(取消された処分要旨) 2019年11月号
東京弁護士会がなした懲戒の処分について、同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第1号の規定により公告する。
記
1 処分を受けた弁護士
氏名 小林芳郎
登録番号 9821
事務所 東京都千代田区神田須田町2-25-7 グリーンパーク神田701号
今川橋法律事務所
2 懲戒の種別 戒告 (2020年10月15日 処分取消)
3 処分の理由の要旨
被懲戒者は、懲戒請求者株式会社A,その子会社である株式会社B及び懲戒請求者A社の当時の代表取締役Cを被告として提起された損害賠償請求訴訟を受任する際に、B社との間で懲戒請求者A社、B社及びCの3名分の契約書を作成したものの、報酬に関して明確な規定を定めることをせず、上記事件の判決確定後、懲戒請求者A社に対して、懲戒請求者A社が合意していない内容の報酬請求を行った。
被懲戒者の上記行為は弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4処分が効力を生じた日 2019年8月28日
2019年11月1日 日本弁護士連合会
東京弁護士会が令和元年8月28日に告知した同会所属弁護士小林芳郎一会員(登録番号9821)に対する懲戒処分(戒告)について、同人から行政不服審査法の規定による審査請求があり、本会は令和2年9月15日、弁護士法第59条の規定により、懲戒委員会の議決に基づいて、本件処分を取消し同人を懲戒しない旨裁決し、この採決は令和2年10月15日に効力を生じたので懲戒処分の公告及び公表に関する規程第3条第3号の規定により公告する。
記
1 採決の内容
(1) 審査請求人に対する懲戒処分を取り消す。
(2) 審査請求人を懲戒しない。
2 採決の理由の要旨
(1) 東京弁護士会は懲戒請求者A(以下「懲戒請求者A社」という。)その子会社である株式会社B(以下「B社という。」を被告として提起された損害賠償請求事件を受任した審査請求人がB社との間で懲戒請求者A社、B社及びCの3名分の委任契約をまとめた2013年2月14日付け委任契約書を作成したものの、報酬に関して明確な規定を定めることをせず、上記事件の判決確定後、懲戒請求者A社が合意していない内容の報酬請求を行ったとして、戒告の処分に付した。
(2) 東京弁護士会が認定した事実に加えて①受任当時、Cは懲戒請求者A社及びその完全子会社であるB社の経営を支配できる立場にあったこと②B社が第1審終了までに委任契約に定める月払いの着手金を支払っていたが、控訴審移行後は懲戒請求者A社が着手金を支払い、審査請求人との事後連絡もB社から懲戒請求者A社へ移行したこと③控訴審の進行中に懲戒請求者A社の経営を巡る内紛が生じ、Cは代表取締役を退任し、支配株主の地位を追われたこと④新たな業務遂行を支配されることとなった懲戒請求者A社は受任訴訟の確定後、審査請求人の報酬の支払ないし支払に関する協議の求めに対し、支払を拒否する若しくはその一部のみを負担する旨の態度を示したことが認められる。
(3) 審査請求人は懲戒請求者A社に対し受任訴訟の第1審、第2審の審級ごとに東京弁護士会旧報酬会規(以下「本件会規」という)に当てはめてそれぞれの経済的利益に対応する報酬額を算出し、これを合算して請求したところ、この算出方法を採ることにつき、懲戒請求者A社との合意は存在しなかった。このような請求は委任契約において報酬額算出の基準とされた本件会規の定めに反するのみならず、受任訴訟の確定によって初めて報酬額の基礎となる経済的利益が定まるのであるから、格別の事情がない限り合意性を欠くものである。しかも本件において概ね正当と認められる報酬額(審査請求人が提起した報酬請求訴訟の控訴審判決の認容金額)に対し審査請求人の請求額はその最も多額であった時点で約2,4倍に達している。
(4) しかしながら審査請求人には①委任契約書上にはB社のみを依頼者としているが、当時のCの支配力を考慮すれば、実質的には懲戒請求者A社にも依頼者と言える事情があり、かつ、控訴審に移行後、懲戒請求者A社が着手金を支払い事後連絡を担当するようになったにもかかわらず、懲戒請求者A社が報酬の支払に応じようとしない等の態度であったことから、実質的な依頼者として責任の履行を求めることを目的として懲戒請求者A社に対して審級ごとに算出した報酬請求をしたことに全くその根拠がなかったとはいえないこと②報酬請求は当初協議の申し入れから始まり訴訟に至って結審しており、その過程において審査請求人にその金額の点を除いて不誠実な行為は無く、その金額も協議をするためのたたき台としての色合いが濃い上、懲戒請求者A社が訴訟提起に屈してその金額の支出に直ちに応じた蓋然性は低く懲戒請求者A社に特段の困惑や負担が生じたともいえないこと,③東京弁護士会は本件委任契約の報酬に関する規程が不明確であったことを本件報酬請求紛争の原因と認定しているが紛争の経緯は上記のとおりであり、その責任を審査請求人のみに帰すのは相当ではない。という事情も認められる。
以上の事実を総合的に考慮すると審査請求人の本件報酬請求行為は適切なものではなかったといえるものの、弁護士としての品位を失うべき非行とまでいうことはできず、この点で審査請求には理由があり審査請求人を懲戒しないものとする、
(5) なお審査請求人が審級ごとの報酬請求に理由がないにもかかわらず、本件においておおむね正当と認められる報酬額の約2,4倍に達する金額を請求した点には問題があり、戒告の処分が相当であるとの意見が一定数あったことを付言する。
3 採決が効力を生じた年月日 2020年10月15日