簡単な時系列
平成30年 父親が母親の留守中に当時小1女児を自宅から連れ去る
女児と父親と父親の愛人とその長男と共同生活が始まる
母親 未成年者略取誘拐で警察に刑事告訴 受理⇒不起訴
母親、父親に対し面会交流調停を申立て 父親拒否(母親に監護能力がない、子に虐待と主張)
母親。子の引渡し命令申立
裁判所 保全処分発行 父親無視
裁判所 子の引渡し強制執行(父親拒否 執行できず)
母親、離婚訴訟、間接強制申立
父親 間接強制無視
裁判所 人身保護命令 父親従わず
令和3年3月 母親自力救済(連れ戻し実行)子を連れて帰る
父親、母親らに対し未成年者略取 刑事告訴 (不起訴)
父親、母親(同居親)に対し面会交流調停申立
令和5年 7月 審判 大阪家裁
令和4年(家) 第4✗✗号 面会交流申立事件
審 判
申立人 父親(別居親)
相手方 母親(同居親)
未成年者 女児
主 文
1 相手方は、申立人に対し、 未成年者が中学校を卒業するまで (未成年者が高等学校に進学した場合には、 高等学校を卒業するまで) の間、 各学期の終了時において、 未成年者の通知表の写し (ただし、学校名並びに相手方及び未成年者の住所を特定し得る事項については黒塗りやマスキングをして判読できないようにすることができる。)を送付しなければならない。
2 相手方は、申立人に対し、 毎年、 年2回、 4月及び9月に、 未成年者の近況を撮影した写真を送付しなければならない。
3 手続費用は、各自の負担とする。
理 由
第1 事案の概要
本件は、未成年者の父である申立人が、未成年者の母である相手方に対し、 未成年者と面会交流することを求め、その時期、 方法等を定めるよう申し立てた事案である。
第2 当裁判所の判断
1 認定事実
事実の調査の結果及び当裁判所に顕著な事実によれば、 以下の事実が認められる。
(1)当事者等
申立人と相手方 は、平成18年1月27日に婚姻し、 平成〇年〇月〇日、 未成年者をもうけた。
(2) 同居中の状況及び別居に至る経緯等
ア申立人と相手方は、 平成〇年〇月、自宅を購入し、 未成年者とともに自宅で生活していた。
(略) 主として在宅で仕事をしていた。
イ 同居中の未成年者の監護は、 主として相手方が行い、 申立人は、 相手方の補助として未成年者の監護に関与していた。
エ 申立人は、 相手方が仕事で東京に行っている間の平成30年3月〇日、未成年者を連れて自宅を出て相手方と別居した。 申立人は、 別居の際、 相手方に申立人及び未成年者の住所を知らせなかった。
別居後、申立人と未成年者は、申立人の交際相手であるA女及びA女の長男と生活していたが、 後述のとおり、 令和3年3月〇日、 相手方が、 小学校から帰宅する途中の未成年者を相手方の自宅に連れて帰り、それ以降、 未成年者は相手方と生活している。
(3) 別居後の関連事件の状況等
ア 相手方は、 平成 30 年、 大阪家庭裁判所岸〇支部に、子の監護者の指定及び子の引渡しを求める審判 (平成30年 (家) 1✗✗号、 同第1✗✗号) 並びに子の監護者の仮の指定及び子の仮の引渡しを求める審判前の保全処分 (平成30年 (家口) 第✗✗号) を申し立てた。 同裁判所は、 平成31年2月〇日、未成年者の監護者を相手方と定め、 申立人は 相手方に対し未成年者を引き渡せとの審判 (以下「別件監護者指定審判」 という。)及び未成年者の監護者を相手方と仮に定め、 申立人は相手方に 対し未成年者を仮に引き渡せとの審判 (以下「別件保全審判」という。) をした。
申立人は 別件監護者指定審判及び別件保全審判を不服として大阪高等裁判所に抗告したが (平成31年 (ラ) 第〇号、 同第〇号)、同裁判所は、 令和元年5月〇日、 いずれについても抗告を棄却する決定をし、別件監護者指定審判及び別件保全審判はいずれも確定した。
イ相手方は、 別件保全審判を債務名義として、大阪家庭裁判所〇支部に未成年者の引渡しの強制執行を申し立て、 平成31年3月〇日、 未成年者の引渡執行が実施されたが、 未成年者が執行官に対し、申立人から相手方に引き渡されることを拒絶したため、執行不能により終了した。 その際、申立人は、未成年者に対し、 行かなくてもよいなどと言った。
ウ相手方は、 別件保全審判を債務名義として、 大阪家庭裁判所〇支部に間接強制の申立て (平成31年 (家口) 第〇号) をし、 同裁判所は、令和元年7月〇日、 申立人は、 相手方に対し、 決定送達の日から1週間以内に未成年者を引き渡せ、申立人が上記義務を履行しないときは、 上記期間経過の翌日から履行済みまで1日に付き1万円の割合による金員を支払え、との決定をした。 申立人は上記決定を不服として、 大阪高等裁判所に執行抗告を申し立て たが(令和元年 (ラ) 第〇号) 同裁判所は、 同年9月〇日、 執行 第997号)、同裁判所は、同年9月20日、執行抗告を棄却し、上記決定は確定した。
