杉山程彦弁護士(神奈川)懲戒処分 議決書 2023年 神奈川県弁護士会
今回の処分理由は、父親側が子どもの監護者になった、子どもを引き離して母親を家から出て行かせた。
被懲戒者は母親側の代理人(当時生後3か月の子の母親)母親が子の引渡し審判の抗告審について被懲戒者の依頼者がTwitterに書面をアップしたこと、被懲戒者はマスキングするよう指示したが懲戒請求者はアイコンで特定できる、代理人として指導すべきであったとの理由で懲戒の申立てをしたもの、
まだ母乳が必要な3カ月の子どもを暴力で引き離した行為を裁判所が認めた事に批判する投稿をした、投稿をした動機は請求外弁護士弁護士(札幌)が「連れ去り勝ちはない」との投稿をされたことが発端、(被懲戒者)
対象弁護士 杉山 程彦 (登録番号37300)
事務所 神奈川県横須賀市若松町3-4 山田ビル プレミア法律事務所
本会は、上記の者に対する2022年 (懲) 第3号事案について、 懲戒委員 会の議決に基づき、次のとおり懲戒する。
主 文
対象弁護士 杉山 程彦 を戒告する。
理 由
本会は、 標記事案について懲戒委員会が別紙議決書のとおり議決したので、 弁護士法第56条に基づき主文のとおり懲戒する。
2023年3月28日
神奈川県弁護士会会長 高岡俊之
懲戒請求者 (子どもの監護者になった父親)
神奈川県横須賀市若松町3-4 山田ビル プレミア法律事務所
対象弁護士 杉山程彦 (登録番号37300)
上記対象弁護士に対する懲戒請求事案につき審査した結果、次のとおり議決する。
主 文
対象弁護士杉山程彦を戒告とすることを相当と認める。
理 由
第1 懲戒請求事由の要旨
1 懲戒請求者と対象弁護士との関係
Aを申立人、 Aの夫である懲戒請求者を相手方とする子の監護者の指定申立 事件及び子の引渡し申立事件 ( 「本件第1事件」)において、 2021年2月 19日 A の申立てを退ける審判が出された (甲1)。この審判に不服のAは 抗告したが、同年6月4日、 その抗告を棄却する決定 ( 「本件抗告審決定」 ) が出された(乙2)。
本件第1事件とは別に、 2021年6月 Aを申立人、懲戒請求者を相手方とする面会交流審判申立事件 (甲4 10 乙4。 「本件第2事件」)におい て調停が行われており、 その後、 審判を経て、2022年12月12日 (本件 請求書の作成日付) 現在、本件第2事件は抗告審において係属していた (甲1 3, 17, Z11).
対象弁護士は、いずれの事件でも、 Aの手続代理人を務めていた。
2 懲戒請求事由 1
2021年6月21日、 対象弁護士は、下記の事情を認識したうえで、ツイッター上に 「拡散希望」 とのコメントを付して、Aの同日付けツイッター上の投稿 (「Aの投稿」 ) を掲載した ( 「本件投稿1」。 甲1)。
Aの投稿には、本件第1事件の審判書 (「本件審判書」)の一部が縮小表示された画像4枚が貼り付けられており、当該画像をクリックないしタップして拡大表示すると、 当該画像の詳細が展開され、 懲戒請求者及び両名の間の子の生年月日 懲戒請求者の職業 (中学校の教員) 懲戒請求者の自宅の購入日、 Aと懲戒請求者との婚姻日及び別居前から別居に至った内容等の個人情報を判 読することができ、 Aのツイッター上のプロフィールには、上記の子の写真が 掲載されていた。
このことは、 弁護士法56条1項に定める弁護士の品位を失うべき非行に当たる。
懲戒請求事由2
上記同日、 請求外弁護士が、ツイッター上に 「『連れ去り』 事例ではありません。 これを公開してどうするんだろうとは思いますが、 削除されてはいかがでしょうか。」 との投稿をしたことに対し、 対象弁護士は、ツイッター上に、 本件抗告審決定書の一部が縮小表示された画像1枚及びその画像の一部が拡大表示された画像1枚 (別居時におけるAと懲戒請求者との間のやり取りに関す る主張及びこれに対する判示などが記載) を貼り付け、 「男は暴力を使い、 追い出せばよいということですか。」 との投稿をした ( 「本件投稿2」 甲 2)。
