弁護士裁判情報 損害賠償請求事件 5月23日 10時 第1回516号法廷
弁護士が原告被告となった裁判 詳細は担当部にお問い合わせください
 東京地裁
損害賠償請求事件 令和5年ワ7025 民事31部
原告 太田真也弁護士 東京  37657 神田のカメさん法律事務所
被告 木村俊春弁護士 神奈川 49897 桜みなと法律事務所

ざくっと言うと・・

離婚事件・子どもの監護権の争い、被告の木村俊春弁護士は母親側の代理人・原告の太田真也弁護士は父親側の代理人、被告代理人が原告代理人の申立てた調停は不法であると原告が所属する東京弁護士会に懲戒請求を申立てた。(棄却)

当事者や弁護士でないものが懲戒請求を申し立てたのではなく、懲戒に詳しいはずの弁護士が相手方代理人に不法な懲戒を申立てた。被告の行った行為は不法行為に該当するとして、損害賠償を請求した事案、

当会は過去から懲戒制度について様々な批判や論評を行っておりますが、本件事案については東京地裁に判断が委ねられましたので、この裁判についての論評は判決の言い渡しがあるまで控えます。

訴    状

令和5年3月18日

東京地方裁判所民事部 御中

原 告    太 田 真 也

損害賠償請求事件
訴訟物の価額   〇〇万円
貼用印紙額     〇万円
当事者目録

東京都千代田区岩本町三丁目11番8号イワモトチョービル2階ハローオフィス秋葉原225号室 

神田のカメさん法律事務所(送達場所)
原 告   太 田 真 也

神奈川県横浜市中区住吉町2-21-1 フレックスタワー横浜関内204
桜みなと法律事務所
被 告   木 村 俊 春

第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金〇〇万円及びこれに対する令和2年3月27日から支払済みまで、年3分の割合による金員を支払え

