弁護士自治を考える会
            「棄却された懲戒請求」

第一東京弁護士会の弁護士法人が全国に撒いたチラシ広告、多くの会社のロゴを無断使用したのは、弁護士法人としての品位を欠く行為であるという懲戒事由で懲戒請求を申立てましたが、第一東京弁護士会綱紀委員会より棄却されました。弁護士業界の広告のあり方についてのものですので議決書を公表します。

        議 決 書

対象弁護士  弁護士法人 (第一東京弁護士会)

 

             主 文

上記対象弁護士法人及び対象弁護士法人にかかる頭書綱紀事件について、当委員会は調査審議の上、次のとおり議決する。

いずれも、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。

 

             理 由

第1 事案の概要

懲戒請求者は本件広告の内容が不正競争防止法、私的独占禁止及び公正取引の確保に関する法律及び不当景品類及び不当表示に関する法律に違反し、弁護士法人としての品位を失うベき非行に該当する

 

第2 懲戒請求事由の要旨

1 本件広告にはクレジットカード会社及び消費者金融各社(以下「本件貸金業者」という。)のロゴ(以下「本件ロゴ」という)が明記された本件貸金業者が発行するカードの画像が含まれる。

本件貸金業者のロゴが表示された本件広告を対象弁護士法人がチラシとして配布する行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号、同第2号に抵触する可能性があり、弁護士法人としての品位を失う行為となり得る。

2 本件広告は、上記のとおり不正競争防止法に抵触する可能性がある行為であるので、他の法律事務所が同種・類似の広告を使用することはできず、結果として対象弁護士法人の市場独占につながることから、私的独占に該当し、独占禁止法第2条第5項・同法第3条に違反する可能性があり、弁護士法人としての品位を失う行為となり得る。

3 本件広告は一般消費者に確実に過払金が返還されるのではないかという誤認を生じさせる恐れがあるうえ、本件広告には返還された金額なども含まれていることから、景表法第5条第1号の優良誤認及び同第2号の有利誤認、又は不実証広告規制に該当する余地があり、弁護士法人としての品位を失う行為となり得る。

4 対象弁護士法人の社員として登録される対象弁護士は、チラシの配布、チラシの文言の検討への関与が推測され、また関与が少なくとも管理監督を怠ったものであるので懲戒対象とした。

 

第3 対象弁護士及び対象弁護士法人の答弁の趣旨

1 懲戒請求事由第1項について

本件広告に他人の周知又は著名な商品等表示と認めらえるものが含まれていること自体は否定しないが、対象弁護士法人の過払金回収業務の営業を、本件貸金業者の営業と誤認混同する余地はなく、また対象弁護士法人が自己の商品等表示として使用しているわけでもないから、不正競争防止法第2条第1項第1号・第2号には該当しない。

2 懲戒請求事項第2項及び第3項について

本件広告は、景品を含む経済的な利益をもって顧客を誘因するものではないから、独占禁止法及び景表法の規制は主張自体失当である。

3 懲戒請求事由第4項について

否認ないし争う

第4 判断の資料

 別紙目録のとおり

第5 当委員会が認定した事実及び判断

1 当委員会が認定した事実

時期が定かではないが、対象弁護士法人が業とするいわゆる過払金回収業務を含めた債務整理業務の広告として、一般消費者向けに本件広告を配布し、本件広告中には、本件ロゴが含まれていた。また本件広告中に含まれる本件ロゴには貸金業を営む著名な企業の商号も複数記載されていた。

2 懲戒請求事由第1項について

(1)不正競争防止法第2条第1項第1号違反について

不正競争防止法第2条第1項は「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し」「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」等を「不正競争」に該当すると規定している。

この点について、対象弁護士法人は、本件ロゴを本件広告中で使用しているが、それはあくまで対象弁護士法人が過去に過払金を回収した相手方のロゴ及び商号を例示したに過ぎず、対象弁護士法人が業とする債務整理業務に関する「自己の商品等表示して」表示したわけではない。また、本件貸金業者はいずれも貸金業を業とする株式会社であり、貸金業者を相手方とする債務整理業務を業として行う対象弁護士法人の営業と混同を生じるおそれはない。

