「名古屋高裁判決」愛知県の児相・病院・元妻に対する損害賠償訴訟
~DV支援措置の半田市の和解に続き、県職員の性虐待冤罪と虚偽に父親が勝訴~
名古屋地裁令和3年9月30日付判決 名古屋高裁 令和4年10月19日付判決
【事案の概要】
児童相談所が裁判所で決まった面会交流を妨害したいとの意図を持つ母からの依頼に基づき子どもの診察をしていた病院に未成年者に対する「父親を含む第三者からの性的虐待の疑いに基づき、未成年者を一時保護。
一時保護にあたっては親権者に対しては、不服申立の機会を与えるために、一時保護場所を含めた一時保護理由を伝える必要があるが、父親は一時保護先を児相から伝えられなかった。(但し母親には一時保護先は告知されていた)。
父親は、当時、母親の妨害によって子供と会えない状態であったが、「性的 虐待の疑い」を理由に一時保護されたことに驚き、一時保護に了解したが、「あいち小児医療保健センター」については、母親が面会交流妨害目的で連れて 行ってる病院なので、その病院のA 医師は信頼できないので、A 医師の関与する一時保護は公平性・信頼性を害するため、別の医師の意見や関与を求めた。
それに対し、児童相談所職員 M(その他複数名)は「あいち小児の関与を否定」。一時保護期間中に、再度、あいち小児の関与の有無を確認した父親に対して、「あいち小児は全く関与していないし話も聞いていない」と虚偽説明をしていた。
その結果、父親は一時保護に対して、不服審査請求を行う機会を奪われるとともに、児童相談所は、都道府県児童福祉審議会の意見を聞かずに一時保護の延長を行った。
【判決要旨】
「原告は、あいち小児が本件一時保護に関与していないという知多児相の職員による虚偽の説明によって本件一時保護に対して審査請求を含む異議 申立ての手続きをとるか否かの意思決定をゆがめられて異議申立権を侵害され、また、都道府県児童福祉審議会に対する意見聴取という法定の手続 きを経ることなく一時保護の延長という親権を制約する処分をされた。」
⇒ その慰謝料として金11万円が認められる。
【控訴審での父親側の追加主張(但し、なぜか判決にはその争点が反映されず)】
① 通信制限の違法性
(父→子 に関してのみが争点として判決に記載される ) (子→父 に関して、主張するも、争点としての記載さえされなかった) 子どもから父宛の手紙等についても、一時保護期間中、父親の下に渡されることが無かった。
→ 過剰な人権侵害が行われている。
この点を、高裁にて主張したが、判決には、その「争点さえ」記載されていない。 未成年者からの通信を制限したことに対する愛知県の控訴審における反論
(抜粋) 「児童の保護の観点から、児童からの発信についても一定の制限が 必要となることがある。」
→ 実際に、本件で児相が子から預かっていた手紙(折り紙や似顔絵等)は、これを父に渡しても、一時保護の目的を害することはなかったはずであり、過剰な通信制限のはずである。「そもそも本件児童から一審原告への通信を制限することが本件児童の権利の侵害行為になり得るとしても、一審原告自身のいかなる権利を侵害するのか不明である。」
→このような考え方(一時保護期間中に、子の権利をどれだけ児相が侵害しても、それは親とは関係ないとの考え方)を愛知県がしているなら、一時保護期間中の児童の権利侵害は防げない。親は子の権利を代弁する立場だからこそ、親への説明義務や同意が必要とされているのに、親の親権・監護権等に関する配慮が余りにも足りない。
② 委託一時保護先の過剰診療及び児相が関与しない状況での医療行為
児相は、12月24日の段階で、翌日の一時保護解除を決めて、A 医師(「まだ父から子への虐待の証拠が見つかっていない」として、父を虐待者と決めつけ、一時保護解除に反対していた)にもその旨伝えていた。
A 医師は、翌日の一時保護解除を説明に来た児相職員が病院から帰った後、独断で(児相の許可なく、また、病院内の通常の手続も経ずに)、子の性器の検査 を行い(但し、当然、性的虐待に痕跡は見つからない)、翌日、子を児相が引き取りに来た時になって初めて、児相に「昨日、性器の検査をした」ことを報告。児相は、事前了解をしていない行為をA医師が独断で行ったことに驚いたが「今は、一時保護解除手続きのために忙しいから後から考える」として、そのままA医師の独断での医療行為を黙認した。
→ 過剰医療・不必要な医療の問題、委託一時保護先の職員(医師)の独断行為は、一時保護等では多発してる可能性がある(子の反抗を抑圧するための向精神薬の投与・監禁行為等)
本件では、児相は事後的にA医師の行為を了解したから問題ないと主張(但し、事後的に、いつ児相が了解したかについては回答せず)。
※児相が虐待児童の保護のために大きな期待を寄せられていることはわかる。 しかし、一時保護の名の下、子ども達の人権侵害行為がなされている 危険性が高い(児童相談所は、「児童の保護に支障が生じる」との理由で、 一時保護中の行為等について秘匿扱いにし、裁判等でも提出しない)。
現在、一時保護の開始等に関しても、裁判所の関与の必要性がとりだたされているが、それは、裁判所が子どもや保護者の人権保障をはかることが期待されているから。 しかし、裁判所自体が「児相=善」との前提で、保護者の異議申立権・ 面会・通信の自由、一時保護期間中の人権侵害行為に関して、チェック をしないなら、子どもの人権を守ることは出来ない。
