事案番号:2023年 (懲)第9号 神弁発第7858号 2024年3月29日
懲戒請求事案の決定について(通知)
下記事案につき綱紀委員会の議決に基づき、 下記事案について、 懲戒委員会に審査を求めましたので、綱紀委員会及び綱紀手続に関する会規第56条第1項の規定 により、綱紀委員会議決書の抄本を添付して通知します。
本件事案番号:2023年(綱)第11号
神奈川県横須賀市若松町3 プレミア法律事務所
対象弁護士 杉山 程彦 (登録番号37300)
議決書
主 文
対象弁護士につき、懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする。
理 由
第1 事案の概要
対象弁護士は、2020年5月21日、 懲戒請求者との間でA及びB弁護士に対する刑事告訴事件、 B弁護士に対する懲戒請求事件を受任したところ、
①懲戒請求者が同年12月28日、東京地方検察庁特捜部に告訴状を提出する際に、 対象弁護士が懲戒請求者に不利益な発言をしたこと、
②懲戒請求者 の質問に対して対象弁護士が回答を拒絶したこと
③対象弁護士が懲戒請求者に対し、 B弁護士に対する懲戒請求にかかる単位会の議決書をインターネット上に公開しても良いとアドバイスしたことに関し、懲戒請求をした事案である。
第2 懲戒請求事由の要旨
1 対象弁護士の不利益発言
対象弁護士は、 2020年12月28日 懲戒請求者らとともに東京地方検察庁特捜部にA及びB弁護士に対する刑事告訴状を提出する際、 東京地方 検察庁の担当者に対して、散々怒鳴り散らした挙句 「何が何でも、どうしても起訴したいわけじゃないけど」 などと懲戒請求者に不利益となるような発言をした。 このことは、 弁護士法56条1項の 「品位を失うべき非行」にあたる。
2 懲戒請求者からの質問への回答拒否
上記1の発言に関し、懲戒請求者は、対象弁護士に対して、当該不利益発言をした理由を問い質したが、 対象弁護士は理由を回答しなかった。
また対象弁護士が、懲戒請求者に対し、 2021年1月23日、メールに て、刑事告訴については告訴状の提出をもって懲戒請求者との契約上の義務を果たした旨の説明をしたのに対し、 懲戒請求者は、 対象弁護士に対し、同 年2月11日、委任事項や委任内容の確認、疑問点に関する回答を求める旨や、 B弁護士に対する懲戒請求事件の手続きが相当期間内に終わらないことへの日弁連に対する異議申立や検察庁に提出した告訴状等の送付に関する要望等を記載したメールを送付したものの、 対象弁護士は返答しなかった。 そのため、懲戒請求者は、対象弁護士に対し、 同年2月26日、 適切な対応を求めるメールを送信したところ、 対象弁護士は、 同年3月15日、 懲戒請求者に対して電話連絡をしてきたものの、懲戒請求者の質問などに明確に回答 しなかった。
さらには懲戒請求者が対象弁護士に対し、2022年10月20日、懲戒に関する決定に関しての法的手続きについて質問したが、 対象弁護士は、「世論に訴えるくらいしかないと思います。」 との不適切な回答をし、その後も懲戒請求者が、 その理由等について質問したが、 2023年1月19日まで 何ら回答がなされず、 同日、今後は懲戒請求者からの質問は一切回答しない旨の回答がなされた。 このことは委任契約上の説明義務を自ら否定するものであり、 債務不履行に該当するため、 弁護士法56条1項の「品位を失うべ き非行」にあたる。
3 懲戒請求の決定のネット上の公開の助言
対象弁護士が、 懲戒請求者に対し、第一東京弁護士会の懲戒請求の決定 (以下「本件第一東京弁護士会の決定」 という。)についてネット上に公開しても良い旨、 助言したことは、 非公開の手続きである懲戒請求手続きを冒涜するものであるとともに、 懲戒請求者に対して懲戒請求の決定書の公開という名誉毀損やプライバシー侵害により訴追される危険性のある行為を推奨し、 誘引しているものであることから弁護士法56条1項の「品位を失うべき非 行」にあたる。
第3 対象弁護士の弁明の要旨
1 懲戒請求事由の要旨1について
東京地方検察庁特捜部に告訴状を提出する際、 同行した支援者の4名がヒートアップしてしまい、 対象弁護士の役割としてなだめ役を担ったものであるから、その状況下で必要な発言であった。
その発言の趣旨は、本件については犯罪が成立しないということはないと確信していたが、 法の解釈で犯罪の成立が困難という場合にまで、 起訴したいわけではないというものである。 すなわち、 法を曲げてまで起訴を望まないという趣旨での発言であり、懲戒請求者に不利益な発言をしたものではない。
2懲戒請求事由の要旨2について
本件の受任の内容は、懲戒請求事件及び刑事告訴事件であるところ、 懲戒請求事件は前任の受任弁護士からの引き継ぎ案件であり、補充の書面提出、 資料の提出を行っている。 受任の範囲としては、単位会に対する懲戒請求であるが、日弁連に対する異議申立ても行っている
