法務大臣宛警告
2005年12月26日
埼玉県川口市に集住するトルコの少数民族クルド人をめぐり、法務省入国管理局(現・出入国在留管理庁)が20年前の平成16年、難民認定申請者の多いトルコ南部の複数の村を現地調査し「出稼ぎ」と断定する報告書をまとめていたことが24日わかった。
しかし日本弁護士連合会が「人権侵害」と問題視したことから、調査結果は表に出なくなった。これらの村などがある3県の出身者は現在も同国の難民申請者の8割を占めることも判明、報告書からは、クルド人の難民該当性について、すでに一定の結論が出ていたことがうかがわれる。 この文書は「トルコ出張調査報告書」。当時、クルド人らが難民認定を求めて各地で裁判を起こしており、同省が訴訟対応として16年6~7月、これらの村へ入管職員を派遣し、生活実態などを調査した。
報告書は「わが国で難民申請した者の出身地が特定の集落に集中している」「いずれも出稼ぎ村であることが判明。村民から日本語で『また日本で働きたい。どうすればよいか』と相談あり。出稼ぎにより、近隣に比べて高級な住宅に居住する者あり」などと記されていたという。
ところが報告書が訴訟資料として法廷へ提出されると、クルド人側の弁護団が問題視、入管側が難民申請者の氏名をトルコ当局へ伝え、現地の家族を訪問していたことなどを記者会見して非難した。当時のメディアも「法務省が不手際」「迫害の恐れ」などと批判的に報じたが、報告書の内容自体には触れなかった。 報告書は、氏名を伝えたのは申請者から提出された本国の「逮捕状」の真偽を確かめるためで、トルコ側から「氏名がなければ照会できない。欧州各国も同じ方法で事実確認を求めている」と指摘されたためとしているという。 当時、法務省は「新たな迫害がないよう配慮して調査した」と反論したが、弁護団側はクルド人らの人権侵害申立書を日弁連に提出。日弁連は翌17年、「難民申請者の情報を提供することは、新たな迫害を生む恐れがあり、重大な人権侵害だ」として当時の法相あてに「警告書」を出した。 この結果、法務省は報告書の調査内容について「封印」せざるを得なくなったという。
弁護団側は、入管の案内役に憲兵(現・治安警察)を同行させたことについても問題視したが、報告書には「村民と憲兵隊との友好関係を確認」「憲兵や警察は日本の難民申請者に無関心」などとも記されていたという。
これらの訴訟で原告となったクルド人らが難民と認められることはなかった。また、入管関係者によると、当時調査した村などがあるガジアンテプ、カフラマンマラシュ、アドゥヤマンの南部3県には、日本に在留するクルド人難民申請者の出身地の8割が集中しているという。
入管庁によると、トルコ国籍の難民申請者は16年からの20年間で延べ1万2287人にのぼるが、難民認定されたのは4人。また川口市によると、市内のトルコ国籍者は同期間で約200人から6倍の約1200人に増えた。難民認定申請中の仮放免者を含めると約2千人にのぼる。
以上 引用産経https://news.yahoo.co.jp/articles/2bd0651d782d505df7e7d497e30f8ad24c200df4
はすみとしこ先生が以前から主張されていた。「そうだ他人の金で難民しよう!」
法務大臣 杉浦正健殿
2005年(平成17年) 12月26日
日本弁護士連合会 会長梶谷 剛
当連合会は、日本に滞在し難民であるとして庇護を求めている申立人ら (トルコ 共和国国籍を有するクルド人) からの人権救済申立事件に関して、下記のとおり警告する。
記
第1 警告の趣旨
法務省職員らが、 トルコ共和国を訪問し、 申立人らの氏名・住所等個人を特 定する情報及び難民であると主張している事実 (個人特定情報等)を同国政府関係者に提供し、更に同国の警察 保安部隊関係者を同行して申立人らの同国 在住家族等から事情を聴取した行為は、 難民であるとして庇護を求めている者 (庇護希望者)らの個人特定情報等を国籍国政府関係者に提供されない権利 (秘密保持権)を侵害し、 庇護希望者及びその家族等の生命・身体等の安全・ 自由を侵害するおそれを生じさせる重大な人権侵害行為である。
よって、今後は庇護希望者の秘密保持権を侵害し、 庇護希望者及びその家族等の生命・身体等の安全自由を侵害するおそれを生じさせるような行為を繰 り返さないよう警告する。
