日弁連広報誌「自由と正義」9月号に2019年度日弁連副会長 活動報告に業務停止中の遵守事項の指示書ができたという投稿がありました。
社会の変化に適正迅速に対応する制度改革を目指して
2019年 日弁連副会長 篠塚力 東京弁護士会
2 懲戒綱紀・資格審査
日弁連は弁護士会に対し2019年4月、一定の客観的に明白な濫懲戒請求事案について、手続不開始とすることを可能とする綱紀関連の会規のモデル修正案等を通知した。業務停止中の業務規則等に関する基準の改正案が2019年9月の弁護士会及び関連委員会への意見照会を経て2020年3月の理事会で承認された。
日弁連の被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等についてよりも詳細に書かれてあります。業務停止をこれから受ける方、ただ今綱紀審査中の方はぜひ参考にしてください。
(1)委任契約の解除
業務停止を受けた場合は、すべての委任契約を解除しなければなりません。解除の対象となるのは、裁判所等に事件が係属するものに限らず、すべての委任契約です。裁判所、検察庁、行政庁に事件が係属する場合、被懲戒弁護士は辞任届の提出等の手続をしなければなりません。事件の利害関係人への連絡もする必要があります。
(2)業務停止が1か月以内の例外
(1)にかかわらず業務停止期間が1か月以内の場合、依頼者が委任契約の継続を希望するときは解除しないことができます。ただしこの場合、被懲戒弁護士は依頼者に対して契約の継続を働きかけてはなりません。依頼者が自らその旨の確認書を受領し、その写しを本会に提出しなければなりません。
(3)弁済代行の例外的措置
被懲戒弁護士が債務整理事件を受任している場合で債権者への弁済代行を行っている場合、受任している事件の債務の支払期限が処分の効力が生じた日から10日以内に限って弁済代行を行うことができます。これは債務者が期限の利益を喪失するなどの不利益を受けることを回避するための例外的な措置です。被懲戒弁護士は債務者が不利益を受けることがないよう最善の措置をとらなければならないことが前提となっています。
業務停止期間の如何に関わらず顧問契約はすべて解除しなければなりません
(1)期日の延期・変更の禁止
被懲戒弁護士は裁判期日の延期や変更をおこなってはいけません。業務停止期間が1か月を超える場合は、すべての委任契約を解除しなければならないので期日の延期、変更をすることは無意味ですので当然のことですが1か月以内の時で依頼者の希望により委任契約が解除されない場合があっても、期日の延期・変更はできないことを意味します。
(2)裁判所からの書類の受領禁止
裁判所等から書類が送付されてきた場合、これを受領してはならず、誤って受領してしまった場合は直ちに返還しなければなりません。ここでは裁判所、検察庁、行政庁からの書類の送付等となっていますが、業務に関する書類を受領してはならないのは、依頼者、顧問会社、事件の相手方や利害関係人などからの書類の受領も禁止されます。また書類だけでなく、事件に関係するファクシミリや電子メールも含まれます。電子メールの場合は返還することの意味はありませんが、誤って送信してきた相手方に業務停止中であり対応できない等の対応が必要となります。
(1)預り金の受領禁止
被懲戒弁護士は依頼者のために金員を受領してはなりません。業務停止期間が1か月以内の場合で依頼者の希望により委任契約が解除されない場合も同様です。依頼者から金員を受領することも同様に禁止です。ただし依頼者のために受領しないと、消滅時効が完成してしまうなど依頼者の不利益が生じる場合(民法654条が規定する急迫の事情がある場合)には例外的に受領できます。
(2)預かり金の清算
被懲戒弁護士は、依頼者からまた依頼者のために金員や物品を預かっていた場合にはこれを依頼者に返還しなければなりません。業務停止期間が1か月以内で依頼者の希望で委任契約が解除されない場合には返還を要しません。預り金については、委任契約の定めに従って適切に清算しなければなりません。
被懲戒弁護士は委任契約や顧問契約を解除した場合は、依頼者や事件を新たに取り扱う弁護士や弁護士法人に誠実に事件の引継ぎをしなければなりません。
(1)復代理人の選任、他の弁護士等の雇用の禁止
