【棄却された懲戒の議決書】
離婚事件 面会交流調停等で同居親側代理人弁護士に申立てされた懲戒請求、懲戒請求者は別居親の母、孫に会いたい祖母の思いが伝わってきますが、大阪弁護士会はまったく取りあわず棄却
2025年(綱) 第5✖号
懲戒請求者 兵庫県在住 孫に会いたい祖母
対象会員 氏名 浦田 功 (登録番号24221) 浦田功法律事務所
主 文
対象会員につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
理 由
第1 前提となる事実
1 懲戒請求者の長男とその妻との間には、 神戸家庭裁判所〇〇支部に下記事件が 係属していた。
(1)婚姻費用分担申立事件 (申立人妻、 相手方 : 長男)
(2) 婚姻費用減額調停申立事件 (申立人: 長男、 相手方 : 妻)
(3)両名間の子の面会交流調停事件 (申立人: 長男、 相手方 : 妻 )
(4) 離婚調停申立事件 (申立人妻、 相手方 : 長男)
2 懲戒請求者と長男の妻の父親との間には、同支部に下記事件が係属していた。
(5)親族間調整調停申立事件 (申立人: 懲戒請求者、 相手方: 妻の父親)
3 対象会員は、上記各事件において、長男の妻及び妻の父親の代理人であった。
第2 懲戒を求める事由
1 対象会員は、 上記(3)事件で提出した主張書面 (甲1) において、不適切な記載をして裁判所に提出した。
不適切な記載の具体的な内容は下記である。
1 「本調停の実質的当事者は、申立人ではなく申立人の実母である申立外人である。」 (申立外人が懲戒請求者) と記載した。
これは、法的根拠を示さずに懲戒請求者を当事者と断定し、懲戒請求者の社会的評価を不当に低下させるものであり、 事実に反して不適切である。
2 「申立人と相手方の離婚問題について、 親が口出しをすること、そしてそれを調停にまで持ち込むというのは異常である。」 と記載した。
これは、裁判所が設けた制度の利用を不当に評価するものであり、 異常との 表現は、懲戒請求者の名誉を毀損するものである。
3 「申立外人は、 相手方を排除して未成年者を自ら育てることを望んでいる。」 と記載し、 その証拠として対象会員は画像 (甲2: 懲戒請求者とその長男との 間のスマートフォンでのSNSのやりとりを撮影したもの)を提出した。
この画像は、 対象会員の依頼者 (長男の妻)が無断で撮影したものであり、 懲戒請求者及び申立人 (長男) のプライバシーを侵害し、 名誉毀損に該当する。 対象会員は、その依頼者が違法に入手した画像で2年半以上も前の本調停とは 直接関連しない画像を裁判所に提出した。
4 懲戒請求者について、「本調停には、 毎回、事実上出廷している。」、「裁判所 の駐車場に車を停めていたが、最近は裁判所前の量販店に停車し、相手方代理 人が裁判所から出てくるのを見計らって裁判所に入っていく。」、 「調停の内容が気が気でないようである。」 と記載した。
これらは、あたかも懲戒請求者が不審な行動をしているかのように読者を誤導し、懲戒請求者の社会的評価を不当に低下させる不適切な印象操作を意図したものである。
(5) 「申立外人は、相手方代理人に対し、 間接交流のデータを直接送るよう要求したり、調停の内容に不満があると相手方代理人に直接その旨メールをしてく る。」 と記載した。
これは単なるデータ送信先の案内 (甲3) や間接交流のお礼メール(甲4) に過ぎず、懲戒請求者の行動をあたかも不適切であるかのように印象付ける意 図的な誤導である。
6 「相手方代理人は、申立人本人からこうした調停外での行動があることは承知もしているし経験もしているが、 母親が出てきた例は経験したことがない。 相手方代理人も多くの弁護士に確認したが、 同じ返事であった。」 と記載した。 これは、単なる主観的な感想にすぎず、 何らの客観的根拠を伴わない。 このような無意味な記述をあえて書面に盛り込み、あたかも懲戒請求者の行動に問題があるかのような印象を与える意図が見受けられる。
7 「申立外人の未成年者に対する異常な執着振り」、「申立人は、申立外人の指示通りにしか行動しない」、 「危険性のみが残る」 と記載した。
