現行懲戒制度の特色

日本弁護士連合会調査部 「弁護士懲戒の実務と研究」

 

第一 懲戒の実質的判断(懲戒するか否か及びどのような処分をするかの判断)
を懲戒委員会に委ねることとしたことである。懲戒委員会は、弁護士会に設けられた一機関であるが、弁護士会内分においては、弁護士会内の恣意に流されなることなく、適正かつ公正な判断によって行われることを期すものである。

第二 綱紀委員会・懲戒委員会の構成員として弁護士の他に裁判官、検察官及び学識経験者を加えたことである、以前は綱紀委員会においては弁護士のみが構成員(弁護士以外は参与員として関与するにとどまる)となっていた。しかし懲戒に関する判断が弁護士独自の利害という狭い観点から行われ、同僚裁判となることを避け、公正な判断を期するためには懲戒委員会のみならず綱紀委員会においても弁護士以外の委員を構成員に含まれることが望ましいため平成15年改正法により綱紀委員会においても弁護士以外の委員を構成員に含めるものとされた、(法70条の三第一項・二頁)

第三 広く何人にも懲戒の請求をすることを認めたことである。これは弁護士会が、個々の弁護士(弁護士法人)について職務の内外に及ぶ行動全般を把握しておくことは到底不可能であることと、国の司法制度において重要な役割
を果たす弁護士(弁護士法人)の懲戒制度を弁護士と日弁連の自治に委ねたことから、弁護士会による懲戒権発動を国民の監視下に置いてその適正を図るためである。また懲戒請求者に日弁連に対する異議の申出を認めたのも弁護士に対する懲戒制度の運用を国民の監視下に置く趣旨に基づくものである。
更に、平成15年弁護士法改正により国民の意見を反映させて懲戒の手続の適正を確保するため、学識経験者(弁護士、裁判官若しくは検察官である者又はこれらであったものを除く。法71条の三第一項)で構成される綱紀審査会が設けられた

第四 懲戒請求者を特に制限しなかったことと関連して、懲戒の請求があった場合に直ちに懲戒委員会による審査手続きに付さず、その予備的な調査を綱紀委員会にさせることとした点である。これは根拠のない懲戒請求がなされた場合にも直ちに懲戒委員会の審査に付されると、仮に懲戒処分を受けなくとも、懲戒委員会に付議された事実だけで弁護士の名誉・信用を害される等著しい不利益を被ることもあるからである、
あっても直ちに懲戒委員会の審査に付さず、あらかじめ綱紀委員会において事実を調査し、いわば「あらごなし」をすることとしたのである。

第五 弁護士(弁護士法人)に対する懲戒権は、まずその弁護士(弁護士法人)の所属する弁護士会が行使するところとし、さらに日弁連が自ら弁護士(弁護士法人)を懲戒することを適当と認めるときは日弁連も懲戒権の行使ができることとした。これは、弁護士会の自主性を重んじるとともに、弁護士会の懲戒が何らかの理由で機能しない場合は懲戒制度の目的を達することができないことから、日弁連が弁護士会の懲戒権行使を補完する趣旨で懲戒権を行使することができるようにしたものである。また、懲戒を受けた弁護士については日弁連の判断について不服があれば東京高等裁判所に出訴できることとして懲戒処分の適法性が最終的には司法機関によって判断されることとなっている。

以上
日本弁護士連合会調査部 「弁護士懲戒の実務と研究」