弁護士の懲戒処分を公開しています。弁護士に非行の疑いがあれば所属弁護士会に懲戒処分を求める申立てができます。年間2600~2800件程度だと思います(大量懲戒があったため近年の申立件数は推測です)
所属弁護士会で年間100件程度処分されます。処分になるのは申出件数の約3%程度です。所属弁護士会で処分しないと議決された場合、異議(再審査)を日弁連綱紀委員会にすることができます。毎年600件程度、日弁連に異議の申出があります、日弁連で異議が認められるのは年間1件あるかないかです。
今回紹介するのは珍しく異議が認められた「議決書」です。この後、懲戒の審査は所属弁護士会の懲戒委員会に付されます。所属懲戒委員会で『戒告』『業務停止』『退会命令』『除名』から処分が決まりますが、特殊な事情や特段の事情があれば「処分しない」という場合もあります。
簡単な異議申出の理由
離婚・子ども面会交流事件。母親に子ども(2人)がいて離婚後は父親に絶対に面会させないという条件で二弁の女性弁護士が受任。調停を不調に終わらせるため、いつもの「ちゃぶ台返し」で相手方代理人に誹謗中傷、さらに準備書面に父親が「もう一度、家族団らんを」と述べた反論に「家族団らん!片腹痛いわ!」と書面で回答。さらに父親が勤務する会社宛てに「離婚でもめています」とメールを送り続けた行為。反省も謝罪もなく私は悪くないとの弁明を繰り返した。
第二東京弁護士会綱紀委員会は弁護士として問題のない行為であると棄却しましたが、日弁連は弁護士法第56条1項の弁護士として品位を失うべき非行に該当すると異議を認めた。
(対象弁護士は相手方男性の勤務先N(日本で一番の証券・金融・不動産会社)に、推測で作ったメールアドレスが見事に的中し、会社にしつこく何回も嫌がらせメールを送ったため、男性は本社勤務から異動されられました。
対象弁護士はかなりネットの腕が良いのでしょう。現在IT関連の一部上場会社の社外取締役に就任しています。
異議申出事案の決定について(通知)
下記事案につき綱紀委員会の議決に基づき決定したので,決定書謄本を添えて通知します。
本件事案番号: 平成22年綱第422号 平成23年11月24日
決 定 書
異議申出人 〇〇
異議申出人の申出による第二東京弁護士会所属弁護士 樋口 明巳 君(登録 番号27593) にかかる平成22年綱第422号異議申出事案について, 日本弁護士連合会は次のように決定する。
主 文
第二東京弁護士会がした対象弁護士を懲戒しない旨の決定を取り消して, 事案を第二東京弁護士会に送付する。
理 由
本件異議の申出について綱紀委員会が別紙議決書のとおり議決したので、弁護士法第64条の2第2項の規定により、主文のとおり決定する。
平成23年11月21日 日本弁護士連合会 会長 宇都宮健児
平成22年綱第422号(第二東京弁護士会平成21年(3) 第42号
議 決 書
異議申出人 〇〇
対象弁護士 樋口明巳 (登録番号27593) 第二東京弁護士会
上記代理人弁護士 樫尾 わかな 宮川倫子 今泉 亜希子
主 文
第二東京弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認める。
理 由
第1 本件懲戒請求事案の要旨
異議申出人の対象弁護士に対する本件懲戒請求の理由及び対象弁護士の答弁の要旨は,いずれも第二東京弁護士会綱紀委員会第2部会の議決書(以下「原議決書」 という。)に記載のとおりであり,同弁護士会は同議決書記載の認定と判断に基づ き,対象弁護士を懲戒しないこととした。
ただし,同議決書 2ページ下から7行目及び同4ページ3行目に「地方裁判所」 とあるのは「家庭裁判所」の,同16ページ下から8行目に「直裁」とあるのは 「直截」の,それぞれ誤記と認める。
第2 本件異議申出の理由の要旨
本件異議申出の理由は,要するに,前記認定と判断は誤りであり,同弁護士会の決定には不服であるというにある。
第3 当部会の認定と判断
当部会が,異議申出人及び対象弁護士から新たに提出された資料及び当部会にお ける対象弁護士の審尋結果を含め審査した結果は,以下のとおりである。
1 原議決書第2記載
懲戒請求事由1について