I 相手方は、別件監護者指定審判を債務名義として、 大阪家庭裁判所〇部に、 未成年者の引渡しの強制執行を申し立て、 令和元年7月〇日、 未成年者の引渡執行が実施されたが、 未成年者が執行官に対し、申立人から相手方に引き渡されることを拒絶したため、 執行不能により終了し た。
上記執行の際、 申立人は、 相手方の 「パパにも会えるんだよ。 学校にも連絡してる。」 との発言の直後に、 未成年者に 「だまされたらあかんで。」との発言をし、その後も 「行かなくていいから大丈夫。」などの発言をした。
また、令和2年3月〇日及び同月〇日、 未成年者の任意の引渡しが試みられたが、 相手方に未成年者を引渡すことはできなかった。
オ 相手方は、 令和元年、 〇〇地方裁判所に、 未成年者について、 人身保護請求訴訟(和元年 (人) 第〇号) を提起し、同裁判所は、令和2年6月〇日、申立人に対し、 相手方に未成年者を引き渡すことを命じる判決をした。 その後、同判決は確定したが、 未成年者の引渡しはされなかった。
力 相手方は、 令和3年3月〇日、小学校から帰宅する途中の未成年者を相手方肩書地の自宅に連れて帰った。
キ申立人は、 相手方に対し、 令和3年9月、 〇〇家庭裁判所に、子の監護者の変更及び子の引渡しを求める審判 (令和3年 (家) 第〇号、同第〇号)並びに子の監護者の仮の変更及び仮の引渡しを求める審判前の保全処分 (令和3年 (家口)〇号、 以下上記各審判事件と併せて 「別件監護者変更事件等」という。)を申し立てたが、 令和4年5月、 別件監護者変更事件等をいずれも取り下げた。
別件監護者変更事件等において、申立人は、 探偵社作成の調査報告書を提出した。 上記調査報告書は、 探偵社が、 令和3年4月〇日から同年7月〇日の間、 相手方自宅をほぼ24時間監視して作成したものであった。
令和3年10月〇日、 大阪家庭裁判所〇支部は、申立人は、 相手方に対し、 未払婚姻費用21万6813円及び令和3年10月から当事者の離婚又は別居状態の解消まで月額4万円を支払えとの審判をし、 同審判はその後確定した。 申立人は、令和5年6月〇日、 上記婚姻費用を支払った。
令和4年11月〇日、 大阪家庭裁判所〇支部は、 相手方と申立人間の離婚等請求事件、予備的慰謝料等請求反訴事件 (平成31年 (家ホ) 第〇号、 令和2年 (家ホ) 第〇号) について、 相手方と申立人を離婚する、未成年者の親権者を相手方と定める、 申立人は未成年者の養育費として1か月4万円を毎月末日限り支払え、 申立人は相手方に対し、 財産分与 として〇〇万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで3分の遅延損害金を支払えとの判決をした。 同判決に対し、申立人は控訴、 相手方は附帯控訴し、控訴事件は現在大阪高等裁判所に係属中である。.:
(4) 関連事件における家庭裁判所の調査結果
( 調査官調査、学校の担任の調書)略
(5) 申立人及び相手方の意向
ア申立人は、 愛人Aとの関係は解消されており、 速やかに直接的な面会交流が実施されるべきであるとの意向である。
イ 相手方は、 直接的な面会交流はもちろん、手紙や物品の交付もやめて欲しいとの意向である。
(6) 現在の未成年者の状況及び面会交流の状況
ア 未成年者は、 現在も、 相手方と相手方肩書地で居住している。 令和4年の新学期から小学校に通えるようになり、現在も毎日通学している。 学業にも積極的に取り組んでいるとともに、 友達もでき、 相互に遊びに行く等、 問題なく学校生活を送っている。
未成年者は、裁判所の調査官の調査は受けたくない、 今は申立人のことを考えたくないし思い出したくない、 申立人と会うことはできない、この先申立人と会いたいという気持ちが出てきたら自分で伝えるとの文書を提出している (乙10)。
イ 相手方が未成年者と生活するようになった平成3年3月〇日以降、 申立人と未成年との直接面会交流は全く実施されていない。 申立人は、令和3年3月から同年7月まで、 未成年者に対し、 複数回、 手紙や物品を送付した。相手方は、未成年者にその旨を伝えたが、 未成年者は、受領を希望しなかったため、 受領していない。 申立人から未成年者への手紙は、申立人の近況報告等とともに、 未成年者に会いたい、 会えると信じている、 未成年者と離れてつらい、 未成年者からの返事を待っている、 といった内容であった。 また、 物品は、 申立人と未成年者との生活に因む本、 申立人の声が入った目覚まし時計等であった。
検 討
ウ. 相手方においては、 未成年者に対する調査及び試験的面会交流の実施を拒絶しており、いずれも実施されていない。
