【処分取消請求訴訟判決文】弁護士法人べリーベスト法律事務所(請求棄却)東京高裁6月28日

弁護士が所属する弁護士会から懲戒処分を受け、不当であると思料した場合日弁連に審査請求を申立てすることができます。日弁連で審査請求が棄却と裁決された場合、行政不服審査法の規定により東京高裁で裁決取消訴訟を提起することができます。

年間約100件ほどの懲戒処分が出て、審査請求で処分が変更になるケースはほぼ年間1件です。さらに裁決取消訴訟で処分取消、変更になった件数は過去1件しか知りません。 

令和4年行ケ第7号 裁決取消請求事件 

原告 弁護士法人べリーベスト法律事務所 

原告 酒井将 

原告 浅野健太郎 

被告 日本弁護士連合会 代理人 藤井直孝(登録番号37920)第二東京) 桐原明子(登録番号36414)第二東京 

主 文 

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。 

事実及び理由 

第1 請求 略 

第2 事実の概要 略

第3 陶裁判所の判断 

1弁護士に対する所属弁護士会及び被告による懲戒の制度は、弁護士自治の自主性や自律性を重んじ、弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の一環として設けられたものである。また、懲戒の可否、程度等の判断においては、懲戒事由の内容、被害の有無や程度、これに対する社会的評価、被処分者に与える影響、弁護士の使命の重要性、職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要である。したがってある事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか、また、該当するとした場合に懲戒するか否か、懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては、弁護士会の合理的な裁量に委ねられているものと解され、弁護士会の裁量権の行使としての懲戒処分は、全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き裁量権の範囲を超え又は裁量権を逸脱してされたと認められる場合に限り、違法となるというべきである(最高裁平成15年(行ヒ)第68号同18年9月14日第一小法廷判決・裁判集民事221号87頁) 

2 争点(1)(本件支払い行為が法27条違反、規程13条第1項に該当するか)について

(1)法72条は、非弁護士【弁護士又は弁護士でない者)が報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を取り扱い、又は周旋をすることを業とすることを禁止し、法27条は、弁護士が、法72条の規定に違反する者から事件の周旋を受けることを禁止している。また、規程13条1項は、弁護士が依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払うことを禁止している、これらの規定の趣旨は、法72条において、厳格な資格要件が設けられた弁護士又は弁護士法人でない者が、自らの利益のために法律事務の取扱い又はその周旋を禁止することにより、十分な専門知識と職業倫理を備えてしる保証のない者が他人の法律紛争に介入することで当事者その他の関係人の利益が損なわれ、ひいては法律秩序が害されることを防止し、法27条、規程13条1項において、事件の周旋を業とする者と弁護士が結託することを禁止することにより、上記のとおりの法72条の趣旨を貫徹しようとすることにあると解される。一方、司法書士は、法72条の特則として、民事事件のうち、訴訟乃至紛争の目的の価額が140万円を超えないものについては所定の研修過程を修了して、司法書士が簡易裁判所における民事訴訟手続、相談、裁判外の和解等について代理することを業とすることを認めているが(法13条1項6号、7号、2号)、この規定の趣旨は、比較的少額の紛争については、弁護士に委任することが困難な場合が少なくない一方、高度な法律知識や能力を必要とする場合は少ないと考えられることに鑑み、国民の利便性の観点から、訴訟ないし紛争の目的の価額が低額のものに限定し、能力担保措置を講じた上で、司法書士にも訴訟代理権限を付与したものであると解される、したがって、司法書士又は司法書士法人であっても司法書士法で代理権限が認められていない140万円超過払案件については法72条にいう「弁護士又は弁護士法人でない者」に該当する。

前提事実のとおり、原告法人は、新宿事務所から反復継続的に140万円超過払事件の引継ぎを受け、新宿事務所に対し1件(貸金業者1社)当たり19万8000円の支払い(本件支払行為)をしていたから、この支払いが依頼者の紹介を受けたことに対する対価の支払いと認められるのであれば、原告法人の行為は法30条の21において準用する規定13条1項違反に該当することになる。

(2)この点に関し前提事実に加えて証拠及び弁論の全趣旨によれば次のとおり事実が認められる。

ア 新宿事務所は過払金返還請求等についてはラジオやテレビに大量の広告を出すことにより集客を行い、最も多い時期には1か月で1万件程度の受任をしていた。新宿事務所は、かつては過払金返還請求事件との契約において、成功報酬の定めを置く一方、司法書士の代理権を超えた場合には、「裁判所に提出する書類等の作成及びその他の書類の作成並びにそれに付随する事務代行の手数料」を1債権者(介入件数)につき19万8000円をする旨の定めを置いていたが、平成26年12月頃までには、このような定めを置かなくなり過払金返還請求事件の依頼者の借入に関する資料の代理取得及び調査について、報酬・実費・手数利用は無料とする旨を定める一方、140万円超過払事件を引きついだ法律事務所から、1件あたり19万8000円の支払いを受けていた。

