インターネット上での情報管理に関する当会の措置について

(談話)  東京弁護士会 会長 竹之内明

2012年03月30日
東京弁護士会 会長 竹之内 明
第1 関係会員への適切な指導・監督等
1 本問題の3つの側面この問題はつぎの3つの側面をもっています。
第1に,当会が設置・管理する委員会等のメーリングリストおよび当会会員が設置・管理する弁護団等のメーリングリストとして,Yahoo!無料メーリングリストサービスが利用されていたことです。これは,たとえ「非開示」の設定をしていても,「公開対象範囲外の方に公開されてしまう可能性」があることが利用規約に定められています。守秘義務の対象となる情報の通信に利用してはならないものでした。
第2に,当会が設置・管理する委員会等のメーリングリストおよび当会会員が設置・管理する弁護団等のメーリングリストにおいて,無料メーリングリストサービスの初期設定の過誤により,第三者に参加・閲覧が可能な状態になっていたことです。
第3に,当会会員が設置・管理する弁護団のメーリングリストにおいて,公開されていない個人情報,とりわけ裁判員候補者名簿が添付されていたことです。メーリングリストでやりとりできる情報とそうしてはならない情報とを区別する適切な判断ができていなかったといわざるをえません。
2 第1と第2の側面について
当職は,当会の最高責任者としての責任をとるという趣旨で,役員報酬月額の10分の1を自主返納いたしました。その理由は,つぎのとおりです。
(1) メーリングリストは,今日では当たり前のように広く利用されているとはいえ,比較的新しい情報伝達手段です。当会がこれを導入したのも,比較的近時のことです。
(2) 弁護士会と弁護士は,その職務と業務の過程で必然的に会員または市民の個人情報を扱わざるをえず,しかもそれは社会的紛争,訴訟等にかかわる情報ですから,高度の機密性があります。
(3) 弁護士会は,その取り扱う情報が高度の機密性のある個人情報である可能性が高いのですから,新しい情報伝達手段を導入するにあたっては,その安全性に特段の注意を払わねばならない立場にあります。利用の際に利用規約をよく検討するなど安全性に充分な配慮が必要です。ただ単に経費がかからないからという理由で,安易に無料のメーリングリストを導入したことは,弁護士会の姿勢として問題があったといわねばなりません。
また,そのメーリングリストを開設するにあたっては,前述のとおりの機密性の高い情報を扱う可能性にかんがみれば,十全の知識を有する者にこれを依頼するなり,安全性の確認されたメーリングリストを利用させるなどの充分な配慮をしなければならない立場にありました。その都度の必要性に迫られて各担当職員が開設するメーリングリストを安易に利用させていたことは,結果的に幸いにも機密性のある個人情報が外部に漏洩した事実はなかったとはいうものの,やはり弁護士会の姿勢として問題があったといわねばなりません。
以上は,当会の設置・管理する委員会等のメーリングリストに関する問題です。
(4) 同様に,会員の設置・管理する弁護団のメーリングリストについても,今回の問題に関するかぎり,個々の会員の過誤が招いた偶発的事故と捉えるべきではなく,弁護士会が無料のメーリングリストを導入し安易に利用してきたこともその原因の一つであったといわねばなりません。
もし当会が無料メーリングリストを導入せず,委員会活動で多数の無料メーリングリストを開設したりしていなければ,これほど多くの会員が安易に利用することはなかったと思われます。また,当会が,早い段階で,無料メーリングリスト設定時の過誤の危険性に気づいて,会員に対する注意喚起や会員の研修等に努めていれば,会員が設定に過誤をおかすことも防止できたと考えます。
この件は,単に個々の会員の過誤の問題ではなく,当会の姿勢の問題として論ずべきものと考えております。
(5) したがって,無料メーリングリストを利用したこと,および設定の過誤により第三者が参加・閲覧可能な状態にあったことは,当会の設置・管理したメーリングリストのみならず,会員が設置・管理したメーリングリストについても,個々の会員の責任としてではなく,会の指導・監督責任として論ずべき問題と考えます。