刑事告訴事件についても所轄の警察署に2~3回赴いて告訴状を受理するよう活動し、東京地方検察庁に対しても告訴状及び資料を提出して受理されている。 不起訴処分に対しても検察審査会に対する申立ても行っている。 いずれも当該手続きを行えば契約としては終了である。またいずれの事件も相当な骨をおっており、精神的に相当疲弊するものであって、回答が遅れることもやむを得ない。
3 懲戒請求事由の要旨3について
B 弁護士に対する本件第一東京弁護士会の決定は不当であり、世論にその不当性を訴える必要があると思って助言した。 ネットに上げるにあたっても、 名誉・プライバシーに配慮してマスキングするよう助言している。 また結局、本件第一東京弁護士会の決定はネット上で公開されていない。
さらには2023年3月28日で当会から戒告処分を受けた事案と本件は 事案が異なる。
第4 証拠
(省略)
第5 当委員会の認定した事実及び判断
1 懲戒請求事由1について (対象弁護士の不利益発言)
対象弁護士は、「何が何でも、どうしても起訴したいわけじゃないけど」 と発言したことについて、 弁明書において積極的に否定しておらず、 甲2の1でも、当該発言について対象弁護士が否定していないことからすれば、対象弁護士においてが当該発言をしたことは認められる。 なお、 怒鳴り散らしていた事実については、 程度の問題でもあり、当該事実まで認められる証拠はない。
しかし、対象弁護士は、懲戒請求者に対し、「誤解させて申し訳ございま せん。従前の判例とちゃんと比較すれば。 犯罪不成立はありえないと確信を持った上でこのように発言しました。」と謝罪している(甲2の1、乙2の2)。
また、対象弁護士は、 当該発言の理由として懲戒請求者の支援者とともに、 検察庁に抗議する際、 支援者らがかなりヒートアップしてしまい、なだめ役として、本件については犯罪が成立しないということはないと確信していたが、法の解釈で犯罪の成立が困難という場合にまで、 起訴したいわけではな いという趣旨の発言をしたこと、 法を曲げてまで起訴を望まないという趣旨での発言であり、懲戒請求者に不利益な発言をしたものではないことを説明している (対象弁護士の審尋)。
さらには、甲5及び甲2の7のメールの内容からすると、本件告訴により 検察庁によって捜査が行われたことが認められる。
とすれば、 検察庁に告訴状を提出する際に上記発言をすることは不用意であることは否めないものの、 対象弁護士がかかる発言をしたのは告訴状の受理に向けた行動の一環であったとしていること、懲戒請求者からの抗議に対 して、対象弁護士が率直に謝罪をしていること、本件では告訴状が結果的に検察庁に受理され、捜査が開始されていることなどを勘案すると、 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」 にあたらないというべきである。
2 懲戒請求事由2について (対象弁護士による懲戒請求者からの質問への回答
拒否について
(1)不利益発言の理由の回答について
対象弁護士は、上記第5.1のとおり、不利益発言における懲戒請求者からの抗議に対し、 「誤解させて申し訳ございません。 従前の判例とちゃんと 比較すれば。 犯罪不成立はありえないと確信を持った上でこのような発言しました。」と回答しているところ (甲2の1)、確かに、懲戒請求者が、 対象弁護士の発言の 「理由」を問うているのに対し、明確な回答にはなっていな い。しかし、対象弁護士は、素直に謝罪するとともに、 「誤解」 である旨説明しているのであり、これを当該不利益発言が真意ではなく、 告訴状を検察庁 に受理してもらうための行動の一環であったとの説明ととらえることも可能である。
したがって、 対象弁護士の発言に関する「理由」の回答については不十分だったことは否めないものの、素直に謝罪し、一応の説明をしていることから、弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」 にはあたらない。
(2) その他問い合わせ事項の回答について
懲戒請求者は、 対象弁護士に対し、 【2020年12月29日付け、 20 21年1月6日付け、同月23日付けメール】にて、 B弁護士に対する懲戒請求の経過報告を求めるとともに、2021年2月3日までに何らかの動き がない場合には、 日弁連に相当期間に終わらないことについての異議申立書を提出すること (甲2の1、3、4)を求めている
これに対し、 対象弁護士は、 同年1月23日付けメールにて、懲戒請求に 関する通知がないことを報告しているものの (甲204) 異議申立書の提出について回答したという事実は証拠上認められず、相当期間に終わらないことに対する異議を申し立てた事実も認められない。
