離婚後共同親権制度について慎重な議論を

愛知支部  岡 村 晴 美

現在、日本は、離婚の際に父母の一方を親権者と定める、単独親権制度をとっている。これに対して、離婚した父母の双方が親権者となる離婚後共同親権への法改正を求める声がある。しかし、離婚後共同親権が導入されるようなことがあれば、その枠組みを利用して、DVや虐待の加害者が、元配偶者や子どもへの支配を継続し、深刻な事態を引き起こすことが推察される。DVや虐待の被害者にとっては脅威である。
 離婚後共同親権をめぐっては、推進派議員である嘉田由紀子参議院議員が、今年4月21日に行われた親権に関するオンライン集会で、DV保護施設の所在地に言及するという不祥事が起こっている。嘉田議員が参議院法務委員会の質疑でも引用する『実子誘拐ビジネスの闇』という本の目次には、「世にもおそろしい実子誘拐の真実」「ハーグ条約を“殺した” 人権派弁護士」「家族を壊す日弁連という危険分子」「DVシェルターという名の拉致監禁施設」「“敵”がたくらむ全体主義社会」等という扇情的な言葉が並び、いわゆる人権派弁護士に対する攻撃的な内容を含んでいる。何故、唐突に人権派弁護士が登場するのかといえば、「どうして原因もないのに女性が子どもを連れて家を出るのか」という問いに対する答えとして、「人権派弁護士による洗脳」と説明する必要があるからである。曖昧な幕引きとなったが、DV被害に対し、「軽視」ないし「敵視」をしてきたことからすれば、起こるべくして起こった不祥事である。
 DV事件を被害者側で受けていると、これでもかというほどの業務妨害に遭う。それはもう宿命のようなもので、勲章だと思って耐えてきた。しかし、離婚後共同親権という「正義」のもとで、それは確実に暴走している。「連れ去り」「実子誘拐」という過激な言葉で、子連れ別居の厳罰化を求め、代理人弁護士に対して誘拐罪の教唆犯として刑事告訴する。「連れ去り弁護士」「拉致弁護士」などとSNS上で実名を挙げて攻撃する。民事裁判、弁護士会への懲戒請求を繰り返す。駅前、家庭裁判所前、弁護士会館前にとどまらず、法律事務所前で、「離婚弁護士―!汚い金をもうけて飯はうまいんか。出てこんかい。」などという攻撃的な言葉による街頭宣伝。離婚後共同親権を求める人たちの行動は過激さを増している。
 「共同親権」と聞くと、協力し合う関係のように思われがちだが、「共同でないと親権を行使できない」ということを意味している。転居や進路、歯列矯正などの決定を、離婚後も話し合って決めることが要請され、話し合いで決まらなければ、裁判所で決めることになる。「共同」のためには、「友好的」であることが求められ、DVや虐待の主張をして、その立証に失敗すれば、「非友好的」とみなされて加害者に親権が認められてしまう。その弊害の大きさから、欧米では「共同親権」制度の見直しがすすんでいる。
 離婚後の子の監護に関する事項について、民法766条1項は、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定めている。離婚後においても、良好な関係にある夫婦が、子どもを共同で監護することは現行法で認められており、家庭裁判所の実務上、面会交流は、禁止制限事由がない限り広く認められる運用がなされている。子どもの最善の利益にかなうのであれば、どんな共同監護も、どんな共同養育も可能であるというのが日本の制度であって、欧米と比較して制限的ではない。
 基本に立ち返るが、DVの本質は「支配」であり、「暴力」は手段である。そして、手段としてふるわれる「暴力」は身体的なものに限られない。精神的暴力、性的暴力、経済的暴力を受けることによるみじめな気持ちは、日々蓄積することで確実に心を壊す。DVをみて育った子どもの脳に有害な影響を生じることが、科学的に明らかとなっており、面前DVは、子どもに対する虐待である。「子どものために離婚しない」という時代ではなく、子どもがいるからこそ、その連鎖を断ち切らねばならない。DVについての正しい認識が広まってきたことは女性に自立を促すようになった。しかし、女性が新たに自立を果たすために、「家」から逃げることは勇気がいる。離婚後単独親権制度は、家父長制からの離脱を後押しする機能をになってきた。離婚後共同親権に反対・慎重な立場での発言は、執拗な嫌がらせを招くことが予想され、当事者が訴えることは非常に困難である。しかし、だからこそ、DVから逃げることを萎縮させる制度の導入の危険性を訴えたい。そして、このような告発は、弁護士にとっても勇気がいるものであることを付言する。

岡村晴美 34964 愛知県 弁護士法人南部法律事務所平針事務所 別名 弁護士小魚さかなこ

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