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【子との面会交流を履行しなかった同居親に対する損害賠償請求訴訟】判決書・令和5年10月5日判決言渡し・名古屋地裁

5年10月5日判決言渡 日原本領収 裁判所書記官 

令和3年(ワ) 第1543号 損害賠償請求事件  口頭弁論終結日 令和5年7月13日 

判 決

告  別居親(父親)

同訴訟代理人弁護士  梅村真紀

被告 同居親(母親)

同訴訟代理人弁護士  岡村晴美  

 主 文

原告の請求棄却する。 ;. 

2 訴訟費用は原告の負担とする。 

事実及び理由 

第 1 請 求 

1 被告は、 原告に対し、 1000万円及びこれに対する令和3年4月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 

2 訴訟費用は被告の負担とする。 

仮執行宣言 

第 2 事 案 の 概 要 

本件は、原告、 元妻である被告が、 原告と別居するにあたって長女連れ出したこと、 離婚訴訟において虚偽の主張等をしたこと、 離婚成立前から長女に被告の旧姓通称使用させていたことなど原告に対する不法行為に該当し、また、被告が原告長女の面会交流応じなかったこと不法行為又は債務不履行に該当するなどと主張して、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害請求として、慰謝料1000万及びこれに対する訴状送達翌日である令和3年424日から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害の支払求める事案である。 

1 前 提 事 実 

(1) 当事者等 

原告と被告は、 平成242月に婚姻し、同年4月長女をもうけた。 

(2) 別 居 

原告被告及び長女は婚姻後、 自宅で同居していたが、 平成2610月、 被告が長女連れて自宅を出る形で別居した(以下「本件別居」という。)。 

(3) 第1回面会交流調停等について 

被告は、上記別居と同日に、名古屋家庭裁判所に対し、 原告との離婚及び婚姻費用の分担を求め調停 (名古屋家庭裁判所平成26年 (家イ) 第292✕号、 292✕号) 申し立て、これに対し、 原告は、長女との面会交流を求める調停(名古屋家庭裁判所平成26年 (家イ) 第319✕号。なお、この面会交流調停を「第1回面会交流調停」という。)等を申し立てたが、この第1回 面会交流調停は、 平成27年9月不成立により、 審判手続に移行した。 

そして、名古屋家裁において、 同年12月17日、

被告は、 本審判が確定た日の属する月の翌月以降1年間は、月1回・1時間程度・第三者機関を利するなどの条件のもと、 原告を長女と面会させなければならず、 また、

告は、 原告が1年間にわたってこの面会交流の実施の際に長女に対し、 被告及長女の居住地、居場所聞かないことなどの要件を遵守することができたきにはその翌1年間は、 月1回・3時間程度・第三者機関を利用するなどの条もと、原告を長女と面会させなければならず、

③上記の2年間経過については原告と被告、 面会交流の日時、場所、方法等について、 誠実に協議定めるものとするとの審判 (名古屋家庭裁判所平成27年 (家) 第226✕号。以下「第1回面会交流審判」という。)がされ、 この頃 (遅くとも平成28年1中に) 確定した。(甲34) 

(4) 本件離婚訴訟の提起 

被告は、平成28年7月、 名古屋家庭裁判所に対し、 原告との離婚と慰謝料200万円の支払求めるとともに、長女の親権者指定 (被告への指定) や養育費等の附帯処分を求める離婚等請求訴訟(以下「本件離婚訴訟」という。)提起し、これに対し、 原告は、被告の請求争い、 予備に、長女の親権者原告とすることや長女との面会交流を求める予備的附帯処分の申立てをした。 

(甲5、6、 37ないし39、 乙17、 18) 

(5) 第2回面会交流調停及び第2回面会交流審判について 

原告は、平成28年8、 被告に対し、長女の監護者を原告と指定すること及び長女の引渡しを求めるとともに長女との面会交流の拡充求める調停 (名古屋家庭裁判所平成28年 (家イ) 247✕号、 第2479号、同第248✕号。以下「2回面会交流調停」という。)を申し立てたが、 この第2会交流調停は、 平成29年9月不成立となり、 審判手続に移行した。 

そして、名古屋家裁において、平成29年12月8日、 長女の監護者被告指定するとともに、 1回面会交流審判を変更し被告に対し、

① 平成30年2以降、同年10月までは月1回・3時間程度、第三者機関を利用するの条件で、 2同年11月以降月1回毎月第2日曜日の午前9時から午後4時まで、第三者機関の利用なく、 原告を長女面会させなければならないこと などを命じる審判がされた (なお、被告からの面会交流の制限求める審判事件も併合の上で審判された。 名古屋家庭裁判所平成29年 () 214✕号、224✕号第224✕号、 同第224✕号。 以下 「第2回面会交流審判」という。)。 これに対しては、 原告被告双方が即時抗告しが、 平成30年5月30日にいずれも棄却する旨の決定がされ (名古屋高等裁判所平成30年 (ラ)第〇号)、 上記審判確定した。 (甲7、8、11,96、 乙7) 

