令和6年12月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
同年(ワ)第15784号 損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日同年10月10日
判 決
原 告 田邊 勝己
(以下「原告田邊」という。」
原 告 THE WHY HOW DO COMPANY RAL
(以下「原告会社」という。)
同代表者代表取締役 田邊 勝己
上記名訴訟代理人弁護士 稲見友之 ・前野元国
被 告 山口三尊
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は、原告田邊に対し、 141万円及びこれに対する令和2年9月28日から支払済みまで3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告会社に対し、 141万円及びこれに対する令和2年9月28日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告らに対し、 被告が主宰するインターネットホームページ「証券非行被害者ボランティアのブログ」において、別紙1記載の謝罪広告を別紙2記載の条件により掲載せよ。
第2事案の概要
本件は、原告らが、被告のブログの記載により原告らの名誉及び原告田邊の名誉感情が違法に侵害されたとして、被告に対し、不法行為に基づき、各自慰謝料141万円及びこれに対する不法行為日である令和2年9月28日から支 払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、 謝罪広告の掲載を求める事案である。
1 前提事实
次の事実は、当事者間に争いがないか、 後掲証拠及び弁論の全趣旨によって 認められる。
(1) ア 原告田邊は、原告会社と顧問弁護士契約を締結している弁護士法人の代表社員であり(乙14) 令和2年12月1日から、原告会社の代表取締役を務めている。
イ 原告会社(旧商号は、株式会社アクロディア) は、 東京証券取引所に上場している株式会社である。
(2) 被告は、令和2年9月28日、自らのブログ 「証券非行被害救済ボランテ ィアのブログ」(以下「本件ブログ」という。)において 「アクロディア ニ千万騙し取られる」と題する別紙3記載の記事(以下「本件記事」という。) を投稿した(甲1)。
本件記事は、「アクロディア自身、 検査キットの材料 がでたとたん、顧問弁護士の田邊勝己が割り当てられたばかりの新株を売り払うという、さぎみたいなことをしている会社です。」との記載(以下「本件記載」という。)を含んでいる。
2 争点
(1) 本件記載による原告らの社会的評価の低下の有無(争点1)
(2) 真実性、相当性の各抗弁の成否 ( 争点2)
(3) 本件記載による原告田邊の名誉感情侵害の有無 (争点3)
(4)損害額及び謝罪広告掲載の可否 ( 争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(本件記載による原告らの社会的評価の低下の有無)について
(原告らの主張)
本件記載は、一般読者に対し、 原告らが結託して、 材料が出たとたんに割り当てられた新株を売り払うという詐欺のような行為をして不当な利益を得ているかの印象を与えるものであるから、原告らの社会的評価を低下させるもので ある。
(被告の主張)
争う。
本件記載は、原告田邊が割り当てられた新株を短期間に売却したことについ て、「まるで詐欺のようだ」 との被告の意見ないし感想を述べたものにすぎず、 原告らの社会的評価を低下させるものではない。
2 争点2(真実性、 相当性の各抗弁の成否)について
(被告の主張)
次のとおり、本件記載の投稿には、真実性、 相当性の各抗弁が成立する。
(1)公共の利害に関する事実及び公益を図る目的
本件記載は、上場会社が発行した新株の処分という公共の利害に関する事 実に係るものである。また、本件記載は、投資家が原告田邊による新株の処分を知らずに原告会社の株式を購入して損失を被ることを防止するという公 益を図る目的で掲載されたものである。
(2)真実性、相当性
本件記載の意見ないし論評が前提とする、株価上昇の材料が出たとたんに 原告田邊が割り当てられたばかりの新株を短期間で売却したとの事実は真実であり、仮にそうでないとしても、 被告は、十分な資料に基づいて、 本件記 載を投稿したのであるから、上記事実を信ずるについて相当の理由があった。
(3)意見ないし論評としての域の逸脱の有無
本件記載は、 自然な感想を述べたものにすぎず、人身攻撃に及ぶものではないから、意見ないし論評としての域を逸脱したものではない。
(原告らの主張)
次のとおり、争う。
(1)公共の利害に関する事実及び公益を図る目的について
本件記載は、被告が、 原告らを恐喝して有罪となった人物を支援するため に悪意をもって掲載したのであるから、 公共の利害に関する事実に係るもの ではないし、公益を図る目的で掲載されたものでもない。
(2) 真実性、相当性について