そこで,この問題が発覚した年度の会長を務める当職は,組織の最高責任者として責任をとるとともに,再発防止に会全体で取り組む当会の決意を明確にする趣旨で,役員報酬の一部を自主返納することとした次第です。
(6) なお,前記第1と第2の側面について,日本弁護士連合会から,関係会員の懲戒をも検討するよう求められましたので,この点も検討いたしました。この件については,前述のとおり個々の弁護士の過誤よりも当会の弁護士会としての姿勢に問題があったと考えるべきであること,会として将来の再発防止の措置を確実にとるという観点からも,個々の弁護士の過誤の問題として処理するのではなく,会の問題として責任を明確にすべきであること,すでに当該公設事務所においても減給という所内の措置がとられていること,本件は社会一般に情報が漏洩して二次被害が生じた情報漏洩の事案とは性格が異なること,個人情報が搭載されていた案件のうち連絡先が判明している方に対しては発覚直後ただちに当該公設事務所が訪問または電話によって報告と謝罪をおこない,連絡先が不明のケースはホームページに謝罪を掲載するなどして適切な対応をおこなっていること,当該公設事務所が代理人弁護士と協議中の案件が1件はあるものの,これまでに当会や当該公設事務所に苦情が寄せられるなどして紛争に発展している事案ではないこと,および当会の会立件(当会が懲戒の申立をすること)の前例(多くは非弁提携,業務停止中の業務の事案)等を勘案すれば,会立件までおこなうべき事案ではないと判断しました。
3 第3の側面について
裁判員裁判の裁判員候補者名簿がクローズではないメーリングリストに載せられた3件の問題について,関係弁護士に厳重な指導をおこないました。
3件のうち2件は当会公設事務所の弁護士3名が関与する弁護団メーリングリストであり,1件はそれ以外の法律事務所の弁護士が関与する弁護団のメーリングリストです。いずれも裁判員候補者名簿をメーリングリストに載せたのは弁護士ではなく,事務職の秘書でした。弁護士は,当該名簿を特定して指示したのではなく,包括的に,裁判所から受領した書面を弁護団の共通認識にするよう指示を与えていたという経過です。
当会としては,弁護士法第31条1項に基づき,事務職に包括的な指示を与えた(裁判員候補者名簿などの重大情報を除くことを指示しなかった)4名の弁護士に対して厳重注意の措置を,当該公設事務所の所長弁護士1名に注意の措置をとることとし,口頭および書面をもって指導監督いたしました。
第2 当事者への適切な対応の指導
公開されていない個人情報が第三者に閲覧されていた刑事弁護団のメーリングリストの関係会員に対しては,個人情報を漏洩された当事者への適切な対応をおこなうよう指導してまいりました。また,前述のとおり,連絡先が判明している方に対しては発覚直後ただちに当該公設事務所が訪問または電話によって報告と謝罪をおこない,連絡先が不明のケースはホームページに謝罪を掲載するなどして適切な対応をおこなっております。
第3 注意喚起等の再発防止策
1 当会が,再発防止のために会員に注意喚起すべきことは,つぎの2点と考えられます。
① 無料メーリングリストは,守秘義務の対象となる情報を扱う業務に関しては利用せず,信頼性の高いサーバーを利用すべきこと。
② インターネット上での個人情報の取り扱いに充分に注意をすること。とりわけ裁判員候補者名簿など特に機密性の高い情報を,メールに掲載したり添付したりはしないこと。個人情報をメール送信する必要があるときには,パスワードを設定して,別途送信すること。
当会からも,日本弁護士連合会からも,すでに頻繁に注意喚起がなされていますし,当会は,本日,改めて全会員に対し注意喚起を行ったところです。今後もひきつづき会員の注意喚起に努めてまいります。
2 なお,刑事事件に限定してですが,当会が有償で契約している信頼性の高いサーバーを会員に利用してもらえるようにするサービスをこのほど開始いたしました(国選事件の場合は無料,私選は有料)。無料メーリングリストを利用しないように呼びかける一方で,信頼できるメーリングリストを会として会員に提供するという趣旨です。
東京弁護士会の会長さまの3月30日付談話です
昨年末に東京弁護士会所属の北千住パブリック法律事務所が開設した刑事事件のメーリングリストが誰でも閲覧可能であったということで個人情報が漏れた。そこで会長の談話が発表されました