(6) 本件離婚訴訟の判決 

本件離婚訴訟については、 名古屋家裁において、 平成29年8月7日、被告の離婚請求を認容し、長女の親権者を被告と定め、 原告の面会交流に関する予備的附帯処分の申立てについては別途面会交流調停が係属中であることを理由に却下することなどを内容とする判決がされ、 その後、 平成30年5月29日に原告控訴棄却 (名古屋高等裁判所平成29年(ネ) 第723✕号)、 同年1213日に原告の上告棄却・受理により確定た。 (5、6、 37ない し39 乙17、18) 

(7) 第3回面会交流調停及び第3回面会交流審判 

原告は、 令和元年7月、 第2回面会交流審判で定められた内容を拡充することを求める調停 (名古屋家庭裁判所令和元年(家イ) 190✕号。以下「第3回面会交流調停」という。)申し立てが、 同年11月不成立となり、 審判を申し立てが、同年11月不成立なり、審判手続移行した。 

そして、名古屋家裁において、令和2年2月、 原告の申立てを却下する審判れ(名古屋家庭裁判所和元年 (家) 第317✕ 号。以下「第3回面会交流審判」という。)令和2年7月、 原告の即時抗告も棄却され (名古屋高等裁判所令和2年(ラ) 第7✕号)、 上記審判確定し(甲12、13) 

(8) 本件第2回面会交流審判に係る履行勧告及び間接強制決定 

被告は、被告代理人弁護士通じ、 原告に対し、 令和2121日、 同月から面会交流を実施しない旨を書面で通知した。 

これを受け、 原告は、 名古屋家裁に対し、 第2回面会交流審判に係る履行勧告を申し立てたところ(以下「本件履行勧告」という。)被告代理人弁護士は、 令和3年1月4日付けで、長女が面会交流拒否している旨、新たに面会交流調停を申し立てたのでその中で協議したい旨回答をした。 

原告は、 被告に対し第2回面会交流審判に基づく面会交流不履行を理由として間接強制の申立てをし (名古屋家庭裁判所令和3年(家口) 第✕号)、名古屋家裁において、 令和32月被告が2回面会交流審判に基づく義務履行しないときは、被告は、原告に対し、不履行1回につき2万円支払うことを命じる決定 (以下「本件間接強制決定」という。)がされた。(甲15な いし17) 

(9) 第4回面会交流調停及び第4回面会交流審判 

被告は、上記のとおり、 令和2年12月、第2回面会交流審判において命じられ面会交流についてその制限を求めて調停申し立て、これに対し原告も、親権者変更を求めて調停を申し立て(以下「第4回面会交流調停と いう。)、いずれ不成立となり、審判手続移行した。 

そして、名古屋家裁は、令和3年12月24日、 原告と長女との面会交流について、原告被告との間でこれ許す新たな協議成立するか、これ許す家庭裁判所の審判が確定し又は調停が成立するまでの間、 面会交流してはならないことなど命じるととも、 原告親権者変更申立て却下する旨の審判 (名古屋家庭裁判所令和3年(家) 第21✕号、同第 776 号、同第84✕。 以下 「第4回面会交流審判」という。)をした

令和4年8月23日、 原告の即時抗告(名古屋高等裁判所令和4年 (ラ) 3✕号) 棄却されるなどし、 上記審判が確定した。 (甲100乙13 ない15) 

2 争 点 

(1)被告の責任原因 

(2)損害 

(3争点に関する当事者の主張 

(1)被告の責任原因について 

(原告の主張) 

ア 本件別居時の長女の連出し被告は、原告と別居するにあたって、 原告が勤務先へ出社して不在している間に長女連れて自宅を出るという卑劣な方法により別居し、原告と長女を別離させた。 親権の内容の一部として、 親権はその意思に反して子どもと引き離されないという利益を有しているところ、被告の上記行為は、こを侵害したものであり、 被告は不法行為責任を負う。 

イ 本件離婚訴訟における虚偽主張等 

被告は、本件離婚訴訟において、原告によりDVやハラスメント受けているという事実無根の主張を行うことにより原告の長女に対する親権や監護権を侵害するとともに、 原告の名誉感情をも侵害したのであり、不法行為責任負う。 

