大阪弁護士会会報に懲戒処分の告示が掲載されました。日弁連広報誌『自由と正義』懲戒処分の要旨は8月号の予定です。

報道

弁護士資格をもたない人に相談業務を代行 大阪の弁護士が業務停止3ヵ月の懲戒処分 5月16日関西テレビ

弁護士資格をもたない人に相談業務を代行させたなどとして、 大阪の弁護士が業務停止3カ月の懲戒処分を受けました。 大阪弁護士会によると、リベルタ総合法律事務所の齋藤優貴弁護士(43)は 2019年5月から2020年6月まで、借金の整理などの業務を 自身を含む弁護士が担当するというインターネット広告を出しました。
しかし実際には業務のほとんどを、 誰も弁護士資格を持たない会社に費用を払って代行させ、 約1億5000万円を売り上げていました。 大阪弁護士会はこれが法律で禁じられている、 弁護士資格のない者に法律に関する業務を行わせる、 「非弁提携」の疑いがあると判断し、 齋藤弁護士を3カ月間業務停止の懲戒処分としています。
カンテレhttps://www.fnn.jp/articles/-/700541

 

告 示
本会懲戒委員会委員会の議決に基づき、下記の会員の懲戒をしましたので、本会懲戒手続規程第58条により告示いたします。
   記 
1 懲戒を受けた会員 〒541-0042 大阪市中央区今橋1-7-19 北浜ビルデイング10階 
リベルタ総合法律事務所 
対象会員  斎藤優貴 (登録番号36844) 
2 懲戒処分の内容 対象会員を3か月間の業務停止とする。
3 懲戒処分の理由の要旨 下記のとおり 
4 処分の効力が生じた年月日 令和6年5月16日 
業務停止2024年5月16日~2024年8月15日
2024年(令和6年)5月16日 
大阪弁護士会 会長 大塚裕幸 
懲戒処分の理由の要旨 
第1 事案の概要 
対象会員は、広告代理店業等を目的とするA及び電話対応代行業等を目的とするBからなるグループがインターネット広告により、自らの活動として、弁護士に対する債務整理等の依頼者を獲得し、獲得した依頼者を弁護士に周旋することによって対価を得るという組織的な一連のスキームのもと、債務整理事件等について依頼者の集客ビジネスを行っており、弁護士法第72条の規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者であるにもかかわらず、長期間にわたり、上記グループにおいて行われている集客ビスネスを利用し、債務整理案件等に関する多数の依頼者の周旋を受け、2019年5月から2020年6月に限っても、上記グループから紹介された案件で約1億5622万9660円の売上を上げた。
 以下では、A,BのグループをABGという。 
第2 判断 
1 AとBとの一体性の有無、一体としてみた場合のグループの目的 
対象会員はAとはインターネット広告の製作・運用を委託し、広告費を支払っていたものであり、Bとは電話代行業務ないし受付窓口業務を委託し、業務委託費を支払っていたものに過ぎないと主張し、いずれの会社からも周旋は受けていない旨主張する。
しかし① 両社の代表取締役は同一人(X)であるうえ、本店所在地は同じ住所地となっていること②実際にはYが「会長」としてABG内の運営方針等について意思決定を行い、ABG関係者らに対するメール等によるトップダウンで指示を行っていたこと、YはBの担当社員らに対し、債務整理等事件の相談者からの問合わせ件数に対する仮受任率や仮売上、また仮受任に対する本受任率や本売上について、それぞれ目標設定した上、その達成状況等について随時報告させていたことが認定できる。
これらの事実関係に照らせば、AとBは一つのグループ企業であり、少なくとも本件の債務整理等事件の取組については、実質的には事業者として一体ということができる。
そして、両社を切り離して観察するのではなくグループ企業として一体としてみた場合はこのグループは自らの活動としてインターネット広告を通じて弁護士に対する債務整理等の依頼者を獲得、獲得した依頼者を弁護士に紹介することによって金銭を得るという組織的な一連のもと、債務整理事件についての依頼者の集客ビジネスを行う目的をもっていたとみることができる。
2 弁護士法第72条等違反該当性 
(1)「弁護士情報ウエブサイトへの掲載に関する指針」(以下「指針」という、)の適用 
