懲戒請求者 〇〇
第19号対象弁護士 浅野 格之紳 (登録番号 52905)
(主たる事務所) 弁護士法人とびら法律事務所
千葉市中央区新町3-7 高山ビル7階
(従たる事務所) 弁護士法人とびら法律事務所船橋オフィス 千葉県船橋市本町5-3-5 3-5 伊藤 LK ビル8階
第41号対象弁護士法人
弁護士法人とびら法律事務所 (届出番号 1052)
主 文
対象弁護士および対象弁護士法人のいずれについても,懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
第1 事案の概要
本件は,懲戒請求者が、その妻との間で婚姻費用の分担や離婚等について紛争となっていたところ、 当該妻の代理人であった対象弁護士の業務活動が非行にあたるとして,対象弁護士およびその所属する対象弁護士法人に対して懲戒請求した事案である。
第2 懲戒請求事由の要旨 1 対象弁護士
(1) 課税証明書の取得および利用等
対象弁護士は,懲戒請求者の妻に指示し、千葉県〇〇市市民税課から、懲戒請求者の許可なく同人の課税証明書を取得させたが,これは懲戒請求者や〇〇市役所に対する詐欺で違法行為である。
そして,不正に取得した課税証明書を、 妻が懲戒請求者に対して申し立てた 婚姻費用分担調停事件において、懲戒請求者の許可を得ずに提出したことは, 個人情報保護法や千葉県弁護士会の個人情報保護方針に違反している。
本来であれば、懲戒請求者の代理人弁護士に収入資料の提出を依頼すべきにもかかわらず,対象弁護士は、 そのようなことをせずに不正に取得した課税証明書を裁判所に提出したが,これは弁護士であること以前に許されない行為である。
また,個人情報保護法23条1項2号の 「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難である場合」に 基づいて懲戒請求者の同意なき証拠提出が許されるとの対象弁護士の弁明に 対しては,まず妻は実家で生活し収入も多く安定した生活であったほか,対象弁護士は懲戒請求者代理人に対して実際に同意を得ることが困難かどうかを確認していない以上、同条項は適用されない。
さらに、妻の収入を少なくして婚姻費用を多く算出すべく、同人が給与サポ ト保険金を受領していた事実を秘匿したが,これは弁護士としての職業倫理上問題ある行動である。
2) 娘の連れ去り
懲戒請求者の妻は、懲戒請求者との間の娘を連れ去った。 これは刑法上の誘拐罪に該当する, 父親の娘に対する監護権を侵害する重大な違法行為であり, そのため懲戒請求者はうつ病を発症したが、 対象弁護士が妻の重大な違法行為を幇助したことは懲戒請求者の人権を侵害する行為であり,これも弁護士としての職業倫理上問題ある行動である。
(3) 共有財産の精算に関する不当な要求
夫婦共有財産は離婚時に折半するのが当たり前なのに、一方的に此方に負担を要求しており、これは弁護士の倫理規定違反である。
(4) 懲戒請求者の病気を利用した不当な行動
対象弁護士が、懲戒請求者の病気 (うつ病) を利用して、不当に有利な条件を 勝ち取るために行動したことは、倫理上も法律上も許されない。
(5) 長女との面会交流に関する不適切な助言
対象弁護士は、懲戒請求者と長女が面会できるよう, 妻に対して適切な助言を行う義務があるのにこれを怠った。
(6) その他
対象弁護士に,専門知識や能力が不足していること, 依頼者が違法な行為を 行うことを止めておらず適切な助言の提供義務違反が認められることは,いずれも懲戒事由である。
2 対象弁護士法人
対象弁護士に詐欺や誘拐といった違法行為や職業倫理上問題ある行為に基づ く責任が発生するところ、その雇用者である対象弁護士法人にも責任が発生する
第3 対象弁護士および対象弁護士法人の弁明の要旨
1 対象弁護士
(1) 懲戒請求事由 (1) について
争う。