(1) 面会交流を実施すべきか否かや、 面会交流の具体的内容を定めるに当たっては、これまでの別居親と子との関係や交流の状況、 子の心身の状況、 子の意向及び心情、同居親及び別居親との関係や面会交流についての考え方、面会交流の実施が同居親に与える影響その他一切の事情について、 子の利益を最も優先して考慮して判断すべきである (民法766条1項)。
(2)前記認定事実によれば、 申立人と相手方の間では、申立人が未成年者を連れて自宅を出た平成30年3月以降、 複数の関連事件が係属し、現在でも、離婚等請求控訴事件が大阪高等裁判所に係属しているなど、激しい対立が長期間続いている。 また、 上記関連事件が係属する中、 複数回、 家庭裁判所調査官による未成年者に対する調査が行われ、 未成年者引渡しの強制執行が実施されている。
家庭裁判所調査官の調査、 未成年者の引渡しの強制執行等は、 それ自体、未成年者に大きな精神的負担を与え、 申立人と相手方の激しい対立を認識させるものである。 そして、 強制執行の際の申立人の未成年者に対する発言、 申立人の監護下にあった間、 未成年者が相手方に引き渡されることを拒絶していたことからすると、 申立人においては、未成年者に対し、 相手方の下へ 行くことが申立人の意に沿わないことを強く認識させていたものと認められる。
上記事情に照らすと、 未成年者においては、 長期間、 申立人と相手方との間で葛藤し、精神的に疲弊しているものと推測され、 未成年者が、 相手方との生活を始めて間もない令和3年5月初めころからしばらく登校ができない 状態となったことも、 上記未成年者の精神的な疲弊が一因であると考えられる。
未成年者は、申立人と会うことはできない旨の文書 (乙10)を提出しているが、 同居中の申立人と未成年者との関係は良好であったこと、申立人と同居時には調査官 に対して申立人と暮らしたいと述べていたことに照らすと、 上記文書を作成する際に、 未成年者が、 同居親である相手方の気持ちを配慮した可能性は否定できない。 しかし、 上記のとおり、 未成年者が、長期間、 申立人と相手方との間で葛藤し、 精神的に疲弊していることに照らすと、 未成年者が、 再び葛藤にさらされることを厭い、 現在は申立人と会いたくないとの気持ちを抱くことは十分に考えられる。
また、申立人と未成年者との面会交流を実施するに当たっては、 非監護親である申立人と監護親である相手方との協力関係を築くことが不可欠であるが、相手方は申立人に対し、 強い不信感を有している。 別件監護者審判確定後、申立人が長期間相手方に未成年者を引き渡さず、 婚姻費用審判確定後も1年以上婚姻費用が支払われなかった等の経緯に照らすと、 相手方が申立人に不信感を抱くことは無理からぬところであり、上記協力関係の構築を期待することは極めて困難である。 このような状況下で面会交流を実施した場合には、未成年者は、 再び葛藤に陥りやすいといわざるを得ない。
(3)上記事情に照らし、 当面は、未成年者が申立人と相手方との対立から距離を置くことができるようにすることが、 未成年者の利益に適うものと認められ、その観点から、 面会交流の実施の可否、その具体的方法について検討する。
ア 申立人が未成年者と直接交流をすることは、未成年者を、 再度、 申立人と相手方の間で葛藤させることになり、 相当とはいえない。
イそこで、間接交流の可否及び具体的内容について検討する。令和3年に申立人が送付した手紙の内容が、 未成年者に申立人に会わないことに対する罪悪感を与えるものであったこと、 同年に申立人が送付した物品の多くが、 未成年者に申立人との生活を想起させようとするものであったことに照らすと、 手紙やプレゼントの交付は、 未成年者を再度葛藤
に陥らせる可能性が高く、 現段階では適切とは言えない。
他方、申立人が、 未成年者の成長や現状を把握することは、 将来的な交流や親子関係の構築に資するものであるといえるから、 相手方及び未成年者の負担その他本件記録に現れた一切の事情を考慮すると、 相手方に対し、未成年者が学校に在学る間、 各学期の終了時において、 未成年者の通知表の写しを送付し、 年2回、 未成年者の写真を申立人に送付する間接交流を認めるのが相当である。 なお、 相手方は、住所を非開示としていたが、現住所である肩書地を申立人に知られていることから、 非開示対象か ら除外したものであり、 現在通学している学校名や、 今後転居した際には住所を知らせないとしても、本件の経緯からすればそれもやむを得ないといえるから、 通知表の写しを送付するにあたって、 相手方及び未成年者の住所を特定し得る事項については黒塗りやマスキングをして判読できないようにすることを認めるべきである。
よって、 主文のとおり審判する。
令和5年7月31日 大阪家庭裁判所〇支部 裁判官