懲戒請求に対して私が第二東京弁護士会綱紀委員会に提出した弁明書の内容は次のとおりです。

高野隆弁護士(第二東京)

高野隆弁護士のブログから一部引用

https://blogos.com/blogger/plltakano/article/

懲戒請求の趣旨に対する答弁

本件懲戒請求には理由がなく、懲戒すべき事由がないことは明らかであるから、懲戒不相当の決議をされたい。

Ⅱ 懲戒請求の理由に対する答弁

1 弁護人は被告人を管理監督する者ではない

請求人はカルロス・ゴーン氏の弁護人である私が「被告人を管理監督する立場にい[る]」といい(「懲戒の理由」1頁)、この義務に違反したという(同2頁)。しかし、弁護人には保釈中であれ身柄拘束中であれ、依頼人である被告人の行動を「管理監督」する義務などないし、そうしたことを行う権限もない。

 弁護士は依頼人の親でもなく教師でもない。依頼人の善行を保証する身元引受人でもない。弁護士には依頼人を「管理監督」する権限も義務もないのである。弁護士がプロフェッショナルとして負うべき第一の職責は「依頼者の権利及び正当な利益を実現する」ことである(弁護士職務基本規程21条)。そして、この任務を遂行するために「依頼者の意思を尊重し」なければならないのである(同規程22条1項)。

 刑事事件の訴追を受けている被疑者・被告人の弁護を依頼された弁護士(弁護人)の最大の任務は、依頼人である被疑者・被告人に保障された防御権を「擁護するため、最善の弁護活動」をすることである(同規程115条)。そのために、弁護人は被告人の「身体拘束からの解放」のための努力をする義務を負っているのである(同規程47条)。こうした職責は日本国憲法が保障する基本的人権の実現にとって不可欠の活動である。わが国の憲法はすべての個人に対して、行動の自由を保障し「正当な理由」がなければ抑留拘禁されない権利を保障している(34条)。この権利を実質的に保障するために、憲法は資格のある弁護人の援助を受ける権利をすべての個人に保障しているのである(34条、37条3項)。弁護人が、依頼人のために、身体拘束の正当性がないことを主張し立証して、裁判官に依頼人を解放するように説得する活動をすることを十分に保障されていなければ、こうした憲法の保障は形骸化するであろう。

 刑事弁護人に被告人の行動を監視する義務を課し、被告人の違法行為に対する責任を負わせるとすれば、被告人の権利擁護、自由確保のための活動は著しく萎縮してしまうであろう。依頼人の自由を確保すればするほど弁護士は依頼人の生活に対する干渉、介入、監督の責任を負担することになる。むしろ、被告人に自由を与えず、拘禁状態を継続させておいたほうが、弁護人は安心して弁護士業務を行うことができることになる。これは、依頼人と弁護士とを利益相反状態におくことに他ならない。刑事被告人は、自らの自由確保のために法律専門家の援助を十分に受けることができず、一人、強大な国家権力と対峙することになる。それは正しく警察国家、全体主義国家への道にほかならない。

 わが国が自由で民主的な国家であるためには、刑事弁護人を「被告人を管理監督する立場」におくようなことを決してしてはならないのである。

2「弁護人が被告人を逃走させないこと」という保釈条件は存在しない

懲戒請求者は「保釈の条件は対象弁護士***が被告人を逃走させないこと」であったと述べている(懲戒請求の理由、1頁)。しかし、そのような条件は存在しない。カルロス・ゴーン氏の保釈条件は2019年3月5日付及び同年4月25日付保釈許可決定(乙1、2)のとおりである。弁護人が行うべきこととして求められているのは、

1)ゴーン宅に設置された監視カメラに保存された画像データを1ヶ月に1回裁判所に提出すること
2)ゴーン氏の携帯電話の通話履歴明細書及びインターネット・ログを1ヶ月に1回裁判所に提出すること
3)ゴーン氏が第三者と面会した記録を1ヶ月に1回裁判所に提出すること

である。私をはじめゴーン氏の弁護人はこの条件を厳格に遵守した。一度もこの条件に違反したことはない。

 なお、私はゴーン氏から、彼が法律上携行を義務付けられたパスポート以外のパスポート3通を預かり、厳重に保管していた。その管理を怠ったこと(懲戒請求の理由、1頁)などまったくない。

3 ブログの記載は不適切なものではない

懲戒請求者は、2020年1月4日に投稿した私のブログを引用して、その内容は「違法行為を肯定する発言」「違法行為を助長する行為」であって「不適切」であるという(同前)。通常の日本語の理解力がある人がこのブログ記事を読めば、これが違法行為を肯定してもいないし、助長もしてもいないし、不適切でもないことは十分に良く理解できるはずである。

 このブログのなかで私は、ゴーン氏が密出国した事実を知って衝撃を受けたこと、その動機としてわが国の非人道的と言われても反論できない「人質司法」の現実や極限的にまで停滞し、迅速な裁判を受ける被告人の権利を著しく侵害している訴訟進行の現実があるのではないかという意見を述べた。そして、ゴーン氏が感じた絶望には共感できる部分があると告白した。こうした私の発言には十分な事実上の根拠がある。そして、これらのどこにも違法行為を肯定したり、助長したりする要素はない。
以上