この裁判は原告(妻)が、被告がインターネット上のX(旧Twitter。)に行った投稿によって名誉を棄損及びし名誉感情を侵害され、精神的損害を被ったと主張して、被告にに対し、不法行為に基づき、264万円(慰謝料240万円、弁護士費用24万円)及びこれに対する最終の不法行為日(最終の投稿をした日)である令和5年5月30日から支払い済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払いをを求める事案である。

令和5年ワ15567 民事1部
原告 末永友香梨 代理人 佃克彦
被告 熊丸英治 
裁判官 梶浦義嗣→小津亮太

● 6月21日提訴 ◆ 7月8日不奏功 ◆ 7月24日不奏功 ◆ 7月31日付郵便上申
★ 9月4日 第一回
★ 9月20日13時15分判決 取消
★ 令和6年7月29日 結審
★ 令和6年8月7日判決

訴 状

第1 請求の趣旨
一 被告は原告に対し、金264万円及びこれに対する令和5年5月30日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。

第2 請求の原因
一 当事者
1 原告は、愛知県議会議員末永啓の配偶者であり、現在、東京家庭裁判所で離婚係争中の者である。
 なお、原告の職業は、参議院議員濱田聡の公設第一秘書である。
2 被告は、令和4年7月10日に行われた第26回参議院議員選挙の福岡選挙区にNHK党(現・政治家女子48党)から立候補したか、落選をした者である。

二 本件各ツイート
 被告は、自身が(EIJI KUMAMARU,@〇〇)を有しているツイッターにおいて、令和5年5月23日から30日にかけて、以下のとおりツイートをした。
 なお、以下に挙げる➀~⑫のツイートを、今後は、順に「➀のツイート」、「②のツイート」・・・「⑫のツイート」という。
➀(5月23日)
 「プライベートなことではないですね。末永友香梨は、末永啓に断らずに子供を連れ去っていますね。末永啓は、親権を放棄していません。」
 ②(同)
 「そんなことありませんね。末永友香梨は、子供を誘拐していると言えますね。世間一般では、実子誘拐という言葉も使われますね。」
 ➂(同)
 「選挙に出ている人に、プライバシーとかないですよ。末永友香梨は、夫婦の子供を一方的に誘拐しています。ご自身で確認されて下さい。斎藤健一郎事務所に来てるでしょ?
 それと、末永友香梨は、勝手に国政調査権を行使しています。罰則はないですが、法律違反ですよ。渡辺〇〇さんに、ご確認下さい。」
 ④(同)
 「末永友香梨の実子誘拐を庇っている人は、犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪に抵触するんじゃないかな?
 (犯人蔵匿等)
 第百三条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を隠匿し、又は隠避させたる者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
 ➄(同)
 「末永友香梨は、実子誘拐をしているんですよ。庇ったら、犯人蔵匿になりませんか?」
 ⑥(5月24日)
 「自分で調べたらどうですか?末永友香梨は、「親による子供の拉致(実子誘拐)をしています。つまり、子供に虐待しているんです。」
 ➆(同)
 「末永友香梨は、子供を誘拐しているんですよ。実子誘拐ですね。
 ⑧(同)
 「マシューさんから反論か来ない。まさか、マシューさん自身がきっかけとなって、末永友香梨の実子誘拐の事実を拡散することになるとは思ってもいなかったんだろう。」
 ➈(同)
 「お2人とも、末永友香梨か子供を誘拐していること、虐待していることに賛同している方ですね。」
 ➉(5月25日)
 「末永友香梨が子供を連れ去って、虐待していることに賛同されている方です。子供への精神的虐待は、刑法の
 『第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する』
 に該当しますね。
 3歳の子供がSОSを発信できるわけないたろ。バカか。」
 ⑪(5月26日)
 「皆さん、濱田総のライブで末永友香梨の子供連れ去り虐待事件のこと、ちゃんと訊いた方がいいですよ。」
 ⑫(5月30日)
 「末永友香梨が、どあほうだったことが分かる。」

三 本件各ツイートの名誉棄損性
1 ➀のツイートは、原告が、夫である啓に無断で子供を連れ去ったとの事実を摘示するものである。
 子を連れ去るとの事実摘示は、原告が略取又は誘拐をしたとの指摘に他ならず、略取も誘拐も刑法上の犯罪なのである、かかる指摘が原告の社会的評価低下させることは明かである。

2 ②のツイートは、原告が子供を誘拐している、と端的に原告が誘拐という刑法上犯罪に当たる行為をしたとの事実摘示をするものであり、これが原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
3 ➂のツイートも、原告が子どもを誘拐しているとの事実摘示であり、原告の社会的評価を低下させるものである。
4 ④のツイートも、「末永友香梨の実子誘拐」との文言により、原告が実子を誘拐したとの事実を摘示しているものであって、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
 その上で、このツイートでは、原告を庇う人が「犯人蔵匿」や「証拠隠滅」の罪に当たる、としているものであり、原告をもって「犯人」であるとしている点において、原告が犯罪行為をしているということを強調しているのであり、名誉棄損としてより悪質である。