ウ 長女に対する被告の旧姓使用 

被告は、平成26年の別居直後、 すなわち、 原告との離婚確定前から、 原告と長女一体感や愛着関係を阻害する意図で、長女に被告の旧姓使わてい。離婚確定前の共同親権の状態において、一方の通称使用を許容ることには法的根拠がなく、 片方の親独断で子の通称使用強要し、 子らもう一方の親を物理的に心情的にも排除することは、 違法である。被告、不法行為責任を負う。 

エ 被告の危険運転行為 

被告は、うつ状態のため、睡眠薬安定剤を服用しておりしかもこのうち安定剤(エチゾラム。甲58参照) は、 自動車運転禁止薬リストに含まいる。それにかかわらず、被告は、自動車運転するという危険行為を継続しており、しかも、このよう危険な運転に長女を同乗させ、長女を危険にさらしているから、 被告は、不法行為責任を負う。 

オ 被告による面会交流不履行 

①平成27年3月及び同年4月の面会交流不履行 

被告は、この当時、長女を事実上監護する者として、原告と長女との面会交流について誠実に協議してこれを実現すべき義務負っていた。 加えて、当時係属していた第1回面会交流調停において、 調停委員から、平成27 年3及び同年4に第三者機関を利用して面会交流を実施すると提案がされ、 原告と被告これ受け入れたから、 原告と被告との間では平成27年3月及び同年4の面会交流実現するための具体的合意の成立向けて誠実対応する旨の「抽象的合意」 が成立していた。

しか被告は、 面会交流の実施条件としてあえて原告が了解できない内容誓約書(1) (以下「本件誓約書」という。) 送付してこれへ署名を迫るなど、「抽象的合意」 の具体化を妨害し、上記面会交流も実施しなかった。加えて、本件誓約書への調印を面会交流実施の必須条件とするかごとく強要・脅迫を行ったものでもある。 被告は、 債務不履行責任又は行為責任を負う。「 

2  平成30年2月から同年5までの面会交流不履行 

被告は、第2回面会交流審判によって、 平成30年2月から同年10までは月13時間程度の面会交流実施を命じられたにもかかわらず、これを合理的理由なく拒絶、 その結果、 同年2月から同年5月までの間の面会交流は実施さなかった。 2回面会交流審判命じ面会交流の内容は、 第1回面会交流審判で命じられ頻度・時間と同じであっかも、実際に第2面会交流審判同年530に確定した後、同年7月以降は面会交流実施できていたことからして、被告の上記不履行に合理由がないことは明らかである。 被告は、 債務不履行責任又は不法行為責任を負う。 

第2回面会交流審判確定後 (平成30年6月以降) の面会交流不履行 

被告は、 第2面会交流審判により、 平成30年2月から同年10月までは月1回3時間、 平成30年11月以降は月1回 7時間の面会交流実施する義務を負っている。 それにもかかわらず、 まず、 被告は、平成30年6月の面会交流を実施しなかった。 被告は長女とその友人との予定あった主張する、その予定夕方からであった。 被告 原告から面会交流時間を短縮して実施することの提案受け、 第三者機関からもその旨助言を受けたにもかかわらず、これらを無視して、 面会交流をしなかった。 

次に、被告令和2年4及び同年5月面会交流を、 新型コロナウィルスによる緊急事態宣言中であること理由に実施せずしかも、 代替目については、第2回面会交流審判において、 1週間後に繰り延べて実施する旨定められていにもかかわらず、これ設けなかった。 

さらに、被告は、同年12月以降は、長女の意思を理由として、本件勧告や本件間接強制決定に従わず、 面会交流を実施してない。 しかし、仮に、 長女が原告との面会交流を拒否しているとしても、これは、被告が長女の面前で原告を拒絶する態度をとっていることに影響されたものであるから被告は長女の意思を理由として面会交流不実施正当化することは許さない。 

以上のとおり、 上記の正当な理由のない各面会交流の不履行違法であり、被告は、債務不履行責任又は不法行為責任を負う。 

(被告の主張) 

ア 本件別居時の長女連出しについて 

否認又は争う。 被告原告と別居するにあたって長女を連れ出したことについては、長女主たる監護者が被告であったこと当時の長女の年齢 (2歳)、 当時夫婦間の不和原因が被告のみあるといえないことなどからすれば、 社会的相当性を欠く違法な行為であるとはいえない 

イ 本件離婚訴訟における虚偽主張等について 

否認又は争う。本件離婚訴訟において、被告主張した事実 (原告から神的虐待ないし経済的虐待を受けていたこと)が認められなかっからといって被告が事実無根の主張をしたと評価れるものでない。 

ウ 長女に対する被告の旧姓使用について 

被告が原告と別居後、 原告と離婚が成立する前から長女に被告旧姓を使用させていたこと認め、その余否認又は争う。 

別居後、離婚成立するまでの期間が長期及ぶこと予想される場合子の氏学校生活の途中で変更することになり得る。このよう場合、 他人から好奇にさらされることあり得るところであり、これ防止するめに別居直後から被告の旧姓を使用た。 このよう対応に不法行為法上の違法性はない。 