2 訴訟費用は、被告の負担とする
との判決、並びに仮執行の宣言を求める。
第2 請求の原因
1 事案の概要
本件は夫婦がいわゆる子の奪い合いをしている事案を巡り、妻の代理人弁護士であった被告が、夫の代理人弁護士であった原告に対して申し立てた懲戒請求の申立て(以下、「本件懲戒請求」という。)が、不法行為に該当するとして、損害賠償を請求する事案である。
なお、原告としては、過去の案件とはいえ、依頼者の個人名を出すことは控えたいので、以下では、「夫」、「妻」というように表現する。
2 前提となる事実経緯(甲第1号証)
(1) 夫と妻との間には、妻の非嫡出子であり夫と養子縁組をした子(以下「子」という。)と、夫と妻との間の実子(以下「未成年者」という。)があったが、妻は、平成30年3月23日、子らを連れて夫と別居し、同月26日、夫に対し離婚及び子と夫との離縁を求める調停を提起した。
(2) 平成30年6月24日、夫は、子らとの面会交流を行った際に、妻の同意を得て、未成年者を連れ帰り、その後、現在まで、未成年者を事実上監護する状態を継続している。
(3) 平成30年7月12日、妻は、夫に対し、未成年者の監護者の指定と未成年者の引渡しを求める審判及び審判前の保全処分を申し立て、同年9月25日、夫に対し未成年者の引渡しを命じる審判前の保全処分が下され(その後、夫の抗告は棄却)、さらに、平成31年2月20日、未成年者の監護者として妻を指定し夫に対し未成年者の引渡しを命じる審判がなされた(その後、夫の即時抗告等はいずれも棄却)。
(4) 妻は、夫に対し、審判前の保全処分を債務名義として、平成30年9月25日、未成年者の引渡しの強制執行を申し立てたものの、同強制執行は不能に終わり、同月26日には間接強制を申し立てたが、夫は未成年者の意向に従って、未成年者の引渡しに応じなかった。
さらに、妻は、夫に対し、令和元年6月18日に、上記審判に基づく未成年者の引渡しの強制執行を、令和2年5月10日には未成年者につき人身保護請求を申し立てたものの、未成年者の引渡しは実現しなかった。
(5) 他方、夫は、妻に対し、平成30年12月頃、子の監護者の指定と子の引渡しを求める調停(その後、審判に移行)及び審判前の保全処分を申し立てたが、令和元年7月25日、同申立てはいずれも却下された(その後、夫の即時抗告等はいずれも棄却等)。
(6) 妻が夫に対し申し立てた上記(1)の離婚及び子と夫の離縁に関する調停は、平成31年4月12日に不成立となったため、妻は、夫に対し、令和元年9月2日、離婚及び離縁訴訟を提起した。
(7) その後、夫は、妻に対し、令和2年3月25日、未成年者の監護者として夫を指定することを求める調停(以下、「本件調停」という。)を提起した(甲第2号証)。
(8) 上記各法的手続に関して、それぞれ、被告が妻の代理人を、原告が夫の代理人を務めている。
3 被告による本件懲戒請求の申立て
被告は、令和2年3月26日、東京弁護士会に対して、「夫が裁判所の判断が出ているにもかかわらず未成年者を引き渡さない現状において、原告が、令和2年3月25日、夫の代理人として、未成年者の監護者として夫を指定することを求める本件調停を申し立てた行為は、夫の違法行為を助長し、弁護士としての品位を損なうものであり、弁護士職務基本規程第14条及び第6条に違反する。」として、本件懲戒請求の申立てをした(甲第3号証)。
4 本件懲戒請求に対する東京弁護士会の判断
本件懲戒請求について、東京弁護士会綱紀委員会は、以下の通り、判断した(甲第1号証)。
すなわち、「懲戒請求者(被告)は、被調査人(原告)が、夫の代理人として、未成年者の監護者として夫を指定することを求める本件調停を申し立てた行為等が懲戒事由に該当する旨主張するが、弁護士が依頼者からの依頼を受けて調停等の法的手続を申し立てることは弁護士の最も基本的な職務内容である上、法的手続は裁判所の主導の下で法律に基づき進行されるものである以上、明白な訴権の濫用に該当する場合その他の特段の事情が存しない限り、弁護士が調停を申し立てる行為を違法と評価することはできないというべきである。」、「そもそも本件で被調査人(原告)が申し立てているのは話し合いによる紛争解決を目的とする家裁の調停手続に過ぎないことも考慮すると、被調査人(原告)が夫の依頼に基づきその代理人として本件調停を申し立てた行為について違法と評価すべき特段の事情が存すると認めることはできないので、懲戒請求事由は認められない。」と判断した。
そして、この判断に基づいて、東京弁護士会は、令和4年12月21日、原告について、「懲戒しない」旨の決定をした(甲第4号証)。
5 本件懲戒請求申立ての不法行為該当性
(1) 最高裁平成19年4月24日第三小法廷判決(民集61巻3号1102頁)は、「懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者がそのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」と判示している。
(2) まず、本件懲戒請求は、上記のとおり、「原告が、令和2年3月25日、夫の代理人として、未成年者の監護者として夫を指定することを求める本件調停を申し立てた行為は、夫の違法行為を助長し、弁護士としての品位を損なうものであり、弁護士職務基本規程第14条及び第6条に違反する。」として申し立てられたものであるが、上記綱紀委員会の判断のとおり、「弁護士が依頼者からの依頼を受けて調停等の法的手続を申し立てることは弁護士の最も基本的な職務内容である上、法的手続は裁判所の主導の下で法律に基づき進行されるものである以上、明白な訴権の濫用に該当する場合その他の特段の事情が存しない限り、弁護士が調停を申し立てる行為を違法と評価することはできない」といえる。
また、被告は、本件懲戒請求において、上記の主張しか述べておらず、「本件調停の申立てが明白な訴権の濫用に該当する、その他の特段の事情が存する」ことの主張すら行っていない。
したがって、このような点に鑑みれば、本件懲戒請求は、「法律上の根拠を欠く」ものといえる。
(3) 被告は、法律の専門知識を有する弁護士であることから、弁護士として普通の注意を払えば、上記綱紀委員会の判断のとおり、「弁護士が依頼者からの依頼を受けて調停等の法的手続を申し立てることは弁護士の最も基本的な職務内容である上、法的手続は裁判所の主導の下で法律に基づき進行されるものである以上、明白な訴権の濫用に該当する場合その他の特段の事情が存しない限り、弁護士が調停を申し立てる行為を違法と評価することはできない」と評価されることについて、知っていた、若しくは容易に知り得たものといえる。
また、本件懲戒請求は、本件調停の提起がなされた令和2年3月25日の翌日である令和2年3月26日に申し立てられていることに鑑みると、被告は、本件懲戒請求により、原告を畏怖させて、本件調停を取り下げさせようという意図を持って、本件懲戒請求の申立てを行ったことが強く推認される。
したがって、これらの点に鑑みれば、被告は、本件懲戒請求が法律上の根拠を欠くことを知りながら、又は通常の弁護士であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、本件懲戒請求により、原告を畏怖させて、本件調停を取り下げさせようという不当な意図をもって、あえて本件懲戒請求を申し立てたといえる。
(4) よって、以上のことから、本件懲戒請求の申立ては、弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるので、不法行為(民法709条)に該当し、原告は、被告に対し、本件懲戒請求の申立てにより発生した損害について、損害賠償請求を行うことができるということになる。

