令和7年ワ15164号 49部 佐藤隆幸裁判長
原告 百田尚樹 代理人 福永活也
被告 飯山陽こと●●●● 安田修、野中信敬(大島総合)
被告 ワック(株)
被告 藤岡信勝

6月3日提訴 6月17日訂正 8月8日3行答弁 9月25日被告準備1
9月29日原告第1 9月30日口頭弁論1

訴状

請求の趣旨
1 被告飯山陽及びワック株式会社は、原告に対し、連帯して、330万円及びこれに対する令和7年5月25日から支払い済みまで、年3%の割合による金員を支払え。
2 被告藤岡は、原告に対し、66万円及びこれに対する令和7年6月3日から支払い済みまで、民3%の割合による金員を支払え。
3 被告飯山陽は、原告に対し、本判決の確定した日から30日以内に、被告飯山が運営する別紙謝罪広告要領の第1記載のXアカウント上に、同第3記載の謝罪広告を、1か月間掲載せよ。
4 被告ワック株式会社は、原告に対し、本判決の確定した日から30日以内に、被告ワック株式会社が運営する別紙謝罪広告要領の第2記載のホームぺージ上に、同第3記載の謝罪広告を、1か月間掲載せよ。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
 との判決並びに仮執行宣言を求める。

請求の原因
第1 当事者
1 原告
  原告は、国政政党日本保守党の党首であり、作家、Youtube等を営んでいる。
2 被告ら
被告飯山は、東京大学博士号を取得し、多数の著作物の出版や多数のメディア出演をしている著名なイスラム思想研究家であり、旧姓「飯山陽」の名勝負、フォロワー約27.2万人のXアカウント(@Iiyamaakari)(以下「本件Xアカウント」という。)及び登録者数約17.9万人のYoutubeアカウント(@ikarichannel)を運営している。
被告飯山は、令和6年3月5日、当時政治団体であった日本保守党の公認で同年4月の衆議院東京15区補欠選挙に立候補したが落選している。
被告飯山は、「日本保守党の言論弾圧から被害者を守る会」なる名称の集団の理事も務めており、上記のSNSの運営と併せて、相当強い社会的影響力を有する人物である。

被告ワック株式会社(以下「被告ワック」という。)は、月刊誌「Will」等の出版社であり、自社のホームページを運営している(以下「本件ホームぺージ」という。)。過去には、第3者の名誉を侵害する出版をしたことにより、複数回の損害賠償命令が課せられている。

被告藤岡信勝(以下「被告藤岡」という。)は、教育学者、教育評論家であり、「日本保守党の言論弾圧から被害者を守る会」の会長を務めており、相当強い社会的影響力を有する人物である。