異議申出人の主張は、要するに,異議申出人が夫婦関係の修復を図ろうとしていた時期に,異議申出人による妻の実家訪問にあたって警察官を導入させ,これ によって夫婦関係を破綻に導いたというにある。
しかし,本件における全資料によっても,対象弁護士の行為によって異議申出人の夫婦関係が破綻に導かれたと認定することはできず,この点に関する原議決 書の認定と判断は相当と認めることができる。
2 同懲戒請求事由2について
異議申出人の主張は、要するに,対象弁護士は,東京高等裁判所において平成 20年6月13日に成立した和解条項に基づく異議申出人と子供との面接を妨げるように振舞ったというものであるが,本件全資料によるも,かかる事実を認めることはできない。この点についての原議決書の認定と判断は相当と認めることができる。
3 同懲戒請求事由3「弁護士としての品位を害する行為」について
(1) 当部会の認定した事実
異議申出人が懲戒請求事由3において主張する事実のうち,対象弁護士が, 夫婦関係調整の調停において,異議申出人の代理人弁護士に対して,「あんた, 民法知ってんの!」という罵声を浴びせたこと及び調停の席から勝手に退出したことについては,対象弁護士はこれを否認しており,当該事実を認めるに足る証拠はない。他方,平成18年11月以降の家事調停の期日において,対象弁護士が,調停委員並びに当事者の面前で,相手方である異議申出人の代理人 弁護士に対して「刑法をご存知ないのですか。」という趣旨の発言をしたこと は,対象弁護士自身が認めており,事実として認定できる。
また,対象弁護士が,異議申出人に対する離婚訴訟(さいたま家庭裁判所平 成19年(家ホ)第38号)において,原告代理人として,準備書面(甲26 号証)に,「被告が別居前に,子らの養育として何をしたというのか,具体的に主張できることがあったら主張してもらいたいくらいである。」と記載して 陳述したこと及び控訴審(東京高等裁判所平成20年(ネ)第1447号)に おいて,答弁書(甲10号証)に,「控訴人は『家族4人の家族団欒』などと 主張しているが片腹痛い。」と記載したことは証拠上明白であり,対象弁護士も認めている。
以上のほか,懲戒請求事由3に関して原議決書が認定した事実は,いずれも その存在を認めることができ,その事実認定は相当である。
(2) 当部会の判断
前記認定事実が弁護士としての品位を失うべき非行に該当するかが問題にな るところ、弁護士職務基本規程第70条は、「弁護士は、他の弁護士,弁護士 法人及び外国法事務弁護士(以下「弁護士等」という。)との関係において相互に名誉と信義を重んじる。」と定め,さらに同規程第71条は,「弁護士は、 信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れてはならない。」と定めている。そして,規程の趣旨として,「弁護士人口が大幅に増加することを踏まえて,弁護士間の信義が希薄化することを防ぎ,他の弁護士等を不利益に陥れても自己 または、依頼者の立場を有利にしようと謀る弁護士が増えることのないようにする趣旨である。
ここでいう『信義』は,不利益を受けた弁護士が抱く主観的な信義ではなく,自由,独立,品位を重んじ誠実かつ公正に職務を行うべき弁護士職として要求される客観的な信義である。」と説明されている(「自由と正義」第56巻第6号119頁(2005年))。
本件について見るに,対象弁護士は,当部会からの文書照会に対する回答において,家事調停の席上,相手方代理人弁護士に対して「刑法をご存知ないの ですか」という趣旨の発言をした目的について,「(異議申出人代理人弁護 士が)夫婦には同居義務があるので,異議申出人が〇〇家の家に立ち入っても 住居侵入罪は成立しないとの見解を主張」していたので,「同代理人から,・ ・・実父らの意思に反して立ち入ったりしないよう助言してもらい」たいとの 思いで発言したとし,調停委員の前で発言した理由は,「調停委員からも異議 申出人代理人に,・・・注意を促してもらうことを期待したため」であると回答した(2011年9月13日付回答書,以下「回答書」という。)。