ェ 被告の危険運転行為について 

否認する。 被告自動車運転に支障のある症状はない (乙3参照)。 

オ 被告による面会交流不履行 

平成27年3月及び同年4月の面会交流不履行について原告、 被告との間で 「抽象的合意」 が成立していたと主張するが否認 

する。 原告と被告との間、 被告において面会交流実施するべき法的義務を生じさせるよう合意はない。 被告は、当時、 原告から精神及び経虐待受けているとの認識にあったのであり、上記のような法的義務生じさせるよう合意をすることはあり得ないし、 また、これを実施するにあたって本件誓約書の提出求めたことも違法なものではない。 

平成30年2から同年5までの面会交流不履行について 

平成30年2月から同年5までの期間について第1回面会交流審判で面会交流の実施が命じられていた2年間が経過しその後の面会交流実施方法について定めた第2回面会交流審判確定するまでの間であり、いわば空白期間であった。 当時においても、原告と被告間で面会交流の在り方についての考えの隔たりは大きくまた、 原告と被告間で信頼係が形成されている状況にもなかった。 具体的面会交流の条件定まらない中で被告に従前通りの面会交流を実施すべき義務はないし、 面会交流実施なかったことは違法はない。 

第2回面会交流審判確定(平成306月以降) の面会交流不履行について 

平成30年6月の面会交流については、長女が楽しみにしていた友人との予定が重なってしまったため、時間的にも体力長女の負担になると考え、実施しなかった。 また令和2年4月及び同年5月の面会交流については、新型コロナウィルス感染拡大によって緊急事態宣言発令れ、学校も休校となっている時期であった。 監護親である被告として、長女の健康を考え、不実施つつ、 代替手段として電話での面会交流は応じることした。 なお、原告は代替日が設定されなかった主張するが、面会交流の頻度子の年齢や生活リズム踏まえて月1回と定められているのであって、代替日設けなかったこと直ちに違法と評価されることはない。 

さらに、令和2年12月以降については、長女の面会交流に対する拒否感が強く、 被告が長女に対して面会交流を無理強いすること長女の健全育成害し、また、原告との父子関係も悪化させると考え、面会交流を実施しないこととし、 第4面会交流調停を申し立てた。 このよう判断当時の長女の状況を踏まえれば、 子の福祉適うものである。 

以上とおり、 第2面会交流審判確定後 (平成30年6以降)の面交流不履行正当な理由があるものであって、被告に債務不履行責任又は不法行為責任ない。 

(2) 損害 

(原告の主張). 

上記の被告の債務不履行又は不法行為によって原告が受けた精神的苦痛を慰謝するには、慰謝料1000万円が相当である。 

(被告の主張) 

否認又は争う。 

第3 争点に対する判断 

争点1(被告の責任原因について) 

(1) 本件別居時の長女の連出し 

ア་上記前提事実、証拠 (甲5、6、 37 ないし39、9312、941・2、17、18) 及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告と同居した当初から、原告生活費の負担に積極的ではなく、趣味である飼い猫やバイクレースを家族よりも優先し、家事や育児に非協力的あると感じ、 不満募らせていたが、原告と話合いをして言い争いとなるなど、 夫婦関係同居当初から円満ではなかったこと、被告は、精神的な不調を訴えるようになり、 原告との同居耐えられないと考え、 平成26年10月、 原告不在時長女を連れて自宅出る形で別居 (本件別居) したこと、 この当時長女2歳であったところ、長女出生時から上記別居まで長女の監護養育主に担っていたのは被告であったことが認められる。 

そして、被告による長女の連出しは、それまで原告と被告の共同の監護態にあり、いまだ自分の生活環境についての判断選択の能力が備わっていない2歳の幼児を、従前の生活環境から連れ出すものではあるが、上記認定事実によれば、被告が原告との同居に耐えられないと考えるに至ったことについて、少なくとも被告にのみ帰責事由があるとまで認めることはできず、 また、これを認めるに足りる証拠ない。前記状況において、被告は 原告との離婚及び主たる監護者である被告による監護養育の継続を目的として、当時2歳の長女連れて別居したというのであるから、 被告による長女の連出しが、 社会的相当性を逸脱するものと評価することはでき(なお、原告は、本件離婚訴訟においても、 被告が長女を連れて別居した点が違法行為であり、被告は有責配偶者に当たる旨主張していたが、一審、 控訴審のいずれでも排斥されている(前提事実 (4)、(6)。)、原告に対する違法行為になるいうことはできない。 

