懲戒の申立てをされた弁護士の答弁書の研究 (1)

弁護士に非行があれば所属する弁護士会に懲戒請求を申し立てることができます。「何人も」申立てが可能です。当時者でなくても構いません。懲戒請求を申し立てると懲戒を出された弁護士(被調査人)は答弁書を弁護士会綱紀委員会に提出します。答弁書(弁明書)は必ず提出となっています。当会事務局には棄却された懲戒請求の議決書、と会わせて被調査人の答弁書を所有しております。

懲戒請求の申立てがあり被調査人となった弁護士は答弁書を綱紀委員会に提出しなければなりません。提出しない弁護士には催告書が送付されます。綱紀委員会が被調査人の答弁書の提出の期限は約3月程度です

被調査人

〇〇〇殿              〇〇弁護士会綱紀委員会

                    委員長 〇〇〇〇 職印

          答弁書等提出の催告

当委員会は、貴殿に対し別紙書面記載の事案につき調査を開始しました。

別紙書面に対して、答弁書及び証拠の写しを5部ずつ作成して令和〇年〇月〇日までに提出してください。また今後提出する書類は全て5部ずつ提出してください。被調査人からの提出の証拠資料は乙号証とし、番号を付けてください。

なお、正当な理由がなく答弁書を提出しない場合は、懲戒請求事由について明らかに争わないものとし調査を進めることがあります。

また、代理人を選任するときはその届出をし、2人以上の代理人を選任する場合は主任代理人を指定して届けてください。書面を提出するときは次の事案番号を記載してください。

事案番号 令和〇年 〇綱第〇〇号

被調査人 〇〇〇

答弁書(弁明書)の提出もせず、この申立は違法だ、不当だということはできません。

「第1 請求の趣旨に対する答弁」

被調査人が書く最初の答弁書、弁明書の「第1 請求の趣旨に対する答弁」の書き出しは弁護士によって少し違います。「懲戒委員会に付さない・・・」との文言が多いのは、これは綱紀委員会で「懲戒相当」の議決がなされ処分を選択する懲戒委員会に廻さないでくれ、処分はなしでお願いしますという意味ですです。

綱紀委員会の議決書の(棄却)は主文 「懲戒委員会に付さないことを相当とする」になります。

懲戒を申立てられた弁護士の呼称は「被調査人」と「対象弁護士」という二通りがあります、これは懲戒請求者が懲戒請求書に「対象弁護士」か「被調査人」と書いたか弁護士もそれに応対しています。たまに懲戒請求者が「対象弁護士」と書いたのに「被調査人」と答弁書に記載してくる弁護士がいます。どういう書き方があるか見てみましょう。

 

被懲戒者の答弁書1回目は以下の文言から始まります。

弁 明 書 (二弁) 

第1 懲戒の趣旨に対する答弁 

被調査人につき懲戒委員会の審査に付しないことを相当とする旨の議決を求めます。

答 弁 書(一弁)

第1 答弁の趣旨

対象弁護士につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。

答 弁 書(東京)

上記事件につき、被調査人は、懲戒請求者から提出された令和〇年〇月〇日付け懲戒請求書に対して次のとおり答弁する。

第1 同「懲戒請求書の趣旨」に対する答弁

被調査人に対して懲戒の処分をしないことを求める

答 弁 書 (一弁法人)

第1 懲戒請求の趣旨に対する答弁

対象弁護士法人を懲戒しない、との決定を求める。

答 弁 書 (一弁)

第1 懲戒の趣旨に対する答弁

対象弁護士を懲戒しない、との決定を求める

答 弁 書 (東京)

第1 懲戒請求の趣旨に対する答弁

被調査人につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする

との議決を求める。

答 弁 書 (東京)

Ⅰ 懲戒請求の趣旨に対する答弁

 本件懲戒請求には理由がなく、懲戒すべき事由がないことは明らかであるから、懲戒不相当の決議をされたい。

答 弁 書 (二弁)

第1 請求の趣旨に対する答弁

被調査人を懲戒しないとの決定を求める

弁 明 書(東弁)

