ウイキhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E9%82%8A%E5%8B%9D%E5%B7%B1
経歴
中央大学法学部法律学科卒業後、司法試験に合格し、1989年弁護士登録。 修習期は第41期。第一東京弁護士会を経て、2020年現在、大阪弁護士会所属。 2016年、警視庁で講演。東日本大震災のボランティア活動により釜石市長から感謝状を拝領する。 主宰事務所である弁護士法人カイロス総合法律事務所には検察出身の弁護士、警察OBの顧問が複数在籍している。 主な公的経歴として、東京簡易裁判所民事調停委員、東京地方裁判所破産管財人、第一東京弁護士会常議員、法律扶助協会新宿相談センター相談員を歴任、 また、東証2部上場企業である株式会社アクロディアの筆頭大株主(発行済株式の13.62%所有)であり顧問弁護士を務める。 取扱分野は、民事法、刑事法、企業再建法、M&A法、資金調達、スタートアップ支援。 さらに、実業家として不動産、ゴルフ場、法務省管轄のサービサー会社などの経営に参画している。
令和6年4月18日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和5年(ネ)第5562号 損害賠償、 同反訴請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第31785 号、 同令和5年(ワ)第1678号) 口頭弁論終結の日 令和6年2月22日
控訴人 山口三尊
同訴訟代理人弁護士 太田真也(東京)
被控訴人 田邊勝己
(以下「被控訴人田邊」という。)
被控訴人 THE WHY HOW DO COMPANY株式会社 (以下「被控訴人会社」という。)
同代表者代表取締役 田邊勝己
主 文
1 原判決主文1項を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人らは、 控訴人に対し、 連帯して10万円及びこれに対する令和3年11月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支 払え。
(2) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、一審、二審を通じて、 本訴反訴ともに、これを100分し、 その2を控訴人の その1を被控訴人会社の、 その余被控訴人田邊の各負担とする。
3 この判決は、 1項(1)に限り、 仮に執行することができる。
事実及び 理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らは、 控訴人に対し、 連帯して30万円及びこれに対する令和3年
11月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要
1 本訴は、控訴人が、被控訴人会社の株主総会において、被控訴人会社の代表取締役会長である被控訴人田邊が、 被控訴人会社の職務として控訴人の名誉を毀損する発言をしたと主張して、被控訴人田邊に対しては不法行為に基づく損 害賠償として、 被控訴人会社に対しては会社法350条に基づく損害賠償とし て、連帯して30万円 (損害額120万円のうちの一部請求) 及びこれに対す る不法行為の日 (上記発言の日) である令和3年11月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
反訴は、被控訴人田邊が、 控訴人の本訴提起は不当訴訟であり、 応訴を余儀なくされるなどして損害を被ったとして、 控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償として1485万円 (経済的損失1085万円、 慰謝料 300万円、弁護士費用100万円) 及びこれに対する不法行為の日 (本訴提起の日) である 令和3年12月9日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による 遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 原審は、控訴人の本訴請求及び被控訴人田邊の反訴請求をいずれも棄却した
ところ、 控訴人のみがこれを不服として控訴した。
反訴請求については、 当審における審判の対象ではない。
3 前提事業
次のとおり補正するほかは、 原判決3頁5行目から5頁 15行目までに記載 のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決 3頁 25行目から26行目にかけての 「以下のとおり」 及び同行目 の 「及び被告田邊」 をいずれも削り、 26行目の末尾の次に 「株主碓井雅也 (以下「碓井」という。)の質問とそれに対する回答は、次のとおりである。」 を加える。
(2) 原判決4頁2行目の「株主碓井雅也 (以下「碓井」という。)の質問」を 「碓井の質問」と改める。
