
令和7年12月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第1154号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日令和7年9月30日
原告 立花孝志
被告 望月衣朔子 代理人 石森雄一郎
主 文
1原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
被告は、原告に対し、160万円及びこれに対する令和7年1月20日から支払済みまで年3 %の割合による金員を支払え。
第2 事実関係
1 事案の概要
本件は、’原告が、被告によって令和7年1月1.9日にソーシャルネットワー キングサービス(SNS)である「X」(以下、単に「X」という。)に投稿された記事により、名誉が毀損されるとともに名誉感情が侵害され、精神的苦痛を被ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料6 0万円及びこれに対する不法行為日(前記投稿、日)の翌日である同月 2 0日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求 めた事案である。
2 前提事実(証拠等の掲記については特記しない限り枝番の全てを含む(以下同じ。)。同掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
⑴当事者
ア 原告は、かつて参議院議員を務め、現在は政治団体「NHKから国民を 守る党」(以下「本件政治団体」という。)の代表者を務めている個人である。
イ 被告は、東京新聞を発行する会社の記者であり、Xに「望月衣塑子@1 SOKQ_MOCHIZUKI」というアカウントを開設して発信を行っ ている個人である。
⑵被告によるXへの投稿等
ア 被告は、令和7年1月19.日、上記⑴イのアカウントに、元兵庫県議会 議員である竹内英明氏(以下「竹内元県議」という。)が・死亡したことに関する投稿をした(以下、同投稿に係る記事を「本件投稿記事」という。)。
竹内元県議は、令和6年当時、兵庫県の西播磨元県民局長(以下「元県 民局長」という。)が作成したとされる斎藤元彦知事(以下「斎藤知事」という。)等への内部告発文書の内容の真偽や経緯を調査究明するための 県議会調査特別委員会(地方自治法10 0条に基づき設置される。以下 「本件百条委員会」という。)の委員を務めていたが、同年11月に県議を辞職し、本件投稿記事が掲載された日の前日である令和7年1月18日 に死亡した(弁論の全趣旨)。
イ 被告が掲載した本件投稿記事の冒頭には、「立花孝志氏の言動がまたー つの悲劇を生んだ。元兵庫県議・竹内英明氏が自ら命を絶ったと見らる ている。背景に、立花氏が「犬笛」を吹き続けた結果、SNS上での誹 謗中傷がエスカレートしたとの指摘がる。」と記載されていた(原文ママ。以下、本件投稿記事のうち上記文言部分を「本件投稿部分」という。 甲1)。
被告は.、本件投稿記事を掲載した後、本件投稿部分を、「また一つの悲劇が生まれてしまった。元兵庫県議・竹内英明氏が自ら命を絶ったとみられている。背景に、立花孝志氏が’「犬笛」を吹き続けた結果、SNS 上での誹謗中傷がエスカレートしたとの指摘がある。」との文言に修正し ‘た(乙]、2)。、
ウ 本件投稿記事には、本件投稿部分に続けて、誹謗中傷が許し難い行為であることなどについての記述があり、その後に、神戸新聞NEXTが本件 投稿記事より前に掲載していたインターネット記事の引用がされ、同記事へリンクするURしが貼られていた。同記事には、同日夜に竹内元県議の 死亡が確認され、関係者によればその死因は自死とみられること、竹内元 県議が所属していた会派「ひょうご県民連合」によると、竹内元県議は、 辞職前、斎藤知事を応援する目的で知事選に立候補した原告が、SNS上 で竹内元県議の自宅に行くと予告したことなどで生活が脅かされる不安を 述べていたことなどが記載されていた。(甲1、乙1、乙4 5)
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件投稿部分による原告の社会的評価の低下の有無(争点1)
(原告の主張)
本件投稿部分は、一般読者に対し、原告が、原告の支持者に向けて、竹内元県議に対する誹謗中傷を行うように明示的又は暗示的に呼びかけ、竹内元県議を自死に追いやるような行為に及ぶ危険な人物であるという印象を持たせるものであるから、原告の社会的評価を低下させる。
(被告の主張)
被告は、本件投稿部分を当初の記事掲載時から10分後に修正しているか ら、本件投稿部分を拡散させていない。
