「⼦供の拉致国家」の汚名返上を

2020/7/19(⽇) Viewpoint [会員向け] 麗澤⼤学⼤学院特任教授 ⾼橋 史朗

抜本的な制度改⾰が必要 離婚後の「共同親権」を認めよ

欧州連合(EU)欧州議会本会議は7⽉8⽇、⽇本での親による⼦供の連れ去りから⽣じる⼦供の健康や幸福への影響について懸念を表明し、⽇本政府に対して、ハーグ条約を履⾏し、「共同親権」を認めるよう国内法の改正を促す決議を採択した。昨年3⽉、国連の児童の権利委員会も⽇本政府に対して、離婚後の親⼦関係に関する法律を、「⼦供の最善の利益」に合致する場合に「共同養育権」を⾏使できるように改めるよう勧告した。

児童の権利条約第9条には、「⼦供がその⽗⺟から、その⽗⺟の意思に反し、切り離されてはならない」と明記されているが、わが国では、親⼦が交流する権利が侵害され続けている。弁護⼠のアドバイスによる、⼀⽅の親による⼦供の連れ去り、DVシェルターへの切り離しの推奨が蔓延(まんえん)している。

保障すべき「⾯会交流」
この⾏為は刑法第224条の「未成年者略取誘拐罪」に該当することが、昨年11⽉27⽇の衆議院法務委員会で、森法相によって確認されている。しかし、⼀⽅の⽗⺟による最初の連れ去り、切り離し⾏為にこの刑法が適⽤され、警察が刑事事件として適正に捜査を⾏うことはほとんどない。欧⽶諸国では、離婚後も⼦供が両親との関係を維持することが「⼦供の最善の利益」の保障につながるという実証的知⾒を蓄積している。諸外国では国が「共同親権」と「⾯会交流」を保障しており、離婚後、単独親権しか選択でき
ないのは、⽇本、インド、トルコ等にすぎない。
⽇本では⼀⽅の親を養育から排除する「排他的単独親権・監護権」を⺟親が得ることが多く、この権利に基づいた⼦供の養育費の中から弁護⼠が報酬を得ることを禁じていないために、「実⼦誘拐ビジネス」の悪質な利権構造に巣⾷う⼈権派弁護⼠が後を絶たないのである。こうした世界の常識に反する⽇本の異常さが、世界各国から「⼦供の拉致国家」という極めて不名誉な対⽇⾮難の集中砲⽕を招いているのである。
厚⽣労働省の調査によれば、⼦供が⾮監護親と⾯会交流をしている割合は、⺟⼦世帯で30%、⽗⼦世帯で45・5%にすぎない。両親の愛情を等しく受けて成⻑する権利が⼦供にはあるが、⼀⽅の親から引き裂かれることによって、もう⼀⽅の親との愛着形成が奪われ、⾃⼰肯定感の低下、社会的不適応、抑鬱(よくうつ)等の影響があることが、国内外の実証的研究によって明らかになっている。
⽇本の制度を導⼊してきた台湾や韓国では、⽇本よりも先駆的取り組みが実施されている。韓国では、離婚意思確認の申請をし、親教育を受けてから3カ⽉以内に、親権者、主たる養育者、養育費の分担、⾯会交流の実施⽅法を協議しなければ、協議離婚できない法制度になっている。
また、台湾では、中華⺠国⺠法1055条に「フレンドリーペアレント・ルール(善意⽗⺟原則)」を採⽤しており、⽗⺟のどちらが友好的であるかを裁判所に斟酌(しんしゃく)、評価させ、親権を定める判断根拠の⼀つにした。
さらに注⽬されるのは、「親教育の受講を協議離婚の要件」とする、親教育を義務化する国家科学委員会の委託研究が進められており、親教育によって親権者の定め、⾯会交流等の協議と合意形成を⽬指していることである。

離婚後の親教育は、1960年代後半からアメリカで開発され、家庭裁判所を中⼼に導⼊され、現在でも、離婚時に裁判所は親教育プログラムの受講を⽗⺟に義務付け、または強く奨励している。こうした海外の動向に学び、わが国でも各⾃治体が離婚届を渡す際に、親教育プログラムの受講を義務付ける必要があろう。
⾃⺠党⼥性活躍推進本部は官邸に「養育費不払い解消対策本部」を設置し、政府の⾻太の⽅針等に反映させるよう安倍総理に要請したが、「共同養育」「共同親権」「⾯会交流」とセットで議論すべきであり、欧州議会決議をはじめとする世界各国の対⽇⾮難に明確に答える必要がある。ハーグ条約を⾻抜きにした国内実施法の改正と、ハーグ条約と整合性のとれた国内法の制定が必要である。

実⼦誘拐の刑事罰化を⾃国⺠による「拉致」を擁護しながら、北朝鮮に拉致された⽇本⼈を助けてくれと訴えても、⼀体どこの国がまともに取り合うであろうか。各国⼤使との⼗分な意⾒交換を踏まえて、実⼦誘拐の刑事罰化、共同親権制度導⼊(⾯会交流・養育費⽀払いの義務化)、その他の抜本的な制度改⾰に踏み切る決断を総
理に求めたい。( ⾼橋 史朗)