共同親権法案は法務省案で決定されたようですが、それまでにいろいろな問題が論議されました。議論の中身はあまり公開されていませんので公表いたします。
法務省法制審議会で家族に関わる制度見直しの議論が進められている。この制度が実現した場合、日本の社会はどのように変質するのか。日本の家族が危ない
麗澤大学客員教授 高橋史朗

「連載」 日本を取り戻す教育 第70回 

子どもの連れ去りを合法化してよいのか?ー中間試案と新提案の是非を問うー

法務大臣の諮問に基づき、父母の離婚に伴う子の養育の在り方を検討するため。昨年3月に設置された法務省法制審議会家族法法制部会が、今夏に「中間試案」として公表予定の制度提案には、日本の家族制度を根底から破壊するおそれのある内容が含まれている。

この制度提案に含まれる問題点を審議する「民間法制審議会家族法制部会」が4月26日に発足し、「子どもの最善の利益を図るというチルドレン・ファーストの観点から、実態に即した検討」を行って「子の利益になる」制度案を5月31日に高市政調会長に提出し記者会見を行った。

私は同審議会委員として「中間試案の懸念事項」を提出したが法務省法制審議会家族法制部会の第13回会議に提出された部会資料に見られる

新制度案には、以下の問題点がある。

(1)見せかけの共同親権制導入(父母の合意を前提とする選択制共同親権創設)

(2)離婚後共同監護の禁止(親権の要素から監護権を除外・離婚後単独親権制に代わる離婚後単独親権制に代わる離婚後単独監護権制の創設)

(3)監護権をはく奪た親から親権をはく奪する現行の裁判運用の制度化(継続性の原則の制度化)

(4)実子誘拐の合法化(親権の要素から居所指定権を除外)

(5)第三者による親子関係制限(子の代理人制度創設)

(6)親権・監護権をはく奪された親から養育費を強制徴収するための「未成年子扶養請求権」の創設

(7)婚姻中の単独親権制復活(親権の最重要要素である監護権を婚姻中から単独で父母の一方が獲得できることを制度化)

(8)現に関係が断絶されている親子の救済措置の欠如

 

新制度がもたらす社会とは 

この制度が実現すれば、一体どのような社会変化がもたされるのか。従来、婚姻中に子を一方の親が誘拐することで、その親が裁判所において監護者として指定され、離婚後には親権をもう一方の親から奪うことが可能であった。

換言すれば、実子誘拐によって子を物理的に奪われた親は、親権・監護権を有していても事実上、親権・監護権を同時に奪われたと同じ法的取扱いを裁判所などの公権力機関で受けることとなり、結果として実子誘拐を契機として、子との別居を強いられた親は、子と生き別れ状態に陥る実態があった。この提案から法制化されると、このような実態が制度化されることとなる。

ただし従来は、婚姻中。父母の一方による実子誘拐を契機として一方の親の親権がはく奪される仕組みであったが、この制度が実現した後は婚姻中、父母の一方による監護権者指定申請を契機として一方の親の親権がはく奪されることになる。

制度化案は婚姻中の子の父母の一方が監護者として裁判所からの指定を受ければ、監護権に居所指定権が含まれると制度化されることから、監護者となった親が子の居所指定権をはく奪されたもう一方の親の目の前で堂々と子を誘拐しても合法ということになる。加えて、子と別居する親との関係が面会交流支援機関などにより恣意的に制限、断絶される現状があるが、この現状を追認し制度化する「子の代理人」制度が創設されることで、監護権を奪われた親は、子の養育に関われなくなり子と生き別れ状態となったとしても、その状態は合法であり、従って救済されることはない。 

そして監護者の指定において監護実績を重視することが制度化されれば、子の乳幼児期に母親の監護割合が高くならざるを得ないことを踏まえると、従来の親権・監護権争いで不利になることを防ごうと、子の乳幼児期に母親が監護者指定を申請することが常識となりおそれがある。

一度、家庭内で監護者が母親と指定されてしまえば、父母の関係は完全に固定される。監護権を奪われた父親が、子の養育に引き続き関わりたいと願えば、監護者として指定された母親の機嫌を損ねることを控え、絶対的な服従を強いられることとなる。

一方で監護権を奪われた父親に「未成年子扶養義務」が課せられることになるから、母親は「未成年子扶養義務」に基づき父親に対して養育費を支払うよう命ずることが可能となる、つまり婚姻中であっても性別に基づく差別構造が生まれ、妻と夫の関係は、支配と服従の関係になる。そして、その関係は離婚後も継続する。

換言すれば、離婚後には子の父親から親権(監護権)をはく奪し婚姻中には単独で親権(監護権)を有する母親が親権(監護権)をはく奪された父親と子を管理する「家母長制」が事実上誕生するおそれがあり「両性の平等」を謳う憲法第14条の規定に違反する可能性がある。

日本の家族が危ない 

この制度案が実現した折には男性は子を養育するリスクを感じ早晩、結婚することを控えることであろう、これは、日本の「家族制度の崩壊」を意味する。また、この制度提案により、子は父親との関係を制限ないし断絶されることが制度化されることになる。親子の関係を合理的理由なく制限ないし断絶させることは児童虐待であるとの指摘もあるように「子の利益」を侵害するおそれがある。これは児童の権利条約第9条にも違反する。

このような制度提案は「子の利益」を最優先に考慮するよう指示した法制審議会家族法制化部会への諮問趣旨にも反している。さらに婚姻中の親権・監護権の制度設計についてまで提案しており「婚姻に関する問題」にのみ限定して指紋している審議対象を大きく逸脱している。

この制度提案を看過することは日本の将来を担う子どもたちの利益を侵害し、その健全な成長を著しく妨げるだけでなく、戦後、現行憲法の下、「両性の平等」の観点から廃止した「家父長制」を「家母長制」という形で復活させることを認めることに繋がるおそれがある、

この時代錯誤の制度提案は「子の利益」を最優先に考慮し「共同親権(共同監護)」を制度とし導入している世界の趨勢に逆行するものである。

代案を提示した民間同部会案の要点は次の通りである。

第一に原則共同親権制 第二に離婚時の監護者指定の禁止 第三に離婚時にに父母の監護の割合や養育費の額を記載した共同監護計画作成を義務化 第四に親子交流について共同監護計画作成の指針を法制化 第五に子どもの連れ去りの原則禁止、第六に親子交流時の第三者介入は原則禁止、第七にハーグ条約の趣旨に反する国内法の規程削除、第八に児童虐待等により親権喪失、停止となった親に対し、裁判所が親子交流時の第三者介入を命令可能、第九に配偶者暴力の申立てがある場合の対応、第十に改正法施行時に離婚を理由に親権を喪失している親は、親権回復を裁判所に申立てることができる

 

以上 日本の息吹 令和4年7月号

 

民法等の一部を改正する法律案要綱 「自民党法務部会資料」2024年2月

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