2024年12月12日 日本弁護士連合会 会長 会長 渕上玲子 印
2024年外綱第1号事案
懲戒請求者 〇〇
東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー9階
東京赤坂法律事務所 ・外国法共同事業 第二東京弁護士会外国特別会員
対象外国法事務弁護士 ルーカス・グラハム・オリバーフロスト (登録番号G394)
主 文
対象外国法事務弁護士を懲戒しないことを相当と認める。
理 由
第1 懲戒請求事案の概要
本件懲戒請求事案の概要は以下のとおりである。
1 対象外国法事務弁護士は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシス コ、 タウンセンド・ストリート101に所在するアメリカ合衆国デラウェア州 法に基づき設立された米国法人であるCloudflare, Inc. (以下 「クラウドフレア社」という。)の日本における代表者である。
2 クラウドフレア社は、 コンテンツ・デリバリー・ネットワーク(以下「CDN」という。) サービス等を提供する事業に従事している。
3 懲戒請求者は、 対象外国法事務弁護士が所属する法律事務所に対して、2024年5月8日付け、同月9日付け及び同月17日付けでファクシミリ (以下 かかる3通のファクシミリを個別に又は総称して「本ファクシミリ」という。)を送付し、本ファクシミリにおいて、 本ファクシミリに記載の各URL (以下「本URL」という。)のウェブサイト上で詐欺サイトが運用されていることを理由に、 削除を含む対応を要請し、かつ、確認後の連絡ないし 「逆ファックス」(ファクシミリを受領した旨のファクシミリでの返信を意味する。 以下同じ。)を要請した。
4 懲戒請求者は、 2024年5月10日頃、 対象外国法事務弁護士が所属する東京赤坂法律事務所 外国法共同事業に電話し、ファクシミリ受信の有無の問合せを行ったが (以下かかる懲戒請求者の電話を 「本架電」という。) 懲戒請求者の本架電での問合せに対して、 同事務所の事務員がファクシミリを受領 した旨返答している。
5 本事案は、以上の事実経過の下、懲戒請求者が、 クラウドフレア社において一向に詐欺行為が収まらず、犯罪行為を幇助又は放置し日本全体の治安を悪化させており、かかる行為が、 外国法事務弁護士としての品位を失うべき非行に該当すると主張して、 第二東京弁護士会を経由して、 日本弁護士連合会に対し、対象外国法事務弁護士の懲戒請求を行った事案である。
第2 懲戒請求事由の要旨
懲戒請求者の求める懲戒請求事由の要旨は以下のとおりである。
1 対象外国法事務弁護士は、 クラウドフレア社の日本における代表者である。
クラウドフレア社は、 電気通信役務としてCDN事業等を行っている通信事業 者であり、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開 示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)の適用を受けると 解される事業者である。
2 昨今社会問題となっているSNS 詐欺広告や電子メール SNSなどの手段で詐欺行為を行う国内外の個人又は集団その他勢力がクラウドフレア社のCDNを悪用する形で詐欺行為を行っており、クラウドフレア社はCDNサービ スを通じてかかる詐欺を幇助している。
3 懲戒請求者は、 対象外国法事務弁護士に対して、本ファクシミリ及び本架電 を通じてクラウドフレア社に対する犯罪幇助をやめるように警告を行い、その 際、逆ファックスをするように申し添えたが、 対象外国法事務弁護士は、 逆ファックスの要請を無視し、 懲戒請求時点に至るまで対象外国法事務弁護士から 電子メールや電話又は郵送での連絡も一切なかった。
4 対象外国法事務弁護士は、クラウドフレア社による犯罪行為を幇助又は放置 し日本全体の治安を悪化させており、 外国法事務弁護士としての品位を失うべ き非行に該当する。
第3 対象外国法事務弁護士の弁明の要旨
1 クラウドフレア社及び同社と対象外国法事務弁護士の関係
(1) クラウドフレア社は、CDNサービス、 クラウド ・サイバーセキュリティ、DDoS軽減、 ドメインネーム・サービス、 ICANN認定ドメイン )
2 登録サービスを提供する米国企業である。 クラウドフレア社は、ニューヨー ク証券取引所に上場しており、時価総額は約250億米ドルである。
(2) クラウドフレア社は、CDNサービス、すなわち、 インターネットを構築 する重要な通信インフラであり、閲覧者からの閲覧要求に応じて、ホストサ ーバに蔵置されているウェブサイトのコンテンツの配信を効率化・円滑化するサービスを提供しているが、ウェブサイトのコンテンツ作成・投稿等には一切関与していない。