本件ウエブサイトには、対象会員の氏名又は名称、業務内容、連絡先その他の弁護士等の業務に係る「弁護士情報」が掲載されており、「弁護士情報提供ウエブサイト」に該当する。またAは弁護士情報提供ウエブサイトの開設、運営等をする事業者その他の者といえ、「情報提供事業」に該当する。よって本件ウエブサイトにも、指針の適用はある。
(2)「周旋」
ア 指針によれば、周旋とは「法第72条に規程する周旋であって、依頼を受けて、法律事件の当事者と・・・法律事務をなす者との間に介在し、両者間における委任関係その他の関係を容易ならしめる行為をいう。」と定義されている(指針2(10)。
そして、弁護士情報ウエブサイトにおける紹介と弁護士法第27条及ぶ弁護士職務基本規程第11条との関係に関しては、次に該当するときは、周旋し、又は周旋していると疑うに足りる相当な理由があると認められるものとする、と定めている(指針3(2))。
イ 情報提供事業者から閲覧者又は掲載弁護士に対し、弁護士情報(当該情報に基づき提供される法律事務に関する情報を含む。)に係る連絡・・・を次に掲げる例のような方法で行うとき。
(ア)情報提供事業者が、閲覧者又は掲載弁護士に連絡を行い・・・事件の受任その他の法律事務の提供の勧奨、面接日時の調整、情報の追加的提供等を行うとき
(イ)「情報提供事業者が閲覧者からの相談等の内容を一旦受けて、これを掲載弁護士の選定の用に供するとき」
イ 本件では、対象会員とBとの間で、借入状況・返済状況等のヒアリングシートのデータを共有していたこと、スプレットシートで日々の問い合せ数・問い合わせ状況(いつ携帯の何番の人に電話したか等)を共有していたこと、A・Bとの間で受任件数・売上数も共有していたこと、委任契約書の返送がない人に対してBスタッフが委任契約書等の返送を電話」で催促していたこと(追客・ついきゃく)が認められる。これらの事実関係からすれば、情報提供事業者であるABGは「閲覧者又は掲載弁護士に連絡を行い、事件の受任の勧奨を行っていた」(ア)に該当し周旋を行っていたと認定できる。
またBスタッフは、ヒアリングシートにそって、相談者の借入状況、返済状況、家計の収支、家族構成等の相談の内容を聴き取りして、これを対象会員に提供している。これは「情報提供事業者が、閲覧者からの相談者等の内容を一旦受けて、これを掲載弁護士の選定の用に供するとき」(イ)に該当し、この点でも周旋を行っていたと認定できる。
(3)「報酬目的」
ア 指針によれば報酬目的とは「法第72条に規定する報酬を得る目的をいう。」と定義されている(指針2(11)。)
そして、弁護士情報ウエブサイトにおける紹介と弁護士法第27条及び弁護士職務基本規程第11条との関係に関しては次の事情がある場合は、報酬目的がある、又はあると疑うに足りる相当な理由があると認めらえるものとする。と定めている(指針3(3)ア)(イ)弁護士情報提供ウエブサイトが前号(注:指針3(2))アからエまでいずれかに該当すり場合において情報提供付業者が、当該弁護士情報提供ウエブサイトへの掲載に関し、掲載弁護士から金銭その他の利益を受領するものであるとき
(ウ)情報提供事業者が、当該弁護士情報提供ウエブサイトへの掲載に関し、掲載弁護士から受領する金銭その他の利益について、次に掲げる事情があるとき。
a 掲載弁護士が紹介を受けた事件数に応じて算定される場合
b  掲載弁護士が紹介を受けた事件に係る法律相談、着手金、報酬金、手数料その他の弁護士報酬の額に応じて算定される場合
イ 本件ウエブサイトは、指針3(2)イに該当することは上記の通りであり、対象会員はAに対して広告費を支払っていたこと、Aの広告費やBの業務委託費は、反響数(閲覧者からの連絡先(氏名・電話番号・メールアドレス)の書き込みがあった件数)に応じて取り決められていたことからすれば、ABGには報酬目的がある、又はあると疑うに足りる相当な理由があると認められる。(4)以上を考慮すればABGは、本件のウエブサイトを通じて、報酬を得る目的で、周旋をし、または周旋をしていると疑うに足りる相当の理由があるものと該当するというべきである。
3 弁護士法第72条違反該当性についての対象会員の認識の有無
対象会員は、①AとBの代表者が同一人であり、両者が「連携をとりあい、情報を教諭する」グループ企業であると認識していたこと
②Aから反響数が500件位になると言われ、事務所だけでは対応できないと考えて、Bとの業務委託契約もAとの契約とセットで契約していること、
