平成17年ワ第11863号損害賠償請求事件
原告 松本人志 代理人  小川 恵司、吉田 桂公
被告 株式会社光文社 同代表者代表取締役  並河 良
被告 Y 上記両名代理人   山之内 三紀子、西畑 愽仁
 
         主   文
 
1 被告らは,原告に対し,連帯して90万円及びこれに対する平成17年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担としその余は被告らの負担とする。
        事実及び理由
第1 請求
 被告らは,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成17年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 
第2 事案の概要
 本件は,著名な芸能人である原告が,被告株式会社光文社(以下「被告会什」という。)が発行し,被告Y(以下(被告Yという。)が編巣人を務める週刊誌「FLΛSH」に掲載された記事等によってプライバシー権利及び肖像権又は肖像権類似の人格権を侵害されたとして,被告会社及び被告Yに対し,精神侵害及び弁護士費用椎当額について不法行為に九づく損害賠償請求をした事案である(遅延損害金の起算日は,不法行為日である。)。
 1 前提となる争いのない事実等(証拠によって認定した事実は各項末尾括弧内に認定に供した証拠を摘示し,その記載がない事実は当事者聞に争いがない。
  (1)ア 原告は,タレント,アーティストのエージェント業務等を目的とする吉本興乘株式会社の所属タレントであり,浜田雅功とのコンビグループである「ダウンタウン」として,また原告個人として,多数のテレビ番組及びCMへの出演,CDのリリース,著作活動等の幅広い芸能活動を行っている。
 イ 被告会社は,図書及び雑誌の出版等を目的とする株式会社であり,週刊誌「FLASH」等を発行しており,被告Yは,週刊誌「FLASH」の編集人として同誌編集についての責任を負う者である。
  (2) 被告らは,平成17年3月15日,次の内容の記事及び写真を掲載した週刊誌「FLASH」同月29日・同年4月5日号(甲2,以下「本件週刊誌」という。)を発売した。本件週刊誌の発行部数は41万8053部であった。
 ア ①本件週刊誌の表紙において,「爆笑!超恥ずかし~流出 ダウンタウン松ちゃん『AV』物色中だツ!と記載した上,本件週刊誌13頁において,②「超八ズカシ~ ダウンタウン松ちゃん 歌舞伎町アダルトピデオ物色中!」との見出しを記載した。
 イ 前記見出しの下に,防犯カメラとしか考えられないビデオカメラに映った人物の写真4葉(以下「本件写真」という。)を原告の姿であるとして掲載した。
 ウ 本件写真の説明として,③「だ暗タウンの松ちゃんがAVを買っているところを撮ったビデオが流出してるんだ。映像は鮮明ではっきり本人ってわかるよ」との「(ビデオ関係者)」の発言記事と,④「AVへの並々ならぬこだわりが伝わってくるが……。」
「Avマニア」を公言する松本人志(41)]などとの記事を掲載した。
 エ ⑤同ビデオテープの所有者の談話として,「歌舞伎町にある,Xちゃんが常連にしている店だね。この日は夜11時過ぎ,ジャガーに乗って来店すると,●●モノを物色して,結局,〇〇〇〇の■■モノ1本を買っていったんだ。」との記事(以下,以上の①ないし⑤の各記載について,「本件記事①」というようにいい,①ないし⑤の各記載を併せて「本件各記事」ともいう。)を掲載した(本件写真及び本件各記事の内容については当事者間に争いがなく,発行部数については,約42万部という限度では当事者間に争いがなく,41万8053部であることについては,甲3)。
 2 争点
  (1) 本件各記事が原告のプライバシーの権利を侵害し不法行為を構成するか。
  (2) 本件写真が原告の肖像権又は肖像権類似の人格権を侵害するか。
  (3)損害額
 3 争点に関する当事者の主張
  (1)争点(1)について
 ア 原告
 (ア)プライバシーの権利侵害が成立するためには,一般の人々に未だ知られていない事柄であること,いわゆる非公知性の要件の充足が必要であるとされてきたところ,後記a,bのとおり,非公知性の要件は不要又は希薄化したものと解すべきである。
 a 自己情報の管理及び制御に対する要請が大きくなった現代社会情勢において,個人の私生活の平穏及び人格的自律を守るためには,自己情報のコントロールが必要不可欠であるから,プライバシーの権利は,[私生活ないし私約な情報をみだりに公|痢されない権利]という消極的側面だけを捉えるのでは不十分であり,これに加えて,「自己に関する情報の他者への開示の可否及び利用,提供の可否を自分で決める権利」,すなわち自己情報コントロール権としての性質を加味してとらえる必要がある。
 こうした考え方によれば,私生活に関する情報の開示又は非開示は,いずれも原告のコントロール下にあり,自己情報がー一度公表されたとしても,それが自己情報であることには変わりがなく,その後も当該自己情報をコントロールする権利が認められるはずであるから,非公知性の要件は不要というべきである。
 b また,現実問題として,同一事項であったとしても,当該事項が繰り返し公表される場合には,公表された者は公表される毎に多大な精神的苦痛を被るものであり,他方,後続的に他人の私生活を公表する者が,このような多大な粨神的苦痛を受けている者に対して,非公知性の要件を免罪符として一切の責任を負わないということは極めて不合理である。
 したがって,非公知性の要件は希簿化したものと解すべきである。
 (イ)仮に,非公知性の要件が必要としても,非公知性の有無は,事前に公表された事実及び範囲等と再度公表された事実及び範囲等を比較検討し,相対的に判断すべきであり,これによれば,本件各記事は,後記aないしcのとおり非公知性の要件を充足している。
 a 原告が本件週刊誌発売前に自身の出演するテレビ香組「松紳」(以下「テレビ番組『松紳』」という。)
及びテレビ番組「松紳」における島田紳助(以下「島田」若しくは「紳助」という。)との対話をまとめた書籍(乙1,以下「本件書籍」といい,テレビ番組[松紳]と俳せ[本件書籍等]ともいう。)などで公表していた事実は,あくまでも,アダルトビデオ店でアダルトビデオを購入したことがあるとの点にとどまる。
 これに対し,本件各記事により公表されるに至った事実は,「歌舞伎町にある店に夜11時過ぎにジャガーに乗って来店し●●モノを物色して,結局,〇〇〇〇の■■モノ1本を買った」との詳細な描写であり,原告が訪れたアダルトビデオ店(以下「本件ビデオ店」という。)の所在,時間,原告の本件ビデオ店内での様子及びビデオの種類等の新たな事