原告は、夫婦関係と親子関係別であり、原告と長女との親子関係に問題がなかったにもかかわらず長女を連れ去った行為は、共同親権者たる原告の意向完全に無視するもので、原告の親権を侵害する違法行為であって、この不法行為の違法性が阻却されるには原告長女の監護に関わること明らかに長女の幸福に反するというべき事情がなければならないなどと主張する。 しかし、上記アにおいて説示したとおり被告が長女を連れて別居たこと社会的相当性を逸脱するものと評価できない以上、原告が長女監護に関わること長女の幸福に反するものなかったとしても、原告する不法行為に当たるとはいえない。 したがって、 原告の主張は採用できい。 

(2) 離婚訴訟における虚偽主張等 

ア 上記前提事実、証拠(甲37ないし39、 乙17、 18)及び弁論の全趣よれば、 本件離婚訴訟においては、 原告と被告の婚姻関係破綻の有無及びその有責性並びに長女の親権指定等争点となって激しく争われており、被告は、婚姻関係破綻有無等に関連して、 原告被告から生活費を要求されると嫌な顔をしたり責めたりしたことなどが被告に対する精神的虐待及び経済虐待にあたる旨の主張をしていたこと、本件離婚訴訟の控訴審である名古屋高裁は、 被告の上記各主張について、 「本件全証拠検討しても、被告が、 原告から) 精神虐待ないし経済的虐待受けていとまで は認められず」と認定し、被告の離婚慰謝料請求を棄却した第1審判決を維持したこと認められる。 

しかしながら、同時に、 名古屋高裁は、 夫婦間の不和原因として、 生活費の負担等について原告と被告との間に認識の違いあっ旨(甲38及び乙18の7参照) や 相互の価値観の相違や相手に対する不寛容が夫婦不和主たる要因であった」(同9頁参照) などと認定しているとおり本件証拠によっても、 被告本件離婚訴訟において原告から精神虐待又は経済的虐待を受けている旨主張しことが、 事実無根、すなわち事実的基礎欠くものであったとまで認めることはできず、 また、 そのよう主張は本件離婚訴訟における上記争点とも関連するものであるから、 その表現内容等踏まえても、正当訴訟活動の範囲逸脱するようなものであったと認めることもできない。 

したがって、被告本件離婚訴訟において上記のとおり主張ことが、原告に対する不法行為に当たるということはできない。 

(3) 長女に対する被告の旧姓使用 

ア 被告が原告別居してから離婚成立までの間に原告の同意なく長女に被告の旧姓使用させていたことは、当事者間に争いがない。 

イ この点、原告が主張するとおり、原告と被告が離婚して単独親権者指定されるまでの間は、長女は、原告と被告の親権に服しており、親権は、原告と被告が共同して行うとされている(民法8181項、3本文)。この点、親権は、「子の利益のために」 これを行使する必要があるから(民法820条参照)、 親権の一方単独で身上監護に当たる行為をした場合であっも、もう一方の親権者の同意を得ていないとの点のみから、直ちにもう一方の親権者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うとは解されない。 

そして、上記前提事実 ((2)、(6)) 及び上記認定事実 (上記1(1)ア及(2) ア)によれば、本件離婚訴訟の控訴審判決まで3年半以上もの居は継続し、この間、原告と被告との間では長女の親権監護を巡る激しい対立状況継続していたことからすると、 原告と被告長女の監護方針を協議して双方同意の上でこれを実行することは困難な状況にあっと認めれる。そして、子の通称使用については、 家庭以外における人間関係の形成に関わる事柄であって、本件のように父母間で離婚が成立するまでに 長期間を要した場合に、 子の氏途中で変更されることにより、子の生活 (家庭外での人間関係等) に悪影響を及ぼす可能性があることは否定し難く、 別後に長女を監護していた被告がこの悪影響避けたいと考えたこと(1 6) 自体は、不合理であったとまではいえない。また平成29年8月にされた本件離婚訴訟の第1審判決において長女の親権者を被告と指定する旨の判断がされ (前提事実 (6) )、 同年12月にされた本件第2面会交流審判も長女監護者を被告と指定する旨の判断がされるなどしその後、これらの判断確定しおり(前提事実 (5))、 別居から被告の旧姓を長女の通称として使用したことによって長女の生活にその利益に反するような状況が生じ認められない以上踏まえると、被告長女の通称として被告の旧姓を使用させたことが、 社会相当性を逸脱するものとまでみることはできず原告に対する不法行為に当たるということもできない。 

ウ 原告は、被告が、 長女被告旧姓を使用せること原告の意思に反することを認識しており、また、原告に長女情報 (居所通園) を秘匿する意図あったこと (被告本人) を指摘し、 原告が物理的に心情的にも長女から排除されたことは明らかであると主張するしかしながら、 上記イにおいて説示したとおり被告長女に被告旧姓を使用させたことが社会的相当逸脱するものと評価できない以上、仮に被告が原告の指摘する認識意図を有していたとしても、原告に対する不法行為当たるといえない。 