また, 審査期日には「この離婚事件を解決するために歩み寄っていただきたいという気持ちがあって,そういうことをお伝えしました。」と述べており,婚姻中の住居である〇〇家の家に立ち入ることが住居侵入罪に該当するか否かは,その際の行為態様も含めて見解の対立があり得るにもかかわらず,相手方代理人の刑法に関する法律知識が乏しいと評価したとも見られかねない「刑法をご存知ないのですか。」との趣旨の言葉を,調停委員や双方の依頼人当事者が在席する家事調停の場で申し向け,これによって相手方代理人の歩み寄りを求めよ うとすることは,「自由,独立,品位を重んじ誠実かつ公正に職務を行うべき 弁護士職として要求される客観的な信義」から逸脱しているといわざるを得ない。そもそも,その表現自体が相手方弁護士を貶めるものであって,その名誉に対する配慮を欠くといわざるを得ない。また,その場に同席した異議申出人が,自分が依頼した代理人弁護士が侮辱されたと感じるのも無理もないことである。
次に,異議申出人との訴訟の控訴審答弁書に「控訴人は『家族4人の家族団 欒』などと主張しているが片腹痛い。」と記載した趣旨について,対象弁護士は,「これまでの調停および訴訟の手続の過程で異議申出人自身が行った発言の内容等とあまりに異なっていました。そのため対象弁護士は,当該記載をして,その乖離の大きさを表現したに過ぎません。」と回答書に記載し,審査期 日には「客観的な事実やそれまでの主張や発言とあまりにも異なり,当該主張がそれらと異なっていることについて容易に認定できる状況であるにもかかわらず,そういった主張が行われた場合で,かつ,相手が加害者的立場であり, 対象弁護士の依頼者が被害者的立場であるなどの限定的な場合に使用していました。」とも述べている。
そもそも,「片腹痛い」という表現には法律的主張が全く含まれず,事実主張ともいえないもので,訴訟書類に記載する必要性はない。他方,同表現から は相手方を嘲笑する姿勢が感じられ,相手方において,侮辱されたと感じるのもやむを得ないところである。しかるに,対象弁護士は、異議申出人の本件懲戒請求での主張を聞いてからはこういう言葉遣いはしていないと述べるものの, 被害者的依頼者の事件においては状況により使用していたとして,事件処理を有利に進める手法として使用していたことを認めている。互いに過激な表現を 用いた応酬を繰り返す中で,相手方から特段の挑発的主張を受けて応対したのであれば格別,当該訴訟手続上,相手方からそのような言辞をもって攻撃されていたとうかがわれる証拠はない。法律および事実を主張・立証することによって誠実かつ公正に依頼事件を処理すべき弁護士でありながら,法的には意味がないうえ,相手方は侮辱されたと感じるおそれがある表現を使用して相手方を揶揄することは,弁護士の事件処理方法として相当性を逸脱しているとの批判を免れない。
(3) 小 結
懲戒請求事由3において認められたその他の事実を見るまでもなく,家事調停期日において相手方弁護士に対して侮辱的言辞を用いることは,弁護士職務基本規程第70条,同規程第71条及び同規程第6条に違反するものであり, また,相手方の主張に対して「片腹痛い」などと揶揄することは、同規程第5条,同規程第6条に違反することは明らかであり,いずれも,弁護士法第56条所定の品位を失うべき非行に該当するといわざるを得ない。
4 同懲戒請求事由4「弁護士法第23条の秘密保持義務違反」について
(1) 当部会の認定した事実
対象弁護士は,自己の依頼事件の相手方であった異議申出人に対し,2008年(平成20年)8月5日,異議申出人の勤務先のサーバーで管理される電子メールアドレスを推測して作成し,依頼事件に関する電子メールを送信した。 これに対して,異議申出人より,「このメールアドレスはどなたからお聞きになったのでしょうか?」との疑問が発せられ,翌8月6日には、推測でメール アドレスを作成して送信することの危険性について,「一か八かみたいなメー ルの送り方は,今後はおやめになった方がよろしいかと思います。」と異議が唱えられた。さらに、8月8日には「このメールは会社のですからサーバーにログが残りますのでその点をご配慮ください。また,先ほども申し上げました が,業務に支障がありますのでお止めください。」と,当該メールアドレスへの電子メール送信が異議申出人の業務の障害になり,かつ,勤務先サーバーに記録が残ってサーバー管理者に異議申出人の秘密を見られる可能性があるから やめてほしい旨の抗議があったにもかかわらず,少なくとも同年8月11日ま で,対象弁護士は、異議申出人の勤務先のメールアドレス宛てに電子メールを送信し続けた(甲4号証)。