また、あわせて上記侵害行為により生じる新たな迫害のおそれに関する状況を申立人らに正確に把握させるために、 申立人らに対して上記調査状況を説明 するとともに、 申立人らから上記調査により新たに迫害の危険が生じたことを理由として難民認定申請がなされた場合には、その難民認定申請にかかる処分及び在留資格付与の判断にあたり、 上記調査の影響を十分に検討してその者の 保護の必要性を判断すべきである。
第2 警告の理由
1認定した事実
(1) 申立人らの状況及び法務省職員らのトルコ共和国訪問
申立人らは、 日本に滞在するトルコ共和国国籍を有するクルド人 (中東の クルディスタンと呼ばれる地域に住む山岳民族) である。 申立人らは、19 96年(平成8年) 6月以降、法務省入国管理局に対して、 難民認定申請を行ったが、いずれも難民不認定処分を受けた。
申立人F を除く申立人らは、 難民不認定処分取消訴訟等行政訴訟を提訴し現在に至っている。 また、 申立人Fは、2003年(平成15年) 11月11日、 出入国管理及び難民認定 法違反容疑で起訴され、刑事裁判では同法70条の2第1項に基づき難民で あることを主張し刑の免除を求めていた。 しかし、2005年(平成17 年) 3月3日、有罪判決 (執行猶予)を受けた。
申立人らのうち一部の者は、上記行政訴訟又は刑事訴訟手続において、 難民である証拠として、 トルコ共和国政府が発行したとされる逮捕状と題する 書面等を提出している。
法務省入国管理局局付及び同局総務課難民認定室の職員(当時。以下「本法務省職員ら」という。)は、 2004年 (平成16年)6月末から7月上旬にかけて、 上記逮捕状と題する書類等の真偽を確認する等の目的でトルコ 共和国を訪問し現地調査を行った (以下「本調査」という。)。 その調査結果 は「トルコ出張調査報告書(地方視察編)」(以下「本報告書」という。)と 題する書面にまとめられ、書証として上記裁判に提出されている。本報告書には、 上記訴訟に証拠として提出されている逮捕状と題する書面等の真偽を確認することや申立人らの出身地域での生活実態を調査する目的であること が記載されている。
(2) 6月30日の現地調査
本法務省職員らは、同年6月30日、 トルコ共和国法務省国際法規・国際関係局局長に面会し、トルコ共和国からクルド人として迫害を受けており難民であると主張している者がいること、それらの者が難民不認定処分取消訴訟などでトルコ共和国政府が発行したとされる逮捕状と題する書面等を証拠として提出していることからその真偽を確認するなど調査の目的について説 明した。 そして、 1 申立人に対する管轄外決定書と題する書面、
2 同人に 対する不在逮捕令状と題する書面、 3 同Aに対する召喚状と題する書面、4 同Gに対する逮捕状と題する書面、 5 同Eに対する逮捕令状と題する書面を 呈示し真偽を確認した。 その際、申立人らの氏名を黒塗りせずに呈示した。 なお、その後上記各書面を同国政府関係諸機関に呈示する際にも黒塗りされていないものを呈示した。
(3)7月5日の現地調査
同年7月5日、 本法務省職員らは、G県の県庁で副知事と、県警察本部で副本部長とそれぞれ面談し、 トルコ共和国からクルド人として迫害を受けて おり難民であると主張している者がいることなどを含め調査の趣旨を説明し 協力を求めた。
続いて、 同県警察本部テロ対策課課長に対して、反政府組織とされるクル ディスタン労働者党を支援したとの理由で1998年に逮捕起訴された者のトルコ共和国で作成された供述調書に、申立人Cの氏名が載っていたので、 同供述調書を示し真偽を確認し、次いで、申立人Cの氏名が被疑者リストに 登載されているかどうかの確認を求めた。 同報告書には、同課長が上記供述 調書は本物であるものの、 被疑者リストには同申立人については登載されて いない旨述べたと書かれている(なお、申立人Cは、同人の戸籍謄本に「兵役忌避にて捜索中」と記載されていることから、 被疑者リストに登載されているはずであると主張し争っている)。
続いて、 本法務省職員らは、 申立人Fの氏名と生年月日を告げて被疑者リストに登載されているか確認を求めたところ、 同申立人が同リストに登載されていることが判明した。
続いて、 本法務省職員らは、 難民不認定処分取消訴訟等の原告らのトルコ 共和国での生活実態を調査するために、 S支署署長他数名のジャンダルマ (保安部隊)を同行して、 S郡T村C地区を視察した。