(3) 原判決 5頁 14行目から15行目にかけての「(以下略)」 を 「非難をされる覚えは一切ありませんし、本当に怖くてしょうがないです。」と改める。 当審における争点
(1) 本件発言が控訴人の名誉を毀損するか ( 争点1)
(2)違法性阻却事由等の有無 (争点2)
(3) 本訴請求に係る損害額(争点3)
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1について
次のとおり補正するほかは、原判決5頁24行目から6頁 25行目までに 記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決 5 頁 25行目の「前記1(2)」 を 「前提事実(2)ウ (補正の上引用す る原判決4頁16行目から5頁 15行目まで)」と改める。
原判決6頁 7行目の「被告田邊に対する恐喝」 を 「被控訴人田邊に対す る恐喝又はこれに類する活動」 と、 8行目の「被告田邊を脅している」 を 「恐喝等、被控訴人田邊を畏怖させる活動をしている」 とそれぞれ改める。 ウ 原判決 6頁10行目の「恐喝という犯罪行為」 を 「恐喝等の犯罪行為等」 と改める。
(2) 争点2について
原判決7頁1行目から8頁16行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(3) 争点3について
原判決8頁18行目から9頁 1行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原判決とは異なり、 控訴人が本件総会における被控訴人田邊の本件発言により社会的評価が低下し名誉を棄損され、被控訴人田邊には違法性 阻却事由が認められないため、 控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、 連帯して10万円及びこれに対する不法行為の日 (本件発言の日) である令和3年11月26日から支払済みまでの年3パーセントの割合による遅延損害金の支 払を求める限度で理由があるが、 その余の請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである
認定事実
次のとおり補正するほかは、 原判決10頁9行目から18頁 14行目までに
記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決11頁16行目の 「91 」 の次に 「92 」 を加える。
(2) 原判決11頁17行目の 「佐藤による」 及び 「 (後記(8)の記事を除く。)」 をいずれも削る。
(3) 原判決11 頁 2 2行目から23行目にかけての 「自己の関与を否定」を削 る。
(4) 原判決11頁24行目から12頁1行目までを次のとおり改める。
「イ令和2年6月頃、 本件サイト及び 「新橋日報」 のサイトには、次の とおり、被控訴人田邊に関する記事が掲載された。 」 と改める。
(5) 原判決12 頁 4行目から5行目にかけての「記事を掲載した。」を「記事 が掲載された。」 と改める。
「記事を掲載した。」を「記事が掲載され (6) 原判決12頁10行目の「記事を掲載した。 」 を 「記事が掲載された。」 と改め、その次に行を改めた上、 「(乙101、102)」を加える
(7) 原判決12頁15行目の「記事を掲載するなどした。 」 を 「記事が掲載さ れた(乙103) 」 と改める。
(8)原判決12頁 20行目の 「原告を擁護する」 を 「控訴人に関する」 と改める。
(9)原判決14頁3行目の「インサイダー情報の漏洩がないか、 」 の次に 「事 実上一体であるならば、 」 を加える。
(10) 原判決14頁 8行目の「令和2年11月21日の次に「同月27日開 催予定の被控訴人会社の定時株主総会の会場での質問に先立ち、回答を求め るべく、」 を加える。
(11) 原判決14頁11行目を次のとおり改める。
「(7) 控訴人らの共同での他社の株主総会における株主提案」
(12)原判決15 頁 13行目の 「佐藤ら」 を 「佐藤ほか (控訴人は含まれていな い。) が被害者であると主張して」 と、 14行目の「佐藤ら」 を 「佐藤ほか」 とそれぞれ改める。
(13) 原判決15頁 15行目から16行目にかけての 「乙117」 を 「乙7、 1 17」 と改める。
(14) 原判決16頁 14行目及び16行目の各 「各社」 をいずれも 「他社」と改 める。
(15) 原判決18 頁 14行目の末尾に行を改めた上、次のとおり加える。
「(9) 本件総会
ア 本件総会には、 質問等をする株主と対面する議長席側に被控訴人田邊 及び篠原ほか被控訴人会社の役員等 10名、 株主側の席に少なくとも8名お り、 株主側と議長席側の間にも3名がいた。
イ 控訴人らは株主提案をしておらず、 佐藤は本件総会には出席しなかっ た
