《弁護士懲戒手続の研究と実務》 ⑯ 日弁連の懲戒実務・日弁連に直接懲戒請求の申立てができるか
最近ネット上で「懲戒請求書」と書かれたものを目にすることがありました「懲戒請求書」と書かれてあり宛先が「日本弁護士連合会御中」と書かれてあるものでした。
日弁連に直接懲戒請求の申立てができるか?
《弁護士懲戒手続の研究と実務》(日弁連調査室)を見てみましょう
法60条1項は、弁護士に懲戒事由があり自らその弁護士を懲戒することを適当と認めるときは、同条2項から6項までの規定に基づき、日弁連に自らこれを懲戒することができるものとして、弁護士会による懲戒とは別に日弁連が独自に懲戒できる制度を認めている。
弁護士になろうとするものは、日弁連の弁護士名簿に登録されて弁護士になるのと同時に、当然、入会しようとする弁護士会の会員になり、かつ日弁連の会員になる(法58条、36条1項、47条)。日弁連は、弁護士の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し弁護士事務の改善進歩を図るため、弁護士の指導、連絡及び監督に関する事務を行うものとされており(法45条2項)、この権能を全うさせるために、法は弁護士会による懲戒とは別に、日弁連の独自の懲戒権を付与した。すなわち、弁護士に懲戒事由があるにもかかわらず懲戒請求がなされない等何らかの理由で弁護士会における懲戒が機能しない場合や、登録換えをした弁護士が登録換え前に懲戒事由に該当する非行を犯していた時に登録換え後の所属弁護士会では適正公正な懲戒手続の運用が期待できない場合等には弁護士に懲戒事由があるにもかかわらず適正な懲戒がなされず、弁護士懲戒制度の目的が達成できないおそれがあるため、かかる場合を補完し、弁護士自治に基づく懲戒権の適正な行使を確保する制度が要請される。また弁護士に登録換えの前後それぞれ別個の懲戒事由があり、これを一括して審査することが相当な場合にも、日弁連独自の懲戒制度がその意義を発揮するものと考えられる。
2 日弁連懲戒の補完性
弁護士は日弁連の弁護士名簿に登録されるのと同時に、当然入会しようとする弁護士会の会員となり(法36条1項>自己の所属する弁護士会の地域内に弁護士を指導監督しうるのは所属弁護士会である。また何人にも弁護士について懲戒を求めることができることを認めた法58条1項は、その請求先を日弁連とはせずの弁護士会として広く国民に弁護士の職務を直接監視する機会を与えていることからも、弁護士に対する懲戒については、第一次的には所属弁護士会によってなされることが予定されているものと解さされる。
また、法は、日弁連が各弁護士会に対する指導連絡監督権を有すること(法45条2項)弁護士会の判断に対する不服申立て手段として、対象弁護士等には審査請求(法59条)懲戒請求者には異議の申出(法64条第1項)をそれぞれ認め、弁護士に対する懲戒手続についていわば上級審たる役割を担わせており、日弁連独自の懲戒権の行使に対しては行政手続内での不服申立て手段を認めていない(法49条の3)
これらを考慮すると、日弁連独自の懲戒権は、現行法上、弁護士会の懲戒権に次ぐ第二次的、補完的なものとして位置付けされているものと解される。
法58条1項は「何人も」弁護士会に対して懲戒請求できることができると規定しているのに対して「法60条」は懲戒請求について触れるところがない。
前述のとおり、法60条の制度は、弁護士会による懲戒に対して第二次的・補完的なものとして位置付けされているもと解されること、法60条において「自ら・・懲戒することを適当と認めるとき」とのみ規定し、日弁連に対する懲戒請求に関しては規定を何ら設けていないことから、日弁連に対する懲戒請求についてはこれを否定する趣旨と解される。したがって、何人も日弁連に対して直接懲戒請求を行うことは認められていないと解される。
1 請求人又はその代理人が日弁連に懲戒請求を直接行った場合は、先ず、受付段階で日弁連に対する懲戒請求は法律上認められておらず、他方、弁護士法第58条第1項において弁護士会への懲戒請求権が認められているので、先ず、弁護士会に懲戒請求を行うよう指導する。
2 上記指導にもかかわらず、請求人又はその代理人が日弁連への懲戒請求を出したいと意思を撤回しないときは「弁護士の懲戒につき日弁連の職権発動を促す申し出」として受け付ける。
予備審査
1 「弁護士の懲戒につき日弁連の職権を促す申し出」として受け付けたものについては、先ず、担当主査理事において、日弁連自らが懲戒手続を行うのが適当かどうかの審議を常務理事会に求めるか否かの予備審査を行う。
2 担当主査理事は、既に同一事案につき弁護士会で懲戒手続が行われているもの、また、過去に同一事案について日弁連に対して異議申出、審査請求がなされ日弁連で審議したもの等明らかに常務理事会に対して審議を求める必要がないと認める申し出については常務理事会に当該申し出の審議を求めないものとする。
3 担当主査理事は前2以外の事案につき、予備審査の結果を常務理事会に報告し当該申し出の審議を常務理事会に求める
4 担当主査理事は前2において常務理事会の審議を求めなかった申し出については、会長に対して当該申し出人に対して、日弁連として懲戒権の発動をしない旨を通知するよう求める。
5 会長は前4の求めに応じて、当該申出人に対して、日弁連として懲戒権の発動をしない旨通知する。