令和06年(コ)第191号
対象弁護士 広瀬 めぐみ
2024年(令和6年) 4月9日 第二東京弁護士会綱紀委員会第1部 部会長 遠山 康
令和06年(コ)第191号事件に関し、貴殿からの交付申請を許可しましたので、 対象弁護士から提出された下記の書面をお送りします。
答 弁 書
第1 「申立の趣旨」 に対する答弁頭書事案につき、懲戒委員会に審査を求めないことを相当とする議決を求める
第2 「申立の理由」、「処分を求める事由」に対する認否・反論
認 否
懲戒請求者が指摘する報道 ( 甲1) 被調査人が報道内容を認めて 謝罪の会見を行った事実、 被調査人の職歴、 萩谷麻衣子弁護士の発言 (甲3) は認め、その余の懲戒請求者の主張は否認ないし争う。
反 論
(1) 弁護士法56条1項が規定する 「非行」 は実質的な概念であること 弁護士法56条1項は、 弁護士は、 弁護士法や所属弁護士会等の会則に違反し、 所属弁護士会の秩序又は信用を害するなど、その品位を失うべき非行があった場合は懲戒を受ける旨を規定している。
この点、懲戒事由の該当性の判断については、弁護士法や会則中には訓示的規定や単なる手続的規定も多いことを考えると、懲戒に値しない形式的違反行為はそもそも懲戒事由に該当しないと解される。
懲戒事由に形式的にでも該当する場合は常に懲戒すべきで あるとすれば、 懲戒制度の運用が硬直化して実情にそぐわなくなるおそれがある。 したがって、「非行」 の懲戒事由の該当性は実質的に判断され、懲戒処分を受けねばならないだけの非違行為である必 要がある (以上につき、「条解弁護士法」 第3版 519~520 「条解弁護士法」第3版・519~520頁)
(2) 不貞行為は、私生活上の事項であり、 業務関連性がないこと
ア 家庭内の問題であること
懲戒請求者が、 本懲戒請求において指摘する懲戒の対象となる 事実は、 被調査人が不貞行為をおこなったこと、及びそれが大きく報道されたことである。
しかし、 被調査人の不貞行為は、 弁護士業務と関連して行われたものではなく、私生活とりわけ家庭内の事項である。
たしかに、 不貞行為は、 民法上の不法行為を構成することがあるが、本件に関しては、 被調査人の夫がその請求権の主体であるところ(不貞相手には配偶者はいない)、 被調査人の夫は、被調査人との今後の婚姻関係維持を念頭に、 被調査人に対してその権利を行使する意向を示していない (被調査人代理人は、被調査人の夫と面談を実施、 その意向を確認している)
イ 業務関連性がないこと
弁護士法上、 非行は、「職務の内外を問わず」 と規定されていることから、 私生活上の事項であって対象たりうる。 しかしながら、懲戒制度は、 弁護士としての信頼を損ねる行為を監督するものであり、 私生活上であっても、 弁護士との知識や経験を悪用し、 弁護士に対する信頼を著しく損ねる行為が懲戒対象の主眼にある というべきである。 この点、 過去の懲戒事例において、私生活 (依頼者からの依頼を受けた業務外) において、 弁護士が実弟の訴訟委任状を無断で作成して行使したケース (東京高判昭和42年8月7日) や、 弁護士本人が当事者である相続において、弟と共有の土地の分筆登記の申請書を弟の承諾を得ずに作成して行使した ケース (東京高判昭和38年1月31日) があるが、 まさに弁護士としての知識や経験を悪用したものであり、私生活上のこととはいえ、 弁護士の職務に対する信頼を損ねる行為であったといえる。
これに対し、 本件において懲戒請求事由とされている事情は、 弁護士としての知識、経験を悪用したり、 弁護士としての信用を利用した行為ではなく、業務関連性のない、 家庭内の問題であるから、上記懲戒事例で問題とされた違法行為とは全く性質の異なる行為である。
(3) 小 括
以上のことから、
1 被調査人の私生活とりわけ家庭内の問題である不貞行為で、かつ、 被害者となり得る被調査人の配偶者も被調査人との婚姻関係の維持を念頭においている事案であり、
2 弁護士としての業務関連性も全くない本件において弁護士会が、被調査人を懲戒処分とすることは相当でない
なお、 懲戒請求者は、 被調査人が、国会議員という立場として謝罪をしたとの報道に触れた上で、弁護士は国会議員よりもはるかに高い倫理が求められると主張している。
しかしながら、 当該主張は懲戒請求者の独自の主張であるし、そもそも、国会議員と弁護士のどちらが高い倫理が求められるのかという問題設定自体が不適当である。
弁護士会が懲戒を行うのは、被調査人が弁護士として品位を失うべき非行を行い、 懲戒を相当とする場合であり、 被調査人が国会議員を兼務していることを理由にしたり 国会議員に求められる倫理観との比較をしたりして、 特別に処分を加重できるもので はない。
以上のとおり、 本件は懲戒を相当とする事情はない。
以 上
>弁護士は国会議員よりもはるかに高い倫理が求められると主張している。
懲戒請求者の上記の主張は国会議員は違法行為を行った場合、国民は次の選挙で落選させることも可能である。しかし、弁護士の場合は所属弁護士会の綱紀委員会に判断を委ねなければならない。懲戒権は弁護士会にしかない。
国会議員よりも弁護士の方が高い倫理を求められる。
弁護士は家庭裁判所の調停委員や裁判官にも就任することがある。人を裁くこともある。弁護士は裁判官、調停委員等になり、不貞行為に関する事案で意見、判断を求められることもある。その場合今回のような不祥事を行い正しい意見、判断ができるだろうか?