ウ 控訴人は、本件発言の前に、インターネット上の控訴人に対する名誉 棄損に係る発信者情報開示請求訴訟について、 同訴訟の当事者と被控訴人会 社との関係を質問し、 議長である篠原から無関係との回答を受け、 更に質問 や発言をすることはなかった。
被控訴人田邊は、株主側の席にいた碓井及び控訴人を指差ししながら、 本件発言をした。
(以上、 甲3、 乙11、 153の1)」
3 争点(1) (本件発言が控訴人の名誉を毀損するか) について
(1) 判断の枠組み
ある表現が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり (最高裁昭 和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻 8号 1059頁参照) 当該表現が口頭によるものである場合は、一般の聴衆の普通の注意と聞き方を基準として判断することになる。
(2) 前提事実及び認定事実によれば、本件発言が、被控訴人田邊を恐喝したことにより執行猶予中である佐藤とホームページを作るなどして一緒に活動している碓井及び控訴人が「今」、「ここにいること」 が 「怖くてしょうがな い」という内容であること、 本件発言が、 被控訴人田邊による株式の売却が 株価下落の原因になっているのではないかとの碓井の質問とそれに対する議 長である篠原の回答の途中で、被控訴人田邊の 「脅かしですよ。」との発言 に続けてされたこと、 本件発言後も、被控訴人田邊が「本当に怖くてしょうがないです。」と発言したこと (前提事実(2)
イ ウ (補正の上引用する原判 決3頁24行目から5頁 15行目まで)) が認められるほか、本件総会にお いて、本件発言以外に不規則発言はなく、議事が滞ったり乱れたりしたこと もなく、 篠原も、 株主として質問をした碓井及び控訴人も声を荒げることも なかったこと(乙153の1) などが認められる。 上記碓井の質問は、 株価下落という株主としての関心事についてであって、 何ら不合理なものではないにもかかわらず、 被控訴人田邊の本件発言は、 同質問への応答にはならな いものであった。 また、 佐藤による過去の恐喝の事実は、 本件総会の議事 (報告及び議案の決議) と関連がなく、 本件総会に佐藤が出席していないにもか かわらず、被控訴人田邊は、 碓井及び控訴人の名を挙げて本件発言をした。 以上の経緯を踏まえると、 本件発言は、一般の聴衆の普通の注意と聞き方を基準とすれば、 控訴人が、恐喝等 (本件刑事事件)で執行猶予付きの有罪判決を受けている佐藤に加え、 碓井とも一緒に、ホームページを作成するな どして、恐喝等、 被控訴人田邊を畏怖させる行動をしている、ないしはその ような行動をするおそれがあるとの事実を摘示するものであり、控訴人がこ のような違法行為に及ぶ人物であるとの印象を与えるものであるから、控訴人の社会的評価を低下させるといえるので、控訴人の名誉を侵害したという べきである。
本件発言が感情の発露にすぎず、控訴人の名誉を毀損するものではないと の被控訴人らの主張は、感情の発露であるからといって社会的評価の低下が妨げられるものではないから、 採用することができない。
なお、通常、人が社会的評価の低下 (名誉の毀損) を容認することは考え 難く、原判決が指摘するような控訴人においてこれを容認していたと認めるような事情は見当たらない。 むしろ控訴人は、 第三者から、 佐藤とともに恐喝をしているとのインターネット上の記事等により名誉を棄損されたとして、 発信者情報開示請求訴訟を複数提起している (甲4, 13, 38)
4 争点2 (違法性阻却事由等の有無) について
(1)判断の枠組み
事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、 その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、 摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、 上記行為には違法性がなく、 仮に同証明がないときにも、行為者において当該事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、 その故意又は過失は否定される (最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日 第一小法廷判決 民集20巻5号1118頁、 最高裁昭和56年(オ)第25号 同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号 177頁参照)。
(2) 公共性及び目的の公益性について