また、原告は、竹内元県議の死亡後、原告とその支持者らが竹内元県議を批判したことが自死の要因となったことを認める趣旨の発言をし、同発言を含む動画をインターネット上にアップロードしているのであるから、本件投 稿部分によって原告の社会的評価が低下したとはいえない。
⑵ 名誉毀損についての違法性又は故意•過失の有無(争点2)
(被告の主張)
ア 本件投稿部分は、原告が、自身の支持者に向けて、竹内元県議への「デマを含む誹謗中傷」や.「嫌がらせに及ぶことを期待した発言」をし、これによってSNSその他の方法による竹内元県議への誹謗中傷がエスカレー 卜した可能性があり、そのエスカレートした誹謗中傷が竹内元県議の自死の要因になった可能性があると指摘したものである。それらの可能性は、 因果関係の問題として評価に関わるものであるから、ー被告の意見ないし論評を述べたものと解すべきである。
イ(ア)公共性及び公益目的について・
本件投稿部分は、•令和6年11月:17日投開票の兵庫県知事選挙(結 果は斎藤知事の再選)に関連して、原告の言動及び誹謗中傷を受けて辞 職を余儀なくされた竹内元県議の自死の要因に言及したものであるから、 その内容は、公、共の利害に関する事実に係るものである。
また、被告はジャーナリストとして、原告の言動や特定人に対する 誹謗中傷行為を批判する趣旨で本件投稿記事を掲載したから、本件投稿部分は専ら公益を図る目的に基づくものである。
(イ)真実性又は真実相当性について
原告は、同月以降、竹内元県議の社会的評価を著しく低下させるような虚偽又は根拠薄弱の情報を発信してきた。原告は、これまでにも、SNS上での強い発信力を利用して、原告の支持者らが原告と敵対する 者に対して嫌がらせ等をするように仕向けてきた過去があり、実際に、竹内元県議に対しても、同月以降、SNS±での誹謗中傷が急増した。 このような状況下において、竹内元県議は同月に県議会議員を辞職した上、わずか2か月後に自死し、そのニュースが地元紙等で報道された。
以上の経緯に照らせば、原告の発信した虚偽事実によりその支持者らによる竹内元県議への誹謗中傷がエスカレートしたものであることは想像に難くないし、竹内元県議の妻は、複数のメディア取材に応じて、竹内元県議が自死したこと及び自死するまでの間に苛烈な誹謗中傷に対する恐怖を感じていた旨述べている。
そうすると、本件投稿部分における意見ないし論評は、前提となる事実が重要な部分において真実であるか、少なくとも、被告において真実であると信ずるについて相当の理由(以下「真実相当性」という。)が ある。また、同意見ないし論評は、原告に対する人身攻撃に及ぶものではないから、本件投稿記事を掲載した被告の行為には、違法性がなく、「又は故意・過失がない。
ウ また、原告は、本件政治団体の代表者である上、令和7年3月16日投 開票の千葉県知事選挙への立候補予定を公言していたのであり、本件投稿記事は、公的人物である原告に対して合理的根拠をもって向けられた疑念等につき真実究明の必要があることを社会的に訴えるものであった。したがって、本件投稿記事を掲載した被告の行為は、民主政維持のための正当な行為であり、違法性が阻却される。
(原告の主張)
ア 本件投稿部分は、被告の意見ないし論評を述べたものではない。本件投稿部分は、原告が、原告の支持者に向けて、竹内元県議に対する誹謗中傷を行うように明示的か暗示的かを問わず呼びかけた結果、竹内元県議を自死に追いやったという事実を摘示したものである。
イ 本件投稿部分について、公共性及び公益目的が認められることは争わないが、その余の違法性又は故意・過失がないことに関する被告の主張については争う。竹内元県議の社会的評価を低下させるような情報を原告が発信したことはあったとしても、合法的な批判であり、また、竹内元県議の死亡後、その遺書等の有無が公表されているわけではなく、竹内元県議が 自死したのかどうか及び自死の理由が何であったかなどが具体的に明らか にされているわけではない。竹内元県議が自死し、その要因が原告の誹謗 中傷行為にあることについて、真実性を証明することは不可能であり、真実相当性も認められない。
⑶ 本件投稿部分による原告の名誉感情の侵害の有無(争点3)
(原告の主張)
本件投稿部分により、原告の名誉感情が違法に侵害された。
(被告の主張)
争う。
(4) 権利濫用の成否(争点4)
(被告の主張)
原告は、自らの批判によって竹内元県議が自死に追いやられたことを誇示 するような発言を繰り返している。原告には、本件投稿部分について保護されるべき法益がないというべきであり、本件請求は,権利の濫用である。
(原告の主張)
争う。
(5) 損害の有無及び金額(争点5)
(原告の主張)
原告は、本件投稿部分が拡散されたことにより、その名誉が毀損され、名誉感情が著しく傷つけられた。これに対する慰謝料の額は、16 0万円が相当である。
(被告の主張)