さらに,対象弁護士は,2009年(平成21年)4月2日,容易に真意でないことが分かるにもかかわらず,異議申出人が「やってみろ。」と電子メールで回答したことに藉口して,その勤務先本社人事部に対して,直接,従業員に子 供の入学許可証の提出を求めている理由についての照会を行った。
(2)当部会の判断
弁護士法第23条は,弁護士が職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を 定めている。そして、弁護士の守秘義務はその職務上の最も基本的かつ重大な義務であり,守秘義務の対象・範囲は,依頼者はもとより第三者の秘密やプライバシーにも及ぶことは当然とされている。
本件において,対象弁護士が送信した電子メールの内容が守秘義務の対象となることは明らかである。それにもかかわらず,対象弁護士が,他の第三者に . 到達する危険性のある推測で作成したメールアドレス宛てに電子メールを送信したことは軽率の誇りを免れない。
まして、送信先である異議申出人が,その業務に支障があるし,勤務先のサーバーにログが残り,これが他人に見られる おそれがあるから止めてほしい旨要請していたにもかかわらず,対象弁護士が, あえて当該メールアドレス宛てに電子メールを送信し続けたことは重大である。
幸いにも対象弁護士が送信した電子メールが第三者に到達した事実は、明らかになってはいない。しかし,対象弁護士が送信したために,異議申出人の勤 務先会社のメールサーバーに残った電子メールのログが, サーバーの管理者に よって管理・チェックされているという限りにおいて,対象弁護士は,守秘義務を侵したと評するほかない。
また,離婚という異議申出人のプライバシーにわたる事実が知れることにな る子供の入学許可証の提出目的について,対象弁護士が,異議申出人の勤務先本社人事部に対して,直接照会したことも,守秘義務を侵すものといわざるを得ない。
(3) 小結
懲戒請求事由4で認められた上記各事実は,いずれも弁護士法第23条に抵触するものであり,しかも,異議申出人が反対の意向を示していることが容易に分かるにもかかわらずあえて行っているもので,同法第56条1項の弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
第4 結 論
以上のとおり,懲戒請求事由1および2については懲戒事由に該当する事実が認 められないが,懲戒請求事由3については,相手方代理人弁護士の名誉を侵害し, 弁護士としての信義に反する弁護士職務基本規程第70条,同規程第71条及び同 規程第6条に違反する行為があり,また,異議申出人に対する訴訟上の言辞には相 当性の限度を著しく超えて同規程第5条,同規程第6条に違反する行為があって, いずれも弁護士法第56条所定の弁護士としての品位を著しく損なうものといわざるを得ない。また,懲戒請求事由4においては,異議申出人のプライバシーを侵害し,弁護士法第23条に定める守秘義務に違反する行為が認められる。
さらに,対象弁護士は,本件懲戒請求を経て,相手方を揶揄するかに見える「片腹痛い」との語を訴訟上の書面に使用することはやめたと言うものの,いまだ異議申出人や相手方代理人弁護士に対して陳謝の意を表したことはなく,当部会における審査の際にも,自己の正当性の主張と異議申出人に対する批判に固執し,相手方の立場や名誉に対する配慮の姿勢がうかがわれない。そして,いずれも同じ依頼者の事件に関し て行われたもので,自らの依頼者の利益を追求する手段として用いられた同一傾向に基づく行為と評することができるので,全体を一括して第二東京弁護士会に事案の審査を求めることを相当と認める。
よって,主文のとおり議決する。
平成23年11月16日 日本弁護士連合会綱紀委員会第2部会 部会長宮崎裕二 印
これは決定書の謄本である
平成23年11月22日 日本弁護士連合会 事務総長 海渡雄一 印