日司連懲戒処分の公表及び開示に関する規則に基づき、懲戒処分事例について次のとおり公表 する。
懲戒処分書
事務所 神戸市中央区元町通六丁目7番10号元町関西ビル3階
司法書士 蔭山 倫理
上記の者に対し、次のとおり処分する。
主 文
令和6年10月12日から1か月の業務の停止に処する。
理 由
第1 事案の概要
本件は、司法書士蔭山倫理(以下「被処分者」という。)の補助者であったAが、 被処分者が成年後見人として選任されていたB及びC(以下、Bと併せて 「本件被後見人ら」という。)の 財産管理業務を担当していたところ、Aが、 本件被後見人ら名義の口座から、合計2,344万8,818円 を横領したとして、被処分者自身による兵庫県司法書士会 (以下「兵庫会」という。) への報告 に基づき兵庫会が調査をし、 司法書士法第60条に基づく報告がされたという事案である。
第2 認定事実
以下の事実が、 兵庫会の調査報告書及び神戸地方法務局における調査結果その他の一件記録か ら認められる。
1 被処分者は、 平成元年11月28日、 司法書士となる資格を取得し、平成2年5月10日付け登 録番号兵庫第○号をもって兵庫会に入会し、 司法書士の業務に従事しているものであり、これまでに懲戒処分歴はない。
2 被処分者は、平成26年12月○日、○家庭裁判所の審判によりBの成年後見人に選任され、 令和元年11月○日、○家庭裁判所の審判によりCの成年後見人に選任されたところ、当時補助者をしていたAに、本件被後見人らの日常生活における金銭の出金、 送金、通帳の記載及 び金銭出納帳の記載等の財産管理の業務の補助を担当させた。
3 Aは、少なくとも平成29年6月から令和4年4月までの間、 B名義の口座から現金を繰り返し出金し、合計1,580万0821円を自己の用途に使用するために着服して横領した。
4 Aは、令和3年7月から令和4年4月までの間、 C名義の口座から現金を繰り返し出金し、 合計191万7,705円を自己の用途に使用するために着服して横領した。
5 Aは、上記3及び4に際し、家庭裁判所への定期報告の際に領収書の添付を求められない 10万円以下の金額で本件被後見人ら名義の口座から出金し、 本件被後見人らの生活費、物品 購入及びリフォーム費用等のための出金として通帳に記入した上、金銭出納帳に収入記録を記載しなかった。 また、 Aは、 偽造した領収書の写しを添付し、本件被後見人らのために出金がされたかのように装った。
被処分者は、Aに対して、 家庭裁判所に提出する定期報告書について事前に必ず被処分者 の確認を受けるよう一定の指導をしていたが、 A を信頼していたことから、Aの作成した定期報告書の確認を怠った。 また、 事務所の金庫に保管されている本件被後見人らの通帳の残高と本件被後見人らの自宅に保管されている金銭出納帳の原本の残高との突合を怠ったため、Aが横領している事実に気付かなかった。
6 Aは、令和4年5月○日、被処分者に対し、本件被後見人らの口座から金銭を横領していたことを自白し、同月〇日、○警察署に出頭した。
7 被処分者は、令和4年6月○日、 AがC名義の口座から横領した金額と同額をC名義の口 座に振り込んだ。
8 被処分者は、令和4年7月○日、 AがB名義の口座から横領した金額と同額をB名義の口 座に振り込んだ。
9 被処分者は、 上記5のとおり、 Aに対する監督義務を怠り、 Aが上記3及び4の横領行為 をすることを可能とさせ、その結果、本件被後見人らに1,771万8,526円という損害を発生させたものである。
第3 処分の量定
1 被処分者は、成年後見人として本件被後見人らの財産を適切に管理する義務を負っているとともに、Aに対する監督責任を負っていたにもかかわらず、これを怠り、Aが、本件被後見人らの口座から金銭を横領したことを許したというものであり、被処分者の行為は、司法書士法第2条(職責)、同法第23条 (会則の遵守義務)、兵庫会会則第87条 (品位の保持等)、 同会則第98条の2 (預り金の取扱い)、 同会則第106条 (会則等の遵守義務)、 同会則第109条 (補助者等の使用責任) に違反する。
2 被処分者の違反行為については、 司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方 (処 分基準)別表番号18の「補助者の監督責任」に該当し、懲戒処分の量定としては 「戒告又は 1年以内の業務の停止」 が相当とされている。
3 被処分者は、 家庭裁判所に提出する定期報告書について、 事前に必ず被処分者の確認を受 けるよう補助者に指導するなど、一定の監督を行っていたことが認められるが、 Aが作成した定期報告書について、 事前確認が不十分であったり、一部事後確認になったりしており、 十分な監督責任を果たしていたとはいい難い。 また、 被処分者は、 A を信頼しており、 事務所に保管していた本件被後見人らの通帳の残高と本件被後見人らの自宅に保管されている金 銭出納帳の原本の残高を突合しなかった。
結果として、 Aの横領に気付くことができず、 B については平成29年6月から令和4年4月までの間、Cについては令和3年7月から令和4 年4月までの間、 Aの横領を許すこととなっており、横領の被害は長期間に及んだ上、 被害 金額も1,771万8,526円と多額である。 Aが作成した支払実態のない領収書の写しを添付して いたといった手口の巧妙さを踏まえても、被処分者の管理責任の懈怠の程度は小さくない。
4 被処分者は、事務所に設置されている金庫において、本件被後見人らの預金通帳等の財産 を保管し、金庫の暗証番号は被処分者又は経理担当者が管理し、Aが勝手に出金できないよ うにしていた旨の主張をするが、 Aは金庫の暗証番号を把握しており、自由に金庫を解錠し た上で横領に及んでいたのであるから、 被処分者の主張は、その処分の量定を左右しない。
5 他方、被処分者が、 Aの横領が発覚後、速やかに本件被後見人らに対して、 横領額の全額を弁済していること、 本件について自ら兵庫会に報告し、 兵庫会の調査にも協力的であるこ とは、被処分者にとって酌むべき情状であるといえる。
6 よって、これら一切の事情を考慮し司法書士法第47条第2号の規定により被処分者を主文のとおり処分する。
令和6年10月11日 法務大臣 牧原 秀樹