【判例掲載情報】 最高裁判所第一小法廷決定(令和7年12月18日)
令和7年(マ)490 裁判所書記官忌避申立て事件却下決定に対する即時抗告事件
令和7年12月18日 第一小法廷決定
本件抗告を却下する。
抗告費用は別紙記載の者の負担とする。
理 由
1 記録及び当裁判所に顕著な事実によれば、本件の経緯等は、次のとおりである。
(1) 抗告人は、別紙記載の者(以下「本件弁護士」という。)を手続代理人とし て、福岡家庭裁判所小倉支部に申し立てた婚姻費用分担調停(同裁判所令和6年 (家イ) 第144号、 第434号) において、裁判所書記官に対する忌避の申立てをした。 これに対し、 同裁判所は、 令和7年11月21日、 上記申立てについて、手続の遅滞のみを目的としていることは明らかであり、不適法なものであるなどとして、これを却下する旨の決定 (以下 「原決定」という。)をした。
原決定は、 同日、本件弁護士に告知された。
(2) 本件弁護士は、同月25日、 福岡県弁護士会により、業務停止6月の懲戒処 分 (以下「本件懲戒処分」という。)を受け、 本件懲戒処分の効力が生じた。 このことは、遅くとも同月26日には当裁判所の知るところとなった。
(3) 本件弁護士は、同月28日、 抗告人の代理人として、 原決定に対する不服申 立てをする旨の同月26日付け書面(以下「本件書面」という。)を当裁判所に提出した。 これにより、 抗告人は、本件抗告をした。
(4) 本件弁護士が同月27日以降に弁護士として当裁判所に提出した裁判を求める旨の書面は、相当多数に上る。 また、 本件書面には、 抗告人の住所として本件弁護士の法律事務所の所在地が記載され、 抗告人本人の本件弁護士に対する委任状の添付もなく、 本件抗告の理由の記載も、 本件事案に即した実質的な記載が乏しい。
2(1)弁護士法第57条1項2号に定める業務の停止の懲戒について、その告知を受けた弁護士は、 その告知によって直ちに当該期間中、 弁護士としての一切の職務を行うことができないことになり、この禁止に違背したときは重ねて懲戒を受ける ことがあるばかりでなく、禁止に違背してなされた職務上の行為もまた、 違法であ ることを免れないというべきである。 そうである以上、 当該弁護士は、 業務停止期間中、代理人として家事事件の手続行為をすることが許されないのはもちろんであって、もし裁判所が上記のような懲戒の事実を知ったときは、裁判所は、当該弁護 士に対し手続への関与を禁止し、これを手続から排除しなければならない (最高 裁昭和40年 (オ) 第620号同42年9月27日大法廷判決・民集 21巻7号1 955頁参照) 本件抗告は、本件弁護士が、 本件懲戒処分に違反してした即時抗 告であって、 当裁判所が本件懲戒処分を知った後にされたものである。 そうすると、本件弁護士は、本件抗告の手続から排除されなければならず、 本件抗告は、 手続代理人となる資格を一時的に停止された者がした不適法なものとなる。
(2) そして、弁護士法1条は、1項において、弁護士は、 基本的人権を擁護し、 社会正義を実現することを使命とすると定め、 2項において、弁護士は、 前項の使命に基づき、 誠実にその職務を行わなければならない旨を定めている。 弁護士法上の懲戒制度は、 上記のような弁護士及び弁護士法人の使命と職務を全うし、弁護士及び弁護士法人に対する信頼を維持し向上させるために定められたものであって、高度の公益性を有するから、その趣旨は貫徹されるべきものである。
また、日本弁護士連合会において、「被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等につい て弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」 が定められ (平成4年1月17日理事会議決) その中で、弁護士会等は、懲戒処分の告知に当たり、被懲戒弁護士に対し、 業務停止の期間が1か月を超える場合には、直ちに依頼者との委任契約を解除するとともに、委任契約を解除した受任事件について、解除後直ちにその係属する裁判所等に対し、辞任の手続を執らなければならないことを説明し、その遵守を説示しなければならない旨が定められている。 以上のように、弁護士の業務停止の期間中における業務規制等について、国民の弁護士に対する信頼及び各弁護士会の懲戒制度の実効性を確保する改善措置が図られているところである。
⑶ 本件懲戒処分は、本件弁護士に対して、6か月間、弁護士の業務に従事をしてはならない旨を命ずるものであり、本件懲戒処分の効力が生じている限り、これに従うことが強く求められるというべきである。そうであるにもかかわらず、上記の経緯等によれば、本件抗告は、本件弁護士が、本件懲戒処分を受けながら、これに違反する意図をもって当裁判所に本件書面を提出することによりされたものということができる。また、本件弁護士が本件懲戒処分の効力が生じた後に提出した裁判を求める旨の書面は相当多数に上り、本件書面はそのうちの一つとして提出されたものであるし、本件弁護士は上記基準によって遵守が求められている措置を講じ
ていないことがうかがわれ、懲戒処分の違反の程度は重大である、さらに、本件書面には抗告人本人の本件弁護士に対する委任状が添ていないことがうかがわれ、懲戒処分の違反の程度は重大である。