被懲戒弁護士は、新たに復代理人を選任したり、他の弁護士等を雇用したりしてはなりません。自ら業務を行うだけでなく、他人を使って業務を行うことも禁止する趣旨です、隣接業者や非資格者を雇用して法律業務を行わせることも当然に禁止されます。
(2)補助弁護士等への指示監督の禁止
処分を知らせる前から雇用していた勤務弁護士に対し事件処理について指示し、監督することはできません。なお処分を受ける前からの復代理人については規定がありませんが、委任契約が解除されれば復代理人もなくなるため規定を置いていないだけであり、事実上の指示監督も許されません。委任契約が解除されない場合も同様です。
(3)共同受任
勤務弁護士以外の弁護士と事件を共同で受任していた場合、その一方の弁護士が業務停止処分を受けた場合、処分を受けていない弁護士はそのまま事件を継続して処理することはできます。共同受任自体の継続を禁止するものではありません。ただし共同受任の継続が業務停止処分の潜脱とみられる場合はそのこと自体が別の懲戒事由となることがあります。潜脱とみられるのは、たとえば共同受任している別の弁護士が被懲戒弁護士と業務停止中の業務についての対価を分け合っていたような場合があります。被懲戒弁護士が別の弁護士に指図をしたり、当該弁護士と協議をしたりすることも当然にできません。被懲戒弁護士が勤務弁護士と委任状に名を連ねているような場合は、形式的には共同受任ですが勤務弁護士が依頼者に対して報酬請求権を有していない場合には実質的には復代理といえるので、この場合は業務停止処分を受けていない勤務弁護士も業務を行うことはできません。
(1)着手金の清算
被懲戒弁護士が委任契約や顧問契約を解除した場合には、受領済みの着手金等を一部返還するなど委任契約書の定めに従って清算しなければなりません。(委任契約書には委任契約が途中で終了した場合の清算方法を規定することが義務づけられています。(日弁連・弁護士の報酬に関する規程第5条4項)
(2)弁護士報酬の受領
委任事務が終了して、弁護士報酬を受領する前に業務停止処分を受けた場合、弁護士報酬の額が委任契約書の定めによって明確になっている場合には弁護士報酬を受領することができます。弁護士報酬の受領は弁護士の業務そのものではないからです。報酬額の決定について依頼者と協議を要する場合であっても、特段の事情があるとき(たとえば協議をする前提として法律事務を行う必要があるとき)を除いて、協議をすることや協議に基づく弁護士報酬を受領することはできます。
被懲戒弁護士は事務所の管理行為、賃貸借契約、勤務弁護士や事務職員の雇用契約を継続することができます。当然のことですが、勤務弁護士や事務職員を使って被懲戒弁護士が業務を行うことはできません。事務所の維持はできますが、法律事務所の看板を掲げたり、被懲戒弁護士が業務をしているかのような外観を呈することはできません。(11条)
被懲戒弁護士は事務所の使用自体はできます。当然のことながら、事務所での業務はできません、業務に関して勤務弁護士、事務職員を指示監督することはできません(8条)また裁判所や事件関係者からの通知等の受領もできません(5条2項)事務所を使用することにより業務停止をないがしろにすることはあってはならないことですので、そのようなことがないように今後は弁護士会によって執行点検は細部にわたってなされることもあります、
(1)法律事務所・弁護士の表示の除去
被懲戒弁護士は、弁護士及び法律事務所であることを示す表札、看板などの表示を除去しなければなりません。ここで「除去」とは、取り外す以外に看板に白い紙を貼るなど、表示としての機能を失わせる措置のことを言います、除去の代わりに業務停止中であることを表示することも可能です。自宅の表札に「弁護士」の肩書を付けている場合も肩書部分を除去する必要があります。
(2)共同事務所の場合の例外
(1)の規律にかかわらず、被懲戒弁護士と事務所を共にする弁護士(外国法務事務所と弁護士法人を含みます)が自己の職務を行うために法律事務所を使用するときは、その事務所の名称を表す看板等を使用することができます。もちろん業務停止を受けた弁護士は看板以外の自己の名前が載った表札等は除去しなければなりません。
被懲戒弁護士は業務広告を除去しなければなりません。広告にはウエブサイト、メールマガジン、事務所報の配布・送付、看板、デジタルサイネージ、新聞広告、チラシ、テレビ広告など顧客を誘引する機能を有するものすべてが含まれます。ただし電話帳広告など除去が著しく困難なものについてはこの限りではありません。ウエブサイトは除去の対象となる広告ですが、たとえばウエブサイトを利用して業務停止処分を受けた事、依頼者との委任契約が解除となること、解除となった場合の注意点等を知らせる手段として使用することは許されます。
