《弁護士懲戒手続の研究と実務》

 

懲戒請求の受付機関と形式的調査

 

懲戒請求を受け付けるのは弁護士会であるが、具体的な受付機関は弁護士会の執行機関としての会長である。

懲戒請求がなされた場合には、まず懲戒請求者、対象弁護士及び懲戒事由に該当する事実がそれぞれ特定されているか否かが調査されなければならないが、実質的な調査はまさに綱紀委員会の職責であるから、これは形式的な調査にとどまるべきものである。そして、この形式的調査により懲戒請求者等の特定がなされていないと判断されれば懲戒請求者に対し補正を命じ、補正に応じない場合あるいはそもそも補正が不能である場合は、懲戒請求として取り扱えない。

ところで、この調査について、受付機関(窓口)が自らなしうるか、常議員会その他の機関が関与する必要があるかが問題となる。

これについては、常議員会の所管事項として「会員の懲戒に関する事項」を会則中に掲げている弁護士会が多いが会則中に明示していない弁護士会もあり一概に論じることはできない。

結論としてはこの点に関する調査が形式的に過ぎないこと、常議員会の所管事項としての「懲戒に関する事項」は専ら法58条第2項の弁護士会による請求との関連で掲げられていると思えわれること、補正手続のことを考えると調査はある程度迅速に行われることが望ましいこと等から受付機関(窓口)が、自らが調査できると解する。

また、受付の際に、その請求がそもそも懲戒請求に該当するか否かということや、懲戒請求に該当するのか紛議調停の請求に該当するのかという判断を要求される場合がありうる。例えば、提出された書面の表題が「懲戒請求書」となっていても、実際には紛議調停の対象である弁護士の職務に関する紛議が記載されている場合や、弁護士あるいは弁護士会に対する単なる苦情が述べられていることはありうることである。

書面を一読しても懲戒請求あるいは紛議調停の請求なのか、弁護士に対する単なる苦情なのかが判然としないときは、請求をした者の意思を十分確認したうえで処理するべきである

請求した者の意思を十分確認してもなお懲戒請求あるいは紛議調停の請求の意思があるものとは認められない場合には、懲戒請求あるいは紛議調停の請求といった法定の請求としては取り扱えない(同旨平成6年12月19日付け日弁連会長通知『弁護士会が受ける苦情から法定の請求を分別する手順について』)ただし弁護士会によって懲戒事件が隠蔽されたと後で非難されることがないよう右の意思確認は慎重になされなければならない。

受付の際、弁護士あるいは弁護士会に対する単なる苦情でないことがはっきりしているが、懲戒請求か紛議調停の申立てが問題となったときは、受付機関(窓口)において両制度の趣旨を説明する等して当人の意思を確認したうえ紛議調停の請求であることが明白となった場合を除いては懲戒請求として取り扱うべきである、

当人の意思確認の過程で当人の翻意を促したり、強いて紛議調停に廻すことは妥当ではない、また紛議調停であることが確認されたときは、後日同一事案について懲戒請求する場合には除斥期間に留意するよう、念のために教示すべきであろう、ただし除斥期間の満期の日について具体的判断は最終的に懲戒委員会がこれを決することになるから、窓口においてこれを確定的なものとして説明することは避けるべきである

 

以上、日弁連調査室 『弁護士懲戒手続の研究と実務』第3版より