日本弁護士連合会会長中本和洋名で発出された、違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その要求活動の実現を推進する行為は、傘下弁護士の確信的犯罪行為である。
 また、任意団体「Counter-Racist Action Collective」(対レイシスト行動集団。「C.R.A.C.」のツイッタージャパンに対する通知書代理人について国際テロリストとして告発されている弁護士が含まれており、公序良俗に反する品行のみならず、テロ等準備罪に抵触する可能性まであると思料する。
 一般国民として看過できるレベルをこえているのであり、ここに理由と説明を添えて懲戒請求するものである。

私と同時期になされた大量懲戒請求ですが、私の請求事由とは異なりますが、そもそも懲戒処分となるようなものではありません。私の時もそうですが、このような請求は当然に棄却されています。

 さて、北海道訴訟とは別に東京地裁、横浜地裁では佐々木亮、北周士、嶋崎量各弁護士が個別にそれぞれ30万円(+弁護士費用相当分3万円)ずつの損害賠償請求訴訟を提起しています。
 ご自身たちが都度、ツイッターで「勝訴」判決の報告をしています。ここでは「満額」が認容された判決が多数、報告されています。
 これらの損害賠償請求に多くの問題が含まれますし、これまでも表明してきたとおり、これらの弁護士が損害賠償請求を行うことは問題であると考えています。

大量懲戒請求に対する高額賠償請求の問題点を改めて振り返る」

 

大量懲戒請求事案について損害賠償請求訴訟の争点は以下の点です。

 

1 違法な懲戒請求の損害賠償請求を認容した最高裁平成19年4月24日判決の射程には入らないこと

最高裁平成19年判決の事案は、もともと紛争当事者同士となっていた状況での懲戒請求であり、悪意を持って行われた懲戒請求です。
 そのため懲戒請求をされた弁護士は、詳らかにすべく、弁明書、資料の作成などの労力、時間を相応割くことにもなった事案です。
 これに対し、今回の大量懲戒請求事案は紛争当事者でもなく、事実関係に争いはなく評価の問題となるだけの事案であり、所属弁護士会も最初から懲戒事由には当たらないと判断し、対応してきたものであり、請求された弁護士の負担は殆どありません。
 全く事案の性質が異なるものであり、最高裁平成19年判決を今回の一連事件にそのまま当てはめるのは適当ではありません。
 今回の懲戒請求手続を用いたことについては、弁護士会、対象弁護士に対する実質意見であるので、その手段・目的として相当とは言えませんが、実質意見に過ぎないのですから懲戒請求として違法というものではありません。

2 そもそも損害があるのか、請求するにしても損害額が過大であること

 私はそもそもこのような大量懲戒請求を受けたことによって生じる損害は皆無だと考えます。弁護士会は、この問題では大量懲戒請求書が送付された段階から既に懲戒対象ではないという「結論」を出していたからであり、懲戒請求を受けた際に出すことになっている弁明書を提出しなくても懲戒処分を受けることはない事案でした。現在では、こうした無意味な懲戒請求に対処するために綱紀委員会規程の改正も行われ、懲戒請求対象弁護士の弁明を聞くまでもなく懲戒不相当の議決ができるようになりました。
 さて、仮に今回の大量懲戒請求によって損害が発生していたとしても1人あたり30万円もの損害が発生するのでしょうか。
 北海道訴訟の場合は、予備的請求ですが、1人あたり50万円の請求になっています。
 東京、横浜の訴訟では、個別に損害が発生するとして1人あたり30万円が請求されていますが、1000人とすると3億円の損害が発生したということになります。それが懲戒請求を受けた弁護士の数だけ発生することになります。
 3億円とは近親者12名が亡くなったときの慰謝料額(1人あたり2500万円)に匹敵します。
 大量とはいえ、本当にこれだけの精神的苦痛を被ったといえるのは甚だ疑問です。
 人数分の損害が観念できるのか、それとも1つの損害しか観念し得ないのかという問題になります。
 東京、横浜の訴訟で、佐々木、北、嶋﨑各弁護士は、共同不法行為は成立せず、それぞれの請求ごとに損害があると主張しています。
 それにしては、損害を基礎づける主張では「大量」にされたことばかりが強調されています。
 これに対し、北海道訴訟では共同不法行為が成立することを前提に懲戒請求をした人たちに対して連帯して請求しています。
 1つの行為として、どの程度の損害なのか、仮に損害があると仮定したとしても、弁護士会での綱紀委員会手続はすべて併合調査がなされますので、手続自体は1つであり、弁明書を提出するにしても1通で足りるというだけでなく、最初から結論(懲戒不相当)が見えているものであり、損害として観念できるものは1つしかありません。

3 ヘイトとの戦いというのはこじつけであること

 東京、横浜の訴訟では、当初、ヘイト(差別意識に基づく懲戒請求)との戦いという位置づけではなく、それぞれの請求で個別に損害を受けたからというのが主張の骨子でした。しかしながら、その後の主張や訴訟外でのツイートからはこうした大量懲戒請求はヘイトであり、ここで叩かなければヘイトクライム、つまり直接の暴力行為(犯罪)に発展するというものに変化、移っていきました。
 北海道訴訟では、最初からヘイトとの戦いと位置づけられ、同様にヘイトクライムにつながると主張しています。
 しかしながら、差別意識に基づくものかどうかは見解の相違です。懲戒請求の発端となった事実は朝鮮学校への補助金の打ち切りに対し、弁護士会が抗議声明を出し、それに関与した弁護士会役員などが懲戒事由に該当するとして、懲戒請求がなされたものです。
 これが差別意識に基づくものかどうかは、一概にはいえません。朝鮮学校への補助金の支出の打ち切りは各自治体の判断ですし、それを最高裁も違法ではないとしました。補助金が違法という立場から弁護士会の声明に対して批判することも自由であり、それ自体が差別に基づく言動とされるものでありません。
 差別意識に基づくというのは飛躍がありますし、それ以上にそれがヘイトクライムになるというのは根拠がありません。懲戒請求手続は合法な手続という前提で関与したに過ぎず、損害賠償請求を認めさせなければヘイトクライムに発展するというのは根拠がないだけなく、侮辱にも該当するものです。
 日本の民事訴訟では懲罰賠償は認められていません。総額3億円にもなる東京訴訟、横浜訴訟、共同不法行為として500万円を請求する北海道訴訟は明らかに過大ですが、これを正当化しようとしているのがヘイトとの戦いという主張です。しかし、それでは、賠償の補填ではなく、制裁目的、つまり懲罰賠償を要求しているものと言わざるを得ません。

 

私(猪野)に来た懲戒請求書