共同事務所の場合の広告について被懲戒弁護士が当該広告の代表者(弁護士が共同して広告する場合には広告代表者を表示しなければならないことになっています(日弁連・業務広告に関する規程9条3項)である場合には当該広告は除去すべきことになります。それ以外の広告の代表者である場合は広告の除去はしなくともよいことになります。ただし業務停止処分の前後に広告代表者を変更して広告を継続することは、広告除去の潜脱行為とみられる場合もあります。
(1)名刺、用箋、封筒の使用禁止
被懲戒弁護士は、弁護士の肩書、事務所名を表示した名刺、事務所用箋、封筒を使用したり、他人に使用させたりしてはなりません。ただし11条の規定により共同事務所の他の弁護士が自己の職務を行う場合には事務所名を表示した当該弁護士の名刺や事務用箋、封筒を使用することができます。
(2)3条業務以外の職務を行う場合の弁護士の肩書使用の禁止
被懲戒弁護士は弁護士法3条に規定する職務(当時者その他関係人の依頼または官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訴事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律行為)を行うことはできませんが、これ以外の活動、たとえば執筆、講演、メデア出演、社外役員としての活動を行うことはできます。しかし、このような活動であっても弁護士の活動を使用してはなりません。
被懲戒弁護士弁護士バッジと身分証明書を当会を通じて日弁連に返還しなければなりません。
被懲戒弁護士は1か月を超える業務停止処分を受けたときは、未使用部分の戸籍謄本請求用紙と入国在留代理手続届出済証明書を当会に返還しなければなりません。
被懲戒弁護士は、弁護士会の会務に関する活動を行ってはなりません。『弁護士会等』は所属の弁護士会のほか、日弁連、弁護士会連合会です。いわゆる会派も含まれます。
被懲戒弁護士は、弁護士会等の推薦で官公署等の委員に選任されているときは辞任しなければなりません。弁護士であることに基づき選任された人権擁護委員、選挙管理委員、労働委員会委員、調停委員、鑑定委員、管財人等についても辞任しなければなりません。ここに挙げられていない、後見人、後見監督人、財産管理人なども辞任の対象になります。弁護士法3条の「官公署の委嘱」による法律事務所にかかる職務に該当すると考えて業務停止の効力が及ぶものです。
被懲戒弁護士は弁護士の資格に基づき弁理士登録や税理士登録をしている場合であっても、弁理士、税理士の職務を行ってはなりません。司法書士が行う登記事務その他隣接士業の職務は弁護士として行っているおのですから、これらの職務を行うことはできません。
被懲戒弁護士は引継ぎ業務等の場合を除き、弁護士会館内の面談室を使用してはなりません。面談室の使用は弁護士の職務として使用することが通常だからです。これに対して図書館や会員室の使用はできます。当然のことながら継続している委任契約に基づく職務の準備のために図書館を使用することはできません。
被懲戒弁護士は、当会に対して遵守事項の履行状況を報告しなければなりません。報告にあたっては当会所定の報告書のフォーマットを使用してください。また当会からの指導監督に従わなければなりません。当会が被懲戒弁護士の法律事務所等に執行点検に行った際には、点検調査に協力しなければなりません。遵守事項が履行できていないときはそれが新たな懲戒事由になり得ることになります。
被懲戒弁護士は業務停止期間中であっても当会及び日弁連の会費を納入しなければなりません。業務停止期間中であっても当会及び日弁連の会員であることは変わりありませんので、会費の納入義務は当然に継続します。
被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について
改正 (平成四年一月十七日理事会議決)弁護士会及び日本弁護士連合会のとるべき措置に関する基準
http://newprofession.jp/tajima/files/2015/07/kisoku_hichoukai_kijun.pdf