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先頃、弁護士会に大量の懲戒請求の申立てがあり、日弁連は各弁護士会に指示を出し懲戒請求として扱わない、すなわち門前払い、「却下する」と各弁護士会、日弁連は声明を出しました。

 

懲戒請求殺到「受理しない」 県弁護士会長談話 /兵庫
 
毎日新聞201867日 地方版

引用 http://mainichi.jp/articles/20180607/ddl/k28/040/408000c

 
朝鮮学校への補助金交付などを求める声明を出した全国の弁護士会に対し、特定の団体を通じた会員弁護士の懲戒請求が殺到している問題で、県弁護士会は「弁護士法上の懲戒請求としては受理しない」とする藤掛伸之会長の談話を1日付で発表した。
 県弁護士会によると、この問題で寄せられた懲戒請求は約1100件。談話では、これらの請求について「会の活動への反対意見を表明し、批判するものと解される」と指摘。弁護士個々の非行を対象にする懲戒制度の趣旨には合致しない、と判断した。
弁護士法上の懲戒請求としては受理しない」
受理しないを「却下」、審議された上で処分しないものを「棄却」というがでは「却下」とはどういう手続をするのか

 

 

日本弁護士連合会調査室 弁護士懲戒手続の研究と実務
 
「懲 戒 請 求」
「懲戒請求の特色」
懲戒請求には法58条第一項により一般人が弁護士会に懲戒の請求をする場合と、同条第2項により弁護士会自らが自治的懲戒権を発動させる前提として綱紀委員会に調査を請求する場合とがある。
58条第1項に「何人も弁護士について懲戒の理由があると思料するときは・・・・・これを懲戒することができる」との規程が置かれるに至った理由はそれまで国によって行使されていた懲戒権が弁護士自治に委ねられたことと密接な関係を持つ。

 

第一に懲戒請求は弁護士会による懲戒権という公の権能が適切に発動され、公正に運用されることを担保するものであり、そのことにより、弁護士の職務の公共性に基づく職務執行の誠実性と品性の保持を確保することを目的とし、

 

第二に懲戒請求は個々の被害者救済を直接の目的とするものではない。

 

第三に、懲戒請求は弁護士会の自治権能のひとつとして懲戒権の発動を促す申立てであり、懲戒権発動のいわば端緒でしかない。懲戒請求人に弁護士会に対して所属弁護士への懲戒を求める権利を与えたものではない。

 

懲戒請求人は一定の限度でいわば外部から関与するに過ぎない。

 

4 弁護士会は請求に応じて必ず懲戒権を行使する義務はないが、綱紀委員会に懲戒の事由があるかどうかの調査を命じなければならない。

 

 
「懲 戒 事 由」
56条によれば弁護士が懲戒を受けるには

 

(1)弁護士法に違反したとき

 

(2)所属弁護士会若しくは日弁連の会則に違反したとき

 

(3)所属弁護士会の秩序又は信用を害したとき

 

(4)その他職務の内外を問わずその品性を失うべき非行があったとき
 
「懲 戒 請 求 の 手 続」

「懲戒請求の方式」

58条第1項には、「その事由の説明を添えて、その弁護士の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる」とあるだけで、他に格別に方式を求めていない。
従って法上は書面に限らず口頭で請求してもよいことになるが、いずれの場合も誰がどのような事実によりどの弁護士を懲戒することを求めるのかが明らかになっていなければならない。すなわち、請求にあたっては、懲戒請求者の特定、被懲戒請求人の特定、懲戒事由に該当する事実の特定が必要となり、これらが特定されない請求は不適法である。
法に懲戒請求の方式に関する規程がない以上、具体的方式は、法33条に基づき各弁護士会が会則等にこれを定めることとなるが、懲戒請求を実質的に制限するような規程は許されない。
書面で請求することを要する旨の規定を置く会もあり、このような規程のない会においても運用としてほとんど書面で請求させているようである。しかし上記の規定や運用が書面での請求ができない限り懲戒請求を受け付けないという趣旨であるならば、懲戒請求を実質的に制限することにもなりかねないので問題であろう。

 

この点においては、口頭による告訴、告発を受けたときは調書を作らねばならないと定める刑事訴訟法241条の規定が参考になる。
 
また、匿名による請求が適法かどうかについては議論の余地があるが、少なくとも懲戒請求を受け付ける弁護士会に対しても名前を全く明らかにしないことは、懲戒請求人の特定を欠くことになり不適法と解される、但し請求の内容によっては、弁護士会が法第58条第2項に基づき綱紀委員会に調査を請求することについて懲戒権発動を促す中立として取り扱うのが相当な場合もあろう。
「懲戒請求の受付期間と請求の要件に関する形式的調査」
懲戒請求を受け付けるのは弁護士会であるが、具体的な受付期間は弁護士会の執行機関としての会長である。
懲戒請求がなされた場合には、まず懲戒請求人、被懲戒請求人、懲戒事由に該当する事実がそれぞれ特定されているかどうか調査されなければならないが、実質的な調査はまさに綱紀委員会の職責であるから、これは形式的な調査にとどまるべきものである。
そして、形式的調査により懲戒請求人等の特定がされていないと判断されれば、請求人に対し補正を命じ、補正に応じない場合あるいはそもそも補正が不能である場合は懲戒請求は却下される、