原告田邊は、原告会社から新株が割り当てられる前から、 原告会社の株式を大量に保有しており、割り当てられたばかりの新株を売り払ったなどといえる状況にはなかった。 また、本件記載にある「売り払う」 とは、全て売っ てしまうという意味であるところ、原告田邊は 割り当てられたばかりの新株を全部売ったことはない。 したがって、本件記載の内容は真実ではなく、被告が、本件記載の内容を真実であると信ずるについて相当な理由もなかっ た。
(3)意見ないし論評としての城の逸脱の有無について
本件記載は、誹謗中傷であって意見ないし論評とはいえず、 仮にそうでないとしても、意見ないし論評の域を逸脱したものである。
3 争点3(本件記載による原告田邊の名誉感情侵害の有無)について
(原告田邊の主張)
本件記載は、原告田邊が詐欺みたいなことをしていると指摘するものであるから、原告田邊の名誉感情を侵害するものである。
(被告の主張)
争う。
4 争点4 (損害額及び謝罪広告掲載の可否)について
(原告らの主張)
本件記載により、 原告らは、風評被害を受け、 原告田邉は、精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料は、各自141万円を下回らない。 また、 原告らにさらなる損害が生じるのを防ぐためには、本件ブログに本件記載に対する謝罪 広告を掲載させる必要がある。
(被告の主張)
争う。
第4 当裁判所の判断。
1 争点1(本件記載による原告らの社会的評価の低下の有無) について
前提事実及び証拠 (甲1) によれば、本件記載は、 原告会社の顧問弁護士で ある原告田邊が、 検査キットの材料が出たとたんに割り当てられたばかりの新株を売り払うという事実を摘示するものであるところ、株価に影響を与え得る 材料が出た後すぐに割り当てられたばかりの新株を売り払うことが法的に問題のある行為とは直ちにはいえないから、かかる行為の摘示自体は、 他人の社会的評価を低下させるものとはいえない。
そして、本件記載が、「アクロディア 二千万騙し取られる」との見出しの下、原告会社が提起した訴訟の内容や進行 を伝えることを主な目的とする記事(本件記事)の中で、 「ただ、」という接続詞に続いて上記訴訟の事案について補足的に感想を述べるものにすぎないことも併せ考慮すると、その表現の当否はさておき、本件記載の中で、上記の摘 示事実について 「さぎみたいなこと」との表現を使って一個人としての否定的な意見が表明されているからといって、 本件記載の意味内容が、原告らの社会 的評価を低下させるとまではいい難く、これに反する原告らの主張は採用する ことができない。
2 争点2(真実性、 相当性の各抗弁の成否)について
(1)公共の利害に関する事実及び公益を図る目的について
前提事実、証拠 (甲1) 及び弁論の全趣旨によれば、本件記載の投稿は、上場会社の株式の処分という公共の利害に関する事実について、 投資家に情報提供して公益を図る目的で行われたものであると認められる。 原告らは、 本件記載の掲載は、原告らを恐喝して有罪となった人物を支援するために悪意をもって行われたものであると主張するが、 上記主張事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、採用することができない。
(2)真実性、相当性について
ア後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告田邊は、 令和2年5月18日、新株予約権を行使して原告会社の普通株式を22万3000株取得した (乙1)。
(イ) 原告会社は、 令和2年5月20日、 原告会社が基本合意を締結して技術提供を行う株式会社マイクロブラッドサイエンス (以下「MBS社」 という。)の業績を伝えるプレスリリース (乙15) を公表した。
同リ リースには、 MBS社が、 新型コロナウイルスIgG/IgM抗体検出 キット(以下「本件キット」という。)の販売代理店を務めていることや、本件キットについて塩野義製薬株式会社(以下「塩野義製薬」とい う。)と日本国内における独占契約を締結していることが記載されてい る。
(ウ) 塩野義製薬は、令和2年6月3日、 MBS社から導入している本件キットを研究用試薬として新発売することをプレスリリース (乙16)で 公表した。
(エ) 原告田邊は、令和2年6月5日、 原告会社の普通株式を52万2000株処分した(乙1、 乙2)。
(オ) 原告会社は、 令和2年6月8日午前8時30分 (甲2) MBS社の 紹介により 塩野義製薬との間で本件キットの販売契約を締結したこと をプレスリリース (乙7) で公表した。 原告会社の株価の同日の始値は 244円、同日の終値は292円、 同月9日の始値は372円となった 。(乙5)。
(カ)原告田邊は、 原告会社の普通株式について、 令和2年6月15日、62万株取得し、 令和2年6月22日から同年7月6日までの間に、 32 万5100株処分した (乙1、 乙2)。