このことは、 弁護士法56条1項に定める弁護士の品位を失うべき非行に当 たる。
4 懲戒請求事由3
対象弁護士は、本件第2事件の2021年10月13日の調停の席におい て、調停委員から本件投稿1及び2の削除を求められたが、 「掲載していることが何がいけないんだ。」 などと発言してこれを拒否し、 同年11月28日付 け主張書面(甲4) においてこれらの削除に触れる記載をせず、 同年12月1日の調停の席において、 調停委員からの同様の求めに対し、これを拒否した 、Aがツイートを表示できるアカウントを制限し、 同日後は、Aの投稿は表示されなくなった、 )、本件懲戒請求時 (同月12日) において、これらが削除されることはなく (甲5) 対象弁護士に反省の態度は見られなかった。
このことは、 弁護士法56条1項に定める弁護士の品位を失うべき非行に当たる。
第2 対象弁護士の弁明の要旨
1 懲戒請求事由1について
事実関係を認めるが、 次の理由から弁護士の品位を失うべき非行に当たらない。
(1) 本件投稿は、 すでにあるAの投稿 (ツイート) を引用したもの (リツイート)に過ぎない。
対象弁護士は、Aに対し、 懲戒請求者や子のプライバシーに配慮してマスキングをすることを指導した (ただし、 マスキングされた箇所は知らないし、 Aのアカウントが削除され、現時点でその確認をとることができない。)。 その後、 Aの投稿が削除されたから、 その時点で懲戒請求者や子のプライバシー侵害が生じていないし、 親が子の写真をツイッターのアイコンに使うことは咎められていない。
(2)Aの投稿は正当な言論であり、 それを守ることは、 対象弁護士の職責である。 裁判所の審判は公開されないものであるが、これも国民の権利を制限するものであり、広く批判の対象にすべきである。 ことに子の監護をどちらの親 がすべきかは、国民の権利に直結し、 監護権者であることを否定された親は著しい人権侵害を受ける。 離婚後の子に対する父母の共同親権につき、 人権教条派弁護士や日弁連は、 DVのおそれを理由に反対しているが、 先に子を 実行支配した親が監護権者に指定される実態がある。 本件審判は、夫の暴力により家から追い出された母親Aが、 懲戒請求者で ある夫の暴力を受けたとの事実認定をしながらも、監護権者の指定を受けら れなかったとするものであり、 公の議論に載せる必要性が極めて強い。 Aが 本件審判書の公開を希望するなら、それに助力することこそ弁護士の責務で ある。
2懲戒請求事由2について
事実関係を認めるが、 次の理由から弁護士の品位を失うべき非行に当たらない
(1) 本件投稿2において、懲戒請求者らの個人情報は表示されなかった。
(2) 上記1(2) と同じ
3 懲戒請求事由3について
事実関係を認めるが、 次の理由から弁護士の品位を失うべき非行に当たらない。
(1) Aの投稿は、Aが自主的に自己のアカウントを鍵アカウントにしたから、 以後、 閲読することができなくなった。
(2) 本件投稿1及び2は正当なものであるから、これを削除する理由はない。
(3) 本件投稿1及び2が削除されなかったのは、懲戒請求者又はその代理人が、対象弁護士に対し、 その対象を特定して削除を求めず、 対象弁護士もどれを 削除すればよいかがわからなかったからである。
第3 証拠
別紙証拠目録記載のとおり
第4 当委員会の認定と判断
1 当委員会が認定した事実
上記第1における懲戒請求事由の前提となる事実関係は、 対象弁護士が認めており、これに反する証拠はないから、当委員会も、これを前提として懲戒請求事由を判断することとする。
2 当委員会の判断
(1) 懲戒請求事由1について
