弁護士自治を考える会

弁護士の懲戒処分を公開しています。大阪弁護士会 橋本太地弁護士の懲戒処分の「議決書」(抜粋)被懲戒者がSNS上に公開したもの

処分理由・SNSで弁護士の品位を欠くツイートを行った。

処分を受けた弁護士氏名 橋本太地 大阪弁護士会
登録番号 49200          
事務所 大阪市中央区内本町2-4-16オフィスポート内本町603

あなたのみかた法律事務所           
処分の内容  戒告     
処分の効力が生じた日 令和3年3月1日  

事 実

3 懲戒事由3について

(1)対象会員は、自己の本名とともに、弁護士及び自己の法律事務所名を括弧書きで表示したツイッターで以下のツイートを発信した。

2019年12月30日午後6時8分『金払わんやつはタヒね』(甲7,1枚目)

2020年3月4日午後10時19分『金払うつもりないなら法律事務所来るな』(甲7,2枚目)

2020年3月25日午後10時3分『弁護士報酬の踏み倒しを撲滅するために何ができるだろうか』(甲7,3枚目)

2020年3月28日午後8時47分『弁護士費用を踏み倒す奴はタヒね』(甲7、4枚目)

2020年4月3日午後0時00分『正規の金が払えないなら法テラス行きなさい』(甲7、5枚目)

2020年4月4日午後9時57分『金払う気ないなら法律事務所来るな!』(甲7、6枚目)

2020年4月5日午後1時49分『金払わない依頼者に殺された弁護士は数知れず』(甲7、6枚目)

(2)これらのツイートに対し、0回乃至10回の「リツイート」あるいは2回ないし69回の「いいねの数」の記録が残っている。

判 断

3懲戒請求事由3について

(1)対象会員のツイッターについての主張

対象会員は、懲戒請求者が非難しているツイートを発信したことは認めているものの、これらのツイートは表現の自由により保障されていること、あるいは弁護士が困窮して倒産し自殺する場合があることからその防止を考えさせる意図に基づくものであった故、懲戒には相当しない旨弁明している。

(2)ツイッターは、基本的には1アカウント=1ユーザー同士が相互に繋がり、個人から投稿されたメッセージ(ツイート)を手軽に配信・取得できるようにするとともに、個々のアカウントのツイートをフォロー(連携の設定)することで、自分の画面(タイムライン)へ、フォローしらアカウントのツイートを表示させることができ、さらにツイートを拡散できるシステムである。このため、手軽な個人メデイアのツールとして、広く世界で月間約4500万人のアクテイブユーザーがいるといわれている。

(3)このことからすると、ツイッターは、承認された利用者間に限ってアクセスできるようにすることも可能ではあるものの、広く個々のツイートを第三者に伝えることが可能なシステムであるといえる(なお、本件アカウントでは非公開の設定はされていないようであり、4600件を超えるフォロー、2700件を超えるフォロワーの記録がある)そうすると、ツイートも表現の自由の保障により保護されているとはいえ、表現を広く外部に発信する以上、第三者とのかかわりを否定できず、その表現内容によっては一定の制限を受けることは避けられないといわざるを得ない。

ツイッターにおいても、この趣旨から「攻撃的・差別的な発言の自由の場を提供しているわけではない」旨を表明しているし、例えば相手方を特定することなく暴力を煽るようなツイートが閉じられたりもしている。

(4)このことに加え、弁護士の場合は、弁護士法第2条で「弁護士は、常に、深い教養と高い品性の陶やに努め・・・・」と規定し、弁護士は、特に道徳面から見た人の性格、すなわち「品性」をより高めるべく、薫陶努力することが必要であるとされ、個々の弁護士において、更に高いところに昇華すべきことが要求されている(条解弁護士法第5版19頁)のであるから、懲戒に相当するか否かを判断する上で、これらの趣旨をも勘案されなければならない。

(5)以上からすると、弁護士は依頼者から適正な報酬を受けることが当然認められているとしても、弁護士費用支払に関する本件ツイートのように「報酬を支払わない者に対し『金払わない奴は来るな』『金払う気がないなら法律事務所に来るな』等記載して法律相談や事件処理を拒んだとしても不当ではない」旨の対象会員の主張を是認することはできない。

報酬を支払わない意図で弁護士を利用するものに対し、法律相談や受任を拒絶できることは認められるべきであるが、本件の如きその拒絶に対する表現は、あまりに短絡的・感情的であり、文言自体の品位・品性も認められない。また法的な問題を抱えるなかで真に弁護士費用が準備でき  ない市民に対しては、弁護士の敷居をより高くしたり、門戸を閉ざしてしまうことにもなりかねない、なお対象会員は、上記ツイートについて、弁護士が困窮して倒産し自殺する場合があることからその防止を考えさせる意図があった旨弁明している、しかし、対象会員は、このような前提事実を確認したわけでもなく、また、対象会員のツイートに関する主張では、後述のとおりツイートは「させずり」に過ぎず、社会への影響はないかのようにいっていることからすると、このようなツイートで困窮する弁護士を救えるはずもないのであるから、本件ツイートを正当化できる弁明とは到底いえない。

