X(旧Twitter)で札幌の弁護士が投稿した内容が不適切ではないかと札幌弁護士会に苦情の手紙を提出した方に札弁から送られてきた書状、弁護士会に「注意」などというものはできない。という返答

《弁護士懲戒手続の実務と研究》⑱ 懲戒処分以外に訓告、注意、謹慎はできない

先日、高等検事長が新型コロナ感染自粛要請中に新聞記者と賭けマアジャンをして検事総長より「訓告」処分を受け辞職をしたという報道がありました。検察官の懲戒処分制度は知りませんが、弁護士の懲戒制度ではあり得ない措置でした。弁護士の懲戒処分は「戒告」「2年以下の業務停止」「退会命令」「除名」しかありません。弁護士会は「訓告」や「注意処分」を出すことはありません。懲戒の手続に付されていないものに突然、訓告であっても処分を下すことは許されません。逆に訓告・注意処分で済ませたと「懲戒隠し」だといわれかねません。

日弁連調査室の「弁護士懲戒手続の実務と研究」からなぜ訓告、注意はないのか見てみましょう。

第2章 弁護士会の懲戒制度 

4)弁護士会の指導と懲戒手続の関係

弁護士会は弁護士の使命及び職務にかんがみ、弁護士の品位を保持し、弁護士事務の改善進歩を図るため、弁護士の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的としている(法31条1項)

右の規定のもとでも、弁護士の具体的職務に関して懲戒事由が存在する疑いがある場合に弁護士会がどの程度指導連絡監督権を発揮しうるかについては議論の余地がある。思うに、弁護士会の懲戒権は弁護士会の弁護士に対する監督を全うさせるために法が特別に与えた権能であり、右懲戒権の行使は弁護士会内の独立委員会である綱紀委員会及び懲戒委員会の判断に基づいて公正に行われていることが厳格に規定されていることからすると、ある特定の弁護士の弁護活動について、違法または不当な点が存在する疑いがあり、その点につき弁護士会が検討して懲戒事由に該当すると思料される場合は、原則として綱紀委員会に対し法58条2項に基づき調査を命じるべきであって、懲戒手続のような厳格な規定が存在しない弁護士会としての一般的な指導連絡監督権に基づく指導を安易に行うのは相当でないと解される。

しかし、いかなる場合にも弁護士会が指導連絡監督権を行使しえないと解すべきではなく、例えば明らかに違法な弁護活動、実質的に弁護権を放棄したと認められる行為、あるいは職業的専門家である弁護士としての良識を著しく逸脱した行為が認められ、懲戒手続を待っていたのでは回復しがたい損害の発生が見込まれる等の緊急を要する場合には、当該違法又は不当な行為を阻止し、あるいはこれを是正するために必要な限度で指導連絡監督権を行使することができるものと解すべきである(同旨大阪高判平成21年7月30日公刊物未搭載)この点について、当該会員の職務行為が、弁護士法その他の法令、弁護士会の会則又は公序良俗に反していることが客観的に明白に認められる場合、その他特に必要がある場合に、当該違法又は不当な行為を是正するために必要な限度で指導監督することができるとしたものがある(平成4年3月7日付日弁連事務総長回答)具体的には弁護士の業務広告に関する規程12条、多重債務処理事件にかかる非弁提携行為の防止に関する規程7条、法律事務所等の名称等に関する規程22条等が規定する違反行為の排除や是正措置がこれに該当する。

しかし、そのような指導連絡監督権の行使についても、懲戒処分に類似するような処分(例えば、戒告に類似する「注意」業務停止に類似すり強制力のない「謹慎勧告」、退会命令・除名に類似する強制力のない「退会勧告」等)は絶対に許されない。これを認めると、法56条2項に反して懲戒事由の有無にかかわらず懲戒処分をすることを認めたと同一の結果が生じるばかりでなく、弁護士会が慣れ合いで懲戒隠しを行っているとの不信感を国民に与えかねないからである。(「注意処分」に関する昭和56年2月26日付け日弁連事務総長回答参照)前述の弁護士の業務広告に関する規程、多重債務処理事件にかかる非弁行為の防止に関する規程、法律事務所等の名称等に関する規程等が規定する違法行為の排除や是正措置等においても同様である。

また、すでに懲戒手続が進行している場合には綱紀委員会や懲戒委員会の判断の独立性を確保する趣旨から、原則として指導監督権の行使を差し控えるのが相当であり,指導監督をするためには特別の必要がなければならない(同旨、前記平成4年3月17日付け日弁連事務総長回答)懲戒手続の進行中にも指導監督が認められるような『特別の必要』とは弁護士会の弁護士に対する具体的な指導監督によりその時点で発生している違法不当な状態を直ちに除去する高度の必要性があり、懲戒手続の進行を待っていては回復不可能な損害が生じることが明らかである場合等、例外的な場合に限られると解される。

また、これまで述べたように考えると具体的事件における弁護活動に関する問題行為であっても、それが過去に1回だけ生じた行為であって、依頼者等との間に現在何ら紛争が生じていなかったり、現時点で違法不当な状況を除去するために講ずべき措置がないような事案の場合には、懲戒処分以外に弁護士会が当該弁護士に対して何らかの指導監督を行う必要がある場合はほとんどありえないと思われる。 

このような事案の場合にも前述したの同様に弁護士会から当該弁護士に対する指導監督の名目で、当該行為の問題点について注意を与え反省を促したり、当該会員に始末書を書かせるといった対応が考えられるが、このような対応は許されないと解する、

すなわち、懲戒処分のうちの戒告は「対象弁護士に対し、その非行の責任を確認させ反省を求め、再びあやまちのないよう戒める処分」と解されているが、弁護士の問題行動について弁護士会が注意をするということは、この戒告に極めて類似する処分と解さざるを得ず、懲戒手続を経ずにこのような処分を弁護士会がなしうるということは、違法性の疑いが濃いからである。懲戒手続が進行中に別途戒告に類似するこのような処分を課しえない事は容易に認めらるであろうが、未だ懲戒手続に付されていない場合にあっても、例えばこのような処分をした後で、当該行為について一般人からの懲戒請求がなされた場合の不都合さを考えると、このような処分をすることが問題であることは明らかであろう。

したがって、具体的事件の弁護活動に関する問題行動であっても、それが過去に1回だけ生じた行為である場合はその弁護活動について何らかの懲戒事由に該当すると判断されるときは、弁護士会は直ちに綱紀委員会に対し法58条2項に基づき調査を命じるべきであり、他方、その弁護活動について、何ら懲戒事由に該当しないと判断される場合は、弁護士会は、当該弁護士に対し、原則として指導監督を行うべきでないということになる。

弁護士法懲戒の請求、調査及び審査)
第五十八条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。
2 弁護士会は、所属の弁護士又は弁護士法人について、懲戒の事由があると思料するとき又は前項の請求があつたときは、綱紀委員会にその調査をさせなければならない。
3 弁護士会は、綱紀委員会が前項の調査により弁護士又は弁護士法人を懲戒することを相当と認めたときは、懲戒委員会にその審査を求めなければならない。