これらは、誹謗中傷、人格攻撃に該当し、名誉毀損である。
また、書面の冒頭では、懲戒請求者のことを「(実質的) 当事者である」とし、 最後には「当事者でない」と矛盾しており、論理的整合性を欠いている。
2 上記書面の記載は、懲戒請求者の名誉感情を著しく害し、 プライバシーを侵害 するとともに、社会的評価を不当に低下させる内容である。 また、弁護士として の教養を欠き、職務遂行能力ならびに研鑽義務に疑義を生じさせる内容であり、弁護士職務基本規程第1条及び弁護士法第56条第1項に違反し、品位を欠く非行に該当する。
対象会員は上記書面に加えて、その後も、「問題書面」(甲5)を提出した。 この書面の内容は、懲戒請求者の長男及び懲戒請求者を不当な攻撃対象とするものであり、弁護士法第1条に定める弁護士の使命を著しく損なうものである。 また、 弁護士全体の社会的信用等を毀損するものであり、 弁護士職務基本規程第5条、 第6条、第35条、 第36条及び弁護士法第56条に違反している。 特に看過できないのは、本件懲戒請求が綱紀委員会において受理・審査中であるにも関わら ず、同一案件においてさらに悪質かつエスカレートした非行を繰り返している点である。
第3 対象会員の弁明
1 懲戒を求める事由 1について
上記(5) 親族間調整調停申立事件の手書きの申立書の筆跡と、上記2婚姻費用減 額調停申立事件の手書きの申立書の筆跡が同じであったことなどから、 実質的当事者が懲戒請求者と判断した。
2 懲戒を求める事由2について
懲戒請求者の長男と対象会員の依頼者との間で各調停手続が進行しており、裁判所が設けた制度の利用を不当に評価するものとはいえない。
3 懲戒を求める事由 3について
裁判所から、懲戒請求者側による連れ去りの危険性についての主張立証の補充を求められたことを受けて、 依頼者の利益を擁護するために行ったものであり、正当な行為である。
4 懲戒を求める事由 4について
懲戒請求者が、調停には毎回事実上出廷していることや、裁判所前の量販店に停車していることなどは事実であり、このような主張は事実に基づく代理人弁護士としての正当な行為である。
5 懲戒を求める事由 5について
代理人弁護士としての正当な行為である。
6 懲戒を求める事由 6について
代理人弁護士としての正当な行為である。
7 懲戒を求める事由 7 について
代理人弁護士としての正当な行為である。
8 懲戒を求める事由2の「問題書面」 (甲5) の提出について
懲戒請求者の長男の主張書面5を受けての反論をしたものであり、代理人弁護
士としての正当な行為である。
第4 証拠 (省略)
第5 調査結果
1 調停の当事者の代理人になった弁護士は、 依頼者の法的権利・利益を擁護する ために主張・立証を行うことが求められており、 弁護士は依頼者の主張する事実 が明らかに虚偽であると認識しながらこれを主張したり、 調停と全く無関係な事 実や著しく相当性を欠く表現などの主張を行うことは許されないが、 それが相手方当事者の考える事実関係と異なっていたり、 相手方当事者の名誉感情を何らかの意味で毀損することが仮にあったとしても、それが依頼者の法的権利利益を擁護するための必要で相当な範囲の行為であると評価される場合には、その行為をもって懲戒事由に該当する、
とは認められない。 そこで、 上記判断枠組みに沿って、 以下、懲戒請求者の指摘する書面の内容等が懲戒事由に該当するか否かを判断する。
2 懲戒を求める事由 1について
上記 (5) 親族間調整調停申立事件 (申立人: 懲戒請求者) の手書きの申立書の筆 跡 (乙4の10枚目以下) と、 上記(2) 婚姻費用減額調停申立事件 (申立人 : 長男) の手書きの申立書 (11) の筆跡を比較すると、両者は一見して類似した筆跡であり、 対象会員がこれをもって同じ懲戒請求者の筆跡であると判断したことが 明白な間違いであるとはいえない。