実を付加し,事実を具体化しかつ詳細化しており,本件週刊誌発売前に,これらのより私事性の高い事実が公表されていないことは明らかである。
 また,原告が本件週刊誌発売前に本件書籍等で公表していた事実は,演芸の一一環としてデフォルメされたものであり,実際にあった私生活上の事柄をありのままに公表しているのではなく,そのことは一般視聴者も十分認識しているところであり,本件各記事の内容たるアダルトビデオ購大の様子とは何ら関係のないものである。
 b 本件週刊誌の読者層と本件書籍の読者層及びテレビ番紐[松紳]の視聴者又は被告ら主張に係る日本テレビ系列放送「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」(以下「本件テレビ番組①」という。)の視聴者層は異なる上,その読者数及び視聴者数も大きく異なる。
 c 本件書籍の発売日及び本件書籍で原告と島田との間のアダルトビデオに関する会話に相当する部分のテレビ番組「松紳」の放映日から本件各記事の掲載までは相当日数が経過しており(なお,本件テレビ番組①における発言はその存在自体に疑義がある。),時間的経過がある。
 d 以上から,本件各記事の内容は,非公知性の要件を充足することが明らかである。
 イ 被告ら
 (ア) 原告は自らの私生活を多数の媒体で公開した以上,当該公開事項についてまで憲法上の権利として保護するのは妥当でない。
 原告の主張を前提にすれば,ある新聞媒体に対して公開した事実について他の報道媒体がその記事を報道することもまたプライバシーの権利を侵害していることになるけれども,このような場合に他の報道媒体すべてが記事の対象となる人物に対してその都度報道の許可をとらなけれぱならないこととなり,きわめて不合理な結果となることは明らかである。
 また,原告の主張する情報コントロール権を突き詰めれば,自己の虚偽の情報であっても,自らそれを流し,コントロールすることも憲法上の権利として保障されることになるが,そのようなものまで憲法上の権利として保障されるとは考えられない。
 そして,プライバシーの権利を原告が主張するような情報コツトロール権ととらえることは,プライバシーの権利を広範囲に解しすぎ,表現の自由を著しく制限することになりかねない。
 (イ)a 原告は,原告が出演するテレビ番組「C」において,アダルトビデオ店に頻繁に出入りしていること,アダルトビデオ店でアダルトビデオ等を購入していること,アダルトビデオを購入することについて何ら不快に感じていないこと,周囲の人物にアダルトビデオを購入していることを知られたとしても何ら不快に感じていないことを自ら公開しており,本件書籍にもその旨記載している。
 また,原告は,本件テレビ番組①においても同様の事実を公表している。
 そして,本件各記事の内容は,原告が本件ビデオ店でアダルトビデオを物色した後に購入したという事実がその骨子であって,その場所及び時間を問題としているものではないから,その公表事実はすでに本件書籍によって公開されており,原告の主張には理由がない。
 原告は,本件書籍等でアダルトピデオ店でアダルトビデオを購入した事実について公表したことが原告の演芸の一環としてしたものであって真実ではない旨主張するけれども、本件書籍等のスタンスはあくまで原告らが本音で話すというものであって,原告が事実面Iについては真実を述べていることが重要な要素であることは明らかである。
 b 本件週刊誌の読者の多くは,本件書籍等での原告の発言を知らないなどということはないし,本件書籍等の読者及び視聴者等が本件週刊誌の読者を包含する関係にあ呪原告の主張は失当である。
 c 本件書籍は現在でも発売されており,テレビ番組「松紳」も継続しており,相互に宣伝し合う関係にあるから,時間的経過は問題とならない。
 (ウ) したがって,本件写真及び本件各記事の内容はー一般の人々に未だ知られていない事柄とは言えず,プライバシーの権利侵害を構成しない。
  (2) 争点(2)について
 ア 原告
 (ア)原告は原告自身かどうかも分からない本件写真をあたかも原告であることが間違いないかのように本件週刊誌に掲載されたところ,仮に本件写真の人物が原告でなく,肖像権侵害に該当しないとしても,本件週刊誌の頒布行為は,本件写真の人物を原告であるかのように掲載するなどして一般読者をして本件写真の人物が原告に間違いない旨の印象を受けさせることから,プライバシーの権利によって包摂しきれない人格権(憲法13条)を侵害する。
 本件各記事には「松本人志(41)」[ダウンタウン松ちゃん]との記載がある上,[映像は鮮明ではっきり本人ってわかるよ]との記載もあり,本件写真が防犯カメラの映像であることも明らかであることから,一般読者が原告であると安易に判断してしまうことは明らかであり,原告の肖像権が侵害された場合と全く同様の個人の自律性侵害があるのであり,肖像権又は肖像権類似の人格権復害が認められることは明らかである。
 (イ) 防犯カメラのように,多数の来店者の私生活を無意識のうちに順次撮影し続け,録画する性質のカメラは,本来重大な権利侵害に当たる。
 それにもかかわらず,防犯ピデヅによる撮影,録画及びそのビデオテープの管やゴ許されるのは,その目的か万引き,強盗等の犯罪や事故に対処するという文字どおり防犯にあるからである。
 したがって,防犯カメラの映像は.まさに防犯に使用することが目的であって,犯罪予防,犯罪捜査等の場合を覗いて,その映像が流出することは想定されていない。かかる防犯カメラの映像を,防犯目的以以外に利用し,しかも一般に公開したとなれば,それは重大な肖像権の侵害に当たる。
 (ウ)a プライバシーの権利は私的な事柄をみだりに公表されず,自己情報をコントロールする権利であり,他方,肖像権は,みだりに自己の容貌等を撮影.公表されない権利であって,両権利は保護の対象を異にするから,それぞれの権利侵害が成立する範囲は一致しない。
 本件において,上記人格権侵害は,本件写真の公開自体に基づく権利侵害をいい,本件写真を添えた情景描写とあいまったアダルトビデオ購入等の事実の公表といったプライバシーの権利侵害とは全く別の権利侵害である。
 b また,肖像権類似の人格権が必ずしもプライバシーの権利に包含されないことも当然で,同様の関係にある。
 c 被告は,人格権侵害を考慮する要素がプライバシーの権利侵害を考慮する要素とが全く同じである旨主張するけれど乱両権利侵害で考慮する要素は別異のものである。
  イ 被告ら