【その他の本件当事者の事件の特徴】
一時保護解除後(間接強制決定・A医師からも面会を制限する理由はな いとの意見が出された後)、母親は、支援措置(原告をDV加害者として住 所を秘匿する措置)を利用して、子を連れて転居し、その結果、原告は面会 交流妨害をされるという被害を受けたが、これについては、原告は、支援措置を実施した愛知県半田市との間で、裁判上の和解において、
(1) 被告(半田市)は原告に対し、原告を加害者とする支援措置につき、不適正な取り扱いを行ったことを認め、陳謝する。
(2) 被告の不適正な取り扱いにより、原告がDV加害者であるかのような誤った印象や憶測が発生・継続したこと
2 原告が加害者扱いされたことにより、子供の情報に接することが困難になったこと
を重く受け止め、今後の支援措置実施に当たっては、その適正性等の確認に更に努めることを確約する。 との和解をしている(行政機関が、支援措置の誤りを認めて陳謝すること自体、極めて珍しい)(和解調書参照)。
【本件の社会問題的評価】
離婚に向けての子連れ別居において、子を連れて家を出た側(主に女性) が、父子の交流を妨害するため、警察や児童相談所、市町村等の保護を受け ようとする場合があり、行政機関は「女性」からの被害申告を鵜呑みにして、 女性の主張内容の真偽を精査せずに、「男性」を加害者扱いして排除しよう とする場合が往々にしてみられる。 本件の原告は、行政のおかしな対応に抗議した結果、裁判において、 児童相談所の対応 @半田市役所の対応に関して、「問題あり」と認定・評価され、慰謝料等を認められたり陳謝を受けている。
行政の責任を認める裁判(和解)は極めて珍しいように見えるが、このような「行政による不当な加害者扱い」は、被害を受けても争うこと自体が困難であるため、泣き寝入りしている当事者が多い。実際には、本件に限らず、多数の被害者が存在すると思われる。
時 系 列
H18 結婚
H19.9 長女が生まれる
H24.12.27 母親が子を連れて別居
H25.5.10 裁判所 (面会交流調停)にて、 父親と子供の裁判所での試行面会実施(父子関係良好のため, 7月からの裁判所外での任意での面会を裁判所が指示)
H25.8~H26.5まで 裁判所外で月1回の引渡型の面会を実施(その間, 学校行事へも参加, 手紙も送付もまで行う)
H26.5.27 面会交流等審判確定 (月2回, 第1週は宿泊面会, 第3週は日帰り面会, 夏冬春の長宿泊面会, 手紙送付可, 学校行事への参加可)
H26.5.30 母親, 子供が「精神的に不安定」であると言い出し、 病院に通院させはじめる(診断結 果によっては面会に応じられないと言い出す)。
H26.6.7 ~ 6.8 病院から診断書をもらえなかったため、面会交流審判に基づく宿泊面会交流実施
以降,「子供が精神的に不安定」である 「有名病院であるあいち小児で診断を受けるた め時間がかかる。 あいち小児の医者が会わせても問題ないと明確に診断するまで会 わせない」として、 引渡型の面会を全て拒絶。
H26.7.3 あいち小児初診 母親「面会させないための診断書」を依頼
H26.7.4 父親より引渡型面会不履行を理由に間接強制申立
H26,7.17 母親弁護士より、「あいち小児に2ヵ月の検査入院必要」との意見を貰ったとの書面が 届く。 あいち小児の医師もそれに沿った 「2カ月の入院を要する」との診断名のない「診 断書」を作成。 なお、父親が医師に対して「検査目的入院」に抗議をしたところ、 あいち小児医師は、 任意での入院を断念するが、 母がもってきた子供が書いた裸の絵だけを根拠に「子性的虐待を受けている危険がある」として、 児童相談所に虐待通告。
H26.9.29 裁判所より、 面会を履行すべきとして、間接強制決定 (不履行1回につき罰金1万円→ その後4万円に増額)
H26.10.17~12.25 父による性的虐待の嫌疑を理由に、 児童相談所が未成年者を一時保護。児童相談所は、 あいち小児の当初の希望通り、 あいち小児に未成年者を入院させる。 一時保護の父親への説明の際、 父親が 「あいち小児」の関与を疑ったところ、児童相 談所職員は、 「あいち小児の関与を否定」。 その後も、児童相談所職員は、「あいち小児からは一切話を聞いていいない」と、一時保護場所及びあいち小児の関与について、 (秘匿を超えて) 虚偽説明を続けた。父は、一時保護に同意、 一時保護の延長も同意する。 結局、 性虐待の確証は得られず、 一時保護解除。
H27.1.15 医師より母に対して「父からの性的虐待の危険性は高いと考えられないため、 病院とし ては特に父との面会を制限すべきとの意見ではない」と伝えられる (但し, 裁判所にも 父にも, 平成28年2月末まで、この事実を秘匿)。 しかしそれ以降も、 母親は、子を父に会わせず。
H27.5.28 名古屋高裁, 間接強制 「1回につき4万円」に増額する旨の決定を出す。
H27,2末 1年以上前の時期(H27,1,15)に母親はあいち小児から「父からの性的虐待の危険は高いと考えられないので面会を制限すべきではない」との意見を得ていたが、それを裁判所及び父親にも秘匿して「医師の意見が出るまで会わせられない」と言い続けていたことが発覚
