
神奈川県弁護士会綱紀委員会は2024年(綱)第82号 懲戒請求事件 綱紀委員会が杉山程彦弁護士を「懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする。」と議決しました。
この後、懲戒委員会に審査が付され、「戒告・業務停止・退会命令・除名処分・懲戒しない」の中から処分が決まります。早くて来年3月末あたりだと思います。杉山弁護士は過去4回の処分がありますので厳しい処分も予想されます。
懲戒請求者 札幌市中央区南1条西9-5-1 札幌19Lビル6階
猪野 亨
対象弁護士
神奈川県横須賀市若松町3 4 山田ビル
プレミア法律事務所
杉山 程彦 (登録番号37300)
対象弁護士につき、懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする。
第1 事案の概要
理由
対象弁護士は、匿名Aが懲戒請求者の配偶者宛に送った手紙を、 匿名 Aから入手し、匿名Aの同意のもと、SNS上に、 手紙の一部をマスキングした状態で投稿したところ、懲戒請求者が、懲戒請求者の配偶者の国籍、民族など個人の属性 に関する情報を開示されたとして、懲戒を求めるものである。
第2懲戒請求事由の要旨
対象弁護士は、令和7年2月4日午後0時29分、 匿名Aが懲戒請求者の配偶者宛に送った手紙を、 一部マスキングした状態で、SNS上に添付する方法で投稿した。
同手紙は一部マスキングがされているとはいえ、「貴方は■の方と推察しま す。」、「■では、 離婚後も共同親権で、子どもが双方の親と連絡を取り合い、 交流を持つのが普通と聞いています。 」、 「一度、■人の立場から、考えてみて いただけますでしょうか。 」 と、懲戒請求者の配偶者の国籍、 民族など個人の属性に関する情報が一見して明らかなものになっている。
手紙に書かれた懲戒請求者の配偶者の国籍、民族に関わる属性に関することがわかる情報を開示する対象弁護士の投稿は弁護士として品位を欠くものである。
第3 対象弁護士の弁明の要旨
対象弁護士が、匿名Aが懲戒請求者の配偶者宛に送った手紙を、一部マスキン グした状態で、SNS上に添付の方法で投稿したことは認める。
対象弁護士は、匿名Aから送られてきた手紙を投稿したものであり、これを公表することが公益になると考えて投稿した。 そして、懲戒請求者のプライバシー侵害については、そもそも懲戒請求者と配偶者は別人格である。
また、配偶者のプライバシー侵害については、手紙から明らかになるのは外国人ということに留まり、 国籍も名前も明らかになっていないこと、 また、そもそも懲戒請求者の配偶者は大学教員であり公人に準ずる立場であることからも、問題がない。
さらに、インターネットで検索をすれば、 懲戒請求者の配偶者であることはおおよそ推測できるため、 公開の個人情報を出したにすぎず、 プライバシー侵害はしていない。
対象弁護士が、手紙を公表した趣旨は、共同親権賛成派である匿名Aの手紙は 「共同親権国出身の配偶者は、共同親権に反対している懲戒請求者の言動をどう思うか」を問うもので、懲戒請求者を脅迫する内容ではなかったことを証明するためであり、懲戒請求者の配偶者が外国人であることはこの手紙の趣旨からし て必然である。
よって、 対象弁護士の投稿は、 合法な言論の範囲内であり、なんら懲戒事由にはあたらない。
第4証拠
1 懲戒請求者
甲第1号証の1 甲第1号証の2 甲第2号証 甲第3号証の1 懲戒請求者宅に送られてきた手紙
上記手紙の封筒 甲第3号証の2 甲第3号証の3 甲第3号証の4
懲戒請求者が令和7年1月27日にした投稿
対象弁護士が令和7年1月30日にした「らんの元妻」から 始まる投稿
対象弁護士が令和7年1月30日にした「匿名でも」から始まる投稿
対象弁護士が令和7年1月30日にした 「はっ?」から始まる投稿
対象弁護士が和7年1月30日にした 「匿名の被告訴人」から始まる投稿
甲第3号証の5 甲第3号証の6 甲第4号証
対象弁護士が令和7年1月31日にした投稿
対象弁護士が令和7年2月1日にした投稿
