弁護士の懲戒処分を公開しています。
日弁連調査室編「弁護士懲戒手続の研究と実務」に「懲戒請求が出された時に弁護士を辞めることができるか」について書かれてあります。
弁護士の懲戒手続における対象弁護士になりうる要件とは
1 弁護士であること
2 弁護士会に所属していること
もっとも弁護士登録取消請求の場合において、具体的にいかなる時点で身分を喪失したかと解するかについては
① 登録取消請求書を所属弁護士会に届け出た時
② 登録取消請求書が日弁連に到達した時、
③ 日弁連常務理事会において議決された時
といった見解が考えられる。
弁護士が法11条により登録取消しの請求をしたときは日弁連は登録を取り消さなければならないから(法17条本文)通常の場合大きな差異は生じない。これを論ずる実益は特段の理由がある場合に日弁連が登録取消しの請求をした弁護士の身分を喪失させないことを認めるかどうかにある。③説はこれを認め、例えば、懲戒請求がなされたような場合には日弁連常務理事会の議決を留保して懲戒手続を進行させることを認めようとする立場に傾くこととなる。なお登録取消しの請求は所属弁護士会を経て日弁連に請求されるが(法11条)所属弁護士会には、進達の拒絶権はないから、所属弁護士会が登録取消しの請求を留保することは許されない。
日弁連の実務上の運用は③説の立脚し、弁護士名簿上登録取消しがなされた日として記載されるのは、常務理事会において登録取消しを承認する決議がなされた日とされている、しかし③説は登録取消しの効力が生じる要件として日弁連の承認を要することを前提としており理論的にこのような見解を維持できるか疑問である。
行政手続法第37条は「当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該手続をすべき手続上の義務の履行がされたものとする」と規定しているところ、登録取消請求は、登録取消請求書が所属弁護士会に提出された時に完了するものと解される。また②説や③説では弁護士又は日弁連において恣意的に運用されるおそれがあり、運用の実際によって判断する基準日が左右されるのでは手続の安定性を害しかいねない、以上から①説が妥当であると解する。
綱紀委員会の議決の種類
① 「懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認める」
(法58条3項)
② 「懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする」
(法58条4項)
③ 「本件懲戒手続は対象弁護士の死亡(弁護士資格の喪失・身分の喪失)により終了した」
対象弁護士が生存し、かつ、その弁護士会の所属会員であることは、調査続行の要件である。したがって調査開始以後に後発的に対象弁護士が死亡し、あるいは弁護士たる資格又は身分の喪失によってその要件を欠くに至ったときは、調査を続行することはできず、事件は当然終了する。ただ事件がこのような事由で終了したことを明確にするために右の議決をすることが適切であろう。そのような意味で、この議決は手続が終了したことを確認する議決に過ぎない。(法64条の7第1項4号参照)
懲戒請求を申し立てた後に弁護士が登録を抹消した場合は懲戒の手続は終了する。つまり懲戒請求がなされた場合でも弁護士を辞めることはできる。そして懲戒手続は終了するということです。
弁護士法
(登録取消の請求)
第十一条 弁護士がその業務をやめようとするときは、所属弁護士会を経て、日本弁護士連合会に登録取消の請求をしなければならない。
(登録取消しの事由)
第十七条 日本弁護士連合会は、次に掲げる場合においては、弁護士名簿の登録を取り消さなければならない。
一 弁護士が第七条第一号又は第三号から第五号までのいずれかに該当するに至つたとき。
二 弁護士が第十一条の規定により登録取消しの請求をしたとき。
三 弁護士について退会命令、除名又は第十三条の規定による登録取消しが確定したとき。
四 弁護士が死亡したとき。
(登録取消の事由の報告)
第十八条 弁護士会は、所属の弁護士に弁護士名簿の登録取消の事由があると認めるときは、日本弁護士連合会に、すみやかに、その旨を報告しなければならない。
第六十四条の七 弁護士会は、その懲戒の手続に関し、次の各号に掲げる場合には、速やかに、対象弁護士等、懲戒請求者、懲戒の手続に付された弁護士法人の他の所属弁護士会及び日本弁護士連合会に、当該各号に定める事項を書面により通知しなければならない。
一 綱紀委員会に事案の調査をさせたとき又は懲戒委員会に事案の審査を求めたとき その旨及び事案の内容
二 対象弁護士等を懲戒しない旨の決定をしたとき その旨及びその理由
三 懲戒委員会又はその部会が、同一の事由について刑事訴訟が係属していることにより懲戒の手続を中止したとき又はその手続を再開したとき その旨
四 懲戒の手続に付された弁護士が死亡したこと又は弁護士でなくなつたことにより懲戒の手続が終了したとき その旨及びその理由
「弁護士懲戒手続の研究と実務」107頁
こうして、弁護士については、法11条の規定による登録取消請求について、身分の終期は、本文中に記載するとおり日弁連に対する届出の提出先たる弁護士会に登録抹消請求の意思表示が到達した時であり、日弁連は取消請求があれば通常の手続で登録を取り消さなければならず(法17条本文)
たとえ懲戒請求がなされたような場合にもそれを留保することはできないと解される。
弁護士(二弁)は既に弁護士でなくなったから懲戒は終了しました。という懲戒請求者への通知文、しかし「貴殿が弁護士でなくなったことにより懲戒の手続が終了」???
とあるが、これは大きな間違い、懲戒請求者は弁護士ではない。被懲戒者が弁護士でなくなったとすべき、こんなデタラメな懲戒審査をする第二東京弁護士会