弁護士は、 基本的人権の擁護を使命とし (弁護士職務基本規程1条) 信用を維持するとともに、 常に品位を高めるように努めなければならない (弁護士職務基本規程6条) 家事事件の手続は、原則として非公開である (家事事件手続法33条本文) から、本件審判書も公開に適さないものであり、たとえそれを批判のために用いるとしても、 審判書そのものを公開する必要があるかどうか (審判書の内容を明らかにすることで足りないか、 その他の方法により目的を達成することができないかなど)、仮にその必要があったとしても、個人情報に 配慮したかどうかなどを慎重に模索する必要がある。 さもなければ、弁護士に対する社会一般の信用に疑義を生じさせ、 弁護士の品位を低めることになるからである。
しかるに、 対象弁護士は、上記の模索をすることも審判書の趣旨や意味を説明することもしないで、本件第1事件において自己の主張が認められなか ったAの希望をもとに、 漫然と 「拡散希望」とのコメントを付しただけで本件投稿をした。 本件投稿1に貼り付けられた本件審判書は、 懲戒請求者の住所、氏名及び勤務先という限定された範囲だけがマスキングされ、その他 の個人情報がマスキングされていなかったから、マスキングされなかった部分から容易に懲戒請求者及び上記の子を認識・特定することができる状態に あった。 しかも、 そのような状態は、 約3か月半という長期間続き、 対象弁護士は、みずからその削除に努めようとせず、 調停委員からそれを促されて も拒否する有様であった。
対象弁護士の弁明をみても、 個人情報に対する配慮が十分にあったとみることができず、 たとえ公益を図る目的があったとしても、 目的は手段を正当化するものではないから、 本件投稿1により、いたずらに懲戒請求者及び上記の子の個人情報が暴露されたことになる。 この結果、 社会一般人に対し、 対象弁護士において家事事件の非公開の趣旨、 個人情報の保護の重要性及びツイッターによる情報の拡散の危険性リツイートかどうかは問題でな く、これが一度拡散されれば、 それによる暴露という被害を回復することが 不可能であること)に対する理解が著しく欠如しているとの印象を与え、 仮に弁護士が自己の相手方の代理人に選任されると、その弁護士によって自己の個人情報がいたずらに暴露されるとのおそれを招き、ひいては弁護士に対する不信感を生じさせることになる。したがって、 対象弁護士には、 弁護士職務基本規程1条及び6条に違反する非行があったと認めることができる。
(2) 懲戒請求事由2について
本件投稿2は、本件投稿1とは異なり、 直接個人を推知させる情報は記載されていないものの、同じ日に本件投稿1の続きとして掲載されたものであり、遅くとも本件投稿1が削除されるまでは、両者を合わせることにより、 懲戒請求者及びその子を特定・認識することができる状態となっていた。 また、本件投稿2に貼り付けられた画像は、本件投稿1に貼り付けられたもの とは異なるものであるから、なおのこと懲戒請求者及びその子の個人情報が暴露されたことになる。
したがって、 対象弁護士には、 弁護士職務基本規程1条及び6条に違反す る非行があったと認めることができる。
(3) 懲戒請求事由3について
対象弁護士の弁明によっても、 約3か月半という長期間、懲戒請求者やその子の個人情報の暴露が継続したことが認められるから、 相手方弁護士から 請求があろうとなかろうと、その範囲が特定されていようといまいと、 対象弁護士は、みずからそのような状態を解消すべきであったが、 自己の意見に固執してこれを行わなかった。
したがって、対象弁護士には、弁護士職務基本規程1条及び6条に違反する非行があったと認めることができる。
(4) 懲戒処分について
以上のとおりであるから、 対象弁護士に対し懲戒処分をすることが相当であり、 対象弁護士が反省の念を一切示していないこと、 当会から、2021 年4月27日ツイッター上の投稿により戒告処分を受けたこと (甲6) などに照らすと、 相当重い懲戒処分を選択することもあり得たが、 対象弁護士が 曲がりなりにも懲戒請求者やその子の個人情報保護に目を向けたことがあるなど、 対象弁護士に有利な事情を最大限に斟酌して、今回に限り、 対象弁護士に対する懲戒処分として戒告を選択するものとする。
よって、 主文のとおり議決する。 2023年3月28日