対象弁護士は、懲戒請求者の妻に対し, 一般論として配偶者の収入を把握するための資料として源泉徴収票, 確定申告書, 課税証明書, 所得証明書, 給与明細書等の資料があることを説明しただけで、妻も,〇〇市の定める手続に則っ て懲戒請求者の課税証明書を取得したに過ぎず、何ら違法性はない。
そして、妻と懲戒請求者間の婚姻費用分担調停において対象弁護士が懲戒請求者の課税証明書を提出した行為は、個人情報保護法27条2項 「人の生命、 身体又は財産保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ること が困難であるとき」に該当するから,同法に反しない。
また,相手方の課税証明書を提出する前に, 同人に対して提出を依頼しなけ ればならない法的義務はない。
さらに, 懲戒請求者が指摘する給与サポート保険金については,妻自身, 収入 に当たるとは考えておらず、 そのため対象弁護士に伝えていなかったために 示さなかったに過ぎない。
(2) 懲戒請求事由 (2)について
争う。
懲戒請求者と妻は、令和3年1月9日の妊婦検診時に切迫早産と診断され 即時入院となり、 同年4月28日に長女を出産, その7日後に退院して妻の実家に戻ったが, その当日から長女の名づけに関して妻と懲戒請求者との間で 紛争が生じ, 同人の言動などが原因で妻は離婚の意思を固め、以降, 懲戒請求者 と同居することなく別居が継続されたのであって, 妻による長女の連れ去り はない。
その後に妻は対象弁護士に法律相談を申し込んでいるのであり, 妻と懲戒請求者との紛争に対象弁護士が関わるようになった時点では,既に妻が長女を監護している状況が一定期間継続していたから, 妻のみが長女を監護するようになったことに対象弁護士は関わりようがない。
(3)懲戒請求事由(3)について
争う。
そもそも、懲戒請求者が妻に対して請求する財産分与は,いずれも共有財産とは評価できないものであるから理由がない。
(4) 懲戒請求事由 (4) について
争う。
対象弁護士が, 妻と懲戒請求者との離婚訴訟において,懲戒請求者が長女の 親権者として不適格である事情の一つとして、懲戒請求者の病気, 病気による 職務上の支障を主張したが、不当に有利な条件を求めてはいない。
(5) 懲戒請求事由 (5) について
争う。
弁護士は,依頼者の権利及び正当な利益を実現するよう努めなければならないが(弁護士職務基本規程21条),相手方の権利の実現について義務を負う事はない。
(6) 懲戒請求事由 (6) について
争う。
2 対象弁護士法人
対象弁護士に懲戒事由が認められない以上、それを前提とする対象弁護士法 人の雇用責任は発生しない。
なお, 対象弁護士法人は、月に1回の代表弁護士による対象弁護士との個人面 談の実施 月に1回の全弁護士によるミーティングの実施, チャットツールを用 いた事務所内報告相談体制の整備, 半期に1度の事件処理の振り返り 棚卸の実施, 日常的な弁護士倫理に関する意見交換の実施を行っており,対象弁護士が弁護士職務基本規程を遵守するための必要な措置をとっていた。
4 当委員会
なし
第5 当委員会の認定した事実及び判断
1 当委員会が認定した事実
(1) 懲戒請求者と妻の紛争の経緯
ア 千葉家庭裁判所による認定事実
本訴原告 (反訴被告) を懲戒請求者の妻、本訴被告 (反訴原告) を懲戒請求者とする離婚等請求, 同反訴事件につき, 令和6年4月19日, 千葉家庭裁判所は,以下の事実を認定し,両名を離婚する等の判決をした。
1 離婚に至る経緯
懲戒請求者とその妻は,平成31年3月3日に婚姻した。 令和3年1月9日、妻は, 妊婦検診の際に〇病に感染していることが原因で切迫早産と診断されて入院した。 退院後、妻はその実家に滞在していたが,同年4月28日, 破水して救急搬送され、同日, 吸引分娩により長女を出産した。