したがって、原告の主張は採用できない。 

(4) 被告の危険運転行為 

原告は、被告がうつ状態で睡眠薬や自動車運転禁止リストにも記載されて 安定(エチゾラム) を服用しているにもかかわらず、 自動車運転していると主張し、これに沿うものとして証拠(甲58、73、74) を提出する。 

しかしながら、証拠 (甲10、 乙3) によれば、 被告は、 原告上記主張の内容を警察に相談したことをきっかけとして医師から自動車等の安全な運転必要認知、 予測、 判断又は操作のいずれに関する能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈していない旨の診断受けていること認められるし、その他、被告原告主張の薬剤の影響がある状態で自動車を運転した事実自体を認めるに足りる証拠ないから、原告の主張を採用することはできない。 

(5) 平成27年3月及び同年4月の面会交流不履行 

ア  平成27年3月及び同年4月に原告と長女の面会交流れなかったこは、当事者間に争いがない。 また、 証拠 (甲1) によれ、この面会交流実施に関連し、 被告の代理人弁護士 (当時)は、原告の代理人弁護士 (当時) に対し、 平成27年3月12日、 原告が被告に対して 「面会の強要」 「待ち・押しかけ・つきまとい行為」 「脅迫行為」 「乱暴言動」 「連続した電話、電子メールの送信」 「不安を覚えさせる行為」 をしたことを認め、今後これらを一切行わないことを誓約する旨記載した誓約(本件誓約書)に署名押印することを求める書面(甲1) を送付したことが認められる。 

この点、上記前提事実 (3)、証拠 (甲3、4)及び弁論の全趣旨によれば当時は、平成2610月頃に申し立てられた第1回面会交流調停が係属で、原告と被告との間で面会交流実施の可否及びその条件対立してい期であるから当該調停事件の調停委員から平成27年3及び同年4月長女と原告の面会交流実施するように話があったとしても、それは、原告と被告において面会交流実施に向け協議を進めて欲しいという程度旨とみるほかなくこれにより原告が面会交流実施に強い期待をもったとしても、直ちに、 被告が原告に対して長女と面会交流に関して何らかの法的義務負うよう合意が成立たと認めることはできない。 

また、この点描くとしても、面会交流実施にあたってはその時点の監護親の協力が必須なるところ、 上記のとおり、第1面会交流調停が係属中で、原告と被告との間にはその実施可否及び条件について争いがあり証拠(甲37 38 乙1718) によれ、 被告としては、これまで原告から経済又は精神的に不当な扱いを受けていたと認識し、原告を長面会交流させることについて不安感じていたことが認められるから、監護親である被告及びその当時の代理人弁護士が、 原告との間で面会交流を実施するにあたって、 被告の認識評価を前提とした上記の内容の本件誓約書の提出を求めこと自体が、 面会交流に向け誠実交渉や協議の範囲逸脱したもの評価することはできない。 

イ  原告は、被告が調停委員の提案を了承していたと主張し本件誓約書付書面(甲1) 面会交流実施を前提する文言があるなどと指摘するが、 当時の状況からして、被告が面会交流を実施することを合意したまで認めることはできないことは、 上記認定判断のとおりである。 また、 原告は、上誓約書に記載された内容は事実無根のことでありこれに同意しない限り面会交流実施しないというのは、不当な強要行為であり、正当な交渉を逸脱するものであると主張するが、 本件誓約書の送付違法までいえないとも、上記認定判断とおりである。 

したがって、 被告、 平成27年3及び同年4月の面会交流の不履行について、債務不履行責任又は不法行為責任を負うと認めることはできない。 

(6) 平成30年2月から同年5月までの面会交流不履行 

ア 平成30年2月から同年5までの間に原告と長女の面会交流がされなかっことは、当事者間に争いがない。 

もっとも、上記前提事実 (3) 及び (5) 証拠 (甲4、11、 乙7) 及び弁論の全趣旨によれば、この期間は、 第1回面会交流審判確定後ではあるが、 同審判において面会交流実施の日時・場所・方法等が具体的に定められなかっ期間であり、かつ、 平成30年2月以降の面会交流の日時・場所方法等を定める2回面会交流審判の確定前であるから、 原告と被告間において具体的な面会交流の条件は定まっていない。 加えて、 上記前提事実 (5) よれば、当時は、 第2回面会交流調停が原告と被告との間で協議調わずに 不成立となり、第2面会交流審判抗告審に係属中であって、原告と被告との間での面会交流の実施の可否及びその条件の考えの隔たりが大きかったことが認められるから、このよう状況において、被告が任意に面会交流に応じなかった、 又は面会交流実施に向けた協議なかったからといって、これが原告との関係で債務不履行に当たるとは認められず、 また、 不法行為が成立すると認められない。 