本法務省職員らは、 住民らに対して、自らの身分や調査目的を明らかにせずに調査を行った。 本 法務省職員らは、 申立人 I の家を確認し家と祖母と妻の写真等を撮影し、 近隣住民から事情を聴取したところ、 住民らから同申立人は 「茨城の刑務所に いる」 などの説明を受けた (「茨城の刑務所」 とは茨城県牛久の法務省入国管理局東日本入国管理センターを指している)。
その後、 同郡K村を訪ね、 申立人Dの妻の父 (申立人の義理の父)に会っ た。 同父の甥は10年前にジャンダルマ (保安部隊)に殺害された経験を 持っている。 本法務省職員に同行していたジャンダルマ (保安部隊)の同支署署長は、同父に対し、「この辺に日本に行っている家はあるか。」 「息子たちから仕送りはあるか。」 などの質問を行った。
(4) 7月6日の現地調査
同年7月6日、 本法務省職員らは、同日の調査に同行する予定である警察官らに、「日本で難民だと主張するクルド人がいるので、 調べに来た。 彼らは、 あなたたちに拷問を受けたと言っている。」 などと告げた。
続いて、 K県の警察本部副本部長及びテロ対策課課長と、同県裁判所検 察局で検事正と、同県庁で知事と面談し、 トルコ共和国からクルド人として 迫害を受けており難民であると主張している者らの出身地域の生活実態を調査するために訪問したことなど、 本調査の趣旨を説明して協力を求めた。続 いて、P署署長他数名のジャンダルマ (保安部隊)とともに、 P郡H村及びその周辺を視察した。
(5) 7月7日の現地調査
同年7月7日、 本法務省職員らは、 A県の県庁で知事及び副知事と面談し 調査協力を求めた後、 同県の裁判所検察局で検事正代行及び裁判長に面談した。 本法務省職員らは、申立人らがトルコ共和国からクルド人として迫害を 受けており難民であると主張していること、それらの者が難民不認定処分取 消訴訟などでトルコ共和国政府が発行したとされる逮捕状と題する書面等を証拠として提出していることからその真偽を確認するなど本調査の目的を告 げて、 申立人に対する管轄外決定書と題る書面 (上記1)、 同人に対す る不在逮捕令状と題する書面 (上記2)、 同Gに対する逮捕状と題する書面 (上記4)、 同Eに対する逮捕令状と題する書面 (上記5) を示し、真偽を確認した (いずれの書面もトルコ共和国で作成されたとされる書面である)。 それに対し、 同検事正代行らが、 1 2 5について偽物であると述べたこと、 4について、 G郡裁判所で確認するように述べたことが本報告書には書かれ ている。
続いて、 同県の警察本部で本部長らと、 同県G郡庁で知事代行と面談し調 査協力を依頼した後、 同県同郡裁判所検察局で検事と面談し、上記4の逮捕状と題する書面を示し真偽を確認した。 本報告書には、検事は判決番号を根 拠に偽物であると述べたと書かれている
(6)7月8日の現地調査
同年7月8日、 本法務省職員らは、 M県の県庁で知事に面談をし調査協力 を依頼した後、 同県裁判所検察局の検事正及び検事と面談し、トルコ共和国 からクルド人として迫害を受けており難民であると申立人らが主張している ことなどを告げたうえで、申立人Aに関する召喚状と題する書面(上記3) を示し真偽を確認した。 本報告書には、 検事正らは、 同書面に記載されている裁判所名や事件番号を根拠に偽物であると回答したと書かれている。
続いて、 本法務省職員らは、 同行している同県の警察官らに対して、 申立人A及び同Bの家の住所を伝え、 警察官らの先導で同申立人らの父親の家と思われる場所を訪ねたが、 同申立人らの父親と思われる者は不在であった。 そこで、 本法務省職員らは、 同申立人らの兄弟と称する2名に会い、事情を聴取しようとしたところ、 兄弟と称する者らは、 本法務省職員らのみを父親の家と思われる場所に招き入れ、 警察官のいないところで、 同申立人らが迫害を受けていること、 権利を求める闘いをするために日本へ行ったこと、 1 992年にアレヴィー派焼き討ち事件が起きたときに、 同申立人らは警察官 に5回~6回拘束されたこと、 警察から逃げるために日本に亡命したことな どを説明したと本報告書には書かれている。
(7) 現地調査の終了
本務省職員らの現地調査は、 7 月 8 日をもって終了し、 同職員らは帰国した。
