弁護士懲戒手続の実務と研究⑦
綱紀委員会の調査の対象となる事項は次のとおりである。
(イ)懲戒請求者について
懲戒請求者が実在しないあるいは懲戒請求者たる要件を備えていないことが判明した場合、更に進んで懲戒事由の調査までする必要はなく懲戒請求は不適法であるとして懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をすることとなる。もっとも補正しうるものは補正を命じるべきであり補正に応じない場合に限って却下することになろう。
懲戒請求者たる要件は
懲戒を理解している人、懲戒事由を述べることができる人、
東京高裁平成17年10月13日判決は次のように判示している。(判例集未搭載)
「弁護士に対する懲戒は法56条1項が規定する懲戒事由に該当する具体的事実により構成される懲戒事由を基礎としてされるものであるところ、懲戒請求人が弁護士会に懲戒の請求をしたときに、綱紀委員会が調査の対象とするのは、懲戒請求人が主張する具体的事実により構成される『懲戒事由』である」
もっとも、弁護士の懲戒請求をすることができるのは『何人も』(法58条第1項)であるから弁護士法を含む法令や手続について充分な知識を持たない一般人が懲戒請求をすることが予想されるのであるから綱紀委員会は調査の過程で懲戒請求の趣旨や関連する事情を懲戒請求人から聴取し、懲戒請求人の意思を釈明し、その結果に基づいて懲戒申立書に懲戒請求事由として挙げられた記載の不備を補い、補正、追加したものを、懲戒請求人の申立てた懲戒請求事由として把握した上で当該懲戒請求事由について懲戒相当か否かを判断すべきことは当然である。
弁護士会が綱紀委員会に事案の調査をさせたとき。日弁連、所属弁護士会に対し次の事項を書面により通知しなければならない
1 対象弁護士 氏名 事務所 登録番号
2 弁護士法人にあってはその名称 届出番号 主たる事務所の名称等
3 綱紀委員会に事案の審査を調査させた旨
4 懲戒請求者の氏名 住所又は名称 住所
5 懲戒の請求をした年月日
6 綱紀委員会に事案の調査をさせた年月日
7 事案の概要
懲戒しない旨の決定をしたときには懲戒請求者の氏名住所の記載は不要