控訴人のほか、 碓井及び佐藤が控訴人会社の最小株式単位である100株をそれぞれ取得し保有している (認定事実(3)) が、 控訴人会社は上場会社であり(前提事実 (1) (原判決3頁 7行目から15行目まで)) 控訴人ら以外 にも100株のみ保有している株主が多数おり(乙98~100)、 また、 被控訴人田邊による被控訴人会社の株式の売却についてのインターネットサ イトの掲示板への書き込み (認定事実(4))、本件総会に先立つ控訴人による 被控訴人会社への質問 (認定事実(6)) 及び本件総会での株主として質問をし た状況(認定事実(9) ウ) から、 控訴人が、 株主総会を利用するなどして利益を得ようとする、 いわゆる 「総会屋」 あるいは 「特殊株主」 と認めることはできない。
そして、前記3(2)説示のとおり、 本件発言は、本件総会での議事と関連な くされ、 また、前記碓井の株価下落についての株主としての質問の応答にも なっておらず、 株主にとって有益な情報を含むものでもないから、 株主の共通の利益のためにされたものではなく、被控訴人田邊の恐喝された個人的な 経験からくる佐藤への恐れからされたものということができる。 したがって、 本件発言について、 公益性及び目的の公共性があったとは認められない。
(3)真実性・真実相当性について
審理経過に鑑み、 真実性 ・ 真実相当性についても検討し判断しておく。 真実性・真実相当性の証明の対象となる本件発言において摘示された事実 は、前記3 (2) 説示のとおり、 控訴人が、 恐喝等 (本件刑事事件)で執行猶予 付きの有罪判決を受けている佐藤に加え、 碓井とも一緒に、ホームページを 作成するなどして、恐喝等、被控訴人田邊を畏怖させる行動をしている、 ないしはそのような行動をするおそれがあるとの事実である。
認定事実によれば、 佐藤が被控訴人田邊に対する恐喝等 (本件刑事事件) により執行猶予付きの有罪判決を受けたこと (認定事実(1)ア)、佐藤が 「週刊報道サイト」 と題するホームページ (本件サイト)において被控訴人田邊 に関する記事を掲載したこと (認定事実(2)イ。 ただし、 佐藤が 「新橋新報」 に関与していると認めるに足りる証拠はない。) 控訴人が、 佐藤及び碓井と共に 他社の株主総会において株主提案をし、その様子が本件サイトに掲載されるなど、一緒に行動していること (認定事実(7)、 (8)) 認められる。 しかし、上記摘示事実のうち重要な部分は、 控訴人が、 佐藤及び碓井と一 緒に、本件サイトほかホームページを一緒に作成するなどして、恐喝等、 被控訴人田邊を畏怖させる行動をしている、ないしはそのような行動をするお それがあるとの事実である。 控訴人らが共同で行っている他社の株主総会に おける株主提案 (認定事実(7)) については、その提案の内容は、当該会社か ら利益を引き出そうとしたり、誹謗中傷したり、嫌がらせをしたりするよう な不合理なものではないし、 株主としての権利を濫用的に行使しているもの ではない。 そして、本件サイトに掲載された佐藤と一緒に行動している控訴人に関する記事や写真 (認定事実(8)) を併せ考慮しても、恐喝等、被控訴人 田邊を畏怖させる行動をしている、ないしはそのような行動をするおそれが あるとの事実を認めるには足りない (そもそも本件サイトにおける被控訴人 田邊に関する記事は、被控訴人会社の代表者としてのものは少なく、 被控訴 人田邊が佐藤の代理人であった前記みずほ銀行の審査役による巨額詐欺事件 の集団訴訟についてのものか、 被控訴人田邊の弁護士としての活動に関する ものが多い。)。 また、本件サイトの記事に控訴人が佐藤と共に登場してい ることをもって、 控訴人が、ホームページである本件サイトを佐藤と一緒に 作成していると認めることはできないし、何らかの形で作成に関与している と認めるに足りる証拠もない。
以上によれば、 被控訴人田邊が本件発言において摘示した事実が、 その重 要な部分ついて真実であることの証明があったとは認められないし、 被控訴 人田邊において本件発言をした時点で、 同重要な部分を真実であると信じる について相当な理由があったとも認められない。
(4) 小括
よって、 本件発言により控訴人の名誉は毀損され、被控訴人田邊は、不法行為に基づき、 控訴人に対し、 損害賠償責任を負う。 また、本件発言は、 本件総会において被控訴人会社の代表取締役である被控訴人田邊が職務として したものであるから、被控訴人会社は、会社法350条に基づき、控訴人に対し、損害賠償責任を負う。
5 争点(3) (本訴請求に係る損害額) について
本件発言の内容 (前提事実(2) ウ) 及び本件総会の出席者の状況 (認定事実(9) ア)等からすると、 控訴人に生じた損害額については10万円とするのが相当 である。
第4 結論
以上の次第で、 本訴請求は10万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求 める限度で理由があるから、 本訴請求を全部棄却した原判決は相当ではなく、 これを変更することとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第19民事部 裁判長裁判官 脇博人 裁判官 山城司 裁判官 天川博義
東京高等裁判所 これは正本である 令和6年 4月18日