H28,3.31 母親、 娘を連れて転居。 その際、 「父からDVを受けている」として、 半田市に対して、住所秘匿のための支援措置を行う。その結果、 今まで、父に好意的だった学校等も「父 のDVはないことはわかっているが、支援措置がされているので、答えられない」 と言い出す (制度悪用) (住所秘匿, 保険の扶養変更 学校の転校と教育委員会への情報秘匿申入れ)
令和4年10月19日判決言渡 同日原本領取 裁判所書記官 ・合和3年(ネ)第788号 損害賠償請求控訴事件(原審·名古屋地方裁判所平成30年(7)第1466号) 口頭論終結日和4年8月19日
判 決
控訴人兼被控訴人 ●●(以下「一審原告という」)(父親)
同訴訟代理人弁護士 梅村真紀 (弁護士法人桜通法律事務所)
被 控 訴人 ●●(以下一審被告という)(母親)
同訴訟代理人弁護士 可児康則 名古屋第一法律事務所
名古屋市中区三の丸三丁目1番2号
被控訴人兼控訴人 愛知県(以下「一審原告愛知県という」)
同代表者知事 大 村 秀 章
同代理人弁護士 服部千鶴
同訴訟複代理人弁護士 長坂早余子
別紙指定代理人 目録1記載のとおり
一審被告愛知県代表者病院事業庁長 高橋隆
同訴訟代理人弁護士 服部千鶴
同訴訟代理人弁護士 長坂早余子
同指定代理人 別紙指定代理人目録2記載のとおり
主 文
1 一審原告及び一審被告愛知県の各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は各自の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 一審原告の控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 一審被告らは、一審原告に対し、 連帯して、330万円及びこれに対する
平成26年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 一審被告愛知県の控訴の趣旨
(1) 原判決中、一審被告愛知県の敗訴部分を取り消す。
(2)一審原告の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は、一審被告愛知県が設置する児童相談所の長が、 同一審被告が設置する病院に委託して行った一審原告の長女(以下「本件児童」という。)に対する一時保護(以下「本件一時保護」という。)に関し、 一審原告が、一審被告愛知県及び一審被告●●(一審原告の当時の妻であり、本件児童の母である。) に対し、本件一時保護は、必要性を欠くものである上、上記児童相談所、 上記病院及び一審被告共謀により、 一審原告の本件児童との面会交流を妨害する目的で制度を悪用して行われた違法なものである、 上記児童相談所の職員が一審原告に本件一時保護の委託先を告知せず、 本件一時保護に上記病院が一切関わっていないとの虚偽の説明をしたことは違法であるなどと主張して、一審被告に対しては不法行為に基づく損害賠償として、一審被告愛知県に対しては国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として、慰謝料及び弁護士費用の合計330万円及び違法行為の後の日である平成26年12月26日 (本件一時保護が解除された日の翌日) から支払済みまで民法 (平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。) 所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
原審は、上記児童相談所の職員が一審原告に対して上記病院が本件一時保護に関与していないという虚偽の説明をしたこと、上記児童相談所の長が都道府県児童福祉審議会の意見を聴取することなく本件一時保護を延長したことは違法であるとして、一審被告愛知県に対し、上記の点に関して一審原告が被った精神的損害11万円(弁護士費用1万円を含む。)及び遅延損害金の支払を命ずる限度で認容し、一審被告愛知県に対するその余の請求及び一審被告●●に対する請求を棄却したところ、一審原告及び一審被告愛知県が控訴した、(以下、略語は、特に定めない限り原判決の表記に従う。)。
2 関係法令等の定め、前提事実
原判決「事実及び理由」第2の2、3に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
1 以下のとおり補正し、項を改めて当審における当事者の主張を追加するほか原判決「事実及び理由」第2の4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決7頁26行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「 しかも、本件一時保護は、原則一時保護所で行うべきであるにもかかわら ず、医療機関(あいち小児)への一時保護委託により行っているところ、こ れについて緊急性があったとか、特に専門的な医療行為が必要であったなど の事情は認められず、子ども虐待対応の手引き(甲45)に記載された対応に反するものである。」
(2) 原判決10頁9行目の「医療行為」の前に「必要性のない」を加える。