また、懲戒請求者は、 対象弁護士に対し、 【2021年1月13日付け、 同年2月11日付けメール】にて、 検察庁に提出した告訴状 資料の変更後のPDFファイルの送付依頼をしている(甲2の3の1、甲2の5)。
これに対し、対象弁護士が依頼されたPDFファイルを送付した事実は証拠上認められない。
さらに、懲戒請求者は、 対象弁護士に対し、【2021年2月11日付けメール】にて、 対象弁護士が検察庁に告訴事件の進捗確認のために赴いたこと、その対応に関して最高検察庁に苦情申し入れをしたことに関し、懲戒請求者の事前承諾なく赴き、 独断で行ったことに対する理由の説明、 事前に相 談すべきであるとする依頼、 日弁連に対するBに対する懲戒請求に関する異議申立書の提出依頼 (甲2の5)をしている。
これに対し、対象弁護士は、2021年3月15日、電話にて懲戒請求者 に連絡したが、 対象弁護士がこれらの懲戒請求者の依頼に明確に回答したと までは証拠上認められない。
したがって、これら各点に関する対象弁護士の対応は不誠実な対応であっ たことは否めない。
しかし、2021年3月15日の後は、上記各問い合わせに対し、懲戒請求者から更なる問い合わせがなされていないことからすれば、 対象弁護士は、 同日の電話で何らかの回答をしているものと解され、その回答までの期間も 1~2か月程度であるから長期間の放置とまではいえないこと、 日弁連に対する相当期間異議申立についても、 単位会における綱紀委員会の判断を促進させる意味合いであり必要不可欠の事項とはいえないこと (結局、第一東京 弁護士会より2022年4月15日に議決が出ている。 甲7)、対象弁護士 による検察庁への状況確認・最高検察庁への苦情申立ては代理人の権限の範囲内であり、懲戒請求者に不利益が及ぶ可能性があるものとは解されないから、その事前の承諾が必要な事項とは思われないこと、告訴状等に関しPDFファイルは送付されていないものの、告訴状は受理され、 刑事事件の捜査も行われており (甲2の7、 甲5) 刑事告訴事件について契約の本質的な部分については履行されていることなどからすれば、 対象弁護士の行為は、 未だ弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」 にはあたらないといえる。 (3)2022年10月以降の問い合わせ事項の回答について
2022年10月20日、 B弁護士に対する懲戒請求に関する本件第一東京弁護士会の決定がなされたのに対して、懲戒請求者が対象弁護士に法的な手続きについて質問したのに対し、 対象弁護士は 「世論に訴えるくらいしかないと思います」と回答をした(甲6)。
また懲戒請求者が同月21日、 法的手続手段について問い合わせたところ、 対象弁護士は同月28日、「訴えることはできますが、おそらく不毛な裁判になると思います」と回答した(甲6)。
懲戒請求者が「不毛な裁判」になる理由と根拠を対象弁護士に質問したところ、同年11月9日、 対象弁護士は 「訴えても裁判所は弁護士会の見解を支持して負けます」と回答した (甲2の9、 甲6)
更に懲戒請求者は、 対象弁護士に対し、 同月10日、 「弁護士会の見解を指示する理由、根拠」 を質問したのに対し、 対象弁護士は、 2023年1月 19日、 「弁護士会の論旨をなぞって、負け判決になると思います」と回答した(甲2の9 甲6)。
懲戒請求者は2023年1月21日、 対象弁護士にB弁護士への働きかけを調べたうえ理由と根拠を質問したのに対し、 同日、対象弁護士は懲戒請求者に対し、当該調査は受任外であることを付言したうえ、損害賠償請求をすることが考えられるが、 消滅時効期間が経過している旨を説明し、今後の懲戒請求者からの質問には一切回答しない旨を伝えた (甲2の9、10、 甲6)。
この点、 対象弁護士は、 本件第一東京弁護士会の決定に対する異議申立書を2022年9月23日に提出したところ(甲4)、既に当該懲戒請求の対象弁護士であるB弁護士が弁護士登録を抹消したことから、 異議申立てが受理されなかったことがうかがわれる (甲6)。
これについて懲戒請求者は同年10月2日に何か手だてがないかを対象弁護士に問い合わせ、 それに対し、 対象弁護士は調査を行い、当該第一東京弁護士会の見解も調査していることがうかがわれる(甲6)。
そのうえで対象弁護士は同月20日に「世論に訴えるくらいしかないと思います」と回答し、 同月28日に 「不毛な裁判」 との表現で訴訟の見通しが困難であることを回答して、その理由として同年11月9日に「訴えても裁判所は弁護士会の見解を支持して負けます」 と1か月内のうちに説明しているのであって、委任契約上の説明義務を一応果たしているといえる。したがって未だ弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」にはあたらない。
懲戒請求事由3について