第2 被告らの不法行為責任
1 被告飯山及び被告ワックの共同不法行為
 (1)  被告飯山及び被告ワックの本件書籍の出版
被告飯山を著者として、被告ワックは、令和7年5月25日、「日本保守党との死闘―自由社会の敵」と題する書籍を出版した。 (以下「本件書籍」という。)。本家書籍には、別紙本件記事1のとおりの記載がある。
 (2) 本件記事1の解釈
 本件書籍は、タイトルからも分かるように、日本保守党やその幹部を批判する名内容が大半であって、本件記事1内の「百田氏」とは日本保守党の党首である原告を指すと理解するのが通常である
   そして、本件記事1の前半部分である「24年12月29日、百田氏は」から「ええ、はい、まあそういうわけでね、」については、一般読者において、原告が被告飯山に対して何某かの敵意を向けて策略を練っている様子を窺わせるものである。
 その上で、「突如、日本刀を手にもって抜刀し、それを振り回し、「実用に使ったら怒られるやろな」とか「貴様にはこれを!」なとど言いました。何のために? やっぱり、「ややこしいうじ虫」である飯山陽をつぶすためでしょう」と続けて記載されている。
  さらに続いて、「ライブのチャット欄には「めし山を試し切り、どうかな」とか、「飯山、震えて眠れ!」など興奮するコメントが溢れていました。百田氏はこれを横目でチラチラ見ながら刀を振り回し続けた。何のために?「ややこしいうじ虫」である飯山陽をつぶすためでしょう。」と記載されている(なお、「めし山」とは被告飯山の別称である。)。
そして、「暴言、デマ、脅し。これが百田氏の「得意技」です。」、「百田氏は、飯山陽に対していくら暴言を吐き、デマで貶め、日本刀で抜刀して振り回して脅しても」と記載されている。
 一般読者がこれを読んだ場合、「貴様にはこれを!」の「貴様」とは、原告が被告飯山を指して述べていたと理解させる。
  なぜなら、本件記事1は主として原告が被告飯山に対して、嫌がらせのような言動をしている趣旨を述べるものであり、前半部分で原告が被告飯山に対して何か策略を練っている発言をしていることを描写し、その前半部分と、原告の2,024年12月29日付YouTubeライブ配信(以下「本件原告Youtube配信」という。)のライブチャット欄で、閲覧者が被告飯山を脅迫する言動をしたことを描写する部分で挟むように、「突如、日本刀を手にもって抜刀し」から「飯山陽をつぶすためでしょう。」の部分を描写していれば、一般読者からすると、その挟まれた部分も被告飯山に対する言動と理解するのが自然だからである。
 さらに、本件記事1の後半には、原告の得意技として、「脅し」と記載した上、一層明確に原告が「日本刀で抜刀して振り回して脅して」と描写されている。
  以上からすれば、本件記事1は、一般読者の通常の読み方によれば、原告が本件原告ライブ配信において、日本刀を抜刀して振り回しつつ、被告飯山に向けて、「実用に使ったら怒られるやろな」、「貴様にはこれを!」と述べ、もって被告飯山を脅迫したと理解させる。
 (3) 本件記事1が事実の摘示であること
 本件記事1は上記の意味合いに理解させるものであるから、原告が被告飯山を脅迫したか否かは証拠等をもってその存否が確定できる他人に関する事項であるから、事実の摘示に該当する。
 なお、被告飯山からは、本件原告ライブ配信を前提とする意見論評であるといった反論があるかもしれないが、本件著書の一般読者が、当然のように本件原告ライブ配信を閲覧した後で本件記事1を読むとは言えないし、本件記事1を読んだ一般読者が媒体まで異なる本件原告ライブ配信(しかも40分程度にも及ぶ)を改めて確認するとも言えず、本件記事1が本件原告ライブ配信を前提とする意見論評とは理解されることはなく、被告飯山が本件原告ライブ配信の内容につき、上記の通りであったと断定的な事実を述べたと理解されるのが通常である。
 (4) 本件記事1が原告社会的評価を低下させること
 本件記事1は、原告が被告飯山に対して、日本刀を抜刀して振り回して脅すという脅迫罪にも該当し得る言動をしたことを意味するのであって、原告について、犯罪行為あるいはそれに類する凶暴な言動をする人物であるとの印象をもたらし、原告の社会的評価を低下させる。
 (5) 本件記事1について、違法性訴規約事由が認められないこと
 被告飯山から、本件記事が真実である等いった違法性阻却事由に関する主張がなされる可能性があるため、予め真実ではないことを主張する。
すなわち、被告飯山が本件記事1で述べている本件原告ライブ配信の内容は、甲7号証の1及び2のとおりである。
これを見れば明らかなとおり、原告は、本件原告ライブ配信では、冒頭から10分頃までは今後のライブ配信のゲストに関する話題をした後、14分台までは暗に被告飯山のことを述べつつも、一度も被告飯山の名前を出しておらず、直接的に被告飯山の話題に触れてはいない。
 そして、その後、原告の実母の入院に際して、友人が病魔退散の願掛けで日本刀をプレゼントしてくれたことを紹介し始めたに過ぎない。それから本件原告ライブ配信を終える35分頃まで日本刀の話を室付けてはあるが、一度も明示的あるいは暗にでも被告飯山を意識せるような話はしていない。
   特に、被告飯山が本件記事1で述べている「実用に使ったら怒られるやろな」、「貴様にこれを!」という箇所については、20分以降に、万が一、日本語の分からないような賊が「金、金、金庫」と襲い掛かってきた場合には「貴様にはこれを!」と反撃するかといった空想を交えて日本刀の紹介をしているに過ぎないことは明らかである。
 それにもかかわらず、 被告飯山は無理やりこれを被告飯山に対する脅迫であるかのように吹聴しているが、本件記事1は全く真実ではない。
 なお、本件記事1では、本件原告ライブ配信のチャット欄のコメントの中には、日本刀を被告飯山に使用することを示唆する投稿もあったようであるが、本件原告ライブ配信中には多数のコメントで溢れかえっており、原告はそのようなコメントがされていることには気が付いていなかったし、仮にそのようなコメントがあったとしも原告とは別人格の第3者が勝手にそのような発言をしたにすぎず、原告に帰責されるわけではない。
   したがって、本件記事1は真実ではなく、違法性が阻却されることはない。
 (6) 被告飯山及び被告ワックの共同不法行為責任
   以上のとおり、本件記事1は原告の社会的評価を低下させ、原告への名誉権侵害となるものであるが、これは本件書籍を執筆した被告飯山及び本件書籍を出版して世に広めた被告ワックが双方に不可欠な役割を果たすことによって行われた不法行為であり、被告飯山及び被告ワックには、本件記事1により原告の名誉権を侵害したことについて、共同不法行為責任を負う。
 