イ 原告は、平成30年2月になるまでの間は1回面会交流審判に従って面会交流実施できていたのあるから、 同年2月以降も同内容で面会交流実施できた旨主張するが、 上記のとおり、同月から同年5までの間原告と被告との間で面会交流の条件定まっておらず、 また、 当時の当事者間の対立状況 (なお、当事者間には、第2面会交流審判の抗告事件のほかに、 同抗告事件を本案とする抗告審判前の保全処分2件 (名古屋高等裁判所平成29年 (ウ) 145号、 平成30年 (ウ) 第21号) が順次係属していた。 

乙5、6) を踏まえると、 被告が原告に対して面会交流実施すべき義務を負っていたとまで認めることはできない。 

ウ したがって、 被告が、 平成30年2月から同年5の面会交流の不履行ついて、 債務不履行責任又は不法行為責任を負うと認めることはできない。 

(7) 平成30年6月以降 (第2回面会交流審判確定後) の面会交流不履行 

ア 平成30年6月に原告と長女の面会交流が実施されなかったことは当事者間に争いない。 

上記前提事実 (5) 証拠 (甲4、11、112乙4 7)及び弁論の全趣旨によれば、 平成30年6月時点では、 平成30年5月30日にさた第2回面会交流審判が確定しており被告は、月1回・3時間程度、第三者機関利用する条件もと、原告を長女(当時6歳)と面会せなけれらないとの義務負っていたこと、同年6月の面会交流実施予定(同月1 日。第2日曜日) には、既に長女が仲の良い友人とコンサート (日時: 成30年6月10日 (日) 開場午後3時・開演午後4時、 場所:名古屋市中区金山)に行く予定が入っていたため、被告は、 同日の面会交流実施しないことと、 面会交流の開始を同年7からにして欲しい旨要求したことは、長女をコンサートに参加させるための代替案として、 翌月(同年7月) 2回の面会交流実施、 翌週 (平成30年6月17日) の面会交流実施、午前 中のみ短時間の面会交流実施など提示て、これ応じられないのであれば上記コンサートを断るように要求たこと、 被告は、これに対し、第三者機関の都合がつかずまた、 長女が楽しみにしていた上記コンサートを断念させて原告との面会交流を実施することはかえって子の福祉反するなど判断し、長女の予定と体調を優先するとして、原告の要求応じなかっと、上記協議は当事者間でラインを通じて行われたものである、 被告おいて第三者機関に代替日設定することの可否問い合わせてその結を原告に伝えるなどしたこと認められる。 

上記認定事実によれば、 原告面会交流希望した平成30年610日には既に長女の友人から誘われた予定入っおり長女これを楽しみにしていたというのであるから、 被告において長女の心情に配慮して同月に交流を実施しなかったことは、子の福祉配慮した正当なものであって、債務不履行又は不法行為に該当するものとは認められない。 

原告は、午前中に時間を短縮してでも面会交流実施できたと主張するが当時いまだ6歳の長女について、日曜日1日のうちに2つイベントを設すること自体が長女の負担となることは容易に想定されることであり、被告において、長女の心情や体調に配慮て面会交流実施に応じなかったこと、子の福祉の観点から、正当な理由ないものと認めることはできない。 原告の主張は採用できない。 

イ 令和24月及び同年5月令和2年4月及び同年5月に原告長女の面会交流が実施されなかっことは、当事者間に争いがない。 

上記前提事実 (5) 証拠 (11 113 乙7) 及び弁論の全趣旨よれば、被告は令和2年4月及び同年5当時、 第2面会交流審判により、 1回 毎月第2日曜日の午前9時から午後4まで、原告を長女と面会せなければならないとの義務を負っていたこと、 被告は、令和2年4月、 新型コロナウイルスにより緊急事態宣言が発令され、同月6日からは長女の通う小学校休校となったことから、長女への上記ウィルスの感染防ぐため原告に対し、同月及び同年5月の直接の面会交流を中止する旨伝えたこと、代替方法として電話による間接交流提案したこと認められるところであり、被告このよう対応は、当時の状況下において、子の福祉配慮した正当ものであって、債務不履行又は不法行為に該当するものとは認められない。 