5 ➄のツイートも、原告が実子の誘拐をしているとの事実を摘示するとともに、原告を庇う人を「犯人蔵匿」になるとしているものであり、④と同様に原告の名誉を著しく棄損するものである。
6 ⑥のツイートは、原告が実の子を拉致し、誘拐し、かつ虐待しているとの事実摘示をしているものであり、これが原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。 
7 ➆のツイートも、原告か実の子を誘拐したとの事実摘示であり、明かに原告の社会的評価を低下させるものである。 
8 ⑧のツイートも「末永友香梨の実子誘拐の事実」との文言により、原告が実子を誘拐したとの事実を摘示しているのであり、原告の社会的評価を低下させることは明かである。
9 ➈のツイートは、原告が子どもを誘拐し、かつ、虐待しているとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させることは明かである。
10 ➉のツイートは、原告が子供の連れ去りをし、かつ、虐待しているとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を明かに低下させる。
11 ⑪のツイートは、「末永友香梨の子供連れ去り虐待事件」との文言により、原告が子供を連れ去って虐待をしているとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
12 ⑫のツイートは、唐突に原告を「どあほう」と口を極めて罵っているものである。
(一) このツイートは、「末永友香梨が、とあほうだったことが分かる」とだけ述べるものであるところ、かかる表現は、被告が何かについて述べているのかは読者の側には分からないが、何らかの出来事によって原告が「どあほう」であることが分かる、と言っているものであり、何らかの根拠をもって被告か原告について「どあほう」との評価を下した」と一般読者には伝わる。
 とすると、一般読者に対しては、原告が「どあほう」と言われても仕方がないような何らかの非行や失敗を犯したものと伝わってしまうのであり、かかるツイートが原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
(二) またこのツイートは、「どあほう」という抽象的言辞によって原告の人格を否定しているのであり、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものである。

三 違法性阻却事由の不存在
なお念のため述べておくと、原告が我が子を啓の下から連れ去ったという事実はなく、また、虐待をした事実もない。
原告と啓との間には、平成31年生まれの長男がいるか、原告と啓は、原告の仕事先が東京である一方で、啓の仕事先が愛知県であることから、離婚の紛争が生じる前の令和2年春の時点で、原告が長男と東京に住み、啓が県議の職のために愛知県に住むという状態にあったのであり、よって、何をどこからどう言おうと、原告か長男を啓の下から連れ去ったなどという余地は皆無なのである。
 したがって、原告か子を連れ去ったとか誘拐したとか拉致したとか虐待したという被告の➀~⑪のツイートには真実性も真実相当性もなく、よって、被告に免責の余地はない。

四 原告の損害
 被告による上記➀~⑫は、それぞれ原告の社会的評価を低下させるものであり、また、⑫のツイートは原告の名誉感情を侵害するものでもある。
 これらのツイートにより原告の社会的評価の低下による損害及び精神的苦痛を金銭に換算すると、ツイート1つあたり金20万円を下らない。
 また、原告のかかる損害と相当因果関係のある弁護士費用は、ツイート1つあたり2万円を下らない。
 かかる次第で、被告の➀~⑫のツイートという不法行為によって原告に発生した損害は、1通あたり22万円の12通分として、合計264万円を下らない。

五 結論
 よって、原告は被告に対し、被告による本件の各投稿により、不法行為に基づく損害賠償として金264万円及びこれに対する最後の不法行為の日である令和5年5月30日から支払い済まで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める。        以上
 

(判決)主 文

1 被告は、原告に対し、33万円及びこれに対する令和5年5月30日から支払い済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを25分し、その22を原告の、その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は原告に対し、金264万円及びこれに対する令和5年5月30日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
  本件は、原告が、被告がインターネット上のソーシャルネットワーキングサービスであるX(旧Twitter。以下単に「X」という。)に行った投稿によって名誉を棄損及びし名誉感情を侵害され、精神的損害を被ったと主張して、被告にに対し、不法行為に基づき、264万円(慰謝料240万円、弁護士費用24万円)及びこれに対する最終の不法行為日(最終の投稿をした日)である令和5年5月30日から支払い済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払いをを求める事案である。

第3 当裁判所の判断
1 原告は、請求の原因として別紙のとおり述べた。
2 これに対し、被告は、適式の呼び出しを受けながら、第1回口頭弁論(令和5年9月4日午前10時30分)に出頭せず、弁論終結後、裁判官忌避申立及び移送の申立を順次行い(これらに対する各却下決定はいずれも確定している。)、答弁書、訴訟当事者変更申立書などの書面を提出したものの、その後も適式の呼び出し及び口頭弁論期日への出頭の必要性等を記載した裁判所からの事務連絡(令和6年6月11日付)を受けたにもかわらず、本件口頭弁論期日に出頭しない。
3 認定事実及び名誉棄損性等
証拠によれば、別紙請求の原因「一 当事者」及び「二 本件各ツイート」に記載された事実をいずれも認めることができる。
これらの事実によれば、被告がXに行った各投稿(①ないし⑫のツイート。以下「本件各ツイート」という。)は、請求の原因「三 本件各ツイートの名誉棄損性」に記載のとおりの事実を摘示するもの(また、⑫のツイートは、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するもの)と認められる。
4 違法性阻却事由等の有無
 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合において、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、その行為は、違法性を欠き、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、また、真実であることが証明されなくても、行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、その故意又は過失を欠くものとして不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。
 本件において、原告が実子を誘拐していることなど、本件各ツイートが摘示する事実が重要な部分において真実であることの証明はなく、また、被告においてそれが真実であると信じるについ相当な理由があったことを認めるに足りる証拠はない。それゆえ、本件各ツイートについては、公共性・降雨規制の有無にかかわらず、違法性阻却事由等を認めることはできない。
5 損害の額
 本件各ツイートの数、内容、原告と被告の属性その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば、原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたことによる精神的苦痛を慰藉する金額として30万円、弁護士費用として3万円を認めるのが相当である。
6 その他
その他これまでに被告が提出した各書面に記載された内容について、仮に今後主張したとしても、いずれも上記認定・判断を左右しない。
第4 結論
  以上によれば、原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する。

令和6年8月7日判決
  東京地方裁判所民事第1部 裁判官 小津亮太