そうだとすると、対象弁護士法人が、本件ロゴが含まれた本件広告を一般消費者に配布する行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号に定める「不正競争」には該当しない。

(2)不正競争防止法第2条第1項第2号違反について

不正競争防止法第2条第1項第2号は「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用」する行為等を「不正競争」に該当すると規定している。

しかし、第5の2(1)の記載のとおり、対象弁護士法人は「自己の商品等表示として」本件ロゴを使用していない。

そうだとすると、対象弁護士法人が、本件ロゴが含まれた本件広告を一般守秘者に配布する行為は、不正競争防止法第2条第1項第2号に定める「不正競争」には該当しない。

3 懲戒請求事由第2項について

第5の2(1)の記載のとおり、不正競争防止法第2条第1項及び同第2号に定める「不正競争」には該当する、懲戒請求者の主張自体失当であるが、対象弁護士法人の行為が独占禁止法第2条第5項に定める「私的独占」に該当し得るかについて付言する。

独占禁止法第2条第5項に定める「私的独占」とは「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通牒し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」とされている。

懲戒請求者の主張及び提出されたすべての書証を前提としても、対象弁護士法人が他の弁護士又は弁護士法人による債務整理業務に関する活動を排除し、又は支配したことをうかがわせる事実は確認できず、独占禁止法第2条第5項に定める「私的独占」には該当しない。

4 懲戒請求事由第3項について

(1)景表法第5条第1号について

景表法第5条第1号は、自己の商品・役務を、実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して他の事業者の同種・類似の商品・役務と比較して優良であるかのように表示し、不当に顧客を誘因し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めらえる表示を規制しているところ(優良誤認表示の禁止)本件広告は、対象弁護士法人の過去の過払金回収実績の平均値を掲載しているにすぎず、実際のものよりも著しく優良であると示しているわけでも、他の事業者と比較して著しく優良であると示しているわけでもない。

そうだとすると、本件広告は景表法第5条第1号に該当しない。

(2)景表法第5条第2号について

景表法第5条第2号は、自己の商品・役務を同種の商品・役務を提供する他の事業者よりも取引の相手方に著しく有利であるかのように誤認する表示によって、不当に顧客を誘因し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を規制しているところ(有利誤認表示の禁止)本件広告は、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、他の事業者比較して取引条件が有利であると偽って宣伝しているわけではない。

そうだとすると、本件広告は景表法第5条第2号に該当しない。

5 懲戒請求事由第4項について

以上のとおり、懲戒請求者が主張する懲戒請求事由第1項乃至第3項はいずれも理由がないものであるから、対象弁護士が懲戒請求事由第1項乃至第3項に定める「品位を失うべき非行」があったとする懲戒請求者の主張は理由がない。

6 したがって、対象弁護士及び対象弁護士法人いずれについても「品位を失うべき非行」に該当する事実があったと認めることはできない。

7 よって、主文のとおり議決する。 2020年(令和2年)3月27日

第一東京弁護士会 会長      林 茂雄殿

第一東京弁護士会綱紀委員会 委員長 安藤真一

 

懲戒請求者は日弁連に異議申立を行いましたので当会として現時点でコメントは差し控えますが、一つ、法的にどうの、処分する、しないは別として、このチラシを見てもちろん個人により感想は違うでしょうが、弁護士業の方のチラシとしてセンスがあるチラシとは思えないのですが、皆さんはどうお思いでしょうか?

懲戒請求が棄却となり、これで他の弁護士さんも,独自のロゴを持つ会社の許可なくチラシに掲載し配布できるのです。

全国の弁護士さんはこれで良かったと思っているでしょうか

 

懲戒請求で棄却された事案をお持ちの方、現在懲戒請求進行中の方、是非情報をお寄せください。送付先など以下の記事でお知らせしています。

弁護士懲戒請求 棄却情報 募集:https://jlfmt.com/2016/11/01/30969/