綱紀審査会の運用状況  2016年2月

 綱紀審査会とは弁護士の所属する弁護士会で懲戒が棄却され、日弁連で異議申し立も棄却され、最後に懲戒の審議がされるのが綱紀審査会です。

 

日弁連は1年間に2回、日弁連広報誌「自由と正義」に綱紀審査会の運用状況と審査相当事案について報告が掲載します。年間に3件から5件程度「審査相当」と議決され次に対象弁護士の所属する弁護士会懲戒委員会に付され処分が決まります。

「自由と正義」20162月号には3件の審査相当事案が掲載されました。

1件毎にご紹介したいと思います。


審査相当事案 2件目

 

審査申立人は『弁護士自治ウオッチャー』

 

事件番号  平成27年(コシ)第43号

事案の概要

睡眠時無呼吸症候群の持病があった対象弁護士が、酒気帯びの状態で駐車場に止めた普通乗用車を移動するため運転したところ、同車両が急後退し本件駐車場外の道路を横断して道路反対側の駐車場に車両後部から侵入し同駐車場に駐車中の軽自動車等に衝突する物損事故を起こしたことが弁護士としての品位を失うべき非行にあたるとされた事案


事 実
対象弁護士は運転代行を利用して帰宅するため、運転代行業者に架電して依頼した後、本件駐車場において自動清算機で駐車料金を精算した。

本件駐車場は料金清算が済むと車両止めが下がるが短期間のうちに再び上がるシステムとなっていたところ、対象弁護士は清算後にそのことに気づき、車両止めが再び上がる前に駐車スペースから普通乗用自動車を移動させて駐車場内で方向転換をしておこうと考え同車両の運転席に乗り込みエンジンスイッチを入れてギアをバックに入れ後方確認をしながら車両止めを乗り越えるためアクセルを強めに踏み込んだ。

しかるところ対象弁護士の意に反して同車両が急後退し、本件駐車場外の路上に飛び出しそのまま10メートル以上を後ろ向きに走行して道路を横断して道路反対側の駐車場に車両後部から侵入し同駐車場に駐車中の軽乗用車に衝突して停止した。

同事故により同駐車場に駐車中の軽自動車並びに同駐車場の施設である看板1個及び自動清算機1台を損壊し、また対象弁護士は、頭部打撲、頸椎捻挫等の傷害を負い救急搬送された。

対象弁護士が搬送先の病院内で警察官から飲酒検知を受けたところ呼気1リットル中の濃度0,25ミリグラム以上のアルコールが検出された。

また、対象弁護士には睡眠時無呼吸症候群の持病があり就寝時にシーハップ療法(持続式陽圧呼吸療法)をしていたが、本件事故当時は器具の不調により同療法が適切に実施できずにいた。

綱紀審査会の判断

道路交通法第65条第1項に定める酒気帯び運転とは、酒気を帯びた状態で「道路」において自動者を運転することであるところ、本件駐車場は「道路」に該当せず、本件駐車場における運転行為は酒気帯び運転に該当するものと認められない。また本件で対象弁護士は本件駐車場を出て道路を走行しているが故意に道路を走行したものとは認められない。

もっとも対象弁護士には睡眠時無呼吸症候群の持病があったところ本件事故時にはこれを改善するための療法が適切に実施されずにいた。このような状態で飲酒した場合には判断能力、運動能力、反射能力等が低下することが一般的に推測され対象弁護士にも、このことは予見可能であったものと認められる。

また本件駐車場は繁華街の近傍であり周囲に第三者の存在する可能性があった上、対象弁護士が運転行為をした車両は少しでも運転操作を誤れば容易に歩道及び車道に侵入する位置にあった。そしてこのような状況で車両を運転すれば歩行者や他に走行中の車両に衝突し重大な結果が発生していた可能性があったと認められ本件運転行為は客観的には危険性の高いものであったと認められる

本件運転行為が職務外の行為であったこと犯罪には該当せず、行政処分の対象ともなっていないこと、人身傷害など重大な結果が発生していないことを考慮しても対象弁護士の行為は弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に当たるものと認められる。

(3)綱紀審査会の議決の年月日

20151013