(3) 原判決13頁9行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「 しかも、本件一時保護を告知した平成26年10月17日の面談時や同年11月11日の面談時のやり取りからすれば、一審原告があいち小児に対する不満や不信感を抱いていることは窺われたものの、一審原告があいち小児の関与があることを知った場合、本件一時保護の延長に同意しないことが客観的に推測されるわけではなかった。
(4) 原判決14頁24行目の 「奪われた。」 の次に、以下のとおり加える。
「一審原告は、 新井医師に対し、一審被告●●が本件児童を洗面所に監禁して、本件児童が号泣している映像 (甲36) を見せており、この映像及び音声からすれば、本件児童を監禁し、虐待しているのは一審被告●● であることが明らかであった。」
4 当審における当事者の主張
(1) 知多児相の職員による虚偽説明について
(一審原告の主張)
ア 一審原告は、 平成26年11月11日、 知多児相の職員から、一時保護委託先があいち小児ではないという趣旨の虚偽説明を受けたものであり、こうした虚偽説明が許されないことは明らかである。
イ一審被告愛知県は、 「お答えできません」 との回答をすれば、一審原告があいち小児の関与につき確信を持ってしまう状況にあったなどと主張するが、一審原告は、一時保護開始の端緒において、 あいち小児の新井医師が何らかの関わりを持っているとの疑いは持っていたが、一時保護委託先があいち小児であるとは思っていなかった。
一審原告は、本件児童の一時保護は、 あいち小児の関与のない状況で、予断を持たない児童相談所により行われると信じており、 だからこそ、一時保護に同意したのである。
ウ 一審原告は、 あいち小児を訪問する際は、これまでも代理人弁護士を通じて書面を送り、同弁護士が事前に電話で予約を入れた上で訪問しており、仮に一審原告があいち小児の関与を認識したとしても、本件児童の保護やアセスメントに支障を来すおそれはない。
(一審被告愛知県の主張)
ア 本件一時保護を告知した平成26年10月17日の面談時や、 同年11月11日の面談時のやり取りからすれば、一審原告は審査請求を検討していた事実はなく、 あいち小児が本件一時保護に関与しているか否かがその意思決定のために重要な事柄であったわけではない。
イ一審原告はあいち小児の関与を強く疑っていたから、 知多児相の職員が同年11月11日の面接時に 「お答えできません」と回答したとしても、あいち小児の関与につき確信を持たれてしまう状況にあった。 しかも、当時、本件児童につきあいち小児に隣接する特別支援学校に通うことができるか否かを検討している段階にあり、仮に本件児童が特別支援学校に通うことになった場合、 一審原告●●やその父が本件児童に会いに行こうとすれば、 病院の1階ロビーや特別支援学校の入口で待機することで本件児童に接触できる可能性があった。また、本件の数年前、あいち小児では、虐待者であった父親が一時保護委託中であった児童に無断で会いに行き、その後の児童の治療や悪影響が生じた事例があった。 したがって、同年11月11日の面接時における知多児相の職員の説明は、そのように返答しなければ、一審原告が本件一時保護の委託先をあいち小児と確信することがほとんど確実であり、本件児童の保護やアセスメントに支障を来す現実のおそれがあると予想されたという状況下で、やむを得ず真実と異なる返答をしたものであって、 緊急避難的な措置として違法性が阻却されることは明らかである。
(2) 本件一時保護中の一審原告と本件児童との間の面会及び通信について
(一審原告の主張)
一審原告が、本件児童に手紙を渡すことについて、 「渡すことができるのであれば渡してほしい」 という言葉で児童相談所職員に依頼したとしても、そのことから、手紙を渡すか渡さないかを児童相談所職員の判断に委ねたと解すべきではない。児童虐待防止法は、面会・通信制限につき、児童相談所職員は、児童虐待を行った保護者に対してのみ児童相談所長ないし施設長の判断において、全部又は一部を制限することができる旨を定めるところ(12条1項)、児童相談所職員は、一審原告が本件児童に手紙を渡すことを希望していたことは 認識し、上記法令により一審原告には面会・通信の権利が存することを知っていたはずであるにもかかわらず、一審原告に対し、面会・通信の権利が存することを説明せず、一審原告が上記法令について無知であることを奇貨として、面会制限をし、手紙の交付をしない対応は、明らかに公務員の誠実義務に違反するものである。.
(一審被告愛知県の主張)
面会・通信の制限を求める場合、任意の協力依頼を求め、次に行政指導、 最後に行政処分を行うという段階を踏むのが一般的である。 本件では、一審原告●●が、「何か障害があるんだったら無理かもしれないで すけど、もし渡せるんだったら渡してほしいなっていうのが。」「渡すかは、いいんですよ。どうぞ。」と述べて、本件児童への手紙を知多児相に預けたという経緯である。面会・通信制限がなされた経緯について、一審原告の任意の協力と解するか、あるいは知多児相による行政指導とそれに対する一審 原告の了解と解するかは評価の問題であるが、いずれにしても、行政処分としての面会通信制限を実施したわけではない。..
