令和7年11月18日判決言渡 令和7年(ワ)第20489号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和7年10月21日
判 決 書
原告 山口三尊
被告 福永活也
主 文
1 被告は、原告に対し、10万円及びこれに対する令和5年8月25日から支払い済まで年3分の割合による金員を支払え
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は原告に対し、20万円及びこれに対する令和7年5月21日から支払い済まで年3分の割合による金員を支払え
第2 事案の概要
本件は、原告がインターネット上の被告の投稿により名誉感情及び名誉権が侵害されたとして、被告に対して、不法行為に基づき、30万円及びうち10万円に対する令和5年8月25日から支払い済まで、うち20万円に対する令和7年5月21日から支払い済まで、それぞれ民法所定の年3分の割合による遅延損害金を求める事案である。
1 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないが、掲記の証拠(特に記載しない限り、枝番があるものは枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1)原告は「福永活也被害者の会代表幹事」と称し実名でXのアカウントを利用しているほか、「裁判ウオッチャー、さんそんチャンネル」と称する民事裁判の傍聴に関するYouTubeチャンネルを運営している個人である。(甲30、乙1,2)
被告は、東京弁護士会所属の弁護士であり、「福永活也@冒険家弁護士YouTuber13万登録」、「福@NHK党比例区」(フォロワー数は令和7年7月21日時点で7万0062人)などのアカウント名でXを利用している。(甲4,5,16)
(2)被告は、令和5年8月25日、「バカと前向きに付き合う」と題する著書の一部公開として、noteというウエブサイト上において、別紙投稿記事目録1の記事(以下「本件記事」という。)を投稿した。(甲1)
(3)原告は、令和7年4月頃、東京地方裁判所に、被告に対して不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。(以下「本件前訴」という。)本件前訴において、原告は、被告が令和4年4月30日頃、YouTubeの動画で「はあちゅうさんの証人尋問に行ったんですけど、傍聴に、あのー、アンチが見にくるんですよ。まじでもう見たこともないくらい、あの汚い人たちなんですよ」と発言(以下「本件前訴発言」という。)したことについて、この発言は上記証人尋問を傍聴していた原告の名誉感情を侵害するものであるなどと主張し、被告に対して20万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。(甲9、乙6)
(4)被告は、令和7年5月1日から同月9日、Xに別紙投稿記事目録2ないし4の投稿をした(以下「本件投稿」(5)被告は令和7年5月21日原告が行った被告に対する弁護士懲戒請求に関して、Xに別紙投稿記事目録5ないし7の投稿をした。
(6)東京地方裁判所は令和7年8月14日、本件前訴について本件前訴発言が原告についてされたものであるとは認められず、仮に原告についてなされたものであるとしても、社会通念上許容される限度を超える屈辱行為に該当するものではないなどとして、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。(乙6)
2 争点
(1)本件記事及び本件投稿1ないし6が原告の名誉感情及び名誉権を侵害するものか
(2)損害
争点に関する当事者の首長
3 争点に関する当事者の首長
(1)争点(1)について
【原告の主張】
ア 本件記事
本件記事は原告のフルネームを示しており、同定可能性が認められる。
そして、本件記事は「主人公になれなかった適役、脇役に徹する魑魅魍魎のゾンビ集団」、「雑魚集団」、「認知の歪み」、「お花畑片思い集団」、「ショッカーのようなもので、ただの無名の適役」、「自意識過剰集団」であるとするものであり、原告を揶揄、嘲笑するものであり、社会通念上許される限度を超える屈辱行為である。
イ 本件投稿1 本件投稿1は、令和7年5月1日になされたものであり「アンチ」が提起した訴訟の訴状が被告に送られたことについて言及している。この当時、原告と被告との間で本件前訴が係属しており、また被告は原告をアンチと認識していたことから、本件投稿1は原告について述べたものと考えられ同定可能性が認められる。