  (ア)そもそも,原告主張に係る人格権は,それ自体私生活に関する事柄である以上,プライバシーの権利の一類型にすぎずに一方でプライバシーの櫓利か否定された状況下で独立して存在し得ることは考えにくい。
 また,この点をさておいても.本件写真は,本件各記事の内容の真実性を担保する目的で掲載されたものであり,本件写真を含めて本件各記事がプライバシーの権利侵害を構成しない以し独立して人格権侵害を構成するものとは考えられない。
 (イ)原告は,本件ビデオ店に防犯カメラが設置され,防犯カメラにより撮影されることも熟知した上で入店しており,自己の肖像が第三者によって撮影され閲覧されることを当然に予想している。また.-一般店舗でかメラを設置する目的は,防犯目的に限られず,公開の可能性も含めたそれ以外の目的のこともある。
 よって,原告が自らの意思で防犯カメラの設置された本件ビデオ店に入店した以上,本件ピデオ店で自らの肖像を撮影され,それが使用,及び利用されることも当然予想されていたのだから,本件写真の掲載は原告の肖像権を侵害しない。
  (3) 争点(3)について
 ア 原告
 (ア) 原告は,本件各記事及び本件写真の本件週刊誌への掲載及びその頒布によって,防犯カメラの映像がまたもや悪用されるかもしれないという多大な恐怖感と疑心を抱かざるを得なくなり,町の至る所に設置されている防犯カメラが本件写真のように防犯という本来の目的以外に利用されることに多大な恐怖を覚え,安心して|ヨ常生活を送ることを大いに
阻害されており,その精神的苦痛は計り知れない。
 本件週刊誌の発行部数は約42万部という極めて多数に及ぶものであり,本件週刊誌の頒布行為により極めて広範囲の人々に原告の私生活として暴露されたのであって,原告が被る精神的苦痛は極めて甚大である。
 これらの原告の精神的苦痛をあえて損害賠償企額として評価すれば1000万円を下らない。
 原告が出演番組等においてアダルトビデオ購入などについて話すのは演芸の一環として内容をデフォルメして話題を提供しているにすぎず,原告の上記発言を損害額の算定に当たって消極に考えることは,我が国の文化の健全な発展を阻害しかねない。
 (イ) 原告は、原告訴訟代理人らに対し,弁護士報酬規定に基づく弁護士費用の支払いを約しており,本件で被告らが負担すべき弁護士費用の金額は100万円を下らない。
 イ 被告ら
 (ア)本体各記事及び本件写真によって公表された情報は,それが防犯カメラによるものであっても、私人がたまたま発見した原告を原告に気付かれないように撮影したものであっても,その態様に差があるものではなく,その侵害の程度も何ら差があるものではない。
 また,本件ビデオ店のようなアダルトビデオ店においては,ビデオカメラが公開の可能性も含め防犯目的以外の目的で設置されている可能性も十分あるのだから,原告がかかる店舗に自らの意思で入店した以上,自らの肖像がアダルトビデオ宸で撮影され,それが使用及び利用されることも当然予想していたといえ,本件カメラがどのような設置態様であ
ろうとも,そのこと自体で原告の精神的苫痛が別個に発生する又は増大するということはおよそあり得ない。
 (イ) 原告は,本件訴訟係属中の平成18年1月27日午前0時50分放送のテレビ番組[松紳](以下「本件テレビ番組②」という。)においても、自ら改めて本件各記事内容について公開すると共に本件各記事によって原告自身何ら精神的苦痛を受けず,経済的影響もないことを自ら主張している。
 
第3 争点に対する判断
 I 争点(1)ないし(3)について判断する前提として,第2・1記載の事実に,証拠(乙lないし3)を総合すれば,次の事実が認められる。
  (1)ア 原告は,テレビ番組卜C」で放映された島田紳助との対話を主たる内容とする本件書籍(乙1)を島田と共著したところ,本件書籍には,アダルトビデオを見てみたいとの視聴者からの相談に対する回答として次の記載がある。
 「松本 …ハハハハ。何か恥ずかしいんでしょうね。」,「松本 僕,そういうの,あんま恥ずかしいっていうのは……。」「島田 AVコーナー1人で入って,こうやってず一つと,棚,見んの?」「松本 全然見れますよ。大人のオモチヤ屋とかも全然I人で入りますよ。」,「島田 I人で入って,買えんの?」‥「松本 全然買えますね。あの,●●のピンポン玉に穴開いてるみたいな,こうやって口にくわえなあかんヤツ,あれ,大人のオモチヤ屋で買うてこい言われたら,全然もう普通に買いに行けますよ(笑)」「松本‥別に恥ずかしくないでしょう。」,「松本 どうしてもエロビデオが見たくてね。‥・」,「松本 で,レンタルで借りてくるんですけど,見るデッキが置いてないんですよ,フロントに。ほんでもう,しゃあないからテレビデオ.買って」「松本 14型ぐらいのテレビデオ,カバンに詰めて.グワーツ担いで(笑)。フロントにばれんように必死なんですよ(笑)。」
 イ 本件書籍の帯部分には,「未公開トークも満載!今,明らかになる痛すぎる2人の性(さが)! 」,「赤裸々に語られる過激な話が炸裂!!」「2人の才がリアルにほとばしる,「松紳」番組本第3彈,堂々発売!」,「胸いっぱいの想いを魂でしゃべる島田と松本。生き方,笑い,恋愛,セックス,友達、世の中。潔く生きたい,自分の信じることをこそ伝えたい.そんな気概をもって生きる2人の本音が大爆発!」などと記載されている。また,本件書籍の頭書部分には,「笑いあり,まじめな人生論あり,過激な話題ありと男の本音が炸裂する魂のトーク番組,『松紳』。 島田紳助と松本人志,2人は人生観も価値観も全く違いながらも笑いを織り込みながら本音で語り合い、ときに苫悩さえも垣問見せてしまう。
 本書は番組内でわずかに放送される『本番終了後』の未公開トークも交え,“あの話”の続きも大公開!紳助・松本の頭の回転の速さ・発想の豊かさに舌を巻く衝撃の爆笑トーク集,文章で読む最高のエンターテイメントとして堂々登場冂との解説文が記載されている。
 ウ,本件書籍は日本テレビのホームページにおいても広告が掲載された。
(2) 原告は,平成17年5月5日に日本テレビ系列で放映された「松紳」(以下[本件テレビ番組③]という。)において,「2人にとってのAV」とのテロップがテレビ画面上に出た状態で,島田と,数分間にわたってアダルトビデオに関する対話をした。す