対象弁護士は、 2022年7月17日付けのメールにて懲戒請求者に対し、 B 弁護士に対する懲戒に関する本件第一東京弁護士会の決定 (甲7) について、「懲戒決定が届きました。 予想されたとはいえひどい、そして程度の低い決定です。 B弁護士が受任通知を発送した後だということが全く検討されていません。 日弁連に異議申し立てできますがどうしますか? また、 ネットに さらしてもいう (原文ママ) いいですよ。 ただし、 あなたも含めた登場人物の固有名詞と住所、 場所はマスキングしてください (最後の会長名はマスキングしなくてよいです)」 と助言していることが認められる ( 甲2の8)。
たしかに対象弁護士は公開するにあたって名誉プライバシーにも配慮して人物の固有名詞、住所、場所をマスキングするように助言している。
しかし対象弁護士は、 当会より、 2023年3月28日、 公開に適さない家事事件の審判書を、住所、氏名、 勤務先という限定された範囲だけがマスキングされ、その他の個人情報がマスキングされておらず、 マスキングされなかった部分から容易に個人を特定できる状態でSNS上に公開したことで 戒告処分を受けているところ (甲3) 当該懲戒処分に先立ってなされた「懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする綱紀委員会の決定」(以下 「当会綱紀委員会決定」 という。)は2022年6月23日になされ、同月 28日に通知が対象弁護士に送達されている(丙1)。
とすれば、 対象弁護士は、 上記助言をした2022年 7 月 17 日時点で、 公開に適さない文書を、住所、氏名、勤務先という限定された範囲だけがマスキングされ、その他の個人情報がマスキングされておらず、 マスキングされなかった部分から容易に個人を特定できる状態でネット上に公開することが弁護士法上問題になりうることを認識しているといえる。
前記戒告処分にて対象弁護士が公開した文書は家事事件の審判書であり、 その他周辺事情は本件とは異なるものの、 神奈川県弁護士会では、 「懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決」 は公開しておらず、 神 奈川県弁護士会が相当と認めるときに限り、その結果及び理由の要旨等を公表することができるとされているにすぎない(神奈川県弁護士会綱紀委員会及び綱紀手続に関する会規66条)。 同様に、第一東京弁護士会においても、 同議決については公表が制限されており、 B 弁護士にとっても、懲戒請求されていること自体が好ましくない情報といえ、 本件第一東京弁護士会の決定書は公開に適さない文書ということができる。
しかも、本件で対象弁護士がマスキングを指示したのは登場人物の固有名詞と住所、場所だけにすぎない。
そして、懲戒請求者は本件第一東京弁護士会の決定書を第三者に提供しており (3) 第三者が管理するWEBサイトに掲載されているとともに、 B弁護士が実名で掲載されているところ、直接的にWEBサイトに掲載したのは第三者ではあるが、 懲戒請求者も、共同不法行為者として、名誉毀損等で損害賠償請求される危険性は現実化しているといえる。
したがって、 本件では、対象弁護士が直接、本件第一東京弁護士会の決定書を公開しようとしたものではなく、 公開を助言したという間接的な行為であることを考慮したとしても、本件第一東京弁護士会の決定書につき、 登場人物の固有名詞と住所、 場所だけをマスキングしてネット上に公開してもいいと助言したことは、弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」 にあたると認められる。
以上より、 対象弁護士には弁護士法56条1項に定める品位を失うべき非行があったと認めることができる。
よって主文のとおり議決する。 2024年3月6日 神奈川県弁護士会綱紀委員会第一部会 部会長 記載省略
神奈川県弁護士会がなした懲戒の処分について、同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第1号の規定により公告する。
記
1 処分を受けた弁護士氏名 杉山程彦 登録番号 37300 プレミア法律事務所
2 懲戒の種別 戒告
3 処分の理由の要旨
被懲戒者は、懲戒請求者及びその他の弁護士個人の業務活動に関し、2018年6月から2019年10月の間、ツイッター上で、「誘拐」、「連れ去り」又は「児童虐待」という言葉を用いて誹謗中傷し、また、弁護士が自ら貧困を作り出しているという趣旨の表現をして、他の弁護士の人格を攻撃する投稿をした。
被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第70条及び第71条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。4 処分が効力を生じた日2020年1月23日 2020年7月1日 日本弁護士連合会