(3) 本件児童に対する医療行為について
(一審原告の主張)
平成26年12月24日の時点で同月25日に一時保護を解除することが決まっていたから、同月24日に性器の検査を実施したことは、明らかな過剰診療であるとともに、本件児童及びその親権者である一審原告に対する人権侵害行為である。
(一審被告愛知県の主張)
一時保護の終盤に至って、本件児童から魚釣りの際にプライベートパーツを触れたことがあるという具体的なエピソードが明確に供述され、一時保護解除の前日の平成26年12月24日に、本件絵から、触れられたプライベートパーツが性器である可能性が浮上したため、 性暴力の痕跡の有無を確認する目的で泌尿器科診察 (性器の検査) が実施されたものであるから、同診察は医学的必要性に基づくものであり、その実施時期は適切であった。
(4) 本件児童の本件部屋への入室が隔離に当たるかについて
(一審原告の主張 )
隔離とは、「内側から患者本人の意思によっては出ることができない部屋の中へ一人だけ入室させることにより当該患者を他の患者から遮断する行動の制限」をいい、 気持ちを落ち着かせるためのソファーやぬいぐるみがあるとか、鍵をかけるか否かの問題ではない。 本件児童が本件部屋(ムーン)に入室中は看護師が立ち会っており、本件児童の意思で外に出ることができないから 「隔離」に当たることは明らかである。なお、本件では、本件児童に関して、一般病棟ではあるはずのない 「隔離指示書」(甲29194頁) や、「個室隔離可」 との指示が記載されている「タイムアウト指示表」 (甲29 275頁) が存する。
(一審被告愛知県の主張)
本件児童が本件部屋を利用したのは、本件児童が泣いていたことから落ち着かせるために本件部屋の使用を提案し、 本件児童が本件部屋への入室を希望した等の経緯であった。 本件児童が本件部屋に入室した際は、基本的に看護師が一緒であったが、それは、大泣きしていた本件児童に付き添い、気持ちを切り替えられるように言葉掛けをしたにすぎない。
本件部屋(ムーン)の前身は 「ベガ」 という名称の個室であり、患者自身や他者に危害を及ぼすおそれがある場合に、 一時的な隔離 (外からの施錠を含む。)に使用することがあったが、 「ムーン」 に変更された後は、 コントロールルームとしての用途のみとなっており、 「隔離指示書」 (甲2917 1 94頁)の記載は書式変更の不備によるものである。 「タイムアウト指示表」 (甲29275頁) では 「コントロールルームの使用」として指示されている。
当裁判所の判断
当裁判所も、知多児相の職員が一審原告に対して、 あいち小児が本件一時保護に関与していないという虚偽の説明をしたこと、 知多児相の長が都道府県児童福祉審議会の意見を聴取することなく本件一時保護を延長したことは違法であり、一審被告愛知県に対し、上記の点に関して一審原告が被った精神的損害11万円(弁護士費用1万円を含む。)及び遅延損害金の支払を命ずるべきであり、一審被告愛知県に対するその余の請求及び一審被告に対する請求を棄却すべきであると判断するものであるが、その理由は以下のとおりである。
認定事实
以下のとおり補正するほか、原判決 「事実及び理由」 第3の1に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決21頁7行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「ア 本件児童は、 平成26年10月20日未明、女性看護師に対し、 「今て男の看護師さんいる?」 「何人いるの?」 と尋ね、 同看護師が、本件児童に対し、 男性看護師が2人いることを伝え、「何か心配だった?」と聞くと、本件児童は 「聞いただけ、 何もないよ」 と答えた。 (甲29 14 7頁)
イ 本件児童は、 平成26年10月22日、養護学校の国語担当教員が男性であったところ、その男性教員を泣いて拒否し、2日後にも同様に男性教員を拒否したため、女性教員に交替した。(甲29151 153頁 )
ウ 本件児童は、看護師と毎日面談を重ねていたところ、 平成26年10月31日頃から、巨人みたいな大きな人が周りの人を食べるとか、周りの人を透明人間にするなどの怖い夢を見たことを打ち明けるようになった。 (甲29.158、159頁)」
原判決21頁8行目の「ア」を「エ」と改め、11行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「 また、本件児童は、本件絵を描いたとき、たぶん死にたいと思っていたが、いまは死にたいとは思わないとも話し、まだ思い出せないこともあると思うと話した。(甲29・170頁)」
(3) 原判決21頁12行目の「イ」を「オ」、19行目の「ウ」を「カ」、2‘ 2行目の「エ」を「キ」とそれぞれ改め、24行目の「(甲29)。」を、
以下のとおり改める。 「。本件児童は、家の外でプライベートパーツを触られたこと等があるかについて質問されると、「ないないない……」と否定し、家の中でプライベートパーツを触られたこと等があるかについて質問されると、両親からはないと 即答したが、祖父母については、黙り込んだ後に「えんじん消えまーす」「ドカーン」などと話をそらした(甲29.187~190頁)。」
(4) 原判決21頁25行目の「オ」を「ク」、22頁1行目の「カ」を「ケ」とそれぞれ改め、3行目の「触られたこと、」の次に「このことを父にも母にも言えておらず、今まで忘れていたこと、」を加える。
(5) 原判決22頁5行目の「キ」を「コ」と改め、6行目から7行目にかけての「甲29の2頁」の次に「、丙22」を加える。
(6) 原判決13行目の「ク」を「サ」とそれぞれ改める。
2 争点1(一審原告主張の違法事由の有無)について