6 本件懲戒請求の申立てにより、原告に発生した損害
本件懲戒請求の申立てにより、原告には、以下の損害が発生した。
(1) 本件懲戒請求の申立てに対応して、答弁書を作成して反論せざるをえなくなったことにより原告に発生した実損害原告は、本件懲戒請求の申立てに対し、東京弁護士会からの求めに応じて、反論のための答弁書甲第5号証)を作成して提出した。
ところで、原告は、契約の有無にかかわらず、何らかの業務を行った時のタイムチャージ1時間当たりの料金を4万円と定めて、ホームページ上にも記載して公然と周知しており(甲第6号証)、しかも、答弁書等の書類作成については、「1頁作成につき1時間とみなす」旨も記載して、同様に公然と周知している。
被告も、当然このような記載については閲覧が可能であることから、原告に発生した実損害の算定根拠として、上記タイムチャージ料金を用いることは妥当なものといえる。
原告は、本件懲戒請求の申立てに対し、反論のために8頁の答弁書(甲第5号証)を作成していることから、原告に発生した実損害は、8頁×4万円=32万円となる。
(2) 被告の不法行為により、本件訴訟を提起せざるを得なくなったことにより原告に発生した実損害原告、本件訴訟の提起にあたり、以下の書面を作成した。
ア 訴状 10頁
イ 証拠説明書 ●頁
したがって、上記と同様にタイムチャージ料金を算定根拠として計算すると、原告に発生した実損害は、●頁×4万円=●●万円となる。
(3) 本件懲戒請求の申立てにより原告に発生した精神的苦痛に対する慰謝料原告は、恥ずかしながら、過去に4回の懲戒処分歴があり(甲第7号証)、そのことについては、インターネット上でも公表されていることから、被告も当然知りうる事柄である。ところで、弁護士の懲戒処分に関するデータに基づくと、5回目の懲戒処分については、退会命令や除名といった極めて重い処分がなされていることが多くみられる(甲第8号証)。
そのため、原告は、本件懲戒請求に関しても、もし万が一にでも認められて懲戒処分となれば、極めて重い処分がなされる蓋然性が高いことから、懲戒処分歴のない弁護士に対する懲戒請求により、通常一般的に弁護士が被る精神的苦痛とは、比較にならないほど極めて甚大な精神的苦痛を被ったといえる。

したがって、このような原告の被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の金額は、通常の不当懲戒請求に対する慰謝料額(損害賠償額)よりも当然高額となるため、少なくとも〇00万円を下ることはないといえる(甲第9号証)。
(4) よって、以上のことから、本件懲戒請求の申立てにより、原告に発生した損害額の合計は、〇〇〇万円となる。
第3 結論
よって、原告らは、被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求めて、本件訴訟を提起した次第である。

証 拠 方 法

証拠説明書に記載したとおりである。

添 付 資 料
1 訴状副本                  1通
2 証拠説明書                 2通
3 甲号証写し                各2通

【懲戒請求が棄却】懲戒処分例