原告は、自らの言動が竹内元県議の自死の要因となったことを認める趣旨の発言をSN.S上で発信しているのであるから、本件投稿部分によって原告に損害は発生しないか、仮に発生するとしても極めて軽微なものである。
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件投稿部分による原告の社会的評価の低下の有無)について,
(1) ある投稿の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである
(最高裁昭和2 9年(才)第6 3 4号同31年7月2 0日第二小法廷判決民集10巻8号10 5 9頁等参照)。
⑵ 本件投稿部分は、原告の言動が悲劇を生んだこと、竹内元県議が自死したとみられており、その背景には原告が「犬笛」を吹き続けた結果、竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱したという指摘があることを述べたものである。本件投稿記事には、本件投稿部分に続けて、誹謗中傷は許し難い行為であり、これ以上の被害を食い止めなければならないこと、原告の言動に踊らされてネットで誹謗中傷を行ってきた人々は自分たちの行動が何をもたらしたのかを深く考えてほしい、などの記述がされ、その後に、竹内元 県議の死亡について報じた神戸新聞NEXTのインターネット記事の引用等 がされている(乙1、前提事実⑵ウ)。
本件投稿部分における「犬笛(を吹く)」という表現は、一般的には、限 られた集団だけに分かる言い回しを用いて一定のメッセージを発することを、 主にそのことを批判する文脈において比喩的に用いられるものである。これ を踏まえて、本件投稿部分の文言及びその後に続く記述の文脈を併せて読む と、本件投稿部分は、原告の言動の影響の下に竹内元県議に対するS NS上 での誹謗中傷が過熱し、そのことが要因となって竹内元県議が自死したと考 えられる旨を指摘したものであり、本件投稿記事を読んだ一般の読者に対して、原告の言動が竹内元県議の自死について相当程度の影響を与えたという印象を与えるものである。したがって、本件投稿部分は、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
被告は、本件投稿部分を当初の記事掲載時から10分後に訂正しているから本件投稿部分を拡散させていない旨主張するが、比較的短時間であっても、 インターネット上に記事が公開されれば不特定多数の者が閲覧することが可能であることからすると、同主張は、上記判断を左右するものとはいえない。
また、被告は、原告が、原告とその支持者らが竹内元県議を批判したことが自死の要因となったことを自ら発信しているため、本件投稿部分によって原告の社会的評価は低下していない旨主張するが、原告がそのような 発信をしたのは本件投稿記事が掲載されてから!か月以上後のことであり(乙7の10、41の6)、本件投稿部分が原告の社会的評価を低下させたこと自体が直ちに否定されるものではない。
2 争点⑵(名誉毀損についての違法性又は故意・過失の有無)について
(1)ある表現内容が事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかの区別については、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に判断すべきものであり、前後の文脈や、当該表現の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり、上記のような証拠等による証明になじまない、物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表 明に属するというべきである(最高裁平成6年(才)第9 7 8号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁、最高裁平成15年(受) 第1793号、第17 9 4号同16年7月15日第一小法廷判決、民集5 8 巻5号1615頁参照)。
そして、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損に あっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、意見ないし論評の前提としている事実が 重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、同行為は違法 性を欠くものというべきである。そして、仮に意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において同事実を 真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である(前記最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参 照)。