抗告理由に関して本件事案に即した実質的な記載が乏しいこともあって、本件抗告が抗告人の意思を反映したものであることをうかがわせる事情は見当たらない。これらの事情を併せ考慮すると、本件抗告について抗告人本人の追認により有効となると解することは、弁護士法が懲戒制度を設けた上記趣旨を没却するに等しいから、そのように解することはできず、本件抗告は、その不備を補正することができないというべきである。
⑷ したがって、本件抗告は、補正を命ずることなく、不適法として却下すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 安浪亮介 裁判官 岡 正晶 裁判官 堺 徹 裁判官宮川美津子 裁判官 中村 愼)
48歳弁護士を業務停止6か月”の懲戒処分 福岡県弁護士会「基本的な義務に違反」 弁護士は「不当な処分」と主張
業務停止6か月の懲戒処分をうけたのは、福岡弁護士会に所属する後藤景子弁護士(48)です。 福岡県弁護士会によりますと、後藤弁護士は離婚訴訟の弁護の依頼をされた際に依頼人に事件の見通しや弁護士費用などについて適切に説明しなかったほか、弁護士費用を受領しても2年以上にわたり訴訟提起しなかったなどとされています。 福岡県弁護士会 上田英友会長 「弁護士職務基本規定が定める基本的な義務に違反したというものであります。本件によって弁護士、また弁護士会に対する信頼が毀損されたと感じておりまして、非常に遺憾だと考えているところでございます」 この会見の開始直前、後藤弁護士が突然訪れ「意見を述べたい」などと主張しました。
後藤景子弁護士 「同席の会見を求めます。会長のお隣で私の意見を述べたいと思っております」
弁護士会側 「同席は認められませんので終わったとに記者の方の取材に応じていただければと思います」
後藤景子 弁護士 「許されるんですか?強行しておきながらですよ手続きを」 その後後藤弁護士による会見が開かれ、「女性弁護士の数が少なく、多くの離婚訴訟を抱え、対応に追われていた」として不当な処分であると主張しました。
後藤景子 弁護士 「わたしは答弁書を提出できておりません、それから自らを弁護するための証拠も提出できておりません。これらの手続きについて事前に費用も含めた説明はしております。『Aの十分な理解と了解を得た形が認められない』というところは虚偽です。
これはショートメールのやり取りが残っておりますので」
後藤弁護士は去年3月にも民事訴訟で、裁判所から命じられた訴状の補正をせずに被告側に送ったなどとして、業務停止2か月の懲戒処分を受けていました。
後藤弁護士は近く懲戒処分の内容は不服として、審査請求を日本弁護士連合会に訴えるということです。
引用RKBhttps://news.yahoo.co.jp/articles/b65cf5f766f263eea1967298f3840012e02b0008#:~:text=
福岡県弁護士会がなした懲戒の処分について、同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第1号の規定により公告する。
記
1 処分を受けた弁護士氏名 後藤景子 登録番号 30734
事務所 北九州市小倉北区原町2-1-6 リーガラス103
女性総合法律事務所ラレーヌビクトリア
2 懲戒の種別 業務停止2月
3 処分の理由の要旨
(1)被懲戒者は、2020年4月27日、Aの代理人として、Aを原告、懲戒請求者B及びC市を被告として、損害賠償請求訴訟を提起したところ、その訴状において、上記訴状と直接関係ない第三者らの実名が記載されていることがプライバシー上問題があるとして裁判所から訴状の訂正を求められていたにもかかわらず、同年8月20日付けにて、補正前の訴状の写しを懲戒請求者B及び同人らの勤務先であるC市に対し、送付した。
(2)被懲戒者は、2021年7月19日、C市の市政記者室に対し、上記(1)の事件において提出した訴状訂正申立書の内容におおむね沿う内容が記載され、懲戒請求者Bの名誉を毀損する事実を適示した告訴状の写しを添付した書面を添付した。
(3)被懲戒者は、依頼者であるDが懲戒請求者Eとの離婚を強く求めているにもかかわらず、2020年3月19日に夫婦関係調整調停が不成立となってから1年以上訴訟を提起せず、2021年4月1日、懲戒請求者Eから提起された離婚訴訟においても、期日間の準備を十分に行わず、期日を空転させ、準備書面の提出期限も守らず、準備書面を提出しない状況を続け、また理由がないことが明白な裁判官の忌避申立てをするなどした。
さらに、被懲戒者は、Dと懲戒請求者Eとの間の面会交流申立事件において、Dの代理人であったところ、2022年7月20日の電話会議システムを利用した調停手続期日において、調停委員から期限を指定して主張書面を提出するよう求められたのに対し、誰に申立てなのかも明らかにしないまま、忌避する旨だけ言い放ち、一方的に電話を切断し、同年7月25日付け忌避申立書にて、調停委員会から主張書面を提出するよう求められたことに対して裁判官の忌避申立てを行った。
(4)被懲戒者の上記(3)の行為は弁護士職務基本規程第76条に違反し、上記各行為は弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4処分が効力を生じた日 2024年3月19日 2024年7月1日 日本弁護士連合会
