弁護士自治を考える会

弁護士懲戒請求の実務と研究⑲弁護士法第63条 懲戒に付されたら登録抹消はできないか

先月、島根県弁護士会の弁護士が業務停止8月の処分を受け、業務停止期間中でしたが弁護士登録を抹消しました。弁護士を辞めたということ

2020年」8月7日付官報

1 処分をした弁護士会 島根県弁護士会     
2処分を受けた弁護士氏名 浅田憲三 登録番号18493 浅田憲三法律事務所           
3 処分の内容 業務停止8月        
4 処分の効力が生じた日 令和2年7月20日

  令和2年7 月22 日     日本弁護士連合会

淺田憲三弁護士、2020年7月30日付け。弁護士登録抹消

地方の弁護士で高齢でもあり業務停止8月の処分を受けもう弁護士は続けられないと思われたのかもしれません。一般人の中では処分が終わるまで登録を預かるべきではないかとの声もありますが、業務停止中でも会費は必要です。職業選択の自由もあると主張され,所属弁護士会に登録抹消の申請をされたら業務停止中でも受けざるを得ません。一生、業務停止になるわけですから弁護士会も文句はいいません。

(登録取消の請求)

 第十一条 弁護士がその業務をやめようとするときは、所属弁護士会を経て、日本弁護士連合会に登録取消の請求をしなければならない。

弁護士が懲戒に付された時に弁護士登録を抹消できるか問題

(登録換等の請求の制限)

 第六十二条 懲戒の手続に付された弁護士は、その手続が結了するまで登録換又は登録 取消の請求をすることができない。

一応、懲戒が結了するまでは登録取消ができないとなっている。

例えば、懲戒を出された弁護士が俺はもう弁護士を辞めるから早く棄却を出してくれ、このままでは弁護士を辞めることもできない。綱紀委員が『それなら早く棄却を出しといてやるわ』ということには表向きはならない。弁護士辞めるなら処分しないという交換条件のようなことはできない。また、綱紀委員会は弁護士会の他の部所とは独立している。登録申請、取消申請の部門は組織が違うようにしてある。

また綱紀委員会が棄却の議決を出して、対象弁護士が『気が変わりました。もうしばらく弁護士やりますわ』というのもでるかもしれない。

懲戒は結了したのか?

上記の島根の弁護士の懲戒審議も実際は結了したかどうか分かりません。処分の効力開始が7月20日、登録抹消日が7月30日(申請は30日以前と思われる)

報道によれば市民からの懲戒請求が5件あったとの事です。懲戒請求者が『業務停止8月』の処分は不当に軽いと日弁連に異議申立を行っているかもしれません。日弁連に異議の締め切り、までまだまだ期間がありました。(3か月)ですから、早々と登録抹消を受けた島根県弁護士会は所属弁護士会で処分が出れば懲戒は結了になったと思っていたのでしょうか。

日弁連に異議を申立てしたら『この弁護士は登録抹消しましたので審議に入りません』という通知が来ることになる。島根県弁護士会が辞めた弁護士に対し「日弁連に異議が申立てられましたので、もう一度弁護士登録してください」とは絶対にあり得ない。

業務停止8月だからという訳にはいきません。戒告を受けて弁護士辞めたらもう終わりにできますか。もっと厳しい処分を求めたい懲戒請求者がいる可能性は大いにあります。

ということは、懲戒に付されて、懲戒が結了しない状態でも登録抹消は受理するということです。

懲戒に付されているのに登録抹消

毎年、数人の弁護士が預り金の横領で逮捕、起訴されます。ひき逃げ盗撮、痴漢でも逮捕起訴される弁護士がいます。弁護士会長は会による懲戒請求を申立てると談話を発表します。また一般人からも懲戒が出されます。ところが懲戒の審議と裁判では裁判の方が早く結論(判決)が出ます。有罪が確定になれば弁護士資格喪失で登録抹消となります。

懲戒に付されていようと関係ありません。資格のないものは弁護士ではないので処分は出せないということです。懲戒は終了となります。では横領事件のような、逮捕、起訴までいかない事案で懲戒に付されていて弁護士登録を抹消することができるか、

「懲戒の研究と実務 Ⅲ」日本弁護士連合会調査室編

「弁護士は法11条の規定による登録取消請求について身分の終期は日弁連に対する届出の提出先たる弁護士会に登録抹消取消請求の意思表示が到達した時であり、日弁連は登録取消請求があれば通常の手続で登録を取り消さなければならず(法11条本文)たとえ懲戒請求がなされたような場合にもそれを留保することはできないと解される。

懲戒に付されていようが、弁護士が弁護士会の登録の窓口に行き弁護士を辞めるからと申請すれば事務局は受けざるをえないのです。事務局が懲戒が結了するまで抹消の受け付けできませんといえば、日本国憲法第22条第1項に定める職業選択の自由はどうする。それよりも来月からの俺の会費を払ってくれるのかと弁護士は御託を述べるに決まっています。実際の事務では、懲戒に付されていようがなかろうが抹消を受けるのですから(登録換等の請求の制限) 第六十三条『 懲戒の手続に付された弁護士は、その手続が結了するまで登録換又は登録 取消の請求をすることができない。』は世間に向かってのポーズ。実際の実務は違う、つまり本音と建て前は違うということ。