(1) 本件一時保護の必要性及び一時保護制度の悪用との主張について受け以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の2 (1)に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決25頁10行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「一審原告は、本件一時保護が医療機関(あいち小児)への一時保護委託・ により行われていることにつき、 緊急性があったとか、 特に専門的な医療行為が必要であったなどの事情は認められないと主張するところ、 前記(原判決引用部分)の事情を踏まえれば、一時保護委託先を医療機関であるあいち小児とする一時保護を行う必要性、合理性があったと認められる。 子ども虐待対応の手引き (平成25年8月改正版。 丙2) には、医療機関に委託一時保護する場合として、「専門的な治療や検査が必要な子どもは、児童相談所における一時保護が困難な場合がある。 このような場合は、その子どもに対応できる医療機関等への委託一時保護を検討する。」とされているところ(平成21年版の子ども虐待対応の手引き」においても、同様の定めがある。 甲45)、本件一時保護は、 上記手引きにも沿った対応と認められる。」
(2) 一時保護委託先の不告知について
原判決 「事実及び理由」 第3の2(2)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(3)知多児相の職員による虚偽説明について
以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」 第3の2 (3)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決28頁 16行目の「解することできない」 を 「解することはできない」と改める。
イ 原判決28頁 18行目の「もし、原告が本件面会交流審判に反して」 を「本件一時保護当時、一審原告は本件面会交流審判が履行されないことについて間接強制の申立てをし、一審被告●●は面会交流の方法を間接交流に変更する旨の申立てをしており、 仮に一審原告が一審被告の意向を無視して」と改める。
ウ 原判決28頁 25行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「さらに、一審被告愛知県は、 一審原告があいち小児の関与を強く疑っていたから、仮に 「お答えできません」と回答したとしても、あいち小児の関与につき確信を持たれてしまう状況にあったと主張する。 しかしながら、前記(原判決引用部分) のとおり、 知多児相の職員に許されるのは、一時保護委託先を開示することはできない旨を回答する限度であって、そうしまた回答では、一審原告があいち小児の関与を疑う姿勢に変わるところがないかもしれないが、 あいち小児の関与が断定されるものではない。 しかも、 前記(原判決引用部分) のとおり、本件一時保護が行われている中で一審原告が無理やり本件児童と面会しようとしたり、 本件児童をあいち小児から連れ戻したりするような差し迫った危険があったとはいえないのであっで、知多児相の職員による虚偽の説明がやむを得ない緊急避難的な措置であったとも認められない。
なお、一審被告愛知県は、本件の数年前、 あいち小児において、虐待者であった父親が一時保護委託中であった児童に無断で会いに行き、 施錠された病棟内に立ち入ることはなかったものの、エレベータホールからガラス越しに当該児童と対面し、 当該児童は父親への恐怖や被虐待経験を次第に吐露するようになる過程にあったことから、 その後の当該児童の保護に悪影響を及ぼした事例 (丙21) があったことを指摘する。 また、 当時、 本件児童につきあいち小児に隣接する特別支援学校に通うことができるか 否かを検討している段階にあり、 仮に本件児童が特別支援学校に通うことになった場合、 病棟から病院の1階ロビーを通ることになり、 一審原告やその父が本件児童に会いに行こうとすれば、 病院の1階ロビーや特別支援学校の入口で待機することで本件児童に接触できる可能性があった (丙21)。 しかし、 知多児相の職員において、一審原告が本件児童に直接接触しないような措置が必要であると判断したとしても、それを実現するために、一審原告に対して一時保護委託先について虚偽の事実を伝えるという方法によるべきではなく、 施設の管理運営や本件児童の見守りにつき慎重に配慮するなどの方法によって対処すべきである。 . .
さらに、一審被告愛知県は、本件一時保護を告知した平成26年10月 17日の面談時や、同年11月11日の面談時のやり取りからすれば、15日、 一審原告●●は審査請求を検討していた事実はなく、あいち小児が本件一時保護に関与しているか否かがその意思決定のために重要な事柄であったわけで はないと主張する。しかし、一審被告愛知県は、一方で、一審原告が新井医師及びあいち小児に対する不信感と拒否感をあらわにし一時保護委託 先があいち小児であることを知れば、本件児童の保護やアセスメントに支 障を来す現実のおそれがあると予想されたと主張しているのであって、こうした一審被告愛知県の主張自体が、本件一時保護の委託先があいち小児 か否かという点が、一審原告において本件一時保護を受け入れるかどうかの重要な事柄であったことを裏付けるものである。」
(4) 本件一時保護の延長について
以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の2(4)に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決29頁9行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。 「 一審被告愛知県は、本件一時保護を告知した平成26年10月17日の面談時や、同年11月11日の面談時のやり取りからすれば、一 審原告があいち小児の関与があることを知った場合、本件一時保護の延長に同意しないことが客観的に推測されるわけではなかったなどと主張するが、前記(3)で述べ たとおり、一審原告において本件一時保護の委託先があいち小児か否かとい う点が重要な事柄であることは、一審被告愛知県の主張からも裏付けられるものである上、知多児相の職員●●自身が、原審証人尋問において、一審 原告●●は、一時保護先があいち小児であることを知っていれば、延長を了解していなかったと思う旨を証言していることからも裏付けられる(松永聡は、陳述書(丙21)において、上記証言内容は当時の認識ではないなどと記載するが、同記載部分を採用することはできない。)。一審被告愛知県の上記主張を採用することはできない。」