⑵ 上記1⑵のとおり、本件投稿部分は、原告の言動の影響の下に竹内元県に対するSNS上での誹謗中傷が過熱し、そのことが要因となって竹内元県議が自死したと考えられる旨を指摘したものである。このうち、原告の言動の影響の下に竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱したことについては、客観的な証拠資料等によってその存否につき確定することが可能な事柄であるといい得るが、過熱した誹謗中傷が竹内元県議の自死の要因になったことについては、誹謗中傷の具体的内容や数等には触れずに抽象的にそのような可能性があることを指摘したものであって、本件投稿部分の表現振りからも、読み手としては被告の推測を述べたものとして受け止めるものと 考えられる上、故人の内心に係る問題として、第三者が一義的に明らかにす ることのできる性質の事柄であるともいい難い。そうすると、上記誹謗中傷 が要因となって竹内元県議が自死したと考えられる旨の指摘は、原告の言動の影響の下に竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱したこと及び, 竹内元県議が自死したことを重要な前提事実とし、その両者に一定の因果関係があるとしてこれを批判する趣旨の意見ないし論評の表明であると解する のが相当である。
⑶ 前提事実及び争いのない事実によれば、本件投稿記事は、令和6年11月17日投開票の兵庫県知事選挙に関連して、本件百条委員会の委員であり、同選挙後に辞職した竹内元県議の自死の要因に言及し、同人に関する原告の言動及び不特定多数人の誹謗中傷行為及び一般にインターネット上の誹謗中傷行為を問題視する趣旨のものであるから<その内容は、公共の利害に関す る事実に係るものであり、専ら公益を図る目的に基づくものであるというこ とができる。
以下、本件投稿部分が前提とする上記⑵の各事実の真実性ないし真実相当 性の存否について検討する。
⑷ 原告の言動の影響の下に竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱 したことについて
ア’前提事実及び後掲の証拠等によれば、次の事実が認められる。
(7) 原告の竹内元県議をめぐる言動等
令和6年3月中旬、兵庫県の元県民局長の内部告発をきっかけに、斎藤知事ら県幹部によるパワ・ーハラスメント等の疑惑が浮上した。竹内元県議は、同年6月から、上記疑惑を解明するために兵庫県議会が地方自治法100条に基づく調査のため設置した本件百条委員会の委員として活動するようになった。同年9月、兵庫県議会が全会一致で不信任決議をしたことで斎藤知事が辞職し、兵庫県知事選挙が行われることとなった(同年10月31日告示•同年11月7日投開票。結果は斎藤知事の再選。)。
原告は、同選挙に立候補した上、インターネット上や街頭演説において、元県民局長の内部告発は虚偽であるなどとして斎藤知事の応援をするとともに、本件百条委員会の委員であった一部の兵庫県議会 議員らに対して攻撃的な批評等を行った。
具体的には、原告は、同月初めから令和7年1月18日までの間に、竹内元県議に関し、斎藤知事が嫌いだから虚偽の噂話を流布している、元県民局長の作成した内容虚偽の内部告発文書の作成に関与している、警察から名誉毀損の罪で任意の事情聴取を受けている、女性記者と不倫をしているなどという指摘を行った。さらに、原告は、竹内元県議の事 務所や自宅にも訪問するっもりであるから、竹内元県議を見つけたら原告に教えるようにと聴衆に呼びかけることもあった。なお、本件証拠上、 原告が上記各指摘の内容について具体的客観的な裏付け資料等を示していたことは認められず、竹内元県議が警察から事情聴取を受けているとの点については、後に兵庫県警がそのような事実があったことをしていた。
そして、原告が上記のような発言をした様子は、原告自身が原告の開設しているYouTu b eチャンネル上にアップロードしたり、街頭演 説を見かけた第三者が動画を撮影してインターネット上に公開したりしたことで、誰もが閲覧できる状態となった。
(以上につき、乙6〔動画①〜⑥〕、7の1〜6、9、24の1、25〔動画①〕、26の1、2 7、4 0〔動画④〕、41の4、4 4)
(イ)竹内元県議に関するSNS上での投稿の状況
前記兵庫県知事選挙の前後から、X上では、竹内元県議に関連する投 稿が増加し、擁護の声も一定数あったものの、批判も多く行われていた。
もっとも、次第に擁護の声は減少し、SNS分析を専門とする学者の分析(竹内元県議の死亡後に新聞記事に掲載されたもの)によると、令和 6年12月以降には、批判の数が擁護の数の8倍超と大きく上回る状況になり、そのような批判の中には、「知事を貶めた主犯格」、「都合が悪くなり逃亡!卑怯そのもの」、「嘘つき竹内は地獄に行くべき」といった投稿も含まれていたとされている。(乙2 3、2 9、3 6の2、4 4、弁論の全趣旨)