なわち,島田の「お前,フライデーかなんか見だけど」との問いかけから始まって,島田が,原告に対し,行きやすいアダルトビデオ店が自然と決まってくる,ちゃんと顔を覚えられていで何も言わないのに領収書の宛名に島田との記載があった旨話したのに対して,原告は,島田に対し,「そういうのありますよねー」「あるなー,僕もこの間ちゃうとこ行ったときそうやったなー,出てく時従業員に『松本さん,サインしてくださいj(と言われて)『うわーやっぱりばれてたんや』(と思った。)」と言ったり,島田が原告に対してアダルトビデオを買いに行くのをやめるように話題をふったのに対して,「それは買い続けないと,僕のライフラインなんで」,「水道電気AVガスなんでね」などと言ったり,AVは自分で買いに行かないとだめだという島田に対して,「人に頽んであたったためしがないですからね」「あれだけは本当に十人十色なんですかねえ」「…めちゃくちゃええのあるから見てください言わ汪て家帰ってぎょうさんもろうて腹立ってくるんですよねえ,あれ,これ捨てといてくれいうことか?」,不要なアダルトビデオの処理について,「結構捨ててはいるんですけど」、「人にあげたくないんですよ,…」,島田の「自分のものみたいで?」との問いに対して「そうなんですよ」と答えるなどの対話をした。
  (3) 原告は,平成17年11月17日放映の「ダウンタウンデラックス」(以下「本件テレビ番組④」という。)において,出演俳優が以前見覚えがあるように感じた女性に対してどこかで出会ったことがあるかどうか尋ねていたらその女性はAV女優であった,との話題を提供したのに対し,「1日3同くらい(AV女優に)会うことあるもんね」「(原告は撮影当日にか30分前に(会った)…」と応じるなどした。
 2 争点(1)について
 以上の認定事実を踏まえて,まず争点(1)について判断する。
  (1)ア 日本国憲法13条は,「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対る国民の権利については公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」と規定し,個人尊重の原理を規定している。憲法の規定の性質上,同条は直接的には公権力に対する関係で定められたものではあるものの,個人の尊厳は人類普遍の原理であるから,私人間の法的関係においても,他人がこれを侵すことは許されず,そうした行為があった場合には,侵害を受けた個人はその差止めを求め、被った損害の賠償を求め得ることは明らかというべきである。そして個人の尊重の原理からは、
人尊重の原理からは,個人が自律的に社会領域の形成をすることを尊重することが求められるのであって,その自律的に形成される個人領域は,公権力はもとより,第三者からの侵害を許さないもので,その立入りが禁止される。こうしたことから個人は,その自律的に形成した個人領域に関しての情報を第三者に秘密にしておく権利を有すると言え,これがプライバシーの権利の一内容を形成するものと評価し得る。
 他人に知られたくない私的な事柄をみだりに公表されないという利益であるプライバシーの権利は法的には以上のように導かれるところ,それが保護されるための要件としては,(a)公表された事実が私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であり,(b)一般人の感受性を基準にして,当該私人の立場に立った場合,公開を欲しないであろうと認められる事柄であること(c)一般の人々に未だ知られていない事柄であることが必要であると解するのが相当であって,そうした要件を具備した場合には,その侵害行為の差止めや侵書行為によって受けた損害の賠償を求め得るなど一定の法的保保護が与えられると解される。
イ この点について原告はプライバシーの権利が他人に知られたくない私的な事柄をみたりに公表されないという利隘を含むことは認めつつ、さらにプライバシーの権利の法的性質を自己コントロール権と解し,これによれば非公知性の要件は不要ないし希薄化していると主張している。
 この点 情報社会の発展に伴って,プライバシーの権利の内容を,みだりに私生活に干渉されず,またみだりに私生活上の事実を公開されない権利として理解するにとどまらず,自己に関する情報をコントロールする権利と理解する余地がないわけではない。
 しかしながら,プライバシーの権利を原告の主張するように自己に関する情報をコントロールする権利と理解すると,著名人が自己の氏名,肖像,姿態等の利用をコントロールする財産権と位置付けられ。その侵害に対しては通常,金銭的な填補で回復が可能で,侵害行為の差止請求権までは認め難いパブリシティの権利との外延が明確でないなどの問題が生じ得る。その上,上記のとおりプライバシーの権利の内容を把握したとしても,プライバシーの権利か重要な人格的利益として民事上保護される根拠は,前記アのとおり,個人尊重の原理から,個人の私生活上の平穏を確保し,当該個人の自律的に形成される個人領域を保持することを本質とすると解されるところ,既に当該個人が当該自己情報を自ら公表していた場合には,自らの私生活上の平穏を確保し,自律的に形成される個人領域を保持する上で,当該自己情報を秘匿する必要がないと判断し,その秘匿性をいわば放棄したものとするのが自然であるから,かかる情報については,前記プライバシーの権利の趣旨に照らせば,法的保護に値しないと解するのが相当である。
(2) 以上検討したプライバシーの権利についての見解を前提に,争点(l)について理由があるかどうか判断する。
 ア まず,原,被告間においては,本件各記事の内容が前記プライバシーの権利の保護要件である(c)一般の人々に未だ知られていない事柄であるか否かについて,争いがある。
 (ア) この点,先に認定したとおり,本件書籍等には,原告がしばしばアダルトビデオを好んで鑑賞しており,そのために自らアダルトピデオ店に出向いて借りることもあるけれども,そのことを何ら恥ずかしいとは感じていないなどといった内容が含まれている。
 これに対して,本件各記事の内容は,①本件週刊誌の表紙において,「爆笑!超恥ずかし~流出 ダウンタウン松ちゃん「Av」物色中だツ!」と記載され,②本件週刊誌13頁において,「超ハズカシ~ ダウンタウン松ちゃん歌舞伎町アダルトビデオ物色中」との見出しの記載,③本件写真の説明として,「ダウンタウンの松ちゃんがAvを買っているところを撮ったビデオが流出してるんだ。映像は鮮明ではっきり本人ってわかるよ」との[ビデオ関係者]の発言記事と,④「Avへの並々ならぬこだわりが伝わってくるが……。」「『Avマニア』を公言する松本人志(41)」との記載,⑤本件ピデオテープの所有者の談話として,「歌舞伎町にある,松ちゃんが常連にしている店だね。この日は夜11時過ぎ,ジャガーに乗って来店すると,●●モノを物色して,結局,〇〇〇〇の■■モノ1本を買っていったんだ。」との記載からなることは,第2・1記載のとおりである。