そして、本件投稿1は、「訴状が雑すぎ」、「1ミリも請求が認められる余地がないからスラップだ」などと、本件前訴をスラップ訴訟であるとし、さらに「弁護士が割と厳しめだなどと考えるラインより、遥かに下回る請求を意気揚々としかける」などとする。これらの記載は、慎重な検討をした上で訴訟を提起した原告の努力を踏みにじって嘲笑するものであり、社会通念上許される限度を超える屈辱行為である。
また、被告は、原告について、自称法律家であるとしているが、原告は法律家を自称したことはなく、原告を嘲笑するものであり、しかも、執拗に繰り返されていることから、社会通念上許される限度を超える屈辱行為にあたる。
ウ 本件投稿2
本件投稿2は、本件前訴発言について、原告が提訴したという内容であると考えられ、同定可能性がある。
本件投稿2は原告を含む傍聴者を「醜い脇役ショッカー」と呼び、見た目が醜悪な悪の化身であるとするものであり社会通念上許される限度を超える屈辱行為である。
エ 本件投稿3
本件投稿3は本件前訴について述べていると考えられ、同定可能性がある。本件投稿3は原告を「アンチのブス」とするものであり、原告の容姿を正当な理由なく揶揄嘲笑するものであり、社会通念上許容される限度を超える屈辱行為出ある。
オ 本件投稿4
(ア)本件投稿4は原告のフルネームを記載しており、同定可能性がある。
(イ)本件投稿4は原告について「脇役人生」とするものであり、本件投稿4を引用した「ショッカー中のショッカー」、「脇役人生」(本件投稿5)、「法律家気取り」(本件投稿6)などの表現と相まって、社会通念上許される限度を超える屈辱行為といえる。また原告は、被告が、故岩井清隆(以下「岩井氏という」。)の住所公開に加担したことから、被告に対し弁護士懲戒請求をしたところ、これを「1ミリも通る見込みがない」としており、これも社会通念上許される限度を超える屈辱行為といえる。
(ウ)被告は、原告が「1ミリも通る見込みがない懲戒請求」をしたとの事実を適示している。これは、原告がおよそ理由のない懲戒請求をしているから、原告の社会的評価を低下させるものであり、原告の名誉権を侵害する。上記懲戒請求は、被告が岩井氏の住所公開に加担したことなどを理由にするものであるところ、岩井氏は、被告による住所公開とこれに伴う嫌がらせを苦に自死しており、住所公開について岩井氏の承諾があったとは考えられない。
また、被告は、岩井氏をショッカーと称して屈辱したことは真実であり、懲戒請求の理由とした事実はいずれも違法行為であり、これが懲戒事由に当たる可能性が全くないとは到底いえず、真実性や真実相当性は認められないから、違法性は阻却されない。
カ 本件投稿5
本件投稿5は原告のフルネームで記載しており、同定可能性がある。そして本件投稿5は「クソウケる」、「笑
」、「ショッカー中のショッカー」、「脇役人生」などと執拗に原告を誹謗中傷している。ショッカーは醜悪な見た目の怪人から構成される悪の組織であり、社会通念上許される限度を超える屈辱行為に当たる。
キ 本件投稿6
本件投稿6は、原告のフルネームを記載した本件同定可能性がある。
本件投稿6は「法律家気取りのアンチ」、「知能なんてこの程度」などと原告を嘲笑し「ショッカー中のショッカー」とする本件投稿5を引用していることと相まって社会通念上許さる限度を超える屈辱行為にあたる。
【被告の主張】
ア 本件記事
本件記事では、原告名を含むアカウント名が記載されているが「上記特定アカウントではなく、このような属性を指す」と念押ししたうえで一般論を記載しており、原告についての投稿ではない。
同定可能性があることを前提としたとしても、原告以外の10近いアカウントを列挙しており、同定可能性は弱く、かつ、表現内容も具体的事実や根拠を伴うものではなく、単に被告による一方的な感想を述べるに過ぎないことや、その表現態様も差別用語を用いた過度に屈辱的なものではなく、微笑ましい揶揄にすぎない。原告は被告に対して長年批判活動を行っており、被告からの反論について一般人よりも高い受忍限度を負うというべきであり、上記の程度の表現が社会的に許容すべき限度を超える屈辱行為とはいえない。
イ 本件投稿1について
本件にはどこにも原告を特定する要素はなく、同定可能性ない。また、同定可能性を前提としても、上記ア同様、社会的に許容すべき限度を超える屈辱行為とはいえない。
ウ 本件投稿2について
本件投稿2は、原告から提訴に言及しているが、一般閲覧者には原告に対する言及であるとは理解できず、同定可能性はない。仮に固定可能性があるにしても、上記ア同様、社会的に許容すべき限度を超える屈辱行為とはいえない。
エ 本件投稿3について
本件投稿3は、直接的に原告を特定する情報はなく、一般閲覧者からは、原告に対する言及であるとは理解できず、同定可能性は認められない。仮に同定可能性があるとしても、上記アで述べたことに加え、本件投稿3は、本件前訴の裁判における原告から被告への提訴の内容を論評したにすぎないことからすれば、社会的に許容すべき限度を超える屈辱行為とはいえない。
