日弁連広報誌「自由と正義」2018年2月号に掲載された。「綱紀審査会の運用状況について」
綱紀審査会は所属弁護士会で処分しない、日弁連への異議申立も棄却され、最後に審査を求める「綱紀審査会」です。
2月号にはいくつかの「審査相当」事案が掲載されています。
その中のひとつに珍しい内容のものがありましたのでお知らせします。
対象弁護士の氏名、所属弁護士会は公表されていませんが中国地方の弁護士です。この後、所属弁護士会に戻され審議されます。
審査相当事案について(その3)
(1)事案の概要
対象弁護士が事務員として雇用していた綱紀審査申出人に対し、その業務遂行態度の問題点を十分に指摘して労働労力の向上を図ることもなく、解雇予告手当のほかには何らかの金銭的給付もしないまま解雇したことが、弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされた事例
(2)綱紀審査会の議決の理由の要旨
① 事実
対象弁護士は事務員として雇用していた綱紀審査申出人に対し、事務処理にミスが多いことを指摘して退職を勧奨し、自主退職をしないのであれば、解雇することを伝えたが綱紀審査申出人は、指摘された点を含めて今後はひとつひとつ丁寧にやり直して仕事を続けたい旨を述べて自主退職を拒んだ。
その後、対象弁護士は、綱紀審査会申出人に対し解雇予告手当として1か月分の給与に相当する金員を支払い、解雇したものとして処理する旨を通知した。
② 判 断
ア、 対象弁護士の行為は弁護士の職務としておこなわれたものでなく、雇用関係における使用者としての立場で行われたものであるが、そのことを理由に懲戒の事由を構成することを否定されるものではない。
イ、 そもそも、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とされる。
一般に労働者の能力不足を理由とする解雇を行うためには、当該労働者の能力が不足しているという範疇を超えて、その能力不足が解雇に相当するほど重大なものであり、かつ、能力不足を解消するための指導や改善のための十分な措置をとる必要があることが、多くの裁判例において指摘されている。
それゆえ、仮に、綱紀審査申出人の労働能力が法律事務所の事務員としての平均的な水準に達していなかったとしても、それだけで直ちに本件解雇が有効となるものではない。
ウ、本件では綱紀審査申出人に解雇に相当するほどの重大な能力不足があったと認めるに足りる証拠はなく、また対象弁護士が綱紀審査申出人に対して、その業務遂行態度の問題点を十分に指摘して改善を促していたと認めるに足りる証拠はない。
本件では綱紀審査申出人に対して、その業務遂行態度の問題点を十分に指摘した上で注意、指導等を行い、さらに研修や教育訓練を実施することによって、その労働能力の向上を図る余地があった。
本件解雇は、客観的な理由を欠いている上、社会通念上の相当性も欠いたものというほかなく、無効といわざるを得ない。
エ、裁判例に照らして綱紀審査申出人を解雇しうる余地がないにもかかわらず、対象弁護士が解雇予告手当のほかには何らの金銭的給付もしないまま、綱紀審査申出人との雇用関係を終了させたことは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士として不適切といわざるを得ず、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に当たるものと認められる。
(3)綱紀審査会の議決の年月日 2017年11月14日