 (イ)このうち,本件記事①ないし本件記事④については,前記本件書籍等において原告が公表した事実と比べると,本件記事②において「歌舞伎町」と本件ビデオ店の所在地を具体的に記載しているほかは,ほぽ同一の事実の記載である。
 そして,テレビ番艫「松紳」の放映時間帯は午前0時40分から午前1時10分という深夜帯であることが認められ(甲1),比較的その視聴者は限定されると解されるけれども,一方,本件週刊誌発売日と本件書籍の発売日との時|司的隔たりは約8月間と比較的近い時期であること(甲2及び乙1),前記のとおり,本件書籍は平成17年9月29日当時も日本テレビが開設するホームページにおいて宣伝されており,本件週刊誌発売当時にも発売されていたと認められること,証拠(甲2,3,乙1ないし3,5及び6)及び弁論の全趣旨を総合すると,テレビ番組「松紳」,本件書籍及び本件退刊誌はいずれも大衆向けの娯楽メディアと解され,必ずしもその視聴者瘤及び読者層が大きく異なっているとは考えにくいこと,原告が本件テレビ番組③及び本件テレビ番組④においてもアダルトビデオをめぐる会話をしていることなどに照らせば,本件書籍の読者及び本件書籍と同内容を放映したテレビ番組「松紳」の視聴者以外の人々が皆,原告がアダルトビデオをよく鑑賞しており自ら購入することもあることなどを知らないとも言い難いと解されることから,本件週刊誌の発売日と本件テレビ番組①及び本件書籍の発売日との間の時間的経過,本件テレビ番組①及び本件書籍との公表範囲の不一致といった点を考慮したとしても、本件記事①ないし本件記事④の内容が未だ一般の人に知られていない事柄とまでは言い難いというべきである,
 (ウ)a 一方,本件記事⑤は,本件ビデオテープの所有者の談話として,原告が歌舞伎町に所在する本件ビデオ店の常連であること,本件写真が撮影された当日の原告の来店時問,原告が興味を示したアダルトビデオの種類及び原告が借入したアダルトビデオの種類について明らかにするものであって,本件書籍等の内容をより具体的に詳細化した内容といえる(な牡本件記事⑤は,本件ビデオテープの所有者の談話として記載されているところ,上記所有者の氏名や本件ビデ才店の経営主体との同一性などその属性は明らかでなく,本件各記事の読者をしてその上記所有者が本件記事⑤の内容の発言をしたという事実を超えて,その発言内容が真実である旨思わしめるものというべきである。)。
 そして,原告がその陳述書(甲8)で指摘するように男性がアダルトビデオに興味を示し,これを鑑賞すること自体は、一般的事象として受け止める余地はあろうが,具体的にいかなる種類のアダルトビデオに興味を示して購入しているかなどといった具体的事実については,当該個人の性的趣向までも窺わせる事項ともなり得ることからすれば,自己の最も私的な事項に属するものとして相当程度秘匿性の高い情報と解される。
 b 被告らは,本件書籍の帯部分及び頭書部分に原告ら著者によって語られている事実が真実であることを前提とする記載がされていること,また,テレビ番組「松紳」のホームページにおいても,「本音が炸裂!」と記載されていることから,本件書籍等の読者等がその内容を誇張されたものであって真実ではないとは考えないはずである旨主張している。
 なるほど,先に認定したとおり,本件書籍の帯部分には,「未公開トークも満戟!今,明らかになる痛すぎる2人の性(さが)!!」,「赤裸々に語られる過激な話が炸裂!」,「2人の才がリアルにほとばしる,「松紳」番組本第3弾,堂々発売!,「胸いっぱいの想いを魂でしゃべる島田と松本。生き方,笑い,恋愛,セックス,友達,世の中。潔く生きたい,自分の信じることをこそ伝えたい,そんな気概をもって生きる2人の本音が大爆発!」などと記載されていること,本件書籍の頭書部分には,[笑いあり,まじめな人生論あり,過激な話題ありと男の本音が炸裂する魂のトーク番組,『松紳』。島田と松本,2人は人生観も価値観も全く違いながらも笑いを織り込みながら本音で語り合い,ときに苦悩さえも垣間見せてしまう。 
 本書は番組内でわずかに放送される「本番終了後」の未公開トークも交え”あの話”の続きも大公開!島田・松本の頸の回転の速さ・発想の豊かさに舌を巻く衝撃の爆笑トーク集、文章で読む最高のエンターテイメントとして堂々登場!」との解説文が記載されていることか認められる。
 しかしながら,本件書籍等によって明らかにされた事実は,原告がアダルトビデオをしばしば鑑賞し購入すること,アダルトビデオを購入する際などに羞恥心を覚えないことであって,具体的に原告がアダルトビデオを購入する態様,興味を示したり購入したりしたアダルトビデオの種類などの具体的事実については何ら明らかにされておらず,前記判断のとおり,その相違点は看過し難い内容である。
 また,証拠(乙1,2及び4ないし6)及び弁諭の全趣旨によれば,本件書籍等は,出演者があたかも真実であるかのように多少事実を誇張しておもしろおかしく話すことによって番組を盛り上げるという性質を多分に有する娯楽番組であって,その会話内容は真実とフィクションの境界が極めて曖昧であるところに娯楽性を有する一面があることが窺われ
る。
 そうだとすると,これらのバラエティ番組の視聴者等が,必ずしも原告を含む出演者の会話内容を額面どおりすべて真実に合致するものと判断すると解するには躊躇を覚えざるを得ず,本件書籍等の読者等がその内容のすべてが真実である旨認識しているとは必ずしも言い難い。
 以上によれば,被告ら主張に係る上記事実をもって,本件記事⑤の内容に公知性があるとは言い難い。
 C したがって,本件記事⑤については,本件書籍等の内容との前記相違点を看過し難く,本件記事⑤は,一般の人に未だ知られていない事実というべきである。
 イ 次に,本件記事①ないし本件記事④は公知性があることから,原告のプライバシーの権利侵害は認められないかどうかが問題になる。原告は,前記のとおり,プライバシーの権利の法的性質を自己情報コントロール権と解し,非公知性の要件は不要ないし希薄化していると主張している。
 (ア) この点については,先に第3・2(1)イで判示したとおり,すでに当該個人が当該自己情報を自ら公表していた場合には、自らの私生活上の平穏を確保し,人格的自律を保持する上で,当該自己情報を秘匿する必要がないと判断し,その秘匿性をいわば放棄したものと解するのが自然であるから,かかる情報については法的保護に値しないと解するのが相当である。
 本件についてみても,前記認定のとおり,原告は本件書籍等において積極的に本件記事①ないし本件記事④記載の事実と同内容の事実を公表しているところ,その公表媒体が前記認定のとおり書籍及び日本テレビ系列のテレビ番組であることに照らせば,原告がその公表範囲を一部に限定し,他の範囲についてはその秘匿性を維持することを欲していたとは認め難い。