オ 本件投稿4について
本件投稿4は、原告についての投稿であるが、上記ア同様、社会的に許容すべき限度を超える屈辱行為とはいえない。また仮に社会的評価を低下させると評価される場合でも、「1ミリも通る見込みのない」という表現部分は意見論評であり、一定程度社会的影響力がある原告が自ら公表している被告への懲戒請求に関する論評であるから公共性及び公益目的が認められる。本件投稿4の前提事実の主要部分として原告が被告につき懲戒請求をしたことは真実であり、そして表現態様が正当な意見論評の範囲を逸脱しているものではないことから、違法性は阻却される。
カ 本件投稿5及び6
本件投稿5及び6は、原告についての投稿であるが、上記ア同様、社会的に許容すべき限度を超える屈辱行為とはいえない。
(2)争点(2)(損害について
【原告の主張】
本件記事による損害は10万円、本件投稿1ないし6による損害は20万円を下らない。
【被告の主張】
否認し、争う
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1)本件記事1
ア 同定可能性
本件記事には原告の実名とアカウントが記載されており、原告を含め記事上に列挙されたアカウントを有する人物に関する記事であることは明らかであり、同定可能性が認められる。
被告は、原告らのアカウントを列挙した後に「上記特定アカウントではなく、このような属性を指す」と注記していることから、原告についての記事とはいえないなどと主張する。
しかし、本件記事では原告らについてゾンビ集団であると述べた上で、その集団の属性、特徴等について記載しているのであるから、一般の閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすれば、原告もその集団に見られる属性、特徴等を有することが記載されているものと理解される。したがって、本件記事は原告に関して述べるものであり、同定可能性が認められる、(なお、名誉感情の侵害は主観的名誉の侵害であることから、その読者に被害者が推知されるものである必要はなく、客観的に被害者に向けられたものでありさえすえれば、名誉感情の侵害を認め得るが、本件記事については、読者を基準としても原告に関する記事であると推知することが可能であり、同定可能性があると認められる。)
ィ 名誉感情の有無
証拠(甲30、乙1,2,5)及び弁論の全趣旨によれば、原告は遅くとも令和3年4月頃には、「福永活也被害者の会代表幹事」を名乗るXアカウントを開始し被告について繰り返し、退会処分にされるべきである、あるいは、将来の夢は福永活也を退会に追い込むことである。などと投稿し、実際に東京弁護士会に対し、被告に対し懲戒請求の申立てをしていること、また原告のYouTubeのアカウントでは、4年にわたって、被告の弁護士業務、被告に対する懲戒請求の状況等について、少なくとも80以上の動画をアップロードしていることが認められる。
本件記事は、このように、特定の人物に対して批判的・敵対的な活動を行う者を念頭において、被告の個人的な意見・感想を記載したものであると考えられるところ、本件記事において、特定の個人の人格や性格についての個別具体的な描写はされていない。
上記のとおり、本件記事は、原告をゾンビ集団などと呼んだ上で、そのゾンビ集団の属性として「主人公になれなかった適役、脇役に徹する魑魅魍魎のゾンビ集団」、「僕はこういう雑魚集団に対して何の関心もない」、被告自身は、「雑魚が絡んできたものに対して言い返したことが多少あるに過ぎない」が「それを認知の歪みによりいきなり攻撃されたと思い込んでいるバカもいる」、「相手も自分のことを意識していると思い込んでいるお花畑片思い集団」、「実態はショッカーのようなもので、ただの無名の敵役に過ぎない」、「主人公からは1ミリも個性を認識されていない雑魚集団」、「こうやってアカウントを例示すると大喜びして、積年の恨みが!とでも言いだしそうな自意識過剰集団」などと、人格価値を貶める屈辱的な表現を執拗に繰り返しており、社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるといわざるを得ない。
これに、対し、被告は、原告は多数のフォロワーを有し、一定の社会的影響力を持ち、長期間にわたって被告に対して敵対的な活動をおこなってきており、被告からの反論を一定程度受忍すべきであると主張する。
確かに、原告のXアカウントのフォロワーは令和7年8月16日時点で9604人YouTubeのアカウントの登録者数は同日時点で1、04万人であり、一定の社会的影響があるといえ、また上記のとおりXアカウントやYouTube上で、被告を対象にした批判活動を継続的に行っていることが認められる。