同年5月4日、妻と長女は病院を退院して妻の実家へ行ったが,到着すると程なくして懲戒請求者が長女の名を決めたいと言い出し,翌日、翌々日も懲戒請求者は長時間にわたって自身が提案した名を了承するよう妻に言い立て,大きな声を出したため, 体調不良の妻は懲戒請求者の言動に 失望し離婚の意思を固め、以降, 妻が懲戒請求者と同居を再開することは なかった。
同月9日, 懲戒請求者と妻は、妻の実家において双方の両親を交えて話 し合いを行い,妻は懲戒請求者に対して離婚を申し入れた。
千葉家庭裁判所佐倉支部は,令和5年2月21日、妻が懲戒請求者に対し隔月で長女の写真1枚を送付する旨の間接的な面会交流を命ずる審判を下し、懲戒請求者はこれを不服として抗告したが、東京高等裁判所は抗 告を棄却した。
2 懲戒請求者の財産分与請求
懲戒請求者が妻に対し財産分与として求める, 懲戒請求者名義の車両に係る費用や妻の両親から妻に渡されたお祝い金、別居後の家賃, 自宅の 片付け費用などの精算について,まず車両に係る費用は懲戒請求者が負担することが相当,お祝い金は贈与であり夫婦共有財産ではない, 別居後の家賃や自宅片付け費用も妻が負担すべきではないとし,いずれも清算の対象とはならず懲戒請求者の財産分与の請求は理由がないとした。
イ一審判決後の経緯
前記千葉家庭裁判所の判決言い渡し後の令和6年4月26日, 懲戒請求者は、その代理人弁護士を通じて, 妻の代理人であった対象弁護士に対し,自らの長女に対する親権を放棄する代わりに妻が養育費を負担しかつ妻が旧姓に戻すこと, 懲戒請求者名義の車両の残ローンの半額や住居費用等の計 173万3212円を妻が払うことの条件を提示し,これに同意する場合は離婚訴訟の判決に対する控訴や刑事告訴に関して検察審査会へ相談しないと通知した。
同年5月7日, 対象弁護士は懲戒請求者代理人弁護士に対し、上記の各条件に同意しないと伝えた。
その後、懲戒請求者は, 千葉家庭裁判所の判決に対し, 東京高等裁判所へ控訴した。
同年9月28日,懲戒請求者は, 離婚訴訟控訴審が係属した東京高等裁判所第11民事部2係に対し, 長女のDNA検査の実施や、妻に対する損害賠償や対象弁護士に対する謝罪と損害賠償, 自身に対する浦安市のDV支援措置の解除等を求める旨の書面を提出した。
(2) 対象弁護士の関与
ア 懲戒請求者の課税証明書の取得 提出, および妻の収入申告
懲戒請求者の妻は、長女を出産して里帰りした後の懲戒請求者との紛争 が深刻化したころ, 対象弁護士に対して婚姻費用や離婚等夫婦間の紛争に関する法律相談を申し込み、対象弁護士はこれに応じ, 妻に対し,婚姻費用の分担請求に際しての他方配偶者の収入を把握するための資料としては,源泉徴収票, 確定申告書, 課税証明書,所得証明書, 給与明細書等があることを説明した。
令和3年7月1日, 懲戒請求者の妻は,〇〇市の市民税課に対し,懲戒請求者の令和2年分課税証明書1通の交付を申請したが,その際,本人との続柄を 「同一世帯の親族」 とし、使用目的を 「その他」とした申請書を提出、〇〇市は妻へ懲戒請求者の令和2年分課税証明書を交付した。
同年9月4日 対象弁護士は、懲戒請求者と妻の婚姻費用分担調停におい て,上記課税証明書を提出したほか、妻の収入額を主張したが,その際, 同人が受領していた収入サポート保険金を考慮しなかった。
イ 長女の親権
対象弁護士は、懲戒請求者と妻との離婚訴訟において,懲戒請求者が長女の親権者として相応しくない事情の一つとして、懲戒請求者の疾病やそれによる職務上の支障を主張した。
当委員会の判断
(1) 対象弁護士について
ア懲戒請求事由 (1) について
1 妻が懲戒請求者の課税証明書を取得したことについて
課税証明書の入手については、個人情報保護の観点から、多くの自治体において,本人または本人の委任を受けた代理人による申請に限っているところ, 申請者が本人でなくても本人と同じ住民票に登録されている場合は委任状が省略されていることが多く,〇〇市も 「同一世帯の親族 (市内住民登録)」 の場合は委任状を省略しているが, かような間柄では 本人の委任が推認されていることがその理由であると考えられる。