2 申立人等の人権
(1) 秘密保持権一難民条約の趣旨
ア 1951年難民の地位に関する条約第1条A項及び1966年難民の地 位に関する議定書第1条2項 (以下 「難民条約」という。)は、 難民とは迫害からの保護を求めている者であると定めている。
難民を保護せず迫害のおそれのある領域へ追放することは、その者の生命・身体等の安全や自由を侵害することになる。 そのため、 難民条約は、人道的見地から、 締結国に対して、 迫害を受けるおそれのある領域へ難民を追放することを禁止る (ノン・ルフールマン原則)など、 各種の庇護 措置を施すことを定めている。 わが国も、難民条約を批准しているのであるから、同条約を遵守すべき責任を負っている (日本国憲法第98条2 項)。
このように、 難民条約が難民に対して各種の庇護措置を施すことを定め ている趣旨は、 人道的見地から難民の生命・身体等の安全や自由を守るた めである。
イ ところで、 難民であるとして庇護を求めている者(以下 「庇護希望者」という。)は、 滞在国の難民認定機関に対して、国籍や氏名などを明らかにしたうえで、 国籍国などから迫害を受けている事情等を説明し、 自己が難民であることを主張しなければならない。 これらの主張が国籍国に知られた場合には、国籍国により反政府的な言動と受け取られ、 難民認定を申請していることそれ自体を理由に、迫害を受ける可能性を新たに生じさせることになる(後発的難民)。
難民認定申請を行っていること自体が国籍国に知られることにより生じるこの新たな迫害の可能性は、 難民認定申請を行った時点で迫害の事実等が客観的に存在する場合であるか否かにかかわりなく、 全ての庇護希望者 さらにはその家族らに生じうるものである。
特に庇護希望者に迫害の事実等が客観的に存在する場合には、 迫害の危険性がさらに高まることになる。
ウ 従って、これら迫害の危険から庇護希望者及びその家族等の生命・身体等の安全 自由を守るためには、 難民条約の趣旨に照らして、庇護希望者の氏名・住所等個人を特定する情報及び庇護を求めている事実(以下「個 人特定情報等」という。)を国籍国政府関係者に提供されない権利(以下 「秘密保持権」という。)が保障されることが必要不可欠である。 それは また、秘密保持権が保障されなければ難民認定制度への信頼を失うことか ら、秘密保持権の保障は難民認定制度それ自体の存立を維持するためにも 必要不可欠である。
(2) 秘密保持権の保障ー自由権規約7条等
また、 世界人権宣言第5条、 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以 下 「自由権規約」という。) 第7条、 拷問及び他の残虐な、 非人道的な又は 品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約 (拷問等禁止条約) 前文などは、 何人も非人道的取扱いを受けない権利を有する旨定めている。
滞在国政府が、 庇護希望者の秘密保持権を侵害し新たな迫害の可能性を生 み出すことは、庇護希望者の生命・身体等の安全及び自由を危険に陥れる行為であり、 非人道的な取扱いといえる。 従って、 庇護希望者の秘密保持権は、 難民条約の趣旨のみならず、 自由権規約第7条等によっても保障されている。
(3)国連難民高等弁務官事務所の見解等
国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR)の研修マニュアルには、「秘密 性の遵守は申請者と面接者が信頼関係を築くためだけではなく、 申請者の保護と安全を確保するためにも不可欠である。 (略) 個別案件に関するいかなる情報も出身国に伝えてはならない。」 と記されている。 また、 難民の国際保護に関して、各国政府、非政府組織、 難民問題専門家及びUNHCRなどが協議をし作成された合意文書である 「庇護プロセス (公正で効率的な庇護 手続)」(グローバル・コンサルテーションズ [難民の国際保護に関する世界 協議〕 2001年5月31日) には、「庇護申請者に関するいかなる情報も 一切、出身国と共有されてはならない。」 と記されている。
その他、 別紙 (略) 記載のとおり、 個人特定情報等が国籍国に提供されるべきでないことは、 UNHCR、 欧州連合理事会及び日本政府いずれも明確に述べている。