しかし、弁護士の行状の問題点を指摘する言論には公益的な意義があるといえる。また確かに、原告の投稿する記事等については、敵対的挑発的な表現(原告の動画のタイトルには「笑劇!福永活也原告の反論」や本件記事の公表後ではあるが、「祝!福永活也落選!」といったものがあるほか、Xアカウントでは、将来の夢は福永活也を退会に追い込むことであるとの投稿がみられる)も散見され、被告において、原告に対し敵対的な表現を伴った反論や意見を述べる、こともやむを得ない面はあるものの、原告の活動においては、本件記事のように、徒に屈辱的な表現を並べるようなものは見当たらず、原告が正当な言論の範囲を逸脱するような活動を行っていることはうかがわれない、そうすると、原告において本件記事のような執拗な屈辱的表現を受忍すべきといえるほどの事情があるとは認めらえない。
したがって、被告の上記主張は認められない。
(2) 本件投稿1
ア 本件投稿1では、被告は送られてきた訴状について言及しているところ、原告は、これが本件前訴に関する。しかし、本件投稿1においては、本件前訴の内容には一切触れられていないばかりか、その当事者や訴訟の内容も記載されていない。また、原告は、本件投稿1で被告が「アンチ」に言及しているところ、被告は原告をアンチと認識していることから、上記訴状が本件前訴についてのものであるとも主張するが、アンチが原告のみを指すと認めるに足りる証拠はない、したがって、本件投稿1が本件前訴に関するものであると認められない。
イ 仮に、本件投稿1が本件前訴に言及するものであるにしても、その内容は、訴状の請求は1ミリも認められる余地がないからスラップ訴訟(多義的であるが、不当訴訟を指すものと考えられる。)であるというものである。このような表現は原告の感情を害するものであることは否定できないが、自らに対する請求には根拠がないという当事者として被告の見解ないし主張を述べたもんであるとは認められない。
また、原告は、被告が訴状を提出した人物について「自称法律家」と述べたことについても、原告の名誉感情を侵害するものであると主張するが、原告がこれを屈辱的と感じるとしても、原告の人格を否定したり、人格攻撃に至るような表現ではなく、この一語のみをもって社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるとまで認められない。
(3)本件投稿2について
本件投稿2は「傍聴席がこの世のものとは思えないくらい汚かった」という被告による本件前訴発言を引用したうえで、原告がこの発言は原告について述べられたものであると主張して被告を提訴してきたという事実を述べるものである。「自分が汚いと言われたと立候補して」などと、原告を揶揄するような表現はあるものの、本件投稿2自体は、原告の容姿についての評価を述べたものであるとは認められないから、社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるとは認められない。
(4)本件投稿3について
本件投稿3は、本件投稿2と同様、原告の容姿について述べるものではなく、単に本件前訴発言について原告が訴訟を提起した事実を指摘するにすぎないから、社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるとは認められない。
(5)本件投稿4について
本件投稿4は、原告が「1ミリも通る見込みのない懲戒請求」をしてきた。という内容である。原告は、これが原告の名誉感情や名誉権を侵害するなどと主張する。しかし、上記投稿の内容は、懲戒請求を受けた被告が当該請求には根拠がないという当事者としての見解や主張を述べたものにすぎず、屈辱的な意味合いがないとはいえないとしても、社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるとは認められない。また上記のような懲戒請求を受けた当事者自身の見解や主張が示されたことで原告の社会的評価が低下するとも認められない。
また、原告は、「脇役人生がんばれ」との記載が、原告の名誉感情を侵害するものであると主張するところ、本件記事の内容も踏まえると、被告は原告が他人に執着して、批判的、敵対的な活動を行っていることをもって、原告の活動や生き方を「脇役人生」と表現したものと考えられ、上記記載は、原告の人格を軽んじる屈辱的な表現であることは否定できない。しかし、原告の生き方についての被告の個人的な意見を示したものにすぎないこと、人格攻撃に至るような悪質な表現とまではいい難く、自らが被告から懲戒請求を受けたこと及びその内容についての意見、感想を一定受忍すべきであるというべきことも踏まえると、なお社会通念上許される限度を超える屈辱行為であると認められない。