(即、弁明に入るタイプ)

懲戒請求の理由に対する答弁及び被調査人〇〇及び弁護士法人〇〇事務所(以下「被調査人」という)の主張は、以下のとおりである。

答 弁 書 (東弁)

第1 申立の趣旨に対する答弁

被調査人弁護士〇〇及び〇〇(以下「被調査人ら」という)につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。との決定を求める。

以上が1回目 この後に詳しく答弁してこない場合もあります。中には「追って書証を提出する」と記してその後何も提出して来ない場合もあります。

弁護士会によって様々ですが懲戒書の最後に「対象弁護士の答弁書の送付を求めます」は必ず記載してください。

二弁の場合は懲戒の受理書のあとに、答弁書の郵送を求めるか否かの書面が送られてきます。必ず返送してください。

一弁の場合は1回しか答弁書は送付されません。これからが勝負です、懲戒請求者が2回目3回目に出した主張書面、証拠は対象弁護士に送付されません。対象弁護士は非行の証拠があるなら出してみろと陳述しているかもしれません。綱紀委員は互いに出された書面を見比べて結論を出します。目隠し空中戦です。決定的な証拠は2回目に出すことをお勧めします。

東弁の場合は裁判のように互いに書面を出し合います。答弁書が出て反論が出来なければ綱紀委員会の「懲戒相当」の議決までは難しいかもしれません。

当初の懲戒請求書に全て述べてしまうのか、隠し玉は2回目にするのかは、内容によります。

懲戒請求者に答弁書を出さない弁護士会もありますが、その場合は綱紀委員長宛てに「対象弁護士の答弁書を求める」という書面を出してください。出すか出さないかは綱紀委員会の判断です。

「上申書」は相手に公開されません。綱紀の議決書が最後に送られてきますが、対象弁護士が上申書を何通も出していることがあります。内容は分かりませんが、この懲戒請求者はクレーマーだとか、頭がいかれているとか書いてあるのではないでしょうか、

綱紀委員は答弁書で弁護士の能力をみているに違いない!?

答弁書「第1申立の趣旨に対する答弁」の次に「第2 懲戒の理由に対する答弁」とするのが一般的です。最後に「結論」として《よって、被調査人に対して懲戒の処分をしないことが相当である》と結ぶのが多い。

綱紀委員は答弁書の書き方や反論が法に則りきちんと弁護士らしく書かれているかを見ているのだと思います。

被調査人は懲戒請求者よりも綱紀委員向けて答弁書を書くのです。綱紀委員に弁護士としての能力のチェックをされるのです。しっかり法律家らしく答弁しないといけません。

へたくそな答弁だとこうなります

懲 戒 処 分 の 公 告

東京弁護士会がなした懲戒の処分について同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告公表に関する規定第3条第1号の規定により公告する。

1 懲戒を受けた弁護士氏名  池谷友沖 登録番号31206  

2 処分の内容       退会命令

3 処分の理由の要旨

被懲戒者は少額訴訟による損害賠償請求事件の被告であるAから訴訟対応を受任し通常訴訟への移行の申述を行ったが、答弁書及び準備書面の提出をせず、通常訴訟移行後の2014129日に開催された口頭弁論期日にも出頭しなかった。そのため原告の請求を全面的に認容する判決がなされたが、被懲戒者はAに対し、原告被告双方とも敗訴の判決がなされたとの虚偽の説明を行い、上記判決が201516日頃に確定するまで判決内容を報告しなかった。その上で被懲戒者はAに対し同年219日付け内容証明郵便及び同年311日付け内容証明郵便により上記事件に対する着手金29337円及び成功報酬48895円を請求した。
被懲戒者の上記行為は弁護士職務基本規定第22条第1項、第24条、第36条及び第44条に違反し弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。非行事実が重大であること、被懲戒者の弁明も法律家として理解困難なものが多いなどを考慮し退会命令を選択する。4 処分が効力を生じた年月日 2016772016111日   日本弁護士連合会