弁護士自治を考える会
大阪弁護士会がなした懲戒の処分について同会から以下のとおり通知を受けたので懲戒処分の公告公表に関する規定第3条第1号の規定により公告する
1 処分を受けた弁護士氏名 中 村 和 洋 登録番号 35126
事務所 大阪市北区西天満1-7 弁護士法人中村和洋法律事務所
2 処分の内容 戒 告
3 処分の理由の要旨
被懲戒者は2014年9月4日に行われた、平等な議決権を有する医療法人Aの臨時社員総会にA法人の代理人として出席し、上記社員総会が適法に運営されるよう議長Bをして指導し助言する義務があったところ、上記社員総会において内容の矛盾する2通の委任状の有効性についての確認や検討を行うように指示すべきであったにもかかわらず、過失によりこれを怠った。その結果、上記社員総会における決議は不存在であることが判決によって確認され、これが確定した。
被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規定第5条に違反し弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4処分が効力を生じた年月日 2017年8月1日2017月11月1日 日本弁護士連合会
大阪弁護士会が2017年8月1日に告知した同会所属弁護士中村和洋会員(登録番号35126)に対する懲戒処分(戒告)について同人から行政不服審査法の規程による審査請求があり本会は2018年11月13日弁護士法第59条の規程により、懲戒委員会の議決に基づいて、以下のとおり裁決したので懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第3号の規程により公告する。
記
1 採決の内容
(1)審査請求人に対する懲戒処分(戒告)を取り消す。
(2)審査請求人を懲戒しない。
2処分取消の理由
(1)審査請求人は、アドバイザーとして出席した医療法人社団Aの臨時社員総会(以下「本件社員総会」という)において理事長であるBが社員である母Cからの委任状を得ていることを前提に議事を始めたところBの妻である懲戒請求者が懲戒請求者を受任者とするCからの新たな委任状を得ているとして、その委任状を提出したにもかかわらず、審査請求人はBをして委任状の内容を確認させないまま議事を進行させた。この点につき懲戒請求者は審査請求人をBの違法な議事進行を助長したものであり、またA社団とBという利益相反する双方の代理人として活動したものであると、懲戒請求した。
(2)これにつき、大阪弁護士会は(以下「原弁護士会」という)は利益相反の点については双方の同意があることから弁護士職務基本規程(以下「基本規程」という)第28条第3号の違反には該当しないとしたが、違法な議事進行の助長という点については審査請求人がA社団の代理人として本件社員総会に出席する以上は議事進行が適正に運用されるよう、議長を指導、助言する義務があるとした上で、本件社員総会において、懲戒請求者から提出されたCの委任状につき、その有効性について確認、検討するようにBに助言、指導することを怠り、結果としてA社団の本件社員総会の決議不存在という重大な結果を招来した行為は、基本規程第5条に定める誠実かつ公正に職務を行うべき義務に違反したものであるとして審査請求人を戒告の処分に付した。
(3)なお本件社員総会については、懲戒請求者からB及び審査請求人を被告として違法な決議を行ったことによる損害賠償請求の訴訟が提起され第1審裁判所は懲戒請求者の請求を一部容認する旨の判決を言い渡した。しかし控訴審はBによる議事運営に違法な点がなく審査請求人の対応にも違法な点がなく、審査請求人の対応にも違法な点が認められないとして原判決を破棄して懲戒請求者の請求を棄却する旨の判決(以下「高裁判決」という)を言渡しこの控訴審判決はその後確定している。
(4)以上の経過及び審査請求人から新たに提出された証拠も含め審査した結果以下のとおり判断する。
①まず、本件社員総会の決議については原弁護士会が指摘するとおり、後日裁判で社員総会の決議不存在が確認されているが、これは高齢のCの心身の負担に配慮し、証人として法廷に立たせるのは避けたいとのBの意向により被告側が本件社員総会決議の不存在又は無効を認める陳述をしたことによるのであって懲戒請求者が提出したCの委任状の真否について審理し本件社員総会決議に瑕疵があったのかどうか判断されたわけではない。
②原弁護士会は本件社員総会の議事運営として懲戒請求者の提出した委任状の有効性や内容の確認をしなかったことが重大な手続的瑕疵に当たると判断したが高裁判決にあるとおり、議長であったBは自らが取得した委任状がCの真意に基づく有効な委任状であると判断し、懲戒請求者が持参した委任状を有効な委任状として取り扱わず、これを前提とする懲戒請求者の言動が議事進行を妨害するものとしてその発言や質問を取り上げなったものである。
そして、Bがこのように判断した背景にはBが頻繁にCと面談して懲戒請求者との離婚やA社団の売却計画について相談しており、本件社員総会に先立ち2度にわたってCと面会して本件社員総会のわすか10日余り前には自らCから委任状を取得したという事情が認められる、これに対し懲戒請求者はCとは10年近くもの長期にわたり没交渉の状態になっており、Cは懲戒請求者との養親子関係を解消する意向を明確に示し審査請求人に復縁の手続を委任していた事実も認められる。そのためBとしては本件社員総会までのわずかな期間中にCが自分に何ら相談することなく突然に翻意したり、Cが懲戒請求者に対し相矛盾するような委任状を作成するはずがないと考え、懲戒請求者が持参した委任状がCの真意に基づかないものであると判断し、その発言や質問に応答しなかったものであって、このような議事運営に重大な手続的瑕疵があったとは認められない。
③また原弁護士会は本件社員総会の議事運営に重大な瑕疵があったことを前提として、そのような結果をもたらしたことにつき、本件社員総会に立ち会った審査請求人が議長に対して委任状の有効性について確認、検討を行うよう指示すべき義務を怠ったものであるとしたが、上記②及び高裁判決にあるとおり、懲戒請求者の持参した委任状を取り上げなかった議長の議事運営に違法性は認められないから審査請求人において議長であるBの議事運営に関し助言や指導しなければならないような状況にはなかったというべきである。
④さらに原弁護士会は審査請求人が本件社員総会の台本を作成し台本に基づく議事進行、会場の設定について相当踏み込んだ助言をしていることから、A社団から本件社員総会当日の議事進行についての助言、指導も依頼されているとしたが、高裁判決にあるとおり、審査請求人が依頼により受任した本件社員総会当日の事務の内容は顧問税理士とともに本件社員総会に立会い懲戒請求者側による議事妨害があればこれを制止することであり、懲戒請求者を刺激しないため部外者である審査請求人が本件社員総会の議事運営には口を差し挟まないことが確認されていたものと認められ、このような点からも本件社員総会の審査請求人の対応には基本規程第5条の義務違反を認めることができない。⑤以上のとおり本件社員総会における議長の議事運営には重大な手続的瑕疵があったとは認められず、審査請求人の対応にも問題があったとは認められない。
(5)よって、審査請求人を戒告処分とした原弁護士会の処分を取り消して審査請求人を懲戒しないこととする。
3 処分が効力を生じた年月日 2018年11月16日 2019年1月1日 日本弁護士連合会