(6)本件投稿5について
原告は、本件投稿5の「クソウケる」、「笑」、「ショッカー中のショッカー」、「脇役人生」という表現が社会通念上許される限度を超える屈辱行為であると主張する。
しかし、「クソウケる」、「笑」については、原告が被告に対して行った懲戒請求の内容についての原告の感想や受け止めを示したものにすぎず、原告の人格を否定したり、攻撃するような表現ともいえないことから、社会通念上許容される限度を超える屈辱行為とは認められない。
また、「ショッカー中のショッカー」という記載について、原告は、「ショッカー」とは、テレビ番組の醜悪な見た目の悪役キャラクターであるから、上記記載は社会通念上許される限度を超える屈辱おいである旨主張する。確かに、証拠(甲13,28)によれば「ショッカー」とは、特撮ドラマシリーズ作品に登場する架空の組織であり、力や体力に優れた人間や動植物や菌類などの能力を移植して洗脳した怪人を中心に構成されているという設定であることが認められ、「醜い脇役ショッカー」などという本件投稿2の記載も踏まえると、原告が、「ショッカー中のショッカー」であるという表現は、原告のの活動、生き方やその容姿を「ショッカー中のショッカー」であるとして揶揄嘲笑する趣旨であることは明らか」である。もっとも、「ショッカー」は人間ではない架空のキャラクターであり、しかも、様々なキャラクターが含まれるものであることからすると、上記記載の受け止め方は人それぞれであると考えられる。
また、本件投稿5において原告の容姿について何ら言及されていないことからすると、少なくとも本件投稿5の文脈においては、「ショッカー中のショッカー」という表現が容姿の醜悪さを強調しようとした表現であるとはいい難い。以上に加え自らが被告から懲戒請求を受けたこと及びその内容についての意見、感想を述べる中での単発的な表現にとどまること及び原告の活動内容からすれば、原告においても、被告からの敵対的な表現を伴う意見や感想も一定程度受忍すべきであるというべきことも踏まえると、上記記載をもって社会通念上許される限度を超えるものまでとは認められない。
「脇役人生」という表現については、本件投稿4で判示したとおり、社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるとは認められない。また本件投稿4及び5が連続的にされていることを考慮しても、表現自体が明らかな人格否定や人格攻撃に至っていうとはいえないことや、同趣旨の短文の投稿を2回したにすぎないことを考慮すると、なお社会通念上許される限度を超えるものとはいえない。
(7)本件投稿6について
原告は、本件投稿6は「法律家気取りのアンチ」、「知能なんて、この程度」などと原告を嘲笑し「ショッカー中のショッカー」とする本件投稿」5を引用していることと相まって、社会通念上許される限度を超える屈辱行為にあたると主張する。
「法律家気取りのアンチの知能なんてこの程度」という表現は原告の知能が劣っているとするものであり、屈辱的な意味合いがあることは否定できないが、被告の個人的な意見にすぎず、自らが被告(まま)から懲戒請求を受けたこと及びその内容についての意見、感想を述べる中での単発的な表現であり執拗に被告(まま)の人格を否定攻撃するものとまではいえないこと、原告の活動内容からすれば、原告においても、被告からの敵対的な表現を伴う意見や感想も一定限度受忍すべきであるというべきことからすれば、社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるとまでは認められない。
また、本件投稿5が社会通念上許される限度を超える屈辱行為とまでは認められないことは前記(6)で判示したとおりであり、本件投稿5の内容を踏まえても、本件投稿6が社会通念上許される限度を超える屈辱行為であるとは認められない。
2争点(2)について
上記1のとおり、被告は本件記事によって原告の名誉感情を侵害したことが認められる。
本件記事はXのアカウントで7万人を超えるフォロワーを有し(令和7年7月21日時点。甲16)一定の社会的影響力を有する被告が、原告について、屈辱的な表現で執拗に人格価値を貶めるものであることからすると、具体的な事実の適示を伴うものではないこと、原告が被告に対して敵対的な姿勢を露わにしていたことなどを考慮しても、本件記事による名誉感情侵害についての慰謝料としては10万円が相当である。
第4 結論
以上によれば原告の請求は10万円の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事32部裁判官 高島剛