イ 原告法人は、新宿事務所からの依頼を受けて、平成26年12月25日頃から新宿事務所が受任した140万円超過払事件の引継ぎを受けるようになった。新宿事務所は当時、1か月で1000件以上の140万円超過払事件があり、原告法人が新宿事務所から引き継ぎを受けた件数は1か月で300件程度に上った、

原告法人と新宿事務所は140万円超過払事件の引継ぎに係る基本契約の締結につき協議を重ねた上、原告酒井及び原告浅野が原告法人の代表者として意思決定をして、平成27年4月28日、同月1日付で本件業務委託契約書を作成し、以後の引継ぎ事件について1件当たり19万8000円を支払うとともに、請求時期に関する約定のほかは同内容である平成26年12月25日付業務委託契約書も同時に作成して、引継ぎ済みの事件についても同様に1件当たり19万8000円を新宿事務所に支払った、この支払いについては、依頼者は関知せず、原告法人と新宿事務所との間の取り決めに基づいて行われた。

ウ 本件業務委託契約書2条1号ないし5号に掲げられた業務委託事務の内容の詳細は以下のとおりである。

① 新規依頼表及び法律相談結果データ作成

・お客様の本人確認情報の取得

・取引履歴開示のための必要項目聴取

・個人情報漏洩防止策及び対応方法調査

・お客様属性分析調査

・債権者一覧表の作成

・新宿事務所が法律相談によって取得した情報の納品

・お客様が原告法人に依頼する際に必要な情報の納品

② 各債権者からの取引履歴データ及び証書の引継ぎ

・お客様に対する請求・督促停止を求める文書の送付

・お客様の取引の有無に関する該当確認

・債権届及び取引履歴等の取り寄せ

・受領する債権届及び取引履歴等の郵便物開封作業

・郵便物開封後の債権届及び取引履歴の保管

・債権届及び取引履歴等の電子データの納品

③ 引き直し計算書及び証書データ作成

・債権届及び取引履歴等に基づく借入金額、支払金額の入力 

・債権届及び取引履歴等に基づく取引日の入力

・債権届及び取引履歴等に基づく引き直し計算(法定利息計算)

・債権届及び取引履歴等に基づくOCRシステムによるデータ取り込み

・OCRシステムからのデータ転記

・最終取引日の消滅時効のチェック

・過払金の利息充当計算

・過払金の算定のうるう年計算

・引き直し計算のデータ納品 

④ 裁判所利用書類及び交渉用書類のデータ作成

・裁判籍調査

・当事者目録作成

・過払金返還請求の訴訟物の価額算定

・貼用印紙額の算定

・請求の趣旨及び請求の原因の起案

・添付すべき付属書類の起案

・起案した訴状のデータ納品

⑤ 裁判用書類一式の作成及び訴訟準備支援

・原告法人の指示に基づく訴状(正本・副本・弁護士控え)作成及び納品

・裁判籍調査

・当事者目録作成

・過払金返還請求の訴訟物の価額算定

・貼用印紙額の算定

・提訴用の郵送準備

・代表者事項証明書の取得 

エ 新宿事務所は、平成29年4月1日以降、広告を出すことをやめ、新規の事件を受任しなくなったことから、以後、新宿事務所から原告法人に140万円超過払事件の引継ぎがされることはなくなった。 

平成26年12月25日頃から平成29年3月31日頃までの約2年3か月の間に原告法人が新宿事務所から引継ぎを受けた件数はおおむね1か月で300件程度、合計で7000件ないし8000件程度であった。原告法人が新宿事務所から引継ぎを受けて訴訟を提起した140万円超過払事件の中には判決における認容額が19万8000円を下回るものもあったが、原告法人は新宿事務所からの引継ぎ事件について貸金業者から1件当たり平均360万円程度を回収した。弁護士報酬の額は、訴訟を提起して過払い金を回収した事件については平均して96万円程度、訴訟を提起した事件と提起していない事件を併せると1件当たり80万円程度であった。

(3)本件支払行為は、原告法人と新宿事務所が採用した法形式としては、本件業務委託契約に基づく業務委託料の支払いとして行われたものである。もっとも、本件業務委託契約書に掲げられた委託業務の内容は、前記(2)ウのとおりであり、そのうち実質的には業務委託の性質を有するものは、引継ぎ後に行われる④、⑤の訴状等の作成のみであって、それ以外については実質的には引継ぎ前の業務成果物の買い取りであることは、原告らも自認するところである。業務委託料の支払いと対価関係にあるものとして新宿事務所から原告法人に提供される成果物又は役務は、主に①荷社とのその借入金に関する情報、②借入先から取り寄せた取引履歴等③引き直し計算書等、④、⑤訴状等であるがこのうち③の引き直し計算書等や④、⑤の訴状まどは、定型的な事務作業を行うことで作成可能なmのであり、②の取引履歴等は、①の依頼者とその借入先に関する情報さえ有していれば改めて借入先の会s金業者から取得することも可能なものであるから、これらは、対価を支払う価値がある成果または役務ではないとまではいえないものの、それに見合う対価がさほど高額になるとは考え難いものである、