かかる趣旨を敷衍すれば,たとえ同一世帯の親族であっても、本人の委任が推認されないような場合, 例えば別居中であるとか,本人と申請者と の間で離婚・離縁に関する協議や調停・裁判が行われている場合には、委任状なしの申請に応じるべきではない。
しかし,〇〇市の証明申請書の書式では, 「同一世帯の親族 (市内住民登 録)」との要件以外に本人と申請者との間の事情は何ら問われておらず, 申請者において, 委任状なしで手続を進めることが適切か否かを判断す ることは困難であったといえる。
そうすると、妻が, 配偶者たる懲戒請求者が紛争の相手方であり,その場合は委任状なしで課税証明書を取得することが適切ではないことを対象弁護士から説明されていた等の事情が認められれば格別、そうでなければ(懲戒請求者の課税証明書を) 申請することが適切ではないとの認識は持ちえなかったといえる。
そして、対象弁護士が上記説明を妻に行ったことを認めるに足る証拠 はなく、妻は、懲戒請求者の課税証明書を申請する行為に問題あるとは認識していない以上、この点に違法性は認められない。
なお, 対象弁護士が、 夫婦間で既に紛争となっており自治体の窓口で妻が夫の課税証明書を取得することが適切ではないにもかかわらず,このことを秘して妻に課税証明書の取得を指示したというような事情が認められれば,対象弁護士のそのような行動は不適切なものと評価されるも 証拠上,そのような事情も認められない。
対象弁護士は,一般論として配偶 者の収入を把握するための資料として源泉徴収票, 確定申告書, 課税証明 書, 所得証明書, 給与明細書等の資料があることを説明したに過ぎないと 説明しているのであって、妻に対して課税証明書を取得するよう指示したことを認めるに足る証拠がない以上、この点について対象弁護士の違法行為は認められないこととなる。
(2) 懲戒請求者の課税証明書を裁判所に提出したことについて
訴訟において、個人データを本人の同意なく裁判所へ証拠提出することについては,個人情報保護法27条1項2号にいう「人の生命、身体又は 財産保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」に該当し、 違法ではないとされている。 これは,個人情報 保護委員会が策定したガイドライン・Q&Aにおいて, 「訴訟追行のため に、訴訟代理人の弁護士・ 裁判所に、訴訟の相手方に係る個人データを含む 証拠等を提出する場合は, 「財産の保護のために必要がある」 といえ,かつ, 一般的に当該相手方の同意を取得することが困難であることから, 法27条1項2号に該当し得るものであり,その場合には記録義務(※法29 条)は適用されないものと考えられる」 (Q&A13-3) とも整合する解釈である。
この点, 懲戒請求者は、同条項の文言に関し、妻は実家で過ごし収入も多く生活は安定していたから 「財産保護のために必要がある」 状況にはない, 「一般的に同意を得ることが困難である」 につき, 対象弁護士が懲戒請求者代理人に (収入資料の提出に関する) 同意が困難かどうかを確認していないとして、 同条項に基づく個人データの同意なき提出を問題視す る。
しかし,婚姻費用を求める調停を申し立てていること自体が「財産保護 のために必要ある」 ものと認められ, 「同意の困難性」 も一般的類型的 に同意を得ることが困難と認められる以上, 個別具体的に同意を得るこ とが困難かどうかを問うことなく、 同意を得ずに裁判所へ証拠提出する ことを許容するものと捉えるべきである。
したがって, 対象弁護士が懲戒請求者の課税証明書を千葉家庭裁判所 〇〇出張所へ証拠提出したことが個人情報保護法や千葉県弁護士会の個人情報保護指針に違反するとまでは言えない。