(4) 司法との関係
庇護希望者の生命・身体等の安全自由及び個人特定情報等の秘密保持権 の保障は、 行政上の難民認定手続のみならず司法上の過程においても保障されなければならない。 秘密保持権が侵害されることによって生じる迫害の可 能性等は司法手続過程と行政手続過程とで差異はないからである。
この点、 UNHCR 駐日地域事務所が公表した 「庇護情報の秘密保持の原則に関する助言的意見」 (2005年[平成17年] 3月31日付) においても、庇護手続の 「手続上の公正性の要件」 として庇護情報の秘密保持の原 則があるとしたうえで、 「個別案件に対する最終的な決定が下されるまで、 庇護手続全体にわたって手続上の公正性の要件が適用される。 庇護国での制 度によっては、 難民の地位認定手続きの重要な一部分である行政・司法によ る再審査の手続きもこれに含まれる。 日本では、司法審査の段階で初めて、独立した異議の審査によって申請が検討される。 さらに、 裁判所での司法審査が公開のものであることは、秘密保持への権利の自動的な放棄には至らな い。」と述べられている。
(5) 小括
以上の理由により、 庇護希望者には、 行政及び司法のいずれの手続においても、その生命・身体等の安全 自由の確保などのために秘密保持権が認められる。
3 人権侵害性
(1)人権侵害
本件では、 本法務省職員らは、 警察官、 検察官を含むトルコ共和国政府関係者に対して、 申立人らの個人特定情報等を告知したうえで、申立人らが証拠として提出した逮捕状と題する書面等を示し真偽を確認するなどの調査を 行っている。 また、 同職員らは、 警察官や保安部隊関係者とともに申立人ら の居住していたとされる地域を訪問し、 近隣住民や申立人らの家族らから事 情聴取している。これらの行為は、申立人らの秘密保持権を侵害し、 申立人及びその家族等の生命・身体等の安全 自由を侵害するおそれのある重大な 人権侵害行為である。
(2) 法務省の本件現地調査を正当化する事由の不存在
ア 法務省の本件現地調査は、訴訟における証拠収集活動の一環として行われたものである。
しかし、 たとえ裁判の公正を確保することが重要であるとしても、 申立人らの生命・身体等の安全自由を危険にさらすことまで許されるわけで はない。 訴訟における証拠収集活動は、 たとえば、 申立人から証拠として 提出された逮捕状と題する書面等の真偽の確認を行う場合でも、 庇護希望 者の秘密保持権を侵害しない方法により行われなければならない。
イ また、申立人らは、自ら公開法廷で個人特定情報等を開示し、 あるいは、 証拠として氏名等が記載された逮捕状と題する書面等を提出している。
しかし、申立人らが訴訟を提起したのは、あくまでも難民不認定処分の取消を求めたものである。 公開法廷に個人特定情報等を開示し証拠を提出 したからといって、 国籍国への情報提供に同意したとか、 秘密保持権を放棄したと認めることはできないことはもとより、 国籍国政府関係者との関係で秘密性が失われるものではない。
ウ また、 本件は、 「行政機関における個人情報の取扱いを定めた行政機関 の保有する個人情報の保護に関する法律」 上の情報の第三者提供を求める 例外規定にも該当しない。
エ 以上から、 本調査を正当化する事由は存在しない。
4 結論
以上から、 本法務省職員らの本調査は、申立人らの秘密保持権を侵害し、 申立人及びその家族等の生命・身体等の安全自由を侵害するおそれを生じさせたものである。
従って、 法務大臣に対して、 法務省職員らに対する研修及び指導を徹底する など再発防止のために必要な措置をとることを含め、 警告の趣旨記載のとおり、 庇護希望者の秘密保持権を侵害し、 庇護希望者及びその家族らの生命・身体等の安全 自由を侵害するおそれを生じさせる行為を繰り返さないよう警告する。
また、申立人ら及び家族等に生じている可能性のある、 新たな迫害のおそれ に関して、 申立人本人及び家族等の新たな迫害のおそれに関する状況を正確に 把握させるために、 申立人に対して本調査状況を説明するとともに、 申立人ら から本調査により新たに迫害の危険が生じたことを理由として難民認定申請が なされた場合には、その難民認定申請にかかる処分及び在留資格付与の判断に あたり、 本調査の影響を十分に検討してその者の保護の必要性を判断すべきで ある。
以上