③債務整理等の業務は本来、弁護士にしか認められていない法律事務であるにもかかわらず、Bには、相談者に対し対象会員の事務所名を名乗らせたうえで相談者の借入状況、返済状況、収支等を聴き取らせ、委任契約書の内容を欠いて委任状の要旨とともに発送させるなど、債務整理等の業務のうちの重要な部分をさせていたこと(相談者は相手が弁護士事務所と信じたからこそ借入状況等の機微情報を伝えたと考えられる。)
④ A、B,対象会員の三者間で、相談者の借入状況等の情報のみならず、問合せ状況・受任状況・売上状況等の情報を共有しただけでなく、Bにおいて委任契約書等の返送がない相談者に対し催促すること(追客)を容認していたこと、
⑤ Aの広告費やBの業務委託費が反響数に応じて取り決められていたこと、
⑥ 広告費及び業務委託費の金額は、対象会員が本件ウエブサイトを通じて受任した事件から得た収益に匹敵するほどの金額であったことなど、三者が一体となって債務整理事件の集客、事務処理を行いABGの収益を極大化さえていたことが認定できる。
対象会員はこれらの事実関係を認識していたのであるからA,B.ABGが弁護士法第72条の規定に違反すると足りる相当な理由がある者であることについての認識はあったといわざるを得ない。 
4 債務整理事件処理の規律を定める規程(以下「処理規定」という、)第3条の抵触の有無 
対象会員によれば、2019年10月から2020年6月の間の面談状況は、資料のとおりであり、この数字は、全ての記録を精査して、また当時のスケジュールデータと突き合わせて確認したものである、という。来所面談率の平均を計算すると、21,17%となる。
処理規定第3条は来所面談を要求しており、対象会員の行為は、この条項に違反することは明らかである。
第3 結論 
以上により対象会員は弁護士法第72条の規定に違反すると疑うに足りる相当の理由がある者から、事件の周旋ないし依頼者の紹介を受けていたといえ、弁護士職務基本規程第11条に違反している。
また、直接の面談をしないで債務整理事件を受任していたのであるから、処理規定第3条にも違反する。これらの会員の行為は、以下の事情を勘案すると、弁護士法第56条第1項に定める弁護士の品位を失うべき非行に該当するというべきである。
2 対象会員に同情すべき情状としては、以下の事情が認められる。
① 2019年5月から2020年6月までの間(14か月間)。以下「本件14か月の期間」という)で売上は1億5622万9660円であるのに対し、業者に支払った金額は1億3980万0480円であり、月あたりにすれば117万3512円となる。(1642万9180円÷14か月=117万3512円)。事務員は3名から4名、平均手取りで1人24~5万円の給料、家賃30万円、勤務弁護士の給料50万円であったとあうれば(額面30万円×3,5人+30万円+50万円=185万円)であり。対象会員のもとには何も残らなかったことになる。
② 本件の契約終了後、Aに対しては5621万円余の債務が残り、うち3926万円を一括で返済すれば残債を免除する旨の和解をし、3926万円を手持金ないし借入をして一括で返済し、Bに対しても1073万円余の残債が残り、一括で返済している。
上記からすれば、対象会員にとっては、ほとんど利益がないにもかかわらず、ABGの計画にうまく利用されたという面は否めない
3 しかし他方で、いかに述べるとおり、非難されるべき事情が認められる
① 本件14か月の期間において、業者側からの紹介された件数は702件に上がり、1億5622万9660万円の売上を上げた。
② 対象会員は業者側が、自らの活動として弁護士に対する債務整理事件の依頼者を獲得し獲得した依頼者を弁護士に周旋することによって対価を得るというっ式的な一連のスキームで利益を追求するという目的を有して接近してきたのに、その目的を看過したまま、安易に、業者側が勧めるままにインターネット広告と電話受付業務をセットで契約し、その収益構造に組み込まれ、結果として、本件14か月の期間だけでも業者側に売上の約90%にあたる約1億4000万円を支払い、かち残債合計約5000万円を支払い、業者側の利益追求を助け、非弁の暗躍を助長し、弁護士の職務の公正と品位を損なう結果となっている。
③ 対象会員には、業者側の利益を助けていた一方で、相談者に対しては法テラスによる援助制度を適切に案内していない。債務整理事件における処理方針決定のための聴き取りを十分に実施していないことが疑われ、また、ABGによる依頼者の個人情報の管理体制に無頓着であったなど、相談者・依頼者の利益を害する行為があった。 
4 よって、主文のとおりの懲戒処分に付するのが相当である。