対象弁護士が令和7年2月4日にした投稿
2 対象弁護士(乙第7号証以降は当委員会による付番)
匿名Aから対象弁護士宛の手紙 乙第2号証
懲戒請求者の配偶者のインターネット情報
乙第3号証 乙第4号証 乙第5号証 乙第6号証
懲戒請求者の配偶者の大学に関するインターネット情報 懲戒請求者の配偶者の研究内容に関するインターネット情報 懲戒請求者のSNS上の投稿 乙第7号証 乙第8号証 事務所報
検証 反省文
3 当委員会
対象弁護士の審尋 (2025年7月22日)
第5 当委員会の認定した事実及び判断
1 当委員会の認定した事実
(1) 懲戒請求者は、令和7年1月27日、SNS上に、「日弁連で業務妨害を取り上げているが、 私も去年9月、自宅、 しかも妻宛に離婚後の共同親権を主張する者から匿名 (偽名、住所なし) で住所も名前も調べて送りつけてきた 、このような脅迫行為を行えることにも恐ろしいものを感じるポストに群がってくる人たちも同様であるが」と投稿し、 住所と名前の一部をマスキングした封筒の表面の画像を添付した。
(2) また、懲戒請求者は、同年1月30日、 SNS上に、「このポストに脅迫なら警察に行けばいいという離婚後の共同親権の界隈の人たちが言うが、 DV= 暴力限定と同じくらい発想がずれている。
脅迫文言があれば脅迫罪になるが、匿名だけでは犯罪にならない しかし、された側は恐怖心を持つ あの界隈の人たちが暴力を伴わないDVは虚偽DVと言っているのと同じ」と投稿した。
この投稿に対して、対象弁護士は、同日、SNS上に、「猪野弁護士は、封筒を見せるだけで脅迫の内容を明らかにしません。 その上で、同情を強要しています。 やってることが卑劣です。」、「匿名でも、脅迫罪や業務妨害罪、 成立するやろ」、 「こっちは真実業務妨害なら許せんから刑事告訴勧めたのに、なんでもかんでも因縁つけたいんだなあ。」と投稿した。
(3) 懲戒請求者は、同年1月31日、SNS上に、「脅迫文言は入っていないと、言っただけで、 虚偽だ、 被害者ぶってと難癖つけるポスト 匿名でわざわざ調べて妻宛に送りつけてくること自体が一家への脅し当然に家族も気味悪がっ ている送り付けられた側がどう感じるかもわからない離婚後の共同親権の界隈」と投稿した。
これに対して、対象弁護士は、SNS上に、 「中身、内容も明らかにしない。 警察に届け出もしない。 それで、敵対している相手に、『俺様が怖い思いをしたことを認めろ。 できないのはお前がDVだからだ」 と言わんばかりに脅迫し てくるのはなあ。 イノッチ、 怖いです。 あっ、怖いと思えばDVですよね。 イノッチDV、 コワイコワイ」と投稿した。
(4) 懲戒請求者は、 同年2月1日、SNS上に「匿名なのに何で離婚後の共同親権の界隈の者からとわかるんだというポストも散見されるが、匿名と内容は 別の話この程度もわからないのか」と投稿した。
これに対して、対象弁護士は、SNS上に、 「少なくとも、 共同親権賛成の人が送ったと分かる程度の説明はしようよ。 弁護士なんだから。」 と投稿した。
(5) そして、 対象弁護士は、 同年2月4日午後0時29分、 SNS上に、 「匿名の人から郵便が届きました。 公開してもよいということなので公開します。」 と投稿し、以下の内容の、懲戒請求者の妻宛の手紙を添付した。
「『猪野■様/ ■様』
拝 啓
突然のご連絡につき失礼します。 私は、■と申します。
貴方は、札幌の猪野亨弁護士のご婦人かと推測します。それならば、是非以下読んで頂きたいと思います。 日本では、 2024年5月民法改正が可決され、共同親権が導入可能となりました。 これは、両親が離婚しても、親子の断絶を防ぐという趣旨です。
しかしながら、猪野弁護士は、 親子の断絶を促すようなSNSの投稿を繰り返しています。 (2枚目以降をご参照ください)。 お名前からするに、 貴方は ■の方と推察します。■では、離婚後も共同親権で、子どもが双方の親と連絡 を取り合い、交流を持つのが普通と聞いています。