これに対し①の依頼者とその借入先に関する情報は②ないし⑤の成果物又は役務を利用するのに不可欠の前提となるものである以上、これを取得すれば依頼者の代理人として過払金返還請求することにより業務委託料の支払額を大きく上回る弁護士報酬を得る機会が得られるものであって、新宿事務所からこの情報を取得することは原告法人において対価を支払う対象として中核を成す本質的部分であるといえる。そして①の依頼者と借入先に関する情報の提供は、依頼者と事件の紹介をすることにほかならない。そうすると、本件業務委託契約に基づき支払われる1件あたり19万8000円の業務委託料は、依頼者の紹介を受けたことに対する対価の性質を有すると言わざるを得ない、この業務委託料のうちには②ないし⑤の成果物又は役務の対価が含まれるとしても、それは付随的なものであるというべき、この業務委託料が依頼者の紹介を受けたことに対する対価の性質を有するとの評価を左右しない。

原告らは、依頼者の紹介自体は無償で行われており、紹介を受けた依頼者に関する成果物の譲渡と業務の委託に対する対価として1件当たり19万8000円を支払っていたにすぎないと主張するが、上記のとおり、過払金返還請求をしようとする依頼者とその借入先に関する情報の提供は本件業務委託契約における支払いと対価関係にあるものとして本質的な部分であり、依頼者の紹介と本件業務委託契約に基づく対価の支払いとを切り離して、前者は無償でおこなわれたものであると評価することはできない。

(4)以上によれば本件支払行為は、依頼者の紹介を受けたことの対価の支払いにあたり、法30条の21において準用する法27条違反に該当し、また規程第69条において準用する規程13条1項違反に該当するというべきである。

3 争点(2)(本件懲戒処分をすること及び処分の量定の相当性について 

(1)原告法人は新宿事務所から140万円超過払事件の依頼者の紹介を受けて過払金返還請求を行い新宿事務所に対し1件当たり19万8000円を支払う一方1件あたち平均80万円程度の弁護士報酬を取得し、1件当たり平均60万円程度の収益を得ていたものである

そして新宿事務所は、司法書士に訴訟代理権の権限のない140万円超過払事件についても弁護士に依頼者を紹介して事件を引きつぐことで1件当たり19万8000円の支払いを受けられることを背景に、大量の広告を展開して大規模な集客を継続的に行い、平成26年12月から平成29年3月までの間に延べ7000件ないし8000件に上る140万円超過払事件の依頼者を原告法人に紹介して1件当たり19万8000円の収益を得ていたものである。このような規模・態様で行われた本件支払行為は、その実質においても、法27条の非弁護士との提携の禁止の趣旨及び13条1項の依頼者紹介の対価支払い禁止の趣旨に明らかに抵触するものである。

(2)原告らは、依頼者の利益になる士業協働を実現するために本件支払行為を行ったものであり、原告らの行為は実質的に判断すれば懲戒に値する行為とはいえないと主張する。

しかし、過払金返還請求事件のうちでも、訴訟物ないし紛争の目的の価額が高額な事件については、取引期間が相当程度長くなり、と取引当初の時期の取引履歴が保管されていなかったり、取引を中断している期間があったりして、困難な法律問題を含む事件が多くなることが一般的に想定されるのであって、当事者その他の関係人の利益保護を図る上で、司法書士の代理権限が認める範囲が比較的少額の紛争に限定されておる趣旨を軽視することはできない。

新宿事務所が司法書士には代理権限が認められていない140万円超過払事件を大量に受任し、これを1件当たり19万8000円の対価を得て原告法人に紹介する形で行われた本件支払行為をもって、依頼者の利益になる士業協働の在り方であると評価することはできない。

(3)その他の原告らが斟酌すべき事情として主張するところを考慮に入れても、本件支払行為を行った原告法人及びその意思決定をした原告酒井、原告浅野の行為が、「品位を失うべき非行」に当たり、業務停止3か月の懲戒処分をすることが相当であるとした弁護士会の判断が全く事実の基礎を欠くとはいえないし、社会通念上著しく妥当性を欠くともいえない。したがって、本件懲戒処分が裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してなされたものであるということはできない。

4 争点(3)(本件懲戒処分をすることが憲法22条、31条に違反し無効か)について

5 争点(4)(本件採決に至る懲戒手続きが憲法31条、32条に違反するか)について

6 争点(5)(本件採決に至る懲戒手続きに違法があるか)について

7 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第4特別部 裁判長裁判官 谷口園恵 裁判官 湯川克彦 裁判官 山口和宏

 

過去記事

弁護士法人べリーベスト法律事務所「採決の公告」業務停止6月⇒業務停止3月処分変更要旨2022年1月号