(キ) 原告田邊は、原告会社の新株予約権について、 令和2年6月15日、370万個取得して309万個処分し、同年7月30日、79万個処分した (乙1、 乙2)。
イ (ア) 塩野義製薬が、 令和2年6月3日、 MBS社を導入元とする本件キッ トを発売することを公表したことは、上記ア(ウ) で認定したとおりである ところ、 原告会社が、 同年5月20日のプレスリリースで業務提携先の MBS社の業績を伝える際に、 MBS社と塩野義製薬との間に本件キッ トの日本国内の独占契約があることを公表したことや (上記ア (イ))、原告会社が同年6月8日に塩野義製薬との間で本件キットの販売契約を締 結したことをプレスリリースで公表した後、 原告会社の株価が急上昇し たこと (上記ア (オ)) などを踏まえると、 同月3日の塩野義製薬による本 件キットの発売の公表は、 原告会社の株価に影響を与え得る材料であっ たといえる。 そして、上記アで認定した事実によれば、 原告田邊は、上 記公表の16日前に新株予約権を行使して原告会社の普通株式を22万 3000株取得し、 上記公表の2日後に原告会社の普通株式を52万2 0.00 株処分したことが認められるから、本件記載の意見が前提として いる事実は、重要な部分について真実であると認められる。
(イ)のみならず、上記アで認定した事実によれば、 原告田邊は、 原告会社 によって塩野義製薬との本件キットの販売契約が公表される2日前に 新株予約権を行使して原告会社の普通株式を22万3000株取得し、上記公表の7日後に原告会社の普通株式を62万株、 原告会社の新株予約権を370万個取得したこと、 上記公表の28日後までに、原告会社の普通株式を32万5100株処分し、 上記公表の2日後までに、原告会社の新株予約権を388万個処分したことが認められるから、この意味においても、本件記載の意見が前提としている事実は、重要な部分 において真実であると認められる。
これに対し、原告らば、本件記載の内容が真実でないことの理由として、 原告田邊が原告会社の株式を大量に保有していたことを主張するが、同事実は、本件記載の内容には含まれておらず、本件記載の意見が前提として いる事実の真実性を左右するものとはいえない。
また、原告らは、本件記載にある「売り払う」 の意味が全て売ってしま うという意味であることを前提に、本件記載の内容が真実でないことの理由として、割り当てられたばかりの新株を全部売ったことがないことを主張するが、文言の通常の意味や本件記載の文脈に照らすと、 本件記載における「売り払う」との文言が全て売るという意味で用いられていると直ちに解することはできないし、本件記載の内容に照らすと、売る対象が割り当てられたばかりの新株の全てであったか否かということが、本件記載の 意見の前提として重要な部分であるともいえない。
したがって、 原告らの上記主張は、いずれも採用することができない。
(3)意見ないし論評としての域の逸脱の有無について
本件記載は、その内容に照らし 原告らの人格攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえない。
3 争点1及び2のまとめ、
以上によれば、本件記載の投稿は、原告らの社会的評価を低下させるものとはいえず、また、この点を描くとしても、真実性の抗弁が成立するから、 原告らの名誉を違法に侵害するものとはいえない。
4 争点3 (本件記載による原告田邊の名誉感情侵害の有無)について
原告田邊は、本件記載は、原告田邊の名誉感情を侵害するものであると主張する。
しかしながら、 ある者の名誉感情を損なう行為は、 社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるといえる場合に、 上記の者の人格的利益を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当であるところ(最高裁平成21年 (受) 第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号7.5.8 頁参照) これまで説示してきたところに照らすと、本件記載が、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であり、 原告田邊の人格的利益を侵害 するものであるとはいえず、原告田邊の上記主張は、採用することができない。
5 結論
よって、 その余の争点について判断するまでもなく、 原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、 主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部 裁判官 齊藤敦
別紙1、2,3は画像もありますので被告山口三尊氏のブログをご覧ください
証券非行被害者救済ボランティアのブログ
http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/
田邊勝己弁護士 登録番号21018 大阪弁護士会
弁護士法人カイロス総合法律事務所大阪事務所