イ 上記アによれば、原告は、兵庫県知事選挙の選挙期間となった令和6年11月頃から、自身の発言が広く拡散されるような手段を用いて、竹内元県議の政治家としての社会的評価を著しく低下させるような発言を繰り返していた上、その居場所の特定を促すような呼びかけまでして、聴衆を煽るような言動をしていたことが認められ、その一方で、これと同時期に、竹内元県議に言及するSNS上での投稿が増加し、徐々に竹内元県議への誹謗中傷を含む批判的な投稿の割合が高まっていったことがうかがわれる。
本件において、上記ア(イ)の他に、竹内元県議に関して具体的にどのよう な内容の投稿がどの程度されていたのかや、当該投稿と原告の言動との 関係性等を客観的に裏付ける証拠は見当たらないものの、新聞記者であ りx上に自らのアカウントを開設して投稿等をしていた被告は、本件投 稿記事を掲載した時点までに、上記アのような原告の言動や、竹内元県 議に関するSNS上での投稿が過熱している状況についても認識をして いたと考えられる。そして、原告の開設するYo uTub eチャンネルやxでのフォロワー数が数十万人規模であること(乙10)にも照らすと、被告において、上記アのような原告の言動が相当程度影響した結果、竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱したものと考えたこと は自然なことであったというべきである。そうすると、被告が、原告の言動の影響の下に竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷が過熱したことが真実であると信じたことについては、相当の理由があったもの認められる。
⑸ 竹内元県議が自死したことについて
本件投稿記事の掲載に先立って、神戸新聞NEXTのインターネット記事により、竹内元県議が死亡したこと及びそれが自死とみられることが報道されており(前提事実⑵ウ)、被告は、本件投稿記事に同報道に係るインター ネット記事の引用等をしていることからすると、同記事の内容を踏まえて本件投稿記事を掲載したものと考えられる。上記⑷で認定したような竹内元県議に対するSNS上での誹謗中傷を含む批判的な投稿の増加状況等から、竹内元県議にとっては、自身やその家族に危害が及ぶのではないかと相当な恐 怖を感じていたと思われる日々が続き、精神的に追い詰められた状態にあったと容易に想像できる状況であったこと、加えて、上記の神戸新聞はいわゆる地元紙であり、記事の内容の具体性に照らしても、相応の取材に基づいて なされた報道であると考えて格別不自然なものではなかったことなどを考慮 すると、被告において、本件投稿記事を掲載した当時、竹内元県議が自死したという事実が真実であると信じたことについて、相当の理由があったものと認められる。
(6)そうすると、本件投稿部分に係る意見ないし論評の前提としている事実の 重要な部分について、真実相当性が認められるというべきであり、それに基づく被告の意見ないし論評は、上記⑷及び⑸の各事実の間に因果関係があるのではないかとの見立てを示した上で、その見立てのとおりであれば悲劇的な出来事であると批評したものである。同意見ないし論評には、それ以上に 原告に対する人身攻撃に及ぶような内容は含まれていないから、意見ない論評としての域を逸脱したものとはいえない。
したがって、本件投稿部分による名誉毀損については、被告の故意又は過 失が認められないものというべきである。
3 争点(3)(本件投稿部分による原告の名誉感情の侵害の有無)について
(1)・侮辱的な表現を含む投稿については、これが社会通念上許される限度を超 える侮辱行為であると認められる場合には、人格的利益である名誉感情を違 法に侵害したものと認められる(最高裁平成21.年(受)第6 0 9号同22年4月13日第三小法廷判決、民集6 4巻3号7 5 8頁参照)。
⑵ そこで検討するに、本件投稿部分は格別、侮辱性の強い文言を用いることなく、上記2のとおり、相応の根拠に基づく主張をするものであったとい える。被告が、本^^投稿部分を当初の記事掲載後に修正したという経緯(前 提事実⑵イ)に照らしても、本件投稿部分につき、原告の名誉感情を害する程度が大きいものであったとはいえない。
その他、原告の主張を検討しても、本件投稿部分について、社会通念上許される限度を超えた侮辱行為であったと認めることはできない。
第4 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを全部棄却することとして、主文の通り判決する。
東京地方裁判所民事第23部
裁判長裁判官 加本 牧子
裁判官 横澤 慶太
裁判官 金子音々