 また,原告は上記自己情報を含む私的事項を公表することで芸能人として人気を博しその社会的地位を確立していると認められるところ(乙lないし6及び弁論の全趣旨),上記原告の主張は,原告の自己情報を開示することによって得られる経済的社会的利益を原告白身が独占したいという,いわば自己情報の財産的価値の独占的利用を主張するに等しい
側面があることも否めず,かかる利益をプライバシーの権利によって保護すると解することは上.記のプライバシーの権利の趣旨にそぐわないものと言わざるを得ない。
 (イ)原告は,同一の自己情報か繰り返し公表される場合には,公表された者は公表される毎に多大な精神的苦痛を被るものであり,他方,後続的に他人の私生活を公表する者が,このような多大な梢神的苦痛を受けている者に対して,非公知性の要件を免罪符として一切の責任を負わないということは極めて不合理である旨主張している。
 しかしながら,少なくとも本件においては,原告は自ら積極的に本件記事①ないし本件記事④に相当する情報を公表しているから,上記原告の主張は前提を異にするもので採用し難い。
 (ウ) 以上から,本件記.事①ないし本件記事④記載の亊実については,非公知性を欠き,プライバシーの権利に基づく法的保護は与えられないというべきである。
 ウ そして,前記認定のとおり,本件記事⑤は,原告が,新宿区歌舞伎町に所在するアダルトビデオ店に,タレント活動とは無関係に入店してアダルトビデオを閲覧するなどしている様子を記載したものであるから,プライバシーの権利の保護要件である(c)原告の私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあるに該当するものと解される。
 また,先に認定したとおり,本件記事⑤は,原告の様子について,「…●●モノを物色して,結局,〇〇〇〇の■■モノ1本を買っていったんだ。」などと記載しており,一般人の
感受性を基準にして原告の立場に立った場合,公開を欲しないであろうと認められる事柄と認められ、プライバシーの権利保護要件である(b)にも該当するものと認められる。
 エ 以上によれば,本件記事①ないし本件記事④は未だ公になっていない事実とは認められないからプライバシーの権利をしたとはいえないものの,本件記事⑤は原告のプライバシーの権利を侵害するというべきである。
 
 3 争点(2)について
(1) 人は、私生活上の自由の1つとして何人も,その承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ほう等」という。)を撮影されない自由を有するものと解される。もっともい人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許される場合もあり、
ある者の容貌などをその承諾なく撮影することが不法行為上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当である(最高裁判所昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁判所平成17年11月10日第1小法廷・裁判所時報1399号15頁参照)。
 そして,掲載された写真自体からはその被写体である人物の容ほう等が肖像権侵害を訴えている当該個人の容ぼう等であることが明らかでない場合であっても写真と説明文を合わせ読むによって読者が当該個人である旨特定できると判断される場合や読者が当該個人であると考えるような場合には,撮影により直接肖像権が侵害されたとはいえないものの,当該個人が被写体である人物本人であったか否かにかかわらず,当該個人が公表によって羞恥,困惑などの不快な感情を強いられ,精神的平穏が害されることに彌わりはないというべきであるから,やはり撮影により直接肖像権が侵害された場合と同様にその人格的利益を侵害するというべきである(以下,このような人格的利益を「肖像権に近接した人格的利益」という。)。
 (2) これを本件について検討するに,証拠(甲2)によれば,木件写真の人物の容ほう等はいずれもやや不鮮明であることが認められ,本件写真の人物が原告である旨本件写真自体から特定できるとまでは言い難いけれども,前記認定事実及び証拠(甲2)によれば,本件写真には「その右下部分に本件写真の説明として,本体各記事,すなわち「ダウンタウンの松ちゃんがAVを買っているところを撮ったビデオが流出してるんだ。映像は鮮明ではっきり本人ってわかるよ」(ビデオ関係者),「『AVマニア』を公言する松本人志(41)とはいえ‥」との記載があること,上部には「ダウンタウン松ちゃん」「歌舞伎町アダルトビデオ物色中!」との記載があることが認められ,これらの本件各記事の記載と併せ読めば,本件週刊誌の読者は,その真偽はともかく,本件写真の人物がいずれも原告であると考えるというべきである。
 また,本件写真は,帽子を目深にかぶった男性が腕組みをした状態で店内の陳列棚をながめている様子を撮影した写真3萸,女性らしき人物が写っているアダルトビデオのパッケージを手にとって眺めている写真l葉から構成されているところ(甲2),本件写真の撮影はその写真の人物の視線等からいって,当該人物の撮影に対する事前の了承が得られて
いると認められず.他にこれを覆すに足りる証拠もない。
 そして,本件写真の撮影態様及び入手経緯については,原告が訴状で本件写真がビデ才ショップの防犯カメラとしか考えられない角度・精度で撮影されていると主張していたのに対し,被告らは,平成17年10月3日付け準備書面(2)において「なお,本件写真の元となったビデオがその撮影位置などから,防犯ピデオであろうと思われることについては特段争うものではない。」としている。
 以上の事実からすれば,本件写真が本件ビデオ店の店内に設置された防犯ビデオによって撮影された映像であると認められる。そして,被告会社は,この映像を本件ビデオ店経営者などから直接又は問接的に本件写真を入手したものと解されるが,原告において,店内に設置された防犯ビデオによって姿態が撮影されるであろうことは予想されたとしても,
その映像が被告会社の手にわたって本件週刊誌に掲載されるであろうことについては到底予想しうるものとは言い難い。