 

ところで、この調査について、受付期間(窓口)が自らなしうるか、常議員会その他の機関が関与する必要があるかが問題となる。
結論としてはこの点に関する調査が形式的なものに過ぎないこと、常議員会の所管事項としての「懲戒に関する事項」は専ら法58条第2項の弁護士会による請求との関連で掲げられていることと思われること、補正手続のことを考えると調査はある程度迅速に行われることが望ましいこと等から、受付期間(窓口)自らが調査できると解される。
 
また、受付の際に、その請求がそもそも懲戒請求に該当するか否かということや、懲戒請求に該当するのか紛議調停の請求に該当するのかと言う判断を要求される場合がありうる

 

例えば、提出された書面の表題が「懲戒請求書」となっていても、実際には紛議調停の対象である弁護士の職務に関する記載がされている場合や、弁護士あるいは弁護士会に対する単なる苦情が述べられていることはありうることである。

 

書面を一読しても懲戒請求あるいは紛議調停の請求なのか、弁護士に対する苦情なのか判然としないときは、請求をした者の意思を十分確認したうえで処理すべきである。
請求した者の意思を十分確認しても懲戒請求あるいは紛議調停の請求の意思があるものとは認められない場合には、懲戒請求あるいは紛議調停の請求といった法定の請求としては取り扱えない。

 

 

但し弁護士会によって懲戒事件が隠蔽されたと後で非難されないことがないよう上記の意思確認は慎重になさなければならない。
 
受付の際、弁護士あるいは弁護士会に対する単なる苦情でないことがはっきりしているが、懲戒請求か紛議調停の請求かが問題となった時は、受付機関(窓口)において両制度の趣旨を説明する等して懲戒人の意思確認の過程で、懲戒人の翻意を促したり、強いて紛議調停に廻すことは妥当ではない、

 

 
「懲 戒 請 求 の 却 下 手 続」
懲戒請求について、被懲戒請求人等が特定されておらず、補正を命じても応じないか、そもそも補正が不能である場合には懲戒請求を却下することになるが、この場合の取扱いは各弁護士会によって区々に分かれている現状にあって
   受付機関(窓口)限りで却下する取扱い

 

   常議員会の議決を経て却下する取扱い

 

   綱紀委員会の調査に付した上で却下する
 
まず、懲戒請求人若しくは被懲戒請求人が全く特定されていない場合は、そもそも形式的な調査だけで懲戒請求が適法になされていないことが明らかであり、それについて補正の余地がないか懲戒請求人が補正に応じないときには受付機関(窓口)においても、これを懲戒請求として取り扱えない事は容易に判断できると解される、

 

しかし被懲戒請求人等が特定されていない請求について、窓口の担当職員が受付前に事実上指導し、これに応じない時は受付を拒否する取扱いは好ましくない。懲戒請求人があくまで請求をすることに固執するときは、正式に受付けた上で却下する。
 
懲戒事由に該当する事実が記載されていない等、懲戒事由が全くされていない請求の取扱いも以上と同様である。
これに対し懲戒事由に該当する事実が一応なれているが説明が不十分で趣旨不明のときは、受付機関(窓口)限りで補正を命ずることは、実質的な調査に及ぶおそれがあるためで行うべきでなく、綱紀委員会の措置を待つべきである。
被請求人は特定できるが、その者が懲戒請求人として適格性を持たないことが判明したとき、例えば、死亡者、架空人、他会所属弁護士等を被懲戒請求人とする請求がなされたときはどうか。この場合の扱いとして受付機関(窓口)限りで却下する扱いと形式が整っている以上綱紀委員会の調査に付する扱いとが考えられるが、形式的な調査のみで適格性がないことが判明したときは、受付機関(会長)限りで却下することができると考える

 

 
このように、懲戒請求人が懲戒請求を却下されたことに不服がある場合には、「弁護士会がその弁護士を懲戒しない」という理由で日弁連に対し異議の申出ができると解することになろう。
 
既に懲戒請求がなされた弁護士に対して、まだ弁護士会の結論が出ていない段階で別途同一の事案に関して懲戒請求がなされた場合、後からなされた懲戒請求をどのように取り扱うかという問題が存在する。この場合、後からなされた懲戒請求を民事訴訟における二重起訴の禁止と同様に考えて却下するという見解もありえよう。

 

しかし、そのような取扱いを認めると後から懲戒請求をしたものが日弁連に対し異議の申出をすることにより、同一の事件が弁護士会の綱紀委員会ないし懲戒委員会と日弁連の懲戒委員会に係属することになるため両者の判断が食い違った場合等に複雑な問題が生じ、相当ではない。むしろ、このような場合、後からの請求者については懲戒請求人の特定がなされていれば受け付けた上で、直ちに綱紀委員会に付議するのが望ましいと解される。

 

付議された綱紀委員会では、事件が綱紀委員会の段階であるときは先行事件と併合して調査し、事件が懲戒委員会で審査されているときは、実質的な調査を行わず直ちに「懲戒相当」の議決を下すことが相当である。

 

この場合にも却下決定が相当であるとの見解がありうるが、その場合、後から懲戒請求があった場合には、一時不再理ないし二重の危険の禁止の措置、あるいは二重処罰の禁止の趣旨から、その請求は却下されるべきである。