その点、日本は、過度に家庭内暴力を強調し、片親との断絶を促すことを弁護士が行っており、猪野弁護士もそのような弁護士です。 一度、■人の立場から、 考えてみていただけますでしょうか。
私の■の連絡先は、■です。
2024年9月 敬 具
2 当委員会の判断
(1) 対象弁護士の投稿は、確かに、懲戒請求者の配偶者の国籍や氏名は明らかにしていない。しかし、懲戒請求者の配偶者が、共同親権を認める国の出身の外国人であることは明らかとなっており、懲戒請求者の配偶者の国籍、民族に関わる属性に関する情報が記載されているといえる。
そして、懲戒請求者は、SNS上において、手紙の内容は伏せ、封筒についても住所や名前の部分はマスキングをして公開したのであり、 また、対象弁護士から手紙の内容を公開するよう求められても、それに応じていなかったことからすると、対象弁護士による手紙の内容の投稿によって、懲戒請求者の意に反して懲戒請求者の配偶者の国籍、民族に関わる属性に関する情報が公開されたものと認められる。
(2) この点、 対象弁護士は、懲戒請求者と配偶者は別人格であるため、懲戒請求者のプライバシーの侵害にはあたらないというが、配偶者が共同親権を認める国の出身の外国人であるという情報は懲戒請求者の私生活上の情報にあたり、懲戒請求者のプライバシー情報となりうる。
また、対象弁護士は、懲戒請求者の配偶者は大学教員であり公人に準ずる立場にあるというが、仮に公人に準ずる立場であったとしても、本件投稿は、配偶者の出身国に関するものであり、配偶者の職業上の行為が問題とされているものではないことから、公人に準ずる立場であることは、懲戒請求者の意に反して、配偶者の国籍、民族に関わる属性に関する情報を公開されることを許容しなければならない理由とはならない。
そして、対象弁護士は、懲戒請求者の配偶者はインターネットで検索すればおおよそ推測できるというが、 検索をしても、懲戒請求者の情報からのみでは、配偶者の情報まではたどり着かないのであり、公開された個人情報とまでは認められない。
また、対象弁護士は、懲戒請求者が投稿した封筒の表面のマスキング部分は、特定のソフトを使えば外すことができるため、懲戒請求者自らが公開した情報であると弁明するが、懲戒請求者はソフトでマスキングが外せることを想定せず、マスキングのうえ投稿したのであるから、懲戒請求者自らが公開した情報と解することはできない。
(3) 次に、対象弁護士は、手紙を投稿した目的について、匿名Aの手紙は「共同親権国出身の配偶者は、共同親権に反対している懲戒請求者の言動をどう思うか」を問うもので、懲戒請求者を脅迫する内容ではなかったことを証明するためであり、懲戒請求者の配偶者が外国人であることは、この手紙の趣旨からして必然であると弁明する。
しかし、そもそも、懲戒請求者は、自宅に、妻宛に、匿名で、住所も名前も調べて手紙を送ってきた行為自体が恐怖心を感じる脅迫行為と投稿しており、 脅迫文言の有無を問題としているものではないことは明らかであり、対象弁護士が、懲戒請求者の意に反してあえて手紙の内容を投稿する必要性はなかったといえる。
また、対象弁護士は、手紙を公表することが公益になると弁明するが、共同親権賛成派の匿名Aの手紙の内容が、 懲戒請求者を脅迫する内容でなかったことを証明することが公益に資するとは認められない。
その他、 対象弁護士が、懲戒請求者の意に反してまで、懲戒請求者の配偶者の国籍、民族に関わる属性に関する情報を含む手紙を投稿する正当な理由を認めることもできない。
(4) 以上から、 対象弁護士は反省文により謝罪をしているが、懲戒請求者から問題を指摘された後も約5か月間、投稿した手紙を削除しなかった事情も考慮すると、対象弁護士が、懲戒請求者の意に反して、懲戒請求者の配偶者の国籍、 民族に関わる属性に関する情報を含む手紙を投稿した行為は、弁護士法第56条第1項に定める品位を失うべき非行にあたると認められる。
よって、 主文のとおり議決する。
2025年9月3日 神奈川県弁護士会綱紀委員会第一部会 部会長 記載省略
これは議決書の抄本である
2025年10月3日
神奈川県弁護士会 会長 畑中 隆爾