  (3) 証拠(甲2)によれば,本件写真は,本件各記事と相俟って帽子を目深にかぶった原告かアダるとビデオを購入するためにアダルトビデオを選んでいる様子を撮影したものと認められるところ,原告とされる人物が帽子を目深にかぶっていることからすれば,第2・1記載のとおり,原告が著名な芸能人であることを鑑みても,撮影の対象となった原告とされる人物が本件ビデオ店でアダルトビデオを物色する姿を目撃されることを欲していないことが窺われる。
 また,そもそも防犯ビデオについては,当該店舗内等がビデオ映像が撮影されていることを同所を訪れた者が認識することにより犯罪行為を行うことを抑止する効果を期待するとともに,同所において犯罪行為が行われた場合には,その映像を捜査機関に提供するなどすることにより犯罪者の検挙に資することを主たる目的とするものであって,その撮影された映像が写真週刊誌等に公開されることを予定しているものではない。
 さらに,証拠(甲2)によれば,本件週刊誌には,見出しとして「爆笑!超恥ずかし~流出」「超ハズカシ~」との記載があることが認められ,被告らとしても,本件写真を公開した場合に,原告が羞恥心を覚えることは十分に認識していたものと認められる。
 以上の事実を総合考慮すると,本件週刊誌に本件写真を掲載して公表する行為は,教会生活上受忍すべき限度を超えて,原告の肖像権に近接した人格的利益を侵害するものであって,不法行為上違法であるとの評価を免れない。
 (4) 被告らは,原告が本件ビデオ店に防犯カメラが設置され,防犯カメラにより撮影されることも熟知した上で入店しており,原告の容ぼう等が第三者によって撮影及び閲覧されることを当然に予想しており,また,一般店舗でカメラを設置する目的は,防犯目的に限られず,公開の可能性も含めたそれ以外の目的のこともあるから,原告が自らの意思
で上記の性質の店舗である本件ビデオ店に入店した以上,本件ビデオ店で自らの容ぼう等を撮影され,それか使用及び利嗣されることも当然予想されていた旨主張する。しかしながら,被告らの主張を前提にして,仮に原告が防犯カメラによって撮影されることを予想しながら本件ビデ才店に入店したとしても,容ぼう等の撮影を許諾することとその撮影映像を公開することを許諾することとは別問題である。防犯ビデオの
設置目的は,前記出で判示したとおりであって,本件において,その撮影映像が被告会社の手にわたり,本件週刊誌に掲載されることまでは予想していたと推認させる事由はない。
 また,仮に被告の主張を前提にして,原告において防犯カメラによって撮影された映像が防犯目的以外に利用される可能性があることを予見し得たことを前提にすると,一般店舗に入店する私人は防犯ビデオによって撮影された映像の流出の危険性を覚悟して入店すべきことになるが,そのような過大な負担を課すことは,プライバシーの権利及び肖像権の意義に照らし不当である。
 よって,被告らの上記主張には理由がないというほかない。
  (5)したがって,争点(2)についての原告の主張には理由がある。
 4 争点(3)について
(1)ア 原告は,木件各記事及び本件写真の掲載及び頒布によって多大な恐怖を覚え,多大な精神的苦痛を被った旨主張し,原告本人作成に係る陳述書(甲8)にもこれに沿った記載がある。一方,被告らは,原告が本件訴訟係属中に本件テレビ番組②において本件各記事によって何ら精神的苦痛を受けていない旨述べていること等を挙げて,原告には精神的苦痛が生じていない旨主張し,損害の発生を争っている。
 イ 先にも判示したとおり,原告がその陳述書(甲8)で指摘するように,男性がアダルトビデオに興味を示し,これを鑑賞すること自体は一般的事象として受け止める余地はあろうが,具体的にいかなる種類のアダルトビデオに興味を示して購入しているかなどといった具体的事実については,当該個人の性的趣向までも窺わせる事項ともなり得ることか
らすれば,自己の最も私的な事項に属するものとして秘匿しておきたいことが当然に予想されるところである。
 このことは,本件の原告について乱 アダルトビデオを鑑賞することがあるなどといった抽象的な話題を超えて,自らの性的事項の詳細にっいても公開を許容していることを窺わせる特段の事情がない限り妥当すると解される。また,先にも判示したとおり,本件週刊誌の見出しに「超ハズカシ~」などとの記載かおることからすれば,被告らとしても,本件写真を公開した場合心原告が羞恥心を覚えることは十分に認識していたものと認められる。
 ウ なるほど,第2・1(1)アの事実,第3・1(1)ア,(2)及び(3)の各事実並びに弁論の全趣旨を総合すると,原告はいわゆるお笑い芸人であること,その芸風は浜田とコンビを組んで漫才をする以外に,本件テレビ番組③においてアダルトビデオを唐入することは原告白身にとって必嬰不可欠であることやアダルトビデオ店に行った際の具体的エピソードを公表したり,本件テレビ番覯④においてあたかも番組収録直前にもアダルトビデオを見ていたかのような発言をするなど,いわゆるバラエティ番組において,原告自身の私生活上の事実と受けとめられ,一般人ならば他人に知られたくないような事実についても,巧みな話術で時に自虐的に面白おかしく語って笑いをとっていること,その芸風が人気を呼び多くのファンを得ていることが認められるところ,以上の事実に照らせば,かかる原告の芸能人としての評価及び印象は,清廉潔自というよりは比較的大衆的かつ世俗的で開けっぴろげな人物といったものであると認められる。
 また,原告のような芸能人は少なからず私生活を含めた自己をさらけだすことでその社会的地位を確立する面があることから,当該個人が自らを公に知られることを欲していると解される限度でプライバシーの権利の保護が後退する面は否めない。
 エ しかしながら,これらの事情は後記のとおり損害額によって斟酌されるべき事情であって,そのこと自体をもって,本件において原告のプライバシーの権利侵害による損害の発生自体を否定することは,特に本件各記事が性的事項を扱う内容であることに照らすと,原告の性的事項全般にわたってプライバシーの権利の存在そのものを否定するにも等しい結果となりかねず,相当でない。
 また,前記判断のとおり,本件記亭⑤の内容が原告の性的趣向を窺い得るような極めて私的な事柄を扱うものであることに鑑みれば,前記の原告の芸風をもって,直ちに,原告が本件記事⑤のような具体的詳細な事実についてまで公表を許容している特段の事情かあるとは言い難い。
 オ 被告らは 原告が本件訴訟係属中に本件テレビ番組②にやいて,本件各記事及び本件写真によって何ら世親的苦痛を受けていない旨述べている旨主張しでいるけれども,これを裏付ける証拠はない上、先に認定した原告の芸風からすれば,上記被告ら主張に係る事実を前提にしても,そのこと自体から直ちに原告が精神的苦痛を受けていないことを証