 (7) 本件記事により原告が被った損害
 (1) 慰謝料
   被告飯山及び被告ワックの共同不法行為により、原告の名誉権は侵害されるが、本件記事1は原告があたかも自身が代表を務める日本保守党の元立候補者の被告飯山に対して、日本刀を用いて脅迫するという犯罪行為あるいはそれに類する凶暴な言動をしたと理解させるものであり、かつ、相当強い社会的影響力や拡散力を有する被告飯山及び被告ワックにより、国政政党の党首という立場の原告の信用が失墜させられた程度は著しく、これにより被った精神的苦痛を慰藉するには金300万円を下回らない。

2 被告藤岡による不法行為
 (1) 本件記事2の内容
   被告藤岡は、自身が運営するFacebookにおいて、別紙本件記事2の通りの記事を投稿した。なお、本件記事2は削除済みのようであり、投稿年月日は不明である。
 (2) 本件記事2が原告の名誉権を侵害すること
 本件記事2はね公党の党首について述べているが、公党の党首とは国内に10人程度しか対象者がいないことや、原告が令和6年11月8日配信したYouTubeライブにおいて女性は30歳を超えたら子宮を摘出するといった失言をして炎上した事は一定程度有名であることからすると、本件記事2は原告を指していると容易に理解可能である。
 次に、本件記事2は、原告がYouTubeライブ配信で、日本刀を振り回して特定の女性を威嚇したと述べ、さらにそれは「脅迫罪」や「銃剣法」(銃刀法の意味と思われる)に害とするとまで指摘するものであり、あたかも原告が特定人を脅迫したと理解させる投稿である。
 また、本件記事2は、前段落の意味合いにおいて、原告が特定の女性を脅迫したか否かは証拠等をもってその存否が確定できる他人に関する事項であるから事実の摘示に該当する。
 そして、本件記事2は、原告が特定の女性に対して、日本刀を用いて脅迫という犯罪行為あるいはそれに類する凶暴な言動をする人物であるとの印象をもたらし、原告の社会的評価を低下させる。
   なお、上記のとおり、本件記事2は真実ではなく、違法性が阻却されることはない。
 (3) 本件記事2により原告が被った損害
    被告藤岡の不法行為により、原告の名誉権が侵害させられたが、本件記事2は原告があたかも特定の女性に対して、日本刀を用いて脅迫という犯罪行為あるいはそれに類する凶暴な言動をしたと理解させるものであり、また、相当強い社会的影響力や拡散力を有する被告藤岡により、国政政党の党首という立場の原告の信用が失墜させられた程度は著しく、これにより被った精神的苦痛を慰藉するには金60万円を下回らない。

3 弁護士費用相当損害金
  原告は被告らに対し、本訴を提起するために弁護士に依頼することとなり、弁護士費用相当損害金についても一定範囲で相当因果関係の範囲内と認められるべきである。
したがって、上記慰謝料の1割に当たる金20万円について、損害が認められるべきである。
すなわち、原告から被告飯山及び被告ワックに対しては金30万円並びに被告藤岡に対して金6万円が、被告らの各不法行為と相当因果関係のある損害として認められるべきである。

4 遅延損害金
 本家記事1に関する損害賠償請求権は、本件書籍が出版された令和7年5月25日に、本家記事2に関する損害賠償請求権は、遅くとも今日現在の令和7年6月3日よりそれぞれ遅滞に陥っている。

第3 謝罪広告
  上記のとおり、本件記事1による原告の社会的評価の低下は著しく、また、被告飯山及び被告ワックの社会的影響力が非常に大きいこと、他方、出版済みの本件著作を回収することは著しく困難であるも、被告飯山は本件Xアカウントを、及び被告ワックは本件ホームぺージをそれぞれ運営しており、それぞれの媒体を用いれば比較的簡易かつ廉価で原告の名誉を回復させる措置を取ることが可能であること等からすると、原告の名誉を回復させるために民法723条に基づき被告飯山と被告ワックによる上記媒体を用いた謝罪広告の掲載を認めることが必要かつ相当である。
従って、原告は、本判決の確定した日から30日以内に、被告飯山に対し、被告飯山が運営する別紙1記載のXアカウント上に、及び被告ワックに対し、被告ワックが運営する同第2記載のホームぺージに、それぞれ同第3記載の謝罪広告の1月間掲載を求める。

第4 結語
 よって、原告は、被告飯山及び被告ワックに対し、連帯して、共同不法行為に基づく損害賠償請求権として、3,300,000円及びこれに対する本件書籍が出版された令和7年5月25日から支払い済みまで、民事法定利率年3分の割合による金員の支払いを、被告藤岡に対し、金66万円及びこれに対する令和7年6月3日から支払い済みまで、民事法定利率年3分の割合による金員の支払いを、並びに、民法723条に基づき、本判決の確定した日から30日以内に、被告飯山に対し、被告飯山が運営する別紙1記載のXアカウント上に、及び被告ワックに対し、被告ワックが運営する同第2記載のホームぺージに、それぞれ同第3記載の謝罪広告の1月間掲載それぞれを求める。
      以 上

【書庫】日本保守党が裁判提起した裁判の訴状 2025年9月更新