また,懲戒請求者は,対象弁護士が事前に懲戒請求者代理人に対して収入資料の提出依頼をせずに懲戒請求者の課税証明書を証拠提出したことを問題視しているが, 調停の相手方に対して事前に証拠等の提出依頼を すべき法的義務はないから、この点も問題とはならない。
3 妻の給与サポート保険金受領を示さなかったことについて
対象弁護士は,懲戒請求者と妻の婚姻費用分担調停の当初, 妻が給与サ ポート保険金を受領していたことを示していない。
この点対象弁護士の弁明によれば,同人は妻から給与サポート保険金を受領していたことを知らされていなかったことが理由であり,これを覆す証拠はない。
そうすると,給与サポート保険金の受領を秘匿し、もって妻の収入を不当に低くしたことが証明できない以上、問題ある行為とはいえない。
イ懲戒請求事由 (2) について
長女は,病院で生まれた後は懲戒請求者の妻の静養のため直ちにその実家に移動し同所で生活しており,その際に名づけに関する懲戒請求者と妻との間で生じた意見対立が原因で両者間に紛争が生じて深刻化し, そして 婚姻費用分担や面会交流に関する調停や審判, さらには離婚訴訟に至って おり,結局, 長女は一度も懲戒請求者の元で生活することはなかったのであ るから, 「連れ去り」 行為は認められない。
そうすると、対象弁護士による 「連れ去り」 の幇助も認められないから、こ の点において対象弁護士に問題となる行動はない。
ウ 懲戒請求事由 (3) について
懲戒請求者は,対象弁護士が一方的に懲戒請求者に対する負担を要求しており倫理規定違反と主張する。 そこで検討するに、懲戒請求者の妻に対する財産分与請求は反訴請求の一つであるところ (妻は財産分与請求をして いない), その具体的な内容は、懲戒請求者名義の車両に係る費用や妻の両親から妻に渡されたお祝い金, 別居後の家賃, 自宅の片付け費用などの精算であるが,千葉家庭裁判所も判示するように, いずれも清算の対象とはならな いから、そもそも同人の財産分与の請求に理由はなく, したがって対象弁護 士の主張に問題はない。
エ 懲戒請求事由 (4) について
懲戒請求者は,対象弁護士が、懲戒請求者の病気 (うつ病)を利用して,不 当に有利な条件を勝ち取るために行動したことが倫理上も法律上も許され ないとする。
懲戒請求者提出の書面上, 「病気を利用した不当に有利な条件を勝ち取る ための行動」 が具体的に特定されてはいないが,対象弁護士の答弁内容から すれば,離婚訴訟における長女の親権者として懲戒請求者が不適格である 事情の一つとして、対象弁護士が、懲戒請求者の病気や病気による職務上の 支障を主張したことを指すものとして検討するに、親権者の指定に際して 最重要視される子どもの福祉の観点からすれば, 監護能力の有無に繋がる 事情として疾病の有無やこれがもたらす職務遂行における支障を指摘する こと自体に特段の不当性は認められない。
したがって,この点も懲戒事由たり得るものではない。
オ 懲戒請求事由 (5) について
懲戒請求者は、長女と面会できるように, 対象弁護士が妻に適切な助言を行う義務があると主張する。
しかし,弁護士には、その依頼者の権利や正当な利益を実現するよう努めるべき義務があるものの (職務基本規程21条),相手方の権利実現につい ての義務は定められていないから, 対象弁護士が懲戒請求者と長女の面会実現のため妻に助言をしなかったからといって懲戒事由とはならない。
カ 懲戒請求事由 (6)について
懲戒請求者は,対象弁護士に専門知識や能力が不足していること,依頼者の違法行為を抑制しなかったことが適切な助言の提供義務違反となるとし て,これらが懲戒事由に該当すると主張する。
しかし,証拠上, 対象弁護士に専門知識や能力が欠如していることは認定できず,また対象弁護士の依頼者たる妻に違法行為は認められない以上、こ れが認められることを前提とした対象弁護士の義務違反もまた認められる ものではないから、上記の懲戒事由も認められない。