するものではないというべきである。そして,本件写真等が本件週刊誌に掲載されたことにより,原告が不快,不安の念を覚えたとの原告作成にかかる陳述書(甲81の記載内容は合理性があり,その心情は十分に理解できるものである。本件週刊誌の見出しに・「爆笑爿超恥ずかし~流出」「超ハズカシ~」との記載があることからしても,一般通常人の感覚としても本件各記事及び本件写真によって原告が恥ずかしい思いをし,本件週刊誌に揶揄され不快の念を抱いたことは了解可能な事実である。
 ヵ したがって,本件各記事の掲載及び頒布によって,原告が実際に不快,不安の念を覚えたと認めるのが相当である。,
  (2)ア(ア) 前記認定のとおり,本件写真は本件ビデオ店に設置された防犯カメラによって撮影された映像と認められる。
 また,前舁のとおり,被告会社は本件ピデオ店の従業員等から直接又は間接的に本件写真を人手したものであると認められるところ,被告会社において,本件写真の撮影角度及び被写体の人物の視線などに照らせば,入手した際に本件写真が本件ビデオ店の防犯カメラの撮影画像であること及び原告の事前の承諾を得て撮影されたものではないことを認識していたことが窺われる。
 この点,防犯カメラは,その撮影対象者に対する事前の了承を求めることなしに,犯罪発生の具体的危険性の有無とは無関係にその容ほう等を撮影するものである以上,私人が店舗内に防犯カメラを設置して入店者を撮影することが正当化されるのは,店舗内での犯罪発生を事前に防止し又は事後的に犯罪解明等を容易にするためという防犯目的に限られると解される。
 本件ビデオ店が防犯カメラを設置した目的,その撮影映像が被告会社の手・にわたった経緯については必ずしも明らかでなく,防犯カメラの設置及び撮影自体に被告会社が関与していたと認めるに足りる証拠はない以上,本件写真の撮影自体が違法であるかは明らかでない。
 しかしながら,被告会社のごときマスコミが本件写真がその防犯かメラの目的外利用に当たることを認識しながら,その撮影画像を記事に用いるということは,防犯かメラの目的外利用を助長及び促進させることとなる点て,悪質といわざるを得ない。
 (イ)この点,被告らは,防犯カメラによる撮影画像と,一般私人が原告に気付かれないように撮影したのとでは原告の被る精神的苦痛に相違がない旨主張し,本件写真が防犯カメラの撮影画像であることを特に損害額の算定において斟酌すべきでない旨主張している。
 しかしながら,防犯カメラによる撮影は,一般私人による撮影と比べて,より継続的かつ長期にわたって撮影可能なこと,当該被写体の事前の承諾なしにその容ぼう等を撮影することが比較的容易であること等の点で,その対象となる人物のプライバシーの権利及び肖像権を害する危険性は相当程度高い九防犯カメラによる撮影によるプライバシーの権利及び肖像権侵害が社会問題化している今日において,防犯カメラによる撮影を一般私人の撮影による場合と同列には評価し難いというべきである。
 (ウ)また,前記認定のとおり,本件各記事及び木件写真は原告が本件ピデオ店においてアダルトビデオを閲覧などしている様子を描写したものであって,その内容は,専ら興味本位の内容であって必ずしも社会の正当な関心事とは言い難い上,その表現
方法も,第2・1(2)のとおり,「爆笑!超恥ずかし~流出 ダウンタウン松ちゃん『Av』物色中だ!」,「超ハズカシ~」,「『Avマニア』を公言する松本人志(41)とはいえ,本物ならばかなり恥ずかしい。」,「『…しかもモデルは常盤貴子のそっくりさん(笑)』。」,「次は優香のそっくりビデ才でも買う?」など,相当程度揶揄的なものということができる。
 イ ー方で,前記認定のとおり,原告は,本件週刊誌発売前から演芸の一環として,アダルトピデオを購入することに羞恥心を覚えないこと等を自ら進んで公表していたこと,本件週刊誌発売後にも本件テレビ番組①において同趣旨の発言をしていたことなどに照らせば,原告がどの程度真摯に本件各記事の掲載及び頒布によって羞恥心,不快感等を覚えたかについては,必ずしも判然としない面が否めない。
 原告は,演芸の一環として誇張して話しているにすぎないから,上記原告の発言を原告が被った精神的苦痛を考慮するに際して消極約に評価すべきではない旨主張している。
 しかしながら,演芸の一環としてであるにせよ,原告が自らの私的事項を公にさらすことによって世間の注目を集め人気を博している以上,私的事項全般にわたって通常・一一般人に比してその人格的利益を保護する必要性は低くなることは避け難いというべきである。
 ウ 以上に併せ、本件週刊誌の発行部数等本訴に表れた一切の事情を総合考慮すると,原告に生じた精神的損害を慰謝するための金額としては,肖像権に近接した人格約利益の侵害及びプライバシーの権利侵害併せて合計80万円が稲当である。
 エ また,原告が原告代理人小川恵司及び同吉田桂公に対して本件訴訟の追行を委任し,報酬の支払いを約したことは,弁論の全趣旨から明らかであるところ,本件事案の難易,本訴認容額等に照らし,原告が被告らに対して本件不法行為と相当因果関係を有するものとして請求し得べき弁護士費用額は,本件不法行為時の時価に引き直して10万円と認め
るのが相当である。
  (3) 第2・1(l)イのとおり,被告Yは,本件週刊誌の編集人としてその編集の責任を負う者であるところ,編集人として,みだりに人のプライバシーの権利及び肖像褄に近接した人格的利益を侵害することのないように注意すべき義務を負っているにもかかわらず,この義務に反して本件写真及び本件各記事の掲載及び頒布を行った者であり,この義務違反行為が違法性を有し,不法行為を構成する。
 また,前記認定のとおり本件週刊誌は被告会社が発行する週刊誌[FLASH]の1冊であることから,被告Yは,被告会社の社員としてその事業の執行に際して上記義務違反行為をしたと認められ,被告会社は,本件写真及び本件各記事の掲載及び頒布によって原告が被った損害について,民法第715条1項に基づき賠償の責を負う,
 5 以上によれば,本件請求は不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用の合計90万円及びこれに対する不法行為日である平成17年3月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余については理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法第64条本文,61
条を適用して,主文のとおり判決する。
 
東京地方裁判所民事第4部
 裁判長裁判官 深見 敏正
    裁判官 槐  智子
    裁判官 今井 諏訪