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弁護士非行懲戒専門ブログです
毎日新聞社の記者が弁護士の懲戒処分について記事を書いています
和歌山弁護士会元会長の楠見宗弘弁護士の逮捕について弁護士の懲戒制度について
取材を通して記者の意見、感想を述べています
私が毎日ブログでぼやいてるのとだいたい同じですが
大きな新聞社の記者がこのように意見を言ってくれるのはうれしいですね
記者の目:
弁護士会の懲戒処分=岡村崇(和歌山支局)

 ◇審査過程の透明性を高めよ

 和歌山弁護士会(和歌山市)の元会長(66)が、担当した被告人の保釈保証金を着服したなどとして逮捕され、業務上横領罪で起訴された。06年以降、懲戒請求やトラブルが相次いだ末の事件だった。弁護士会の対応次第で後の被害は防げたのではないか、との思いがぬぐえないが、請求の審査内容はほとんど開示されない。司法改革で弁護士が急増する一方、不祥事も増えており、昨年の全国の懲戒処分件数は過去最多を更新して80件にのぼった。市民の信頼を失わないためにも、積極的に審査の透明性を高めていくべきだと思う。
 元会長は(1)08年7月、遺産を巡る調停で依頼人から預かった370万円(2)10年7月、一般社団法人「日本保釈支援協会」(東京都)から預かった保釈保証金130万円--をそれぞれ着服したとして和歌山地検に逮捕された。
 背景には元会長の借金問題があったとされる。検察側の冒頭陳述によると、99年に兄の債務1億5000万円の連帯保証人になったことから、05年には生活に困窮していたという。さらに、元会長は二つの事件の前に、別のトラブルでも和歌山弁護士会に懲戒請求されていた。

 ◇対応が遅れ、被害拡大か

 一つは、土地の境界確定訴訟で1審敗訴後、勝手に控訴、上告し、最高裁でも敗訴が確定した事案。依頼者の男性が06年12月に懲戒請求した。弁護士会は08年6月、「依頼者の了解を得なくても、弁護士が費用負担したなら『非行』とまでは言えない」などと請求を退けた。納得できない男性が問い合わせると、「独立した委員会が審査している」として、議論の中身や審査回数、委員名も一切明らかにしなかった。(1)の事件はこの1カ月後に起きていた。
 また、保釈保証金をだまし取ったとされる(2)の事件の1年前と4カ月前にも、別の金銭トラブル2件で懲戒を請求されていた。(2)の事件が起きた後、弁護士会は2件の懲戒請求をされていたことを公表し、元会長は業務停止5カ月の懲戒処分となった。結局、元会長は処分の10日余り後の昨年12月、逮捕された。
 元会長の借金問題は弁護士の間でも周知のことだったという。弁護士会は対応が遅きに失したといわれても、仕方ないのではないか。
 全国の弁護士は今年2月現在3万479人。司法改革に伴い、この10年で約1万人増えた。一方、90年代前半におおむね年20件台だった懲戒処分件数は、00年代に入ると60件を超えることも多く、09年が76件、10年は80件と、2年連続で過去最多を更新した。
 弁護士を巡るトラブルにどう対応すべきか。日本弁護士連合会(日弁連)も改革を実施してきた。▽懲戒委員会などのメンバーに法曹関係者以外を加える(02年)▽処分前でも事案を公表できる(04年)▽弁護士の過去3年の懲戒処分歴を、求めに応じて所属弁護士会が開示する(09年)--などだ。それでも、今回のような問題が生じている。さらに改革できないだろうか。

 ◇時期早めるなど、公表方法改善を

 日弁連によると、01~10年、懲戒請求は計2万1110件。このうち懲戒委が審査したのは1117件、処分は653件。一時の感情で請求するなど理由に乏しいケースも多いため、各弁護士会は、懲戒委が審査すべきかどうか、まず綱紀委員会で判断している。「審査すべきだ」と綱紀委が判断すれば、いわば“起訴”。推定無罪の原則に従いながら、この段階で公表してはどうか。もちろん、最終的に「潔白」と判定される場合もあるだろうから、弁護士の名誉を守るために、審査の経過を含めて説明することが必要だ。公開性を高めれば審査が遅れることもないはずだ。
 どの媒体で公表するかも再考の余地がある。懲戒処分には、除名▽退会命令▽2年以内の業務停止▽戒告の4種類がある。業務停止以上の処分が出た場合、多くの弁護士会が記者会見し公表する。しかし、戒告は、市民がまず目にする機会がない日弁連の月刊機関誌「自由と正義」と官報で確認するしかない。会見や資料配布など、業務停止以上の処分に準じて説明すべきだ。
 公表方法の改善に取り組んでいる弁護士会もある。東京弁護士会は「放置すると被害拡大の恐れがある」などと判断すれば、懲戒請求を受けた段階で公表している。大阪弁護士会も昨年12月、懲戒請求された2人の情報をホームページで公開した。
 弁護士会は権力から独立するため、懲戒権を含む弁護士自治が認められている。情報開示による“風評被害”の恐れもゼロではない。しかし、自らに不利な情報でも市民に開示し、自浄能力を発揮することで、国民の信頼が得られ、弁護士自治もより守られるはずだ。
楠見宗弘弁護士【和歌山】懲戒処分の要旨