また懲戒請求者の長男が当事者となった調停事件において懲戒請求者が多数回裁判所に来ていることや、懲戒請求者が申立人 となって上記(5) 親族間調整調停申立事件を申し立てていることなどの関連事実からすると、 対象会員が上記(3)両名間の子の面会交流調停事件において、 実質的当事者が懲戒請求者であると判断してそれを書面に記載したことをもって、 それが 懲戒事由に該当するとはいえない。
3 懲戒を求める事由2について
当該書面の記載は、 対象会員の依頼者の立場やその代理人である対象会員の立 場からすれば、同人らの考えを裁判所宛てに主張したものであり、これをもって 懲戒事由になるとはいえない。
4 懲戒を求める事由3について
甲2の画像は、懲戒請求者とその長男とのスマートフォンのSNSでのやりと りを写真にとったものである。
そのやりとりの中には、 「あんた、 男やったら、これから先、 長いのに俺の言うこと聞かへんかったら離婚するくらいの気でおらな時間の無駄やわ。
「子供は、あんたか引き取ればいいやん。」
「マミーが育てたるわ」
「〇〇ちゃんの環境より、よっぽどいい子に育つ自信あるわ。」
「裁判になっても勝つから。」
との記載があることが認められる。
この画像の証拠提出は、 対象会員において、 裁判所から懲戒請求者側による連れ去りの危険性についての主張立証の補充を求められたことを受けて、依頼者の利益を擁護するために行ったものであることからすれば、この証拠提出は、 対象会員の依頼者の法的権利・利益を擁護するための必要かつ相当な範囲の主張・立証であると考えられる。 懲戒請求者は、この画像は対象会員の依頼者が無断で撮影したものであると主張するところ、本件のごとき親族内において子の養育や面接交渉をめぐる深刻な争いがある事件において、 無断で撮影した画像であるから と言ってただちに証拠能力や証拠価値がないとはいえず、そのような争点に関連する証拠を依頼者から提供された場合に、 代理人弁護士がこれを調停という非公開の手続の中で裁判所に提出する行為が、 直ちに懲戒事由に該当するとはいえない。
5 懲戒を求める事由 4 について
懲戒請求者が、調停には毎回事実上出廷していることや、 裁判所前の量販店に停車していることなどが明白な虚偽主張であるとは認められないところ、 本件事案の争点との関係で、 対象会員の立場からこのような事実を書面に記載すること が、懲戒事由に該当するとはいえない。
6 懲戒を求める事由 5について
甲3や甲4は懲戒請求者から対象会員へのメールであるところ、これについての対象会員の立場からの認識に基づく説明の書面を提出したからと言って、 その提出を受けた裁判所が、 懲戒請求者が懸念するように懲戒請求者の行動があたか も不適切であると印象付けされるとまではいえない。 そして、このような書面の提出をもって、懲戒事由に該当するとはいえない。
7 懲戒を求める事由 6について
本件のような対象会員の立場からの主張が記載された書面を提出したからといって、その提出を受けた裁判所が、 懲戒請求者が懸念するように懲戒請求者の行動があたかも不適切であると印象付けされるとまではいえない。 そして、 このような書面の提出をもって、 懲戒事由に該当するとはいえない。
8 懲戒を求める事由 7について
上記7と同じ理由から、 本件のような対象会員の立場からの主張が記載された書面の提出をもって、 懲戒事由に該当するとはいえない。
9 懲戒を求める事由 2記載の甲5の書面の提出について
甲5の書面は、申立人である懲戒請求者の長男の主張書面に対して、 対象会員の立場から反論を行ったものであり、その内容は依頼者である妻の立場や考えに従って、従前からの主張を繰り返したものである。このような書面の提出をもって、懲戒事由に該当するとはいえない。
10 以上のとおり、 本懲戒を求める事由について、いずれも弁護士職務基本規程 第1条、第5条、 第6条、 第35条、 第36条に違反するとは認められず、懲戒 事由に該当するとはいえない。 よって、 対象会員には弁護士法第56条第1項に 定める品位を失うべき非行があったとは認められない。
よって、 主文のとおり議決する。
令和7年9月9日
大阪弁護士会綱紀委員会第2部会部会長 加藤清和