キ まとめ
以上, 対象弁護士につき懲戒請求者の主張する懲戒事由は認められない。
(2) 対象弁護士法人について
上記のとおり、 対象弁護士に懲戒事由が認められない以上, 対象弁護士法人 にも懲戒事由は存在しない。
(3) 結論
以上により, 対象弁護士および対象弁護士法人のいずれにも懲戒事由は認 められず,したがって懲戒委員会に事案の審査を求めないことが相当と判断 する。
よって、主文のとおり議決する。
2025年2月17日
千葉県弁護士会綱紀委員会
2025年2月26日 千葉県弁護士会 会長 島田直樹
第4 証拠
懲戒請求者提出分
甲1 懲戒請求者と〇〇市議会議員とのメール
甲2 対象弁護士作成の令和5年4月26日付反訴答弁書 (懲戒請求者と妻の離婚訴訟)
甲3
甲4 告訴状(告訴人と懲戒請求者,被告訴人をその妻, 告訴事実に関する 罪名を未成年者誘拐とするもの)
診断書(患者を懲戒請求者, 病名をうつ病とするもの)
甲5号 対象弁護士作成の令和3年9月4日付第1主張書面 (懲戒請求者と妻の婚姻費用分担調停)
甲6 対象弁護士作成の令和3年9月4日付第1資料説明書 (同上)
甲 7 育児休業手当金請求書 (同上)
甲 8 住民票 (除票) (懲戒請求者の妻に関するもの)
甲 9 〇〇市個人情報部分開示決定通知書 (市税証明申請書等添付)
甲10 音声データ (懲戒請求者と浦安市市民税課職員との会話)
甲11 報告書 (懲戒請求者代理人弁護士作成)
2 対象弁護士提出分 (第19号関係)
乙1市税証明申請書 (甲9と一部重複)
乙2 第1資料説明書 (甲6に同じ)
Z3 提出書面一式 (懲戒請求者と妻の婚姻費用分担調停において懲戒請求者が裁判所に提出した書面等一式)
乙4考察(個人データの同意なき裁判所提出に関するもの)
乙5 個人情報保護委員会のWebページ (Q&A13-3)
乙6 第1主張書面 (甲5に同じ)
乙7 第2主張書面 (懲戒請求者と妻の婚姻費用分担調停において対象弁護士が提出したもの)
Z8 審判書 (懲戒請求者と妻の婚姻費用分担申立事件)
Z9 陳述書 (懲戒請求者の妻が懲戒請求者との離婚訴訟で提出したもの)
乙10 判決書 (懲戒請求者と妻の離婚訴訟)
Z11 審判書 (懲戒請求者と妻の面会交流申立事件)
乙12 決定書 (懲戒請求者と妻の面会交流審判に対する抗告事件)
乙13 反訴状 (懲戒請求者と妻の離婚訴訟)
乙14 不起訴処分告知書 (懲戒請求者が妻を告訴した件)
乙15 条件提示書 (懲戒請求者が妻に示した和解条件)
乙16 ご連絡書面(乙15に対する回答)
乙17 事務連絡 (懲戒請求者と妻の離婚訴訟 (控訴)において裁判所が懲戒請求者に送付したもの)
乙18の1 第7証拠説明書 (懲戒請求者と妻の離婚訴訟 (控訴))
乙18の2 令和5年源泉徴収票 (懲戒請求者の妻)
乙19 陳述書 (懲戒請求者が離婚訴訟の控訴審裁判所 (東京高等裁判所) へ提出した書面)
3 対象弁護士法人提出分 (第41号関係)
乙法1 画面のスクリーンショット (対象弁護士および対象弁護士法人が 利用するビジネスアプリ)
乙法 2 同上
乙法3 同上
乙法4 同上
乙法 5 業務委託契約書 (対象弁護士と対象弁護士法人 )
(5) 長女との面会交流に関する不適切な助言
対象弁護士は、懲戒請求者と長女が面会できるよう, 妻に対して適切な助言を行う義務があるのにこれを怠った。
懲戒請求者は、長女と面会できるように, 対象弁護士が妻に適切な助言を行う義務があると主張する。
しかし,弁護士には、その依頼者の権利や正当な利益を実現するよう努めるべき義務があるものの (職務基本規程21条),相手方の権利実現につい ての義務は定められていないから, 対象弁護士が懲戒請求者と長女の面会実現のため妻に助言をしなかったからといって懲戒事由とはならない。