(3) 対象外国法事務弁護士は、 2023年10月20日にクラウドフレア社の 日本における代表者として選任され、同月24日に第二東京弁護士会に対して、当該役職就任を届け出た。
2 懲戒請求者からの連絡及び当該連絡に対する対応
(1) 懲戒請求者は、クラウドフレア社が不正利用を通報するために提供している不正利用通報フォームを使用することもなく、 登記事項証明書に記載されている対象外国法事務弁護士の登記上の住所に書面を郵送することもなく、 対象外国法事務弁護士の所属事務所に、 突然に、 2024年5月8日から5 月17日にかけて3回にわたり、一方的に本ファクシミリを送信してきた。
(2) 本ファクシミリにおける請求は、本ファクシミリに関する受領確認とウェブサイトの削除等の対応であり、いずれもクラウドフレア社に対する請求で あって、対象外国法事務弁護士の外国法事務弁護士としての活動とは関係がないものである。
(3) 懲戒請求者は、1通目のファクシミリの受領から1日ないし2日しか経過 していない段階で、 本ファクシミリ及び本架電において、懲戒請求者の請求に応じなければ、懲戒請求を行うと脅したのみならず、 1通目のファクシミ リの発信から10日しか経過していない時点で懲戒請求を行ったことは合理性を欠く行為であり、懲戒請求を手段として自らの請求内容を実現しようと 目論むものであって、 外国法事務弁護士懲戒制度の濫用にほかならない。
(4) 懲戒請求者からは、その主張にかかる「犯罪幇助」の根拠や証拠は提出されておらず、対象外国法事務弁護士は、本ファクシミリに対応する義務を負わない。
(5) 総務省は、「流通している情報を閲読したことにより詐欺の被害に遭った場合などは、 通常、 情報の流通と権利の侵害との間に相当の因果関係がある ものとは考えられないため、本法律の対象とはならない」との意見を示して おり ( 2023年同省総合通信基盤局消費者行政第二課 「プロバイダ責任制 限法逐条解説」 4ページ)、仮にクラウドフレア社のサービスを利用する者 が自身のウェブサイトを利用して詐欺行為を行ったとしても、当該詐欺の結 果とクラウドフレア社の事業活動との間には相当の因果関係がなく、犯罪幇助が成立しない。
(6) 本ファクシミリについては、懲戒請求者は本架電により対象外国法事務弁護士が本ファクシミリを受信したことを電話で確認しており、かつ、本ファクシミリの送信完了と到達枚数については、懲戒請求者が提出した証拠(甲 3号証)において表示されており、 容易に当該確認がなされ得る状況であっ た。
(7) 対象外国法事務弁護士所属事務所において、本ファクシミリ受領後、本ファクシミリにおいて指摘された全てのウェブサイトを直ちに確認し、順次ク ラウドフレア社に対し報告を行ったが、懲戒請求者の主張するような詐欺サ イトであると判断できる内容は一切含まれていなかった。 2024年5月9 日及び同月17日のファクシミリ記載のURLはアクセスしようとしてもエラーしか表示されず、 既に削除されていたことが容易に推測でき、 対象外国法事務弁護士において懲戒請求者の主張に係る具体的に対応すべきこと自体 が全くない状況であった。
2 以上のとおり、懲戒請求者は対象外国法事務弁護士及びクラウドフレア社の顧客でもなく権利者でもない立場であり、請求内容は全て失当である。
第4証拠
別紙証拠目録記載のとおり
第5 当委員会の認定及び判断
1 当委員会の認定した事実
(1)対象外国法事務弁護士は、クラウドフレア社の日本における代表者である。
(2) 懲戒請求者と対象外国法事務弁護士との間において特段の委任受任関係 を発生させる原因となる事実関係は主張されておらず、 そのような委任・受 任関係を発生させるような事実関係も認められない。
(3)懲戒請求者は、 対象外国法事務弁護士に対して、 2024年5月8日、同月9日、及び同月17日の3度にわたり本ファクシミリを送付した。懲戒請 求者は、本ファクシミリにおいて、 本URLのサイト上で詐欺サイトが運用されていることを理由に、 削除を含む対応を要請し、かつ、 確認後の連絡な いし逆ファックスを要請した。
(4) 懲戒請求者は、 2024年5月10日、対象外国法事務弁護士が所属する 東京赤坂法律事務所 外国法共同事業に本架電を実施し、 ファクシミリ受信の有無の問い合わせを行ったが、かかる懲戒請求者の電話での問い合わせに 対して、 同事務所の事務員がファクシミリを受領した旨返答した。
(5)懲戒請求者は、第二東京弁護士会に対し、 2024年5月19日、 本懲戒請求書を提出した。
2 当委員会の判断
