法務省民事局長答弁より改正のポイント

酒井将/ベリーベスト法律事務所代表  @sakaisusumu_vb

事務所で共同親権の改正民法に関する勉強会をした。以下、衆議院法務委員会での法務省民事局長答弁より改正のポイントを抜粋。

1. 本改正案では、子に関する権利の行使に関して、父母が互いに人格を尊重し、協力しなければならないとしており、父母の一方が何ら理由なく他方に無断でこの居所を変更する行為は、個別の事情によっては、この規定の趣旨に反すると評価される。

2. 本改正案では、親権の有無や婚姻関係の有無に関わらず、父母は子の人格を尊重してその子を養育しなければならない事、父母は、子の利益のため互いに人格を尊重し協力しなければならない事を明確化する事としている。親子交流について取り決められたものの、父母の一方がこれを履行しない場合、個別具体的な事情によって は、父母相互の人格尊重義務や、協力義務に違反すると評価される場合がある。そして、父母の一方が、父母相互の人格尊重義務や協力義務等に違反した場合、親権者の指定変更の審判や、親権喪失・親権停止の審判等においてその違反の内容が考慮される可能性がある。

3. 本改正案では、父母相互の人格尊重義務や協力義務の規定を新設しており、この義務を遵守してきたかも、親権者変更における考慮要素のひとつであると考えられる。その上で、父母の一方の言動が、父母相互の人格尊重義務や協力に違反したものと、評価されるか、という事については、個別の事案において、そのような言動をした理由や、背景事情等の様々な事情を踏まえた上で、判断される事項である。

4. 無断で子どもを転居させ、特段の理由なく別居して、別居親と一切交流させないというような場合は、個別の事情にもよるものの、これにより心身に有害な影響を及ぼした、と認められる場合には、DV (特段の理由なく、子どもを連れ去って、相手方に会わせないという事は、引き離された側に対する、「精神的なDV」に該当する)に該当する可能性もあり得る、と考えられる。

5. 虐待やDV被害を受ける「おそれ」の有無や、父母が共同して親権を行う事が困難であると認められるかどうかは、裁判所に於いて、個別の事案ごとにそれを基礎づける方向の事実と、それを否定する方向の事実が総合的に考慮されて判断されるものであり、当事者が、虐待やDVの存在を主張している事のみによって、直ちに認められるものではない。

6. どのような場合に父母双方を親権者とするかについては、本改正案では、離婚後の親権者の定めについて、父母の協議が整わない時は、裁判所が、子の利益の観点から親権者を父母双方とするか、一方のみとするかを判断する事としている。その際、議論の過程では、裁判所が、父母双方を親権者と定める 要件に関し、その旨の父母の合意がある場合に限定すべきとの意見もあった。しかし、父母の協議が整わない理由には、様々なものが考えられる。従って、合意がない事のみを以て、直ちに、父母双方を親権者とする事を一律に許さないのは、返って、子の利益に反する結果となりかねない。そのため、本改正案では、裁判所は父母の協議が整わない理由等の事情を考慮して、父母が共同して親権を行う事が困難であるか、などの観点を含め、親子の関係、父母の関係、その他一切の事情を考慮して、実質的・総合的に判断すべき事としており、その事が全体として、子の利益の確保に資すると考えている。

7. 高葛藤である、或いは合意が整わない。それは大きなマイナス要素ではある。しかし、それでもって一律に単独親権とする、という結論に直結するのではなくて、その様々な理由が、そこにはあると思われるので、そういった理由に関わり、中に入り、また調停という形で、両親の考え方も改めるような促しが出来る。 そういった丁寧な努力をした上で、最終的に、総合的に判断をする。

8. 父母の一方が、特段の理由なく、親子交流に関する協議を拒んだり、親子交流について取り決められたものの、特段の理由なく、その履行を拒む場合、個別具体的な事情によっては、父母相互の人格尊重義務や、協力義務に違反すると評価される場合がある。

そして、父母の一方が父母相互の人格尊重義務や、協力義務等に違反した場合には、親権者の指定変更の審判や、子の居所の指定に関する親権行使者の指定の審判等に於いて、その違反の内容が考慮される可能性がある。その上で本改正案では、裁判所は、親権者の指定変更の申し立てや、親権行使者の指定の申立てに於いて、別居親からの申立てに理由があると判断する場合には、当事者・同居親に対して、他方の当事者・別居親に、子を引き渡す事を命ずる事も出来る事としている。

弁護士自治を考える会
民法は改正されたものの、全ての問題が解決されたわけではありません。
酒井将弁護士がまとめてくれました。次の改正に向けて当事者だけでなく丁寧な議論が必要だと思います。(下線は当会)
酒井将弁護士 登録番号29986 東京弁護士会 ベリーベスト法律事務所