(5) 本件一時保護中の一審原告と本件児童との間の面会及び通信について
以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の2(5)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決29頁23行目の「述べていた」から、30頁1行目までを、以下のとおり改める。
「述べており、一審原告が、 知多児相の職員が手紙を交付しない措置を取ったならばその措置には従わない意思を明確にしたとは認められない。
一審原告において、知多児相の職員が手紙を交付しない措置を取ったならばその措置には従わず、あくまで本件児童に手紙を交付することを求めたのであれば、知多児相の所長は、児童虐待防止法12条1項に基づいて面会・通信の全部又は一部の制限をするか否かの判断をすることになるが、上記のとおり、一審原告は知多児相の職員による手紙を交付しない措置には従わない意思を明確にしていない以上、上記の事実経過において児童虐待防止法12条1項の処分がされたと評価することはできない。」
イ 原判決30頁2行目の「また、」の次に、「一審原告が知多児相の職員に手紙を渡した際の心情としては、可能な限り本件児童に手紙を渡してほしいという趣旨であったと理解することができるが、」を加える。
ウ 原判決30頁6行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
なお、一審原告は、児童虐待防止法が児童虐待を行った保護者に対してのみ面会・通信制限をすることができる旨定めているから (12条1項)、一審原告●●は面会・通信の権利が存するにもかかわらず、 児童相談所職員はその説明をせず、一審原告が本件児童に手紙を渡すことを希望していることを認識しながらこれを交付しなかった対応は、明らかに公務員の誠実義務に違反する旨主張するが、上記のとおり、一審原告が知多児相の職員による手紙を交付しない措置には従わない意思を明確にしていなかった上、同手紙を本件児童に交付しなかったことは本件一時保護の目的に沿うものであると評価できる以上、一審原告の主張を踏まえても、 知多児相の職員の対応が、誠実義務に違反するなどの違法なものであったと認めることはできない。」
(6) 公務員の不当な差別的取扱いとの主張について
原判決「事実及び理由」第3の 2{6)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(7) 本件児童に対する医療行為について
以下のとおり補正するほか、原判決 「事実及び理由」 第3の2(7)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決31頁 25行目の「原告」を「本件児童」と改める。
イ原判決32頁 12行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「なお、一審原告は、平成26年12月24日の時点で同月25日に一時保護を解除することが決まっていたから、同月24日に性器の検査を実施したことは、明らかな過剰診療であるとともに本件児童及びその親権者である一審原告に対する人権侵害行為であると主張する。 しかしながら、 前記認定事実によれば、性器の検査が一時保護の終盤になったのは、終盤になって、本件児童から魚釣りの際にプライベートパーツを触られたことがある旨が述べられ、 同月24日に本件絵により、触られたプライベートパ ツが性器である可能性が表面化したため、同月24日に性器に対する何らかの性被害の痕跡がないかを確認する必要が出てきたためであるから、一時保護の終盤に性器の検査がされたことをもって、その医療行為が違法なものであると認めることはできない。」
(8) 本件児童が隔離室に隔離されたとの主張について
以下のとおり補正するほか、原判決 「事実及び理由」 第3の2 (8)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決32頁21行目の「本件児童が」から23行目の「(甲29)」までを、「本件児童が本件部屋を利用した経緯は、平成26年10月25日に、本件児童自身が安静時間中の入室を希望して本件部屋を約30分間 利用し、同年11月6日、本件児童が他の入所者の発言で泣いてしまったため、落ち着かせるために本件部屋を約15分間利用したというものであ ったこと(甲29.154、161、194頁)」と改める。
イ 原判決32頁26行目末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。 「 一審原告は、本件児童が本件部屋に入室中は看護師が立ち会っており、本件児童の意思で外に出ることができないから「隔離」に当たると主張す るが、前記のとおり、本件児童が本件部屋を利用したのは、気持ちを落ち 着かせるための短時間のものであって、本件児童の意思に反するものではなかったし、看護師が立ち会っていたのは本件児童のケアのためであって本件児童が本件部屋から出たいと希望した場合に、それを阻止する目的で 立ち会っていたものとは認められないから、「隔離」に当たるとはいえない