マアジャンやって検察官僚を辞めた人にも『もう辞めたんだから』とお咎めなしで終わるのが法曹界の武士の情けです。法63条の規定があろうと弁護士辞めるのならもう何もいうまいということでは・・

最近、懲戒を出された弁護士が懲戒請求者を訴えることがあるようですが、弁護士が受けた被害の説明で、懲戒の申立てがあれば弁護士辞めることもできない!と書面で述べたそうですが、実際にはこういう処理をするのですから、アホなこというなと反論してやって下さい。

 

(登録取消の事由)

第十七条 日本弁護士連合会は、左の場合においては、弁護士名簿の登録を取り消さな ければならない。

 一 弁護士が第六条第一号及び第三号乃至第五号の一に該当するに至つたとき。 二 弁護士が第十一条の規定により登録取消の請求をしたとき。

 三 弁護士について退会命令、除名又は第十三条の規定による登録取消が確定した とき。

 四 弁護士が死亡したとき。

(弁護士の欠格事由) 第六条

次に掲げる者は、前二条の規定にかかわらず、弁護士となる資格を有しない。

 一 禁錮以上の刑に処せられた者。

 二 弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた者。

 三 懲戒の処分により、弁護士若しくは外国法事務弁護士であつて除名され、弁理 士であつて業務を禁止され、公認会計士であつて登録をまつ消され、税理士であ つて業務を禁止され、又は公務員であつて免職され、その処分を受けた日から三 年を経過しない者。

 四 成年被後見人又は被保佐人。

 五 破産者であつて復権を得ない者。

 「懲戒の手続に付された」の意味 引用・弁護士懲戒請求の実務と研究

この解釈については、綱紀委員会の手続に付されたときをいうのか(非限定説)懲戒委員会の手続に付されたときをいうのか(限定説)、考え方が分かれていたが。平成11年6月9日付けで日弁連会長から各弁護士会会長宛に通知した「弁護士法第63条及び第64条の解釈について(通知)」と題する文書により、非限定説を採ることが明確にされ、平成11年9月1日以降そのように取り扱われていた。その後、平成15年の法改正により、法58条2項が「弁護士会は所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求(懲戒請求があったときは懲戒の手続に付し綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない」と規定され綱紀委員会に事案の調査をされることをもって「懲戒の手続に付された」ときであることが条文上明らかとなった。より具体的には「懲戒の手続に付された」とは弁護士会の会長が綱紀委員会に事案の調査を命じる旨の決済をしたときと解される。

 

「手続が結了する」の意味 引用 弁護士懲戒請求の実務と研究

法62条1項の「その手続が結了するまで」とはどの時点を指すのかについて、弁護士会又は日弁連において対象弁護士等に対し処分又は不処分の通知をした時点と解する見解、対象弁護士等、懲戒請求者その他法が定めた全ての者に対し処分又は不処分の通知をした時点と解する見解及び懲戒処分が確定した時点と解する見解がある。

 第一の見解をとれば、対象弁護士が弁護士会から処分又は不処分の通知を受けた後、異議の申出により日弁連の綱紀委員会に付議されるまでの間及び原弁護士会の綱紀委員会の「懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決に対する異議の申出に対して日弁連が原弁護士会の処分を取り消して対象弁護士等に通知をした後、原弁護士会の懲戒委員会に付議されるまでの間は法62条1項の規約を受けないこととなる。

第三の見解は、この点を重視し、この間にいわゆる「懲戒逃れ」をする余地を残すことは望ましくなく、「結了」とは「確定」を意味すると解釈するのである。しかしながら、原弁護士会が処分の告知をしている場合には、少なくとも右処分の効力は発生しており、懲戒処分を全く逃れてしまうわけではなく、第一の見解を採った場合の「懲戒逃れ」の可能性はさほど大きいものではない。更には弁護士会が不処分の決定をした場合には、対象弁護士は綱紀委員会の手続に付されてから不処分の通知を受けるまでの間身分の制約を加えられていたのであるから、それ以上に当該弁護士に身分に制約を加えることは妥当ではない。

また、第二の見解は懲戒手続が結了するとは法が定める全ての手続が終了するときと解するのが素直であること、通知について規定する法64条の7は「その懲戒の手続に関し・・・通知しなければならない」としていることを根拠とするが、この見解によれば、例えば、懲戒請求者が所在不明となり、同人に対する通知が到達しない場合には、懲戒手続は、長期間結了しないことになり、対象弁護士等の権利を不当に制限することになりかねず妥当ではない。したがって第一の見解が妥当と考えられる、

なお、第一の見解によると、弁護士会の綱紀委員会で「懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決」がなされ、その後、異議の申出がなされ、日弁連の綱紀委員会に付議された場合に、対象弁護士は綱紀委員会の手続に付された時点で登録換え等の制限が加えられ、不処分の通知を受けた時点でこの制約が解除されるものの、日弁連の綱紀委員会に付議された時点で再度登録換え等の制限が加えられることになるが、現行の法の解釈上はやむおえない結果であるといわざるをえないであろう。

以上引用

つまり、懲戒の結了とは、所属弁護士会が不処分と決定した後に3か月の(以前は60日)異議申立期間があり、日弁連に異議申立があって日弁連綱紀委員会が不処分とし日弁連会長(事務総長)の決定があるまで結了とはならず、その間は登録換えはできないということになっています。