原告は、 被告本件第2回面会交流審判で命じられた代替日設定にも応じなかったと主張する確かに、 本件第2回面会交流審判は、 平成30年11月以降の面会交流の条件の一つとして 「未成年者の病気その他やむを得ない事由生じて面会交流が実施できないときは、その1週間後に同様の条件で面会交流を実施する。 1週間後にも代替の面会日を設定できないときは、さらに1週間後に順次繰り延べて面会交流を実施する」 と定める(甲117)、他方で同審判は、 子の福祉の観点から面会交流の頻度を月1回と明確に定めているのであるから、ある月に面会交流実施できなかったからいってその代替日を翌月以降にまで繰り延べて実施すべきことを義務付けていると解することは困難であり、 原告の主張採用できない。 

和2年12月以降令和2年12月以降は原告と長女との面会交流が実施されていないことは、当事者間に争いない。 

上記前提事実 (8) 及び(9)、証拠 (甲1578 13 14) 及び弁論の全趣旨によれば、 被告は、その代理人弁護士を通じ、 長女が原告との面会交拒否するようになったとして、 原告に対し、 令和2年12月から原告と長女の面会交流を実施しない通知したこと、 第4面会交流審判の審判手続の中で令和3年7月から同年8月にかけて実施された家庭裁判所調査官による調査(乙8。長女の状況及び長女の心情を調査事項とするもの)でも長女(当時9歳) は、 原告との面会交流強く拒絶する意思を示していたこと、このような長女の状況等を踏まえ、本件第4回面会交流審判においては、原告と長女の面会交流について、 被告と間でこれを許す新たな協議が成立するか、これを許す家庭裁判所の審判確定し又は調停が成立するまでの間、長女と面会交流してはならないことなどが命じられこと認められる。上記認定事実によれば、 被告令和2年12月以降面会交流に応じなかったのは、長女強い意思受けたものであると認められるから債務不履行又は不法行為に該当するものとは認められない。 

原告は、仮に長女が面会交流実施を拒否しているとしても、これ被告が長女面前で原告を拒絶する態度をとっていることに影響されたことが原因であるから被告が、 長女の意思理由として面会交流不実施を正当化すること許されないと主張し、この主張沿うものとして片親疎外に関す臨床心理士作成の意見書(64) 文献等(甲80ないし86)などを提出する。 

しかしながら、上記意見(甲64) は、 上記の家庭裁判所調査官の調査係る調査報告書を資料として作成れたものであって、 その評価及び結論の信用性について自ずと限界があり、直ちに採用できない。 そして、証拠 (乙8)によれば、 長女とも面会を行うなどして調査を行った家庭裁判所調査官は、長女の面会交流に対する拒否感情について、 被告の原告に対する否定感情や行動によってのみ生じたとは評価しておらず長女がこれまで感じてきた原告の言動に対する不満もあいまって、原告に対する拒否感めているなどと評価いるのあるから、 上記の長女の面会交流に対する拒否的感情が醸成さた原因を被告の感情行動にのみ求めることはできない。 また、これまでの原告と被告との間の対立状況を踏まえると、 原告と被告においてこのような長女の感情適切配慮しながら直接の面会交流を継続すること困難な状態なっていいわざるを得ない。 したがってこのよう状況において、被告が、原告との面会交流の実施を中止しつつ、改めて面会交流に関する調停 (第4回面会交流調停)申し立てたことが、子の福祉の観点からみて、正当理由がなく違法ものとみることは困難であり、原告の主張採用することはできない。 

エ 小括 

以上によれ、 平成30年6月以降 (第2面会交流審判確定後) に被告面会交流を実施しなかっことが債務不履行又は不法行為に該当する認められない。 

第4 結論 

よって、 原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 

名古屋地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官  安田大二郎 

裁判官 池田幸子 

裁判官 吉田晃一 

裁判書記官 竹友 

名古屋地方裁判所民事第5部 

…………………………… 

令和5年10月5日 

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安田大二郎裁判官(49期)の経歴

生年月日 S48.1.5
出身大学 早稲田大
定年退官発令予定日 R20.1.5
R2.4.1 ~ 名古屋地裁3民部総括(交通部)
H29.4.1 ~ R2.3.31 大阪高裁13民判事
H26.4.1 ~ H29.3.31 名古屋地裁1民判事(労働部)
H23.4.1 ~ H26.3.31 福岡地家裁田川支部長
H20.4.1 ~ H23.3.31 東京地裁判事
H19.4.10 ~ H20.3.31 名古屋地裁判事
H17.6.24 ~ H19.4.9 名古屋地裁判事補
H14.4.1 ~ H17.6.23 宇都宮地家裁足利支部判事補
H11.4.1 ~ H14.3.31 和歌山地家裁判事補
H9.4.10 ~ H11.3.31 東京地裁判事補
原告代理人
梅村真紀 登録番号 28755 愛知県弁護士会
弁護士法人桜通法律事務所
被告代理人
岡村晴美 登録番号 34964 愛知県弁護士会 
弁護士法人名古屋南部法律事務所平針事務所

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