また、法テラスの報酬につき、対象会員は、弁護士にとって生きていけないような金額であるから、正規の金額ではないというが、対象会員のこのような意見は、広く法律事務全般に係わる権限を付与された法律専門職としての弁護士あるいはその他の法律専門職に課せられた社会的責任を前提とする法テラスの制度趣旨等をおろそかにするものであり、当該ツイートを正当化する根拠と認めることはできない。

(6)また、対象会員は、本件ツイートで、「死ね」、「殺される」等の表現を用いている。対象会員はこれらの表現に付き、当初は、「タヒね」の記載は「死ね」とは異なるとの弁明をしたが、その後この弁明は撤回されてはいるものの、当委員会への弁明において、自らの苦しい感情を茶化して述べたものとの弁明をしている。しかし、対象会員個人の感情の吐露であったとしても、第三者に対して「死ね」「殺される」等の発信をする合理性は認められず、これまでの反省の弁を文字どおりに受け取ることには疑問が残る。

ツイッターが社会への情報発信における弱者の簡易な情報伝達であるとしても、また個人的な「さえずり」であり、供述の真意性はなかったとしても、さらには発信の対象者が特定の個人に対するものではないとしても、「死ね」「殺される」との言葉の本来の意味するところを無視することはできず、弁護士がこのような言葉を軽々に広く社会に発信する行為は許されるべきではない、なお、このような言葉を使わなくとも、真摯な意見伝達は可能である、従って、本件ツイートを懲戒の対象としても表現の自由に対する抑制効果が生ずるともいえない。

(7)一般社会においてツイッターが広く使われ、あるいはその際に「死ね」、「殺される」等々の過激な言葉が軽い意味合いでかつ安易に使われている風潮が否定できないとしても、これらの風潮を無批判に受け入れ追随することは、弁護士に求められている倫理性からしても認めるべきではない。特に、本件ツイートでは、弁護士名と法律事務所名を表記していることからすると、単なる一個人の「さえずり」に留まらず、世間一般からみると、弁護士としての情報発信ととらえられ、対象会員自身やその法律事務所の品性を損なうのみならず、他の弁護士あるいは弁護士制度に対する社会的評価への悪影響も否定できないといわざるを得ない。

(8)対象会員は本件ツイートが特定の個人(懲戒請求者)を対象にしたツイートでないことから問題とならない旨の主張もしている。しかし本件では懲戒請求者と対象会員との間の着手金返還交渉と本件ツイートの時的近接性からすると、その関係は明確に否定できるものではない。仮に、ツイートの対象者が特定されていないとしても、本件ツイートの公開性からして、対象者が当該ツイートに触れる機会を否定することはできず現に懲戒請求者が目にしているのであるから、対象会員の上記主張を正当なものと認めることはできない。

(9)結論

以上からすると、懲戒請求事由3については、対象会員に経済的な事情やその他の困難な事情、あるいはツイッター等ソーシャル・ネットワーキング・サービスの特性・有用性を勘案するとしても、対象会員の本件ツイートのすべてにつき、弁護士法第56条第1項に定める非行に該当するといわざるを得ない。

(以下略)

日弁連広報誌「自由と正義」8月号(予定)にも処分要旨が掲載されます。大阪弁護士会はツイートを「さえずり」としていますが「つぶやき」とする弁護士会もあります

条解「弁護士法」第5版 日本弁護士連合会調査室

(弁護士の職責の根本基準)

第2条 弁護士は、常に深い教養の保持と高い品性の陶やにつとめ、法令及び法律事務に精通しなければならない。

【1】本条の趣旨

本条は、弁護士法1条に求めた使命を果たすべく、その職責を遂行するに際しての根本基準を定めるものである。

【2】深い教養の保持と高い品性の陶やの努力

1深い教養の保持

ここに「教養」とは単なる学殖、多識をいうものではなく、文化に関する広い知識を身に付けることによって養われるところの精神的豊かさ、たしなみをいうものと解される。

従って、弁護士が職業上必要とされる法律学上の知識を有しているだけでは足りず、政治、経済、社会の各分野はもとより、文学、芸術、科学等の文化生活に必要な各方面にわたって豊かな知識と理解力が必要になるのである。そして弁護士は常時、上記の教養をより深いものにして身に付けるべく努力しなければならないのである。

2 高い品性の陶や

(1)ここに「品性」とは道徳的側面から見た人の性格をいい、弁護士は、その品性をより高めるべく、薫陶努力することが必要なのである、もちろん、天賦の品性は弁護士間で千差万別であるが、本条ではさらに高いところに昇華させることが要求される、そして、弁護士はその職務を行うについて外形的にも内容的にも品性を陶やし、品性を保持すべきことが要求されているというものというべきである。この規定を受けて、弁護士法は、弁護士の品位を保持するため、20条から30条にかけて権利義務に関する定めを置いているが、これらの規定を遵守しさえすれば品性の陶やが完了することになるわけではないのは当然である。更に弁護士会及び日弁連に対して弁護士の品位保持を図るべき職務を負わせる(法31条第1項、45条2項)弁護士に対しても品位を失うべき非行があった時は懲戒を受けることとして(法56条第1項)本条の趣旨を全うすることとしている。