なお、本件児童に係る隔離対応シートやタイムアウト指示表において、 本件部屋の利用を「隔離」とも受け取れる表記がされている部分があるが (甲29.194、275頁)、本件部屋(ムーン)の前身が「ベガ」という名称の個室であり、感情のコントロールができずに暴れるなど患者自 身や他者に危害を及ぼすおそれがある場合に、一時的な隔離(外からの施錠を含む。)に使用することがあったが、「ムーン」に変更された後は、 コントロールルームとしての用途のみとなったことが認められ(弁論の全趣旨)、本件部屋への入室が「隔離」として表記されている上記部分は、書式変更の不備によるものと認められる。また、隔離室で隔離対応してき た入院患者の統計資料には、本件部屋への入室についても「隔離」として 扱われているが (甲35の1~3)、 これについても、 前身の「ベガ」が 隔離室として利用されていたことから誤って本件部屋 (ムーン)の状況を含めて報告したものと認められる (なお、 報告に際しては、個室隔離(施錠・開錠)とムーンの使用は明確に区別されている。 甲35の2)。 したがって、これらの事情は、本件児童が本件部屋を利用したことが 「隔離」に当たらないとの前記認定を左右するものではない。」
3 争点2(一審原告の損害)について
以下のとおり補正するほか、原判決 「事実及び理由」 第3の3に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決33頁24行目末尾の次に、以下のとおり加える。
「なお、一審原告は、本件児童が号泣している映像 (甲36) から、 本件児童を監禁し虐待しているのは一審被告であることが明らかであると主張するところ、 同映像によれば、 洗面所で一審被告から歯磨きをするように言われた本件児童が、 それに従わずに泣いている状況が窺われるものの、同映像から直ちに、一審被告が本件児童に対し監禁ないし虐待に当たる行為をしたと認めることはできない。
4 結 論
以上によれば、一審原告の請求は、一審被告愛知県に対し、11万円及びこれに対する違法行為の後の日である平成26年12月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、 一審被告愛知県に対するその余の請求及び一審被告に対する請求は理由がない。 一審原告及び一審被告愛知県は当審においてその他種々主張するが、それらの主張を検討しても前記判断を左右するものではない。
第4 結論
よって、一審原告及び一審被告愛知県の各控訴は、いずれも理由がないから棄却することとして、 主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事4部
裁判長裁判官 永 野 圧 彦
裁判官 前 田 郁 勝
裁判官 真 田 尚 美
【事案の概要】
児童相談所が、裁判所で決まった面会交流を妨害したいとの意図を持った母からの依頼に基づき子の診察をしていた病院で、未成年者に対する「父親を含む第三者からの性的虐待の疑い」に基づき、未成年者を一時保護。一時保護にあたっては、親権者に対しては、不服申立の機会を与えるために、一時保護場所等を含めた一時保護理由を伝える必要がある。
父親は、当時、母親の妨害によって子供と会えない状態であったが、「性的虐待の疑い」を理由に一時保護されたことに驚き、一時保護に了解したが、「あいち小児医療保健センター」については、母親が面会交流妨害目的で子を連れて行ってる病院なので、その病院のA医師は信頼できないので、A医師の関与する一時保護は公平性・信頼性を害するため、別の医師の意見や関与を求めていた。
それに対し、児童相談所職員はあいち小児の関与を完全に否定して一時保護を了解させる。一時保護期間中に、再度、あいち小児の関与の有無を確認した父親に対し、再び虚偽説明を行う。その結果、父親は、一時保護に対して、不服審査請求を行う機会を奪われるとともに、児童相談所は、都道府県児童福祉審議会の意見を聞かずに一時保護の延長を行った。
【判決要旨】
「原告は、あいち小児が本件一時保護に関与していないという知多児相の職員による虚偽の説明によって本件一時保護に対して審査請求を含む異議申立ての手続きをとるか否かの意思決定をゆがめられて異議申立権を侵害され、また、都道府県児童福祉審議会に対する意見聴取という法定の手続きを経ることなく一時保護の延長という親権を制約する処分をされた。」
⇒ その慰謝料として金11万円が認められる。
【その他の本件当事者の事件の特徴】
原告がかかる不当な一時保護を受けた後、母親は、支援措置(原告をDV加害者として住所を秘匿する措置)を利用して、子を連れて転居し、面会交流妨害をされるという被害を受けたが、これについては、原告は、支援措置を実施した愛知県半田市との間で、裁判上の和解において、
⑴ 被告(半田市)は原告に対し、原告を加害者とする支援措置につき、不適正な取り扱いを行ったことを認め、陳謝する。
⑵ 被告の不適正な取り扱いにより、
①原告がDV加害者であるかのような誤った印象や憶測が発生・継続したこと
②原告が加害者扱いされたことにより、子供の情報に接することが困難になったこと
を重く受け止め、今後の支援措置実施に当たっては、その適正性等の確認に更に努めることを確約する。
との和解をしている(行政機関が、支援措置の誤りを認めて陳謝すること自体、極めて珍しい)(和解調書参照)。
【本件の社会問題的評価】
離婚に向けての子連れ別居において、子を連れて家を出た側(主に女性)が、父子の交流を妨害し、親権取得の判断を有利にするため、警察や児童相談所、市町村等の保護を受けようとする場合があり、行政機関は「女性」からの被害申告を鵜呑みにして、女性の主張内容の真偽を精査せずに、「男性」を加害者扱いして排除しようとする場合が往々にしてみられる。
本件の原告は、行政のおかしな対応に抗議した結果、裁判において、
①児童相談所の対応 ②半田市役所の対応
に関して、「問題あり」と認定・評価され、慰謝料等が認められたり陳謝を受けている。
行政の責任を認める裁判(和解)は極めて珍しいように見えるが、このような「行政による不当な加害者扱い」は、被害を受けても争うこと自体が困難であるため、泣き寝入りしている当事者が多い。実際には、本件に限らず、多数の被害者が存在すると思われる。