(1)懲戒請求者は、懲戒請求理由の前提として、 クラウドフレア社が、SNS 詐欺広告や電子メール・SNSなどの手段で詐欺行為を行う国内外の個人又は集団その他勢力の当該詐欺行為をCDNサービスを通じて幇助している旨主張するが、当該詐欺行為やクラウドフレア社の詐欺幇助行為を認めるに足りる証拠は存しない。
対象外国法事務弁護士が提出した令和6年6月14 日付け対象外国法事務弁護士所属事務所アシスタント2名の各陳述書 (乙第 8号証及び乙第9号証) によれば、本ファクシミリ受領当日に、 本URLの リンクにアクセスしたものの、スペイン語のサイトや、 「このサイトにアクセスできない」とのメッセージが表示されるなど、 懲戒請求者が主張するよ うな詐欺サイトを示す内容の記載は発見されなかったとのことである。
日本弁護士連合会外国法事務弁護士綱紀委員会においても、 2024年6月7日 に本URLのリンクにアクセスを試みたものの同様の結果であった。 したがって、遅くとも、懲戒請求者からの対象外国法事務弁護士に対する本ファク シミリによる削除要請から1か月を経過しない段階で、 削除要請の対象となった本URLにおいて懲戒請求者が主張するような詐欺サイトが表示される状況は存在せず、本ファクシミリ受領当日の上記アクセスした時点及びそれ以降において詐欺行為自体が当該サイトにおいて行われているという事実は 存在しなかったことが認められ、 懲戒請求者の主張において前提としている 詐欺行為への幇助行為の継続という事実関係が認められない。
(2)上記クラウドフレア社の詐欺幇助行為の有無の論点をさておくとしても、 対象外国法事務弁護士は、所属事務所アシスタントを通じて本ファクシミリ 受信直後に、指摘を受けた本URLへのアクセスを実施し、指摘にかかる詐 欺行為の有無の確認を実施していること、 懲戒請求者の電話に対して当該ア シスタントを通じて対応し、本ファクシミリの受信確認に応じるなどの対応 を行っており、特段外国法事務弁護士としての品位を失う非行に該当するよ うな事実は認められない。
(3)懲戒請求者は、 2024年5月8日、同月9日、及び同月17日における本ファクシミリの送付並びに同月10日頃の本架電後の同月19日に懲戒請求に及んでいる。このように、懲戒請求者の本ファクシミリでの当初の請求 から懲戒請求までが11日という極めて短期間であることに照らせば、そもそもその間に連絡等がなかったという懲戒請求者の主張事実を前提として も、当該事実関係が懲戒理由にあたる非違行為に該当すると認めることはできない
よって、主文のとおり議決する。
2024年12月5日
日本弁護士連合会外国法事務弁護士綱紀委員会委員長 角山一俊
別紙証拠目録
1 懲戒請求者提出
(1) 甲1 Cloudflare, Inc. の現在事項証明書
(2)甲2-1 ファクシミリ送付状 (日付不詳。 楽天銀行を装う詐欺サイトとの記載)
(3) 甲2-2 ファクシミリ送付状 (日付不詳。 NTTドコモのdアカウント画面を装う詐欺サイトとの記載)
(4)甲2-3 ファクシミリ送付状 (日付不詳。 Yahoo!ニュース及びフェイスブックへの言及)
(5)甲3 ファクシミリ送信記録
2 対象外国法事務弁護士提出
(1) Z1 (2) Z2 (3) Z3 (4) Z4 (5) 乙5-1
Cloudflare, Inc. の履歴事項全部証明書
外国法事務弁護士登録時の通知
當利業務從事届出書
Cloudflare, Inc. の不正利用通報フォーム
2024年5月8日付け懲戒請求者からのファクシミリ (甲2 -3と一致)
(6) 乙5-22024年5月9日付け懲戒請求者からのファクシミリ(甲2 -2と一致)
(7) 乙5-3 (8) Z6
2024年5月17日付け懲戒請求者からのファクシミリ(甲 2-1と一致)
2024年5月31日付けA 受電記録
(9) 乙7-1 https://startprofitmarginlearn.com/products/set-de-vela- 27 の切り取り
(10) 乙7-2 https://hello-world-fancy-sun-db27.parkjoohee307. workers .dev/ の切り取り
(11) Z7-3 (12)乙8 (13) Z9
https://rakuten-card.hygtt.top/ の切り取り
2024年6月14日付けAの陳述書
2024年6月14日付けBの陳述書
これは決定書の謄本である
2024年(合和6年)12月13日 日本弁護士連合会事務総長 岡田理樹
日本弁護士連合会外国法事務弁護士綱紀委員会委員長 角山一俊 弁護士 登録番号17014
第一東京弁護士会 アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業