【矯風会ステップハウス】DV防止法、保護命令申立て=支援のためのハンドブック(1) 保護命令
裁判所・裁判官によって多少の違いはありますが、たいていは次のように進みます。
申立書の受付
裁判所の書記官が、 書面を確認します 、(裁判所が遠いときは、あらかじめ郵送しておくことも可能)
裁判官が申立の書類のすべてに目を通す、 この間、被害者は裁判所内でしばらく待ちます
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裁判官が被害者に面接し話を聞く
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裁判官との面接が終わると
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加害者の呼び出し期日(一週間~10日後) を決める ★これで被害者の申立て手続きは終わりというケースが最も多い
この日のうちに被害者の申立書・証拠書類など一式とともに裁判所からの呼出状が、 加害者に発送される
★ここから発令まで危険な時期・シェルターを活用するなど警戒が必要警察や DV防止センターに相談したことが申立書に記載してあれば 裁判所はそこに書面提出を請求します
加害者の審尋の日 (被害者は行かなくてよい)
裁判官が加害者側の意見を聞く
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この結果、 裁判官が相当と判断すると その場で保護命令が発令される
裁判官が言い渡しをして命令の効力が発生します
裁判所が被害者に通知する(この連絡方法はとり決めておきます)
警察・DV防止センターにも通知する
その後警察官が被害者に会って、 生活の状況(居所・勤務先など)を聞き取りします 。退去命令後に被害者が家に入るときなど、 安全確保のため同行します
また警察官は加害者に対して保護命令を守るように指導します
e. 発令されると、 本当に効果がありますか?
加害者によく見られる外ズラ・内ズラのギャップが激しく世間体を気にするタイプに は、とても効果があります。
多くの加害者は、 警察の取り締まり対象になることは避けようとします。保護命令 が刑事処分を担保にしている効果が表れています。 やくざ・暴力団などの現役の構成メンバーの場合、堅気の人より合法・非合法の 境界をはっきり自覚しているので効果があることが多いです。
しかし他人にもしばしば暴力を振るう、 薬物に依存している、 そして何度も本気で 自殺未遂を繰り返す加害者など、 警察官に制止されても暴行・脅迫を止めないタイ プにはあまり効果がありません。
それでも保護命令があったほうが、 被害者が孤立したまま1人で危険に立ち向か うよりも、対応策を取りやすいと思います。
保護命令が発令されても警察官が24時間被害者を見守るわけではありません。 一昨年、 徳島県で保護命令を発令されていた加害者が、探偵を使って居場所を つきとめて、被害者を殺害する事件がありました。
支援申出の措置をとって住民票の非開示手続をした場合も、加害者が弁護士や 司法書士を使って住所をつきとめようとすることがあります。
保護命令発令の後も、危険な加害者に対しては住民票を移さないほうが安全で あること等、避難先を絶対知られないように警戒する必要があることを情報提供し てください。
保護命令の副次的効果
○被害者が警察や行政の相談窓口に援助を求めるときや、 弁護士を捜すとき、 裁判を進めようとするときも、 安全確保の対策などで理解や援助を求めやすくなります。
○またDV被害者は自分を責めるように仕向けられ、孤立させられることが多い現状 にありますが、 保護命令の申立てと発令によって「どんな理由があったとしても暴力を振るうのは許されない」「私は悪くない」 「安心できる生活を取り戻すために使える 施策がある」と実感し、 自分への自信や社会的な感覚を回復していく手がかりとなることが多いのです。
f かなりひどい暴力や生命、身体への脅迫を受けた人でないと保護命令は使えないの でしょうか?
過去に一回でも身体に対する暴力があり、 今後も暴力を振るわれる危険性がある と裁判官が認めれば、保護命令が発令されています。
法改正前は発令されなかったようなケース (加害者が、 生命・身体への脅迫を行ったが、直接の身体への暴力は未遂だった場合など) にも、 生命・身体への脅迫が 発令要件に加わって対象が広がりました。
「身体への暴力」について 「直接身体に触れた暴力」 という理解になりがちですが、「身体に向けられた暴力」という解釈で、 精神的なダメージが暴行・傷害罪に 該当するような場合、保護命令が発令されている例があります。
2002 年静岡県の沼津地裁で、 長年 “寸止め”(空手の型のひとつで拳を 突き出して相手の目前で止める)を繰り返し、 怒鳴るなどの精神的暴力が 続いたため、 被害者が PTSD になったケースで保護命令が出ました。
2004 年には東京地裁で、 加害者が子どもを押したために子どもの頭が 被害者の胸にあたったことが唯一の身体に触れた暴力というケースで、反応性うつ症状の診断書で発令されました。
2005年にも被害者が自殺未遂に追い込まれるほどひどい束縛や嫌がらせを受け続け (留守のあいだに洋服をハサミで切り刻むなど) 精神的暴力 の結果、 PTSDとなったたケースで発令された例がありました。
裁判官は、 それまでの暴力被害の経過や加害者の言動の異常さ、 現在の危険 度などを総合的に判断して発令を決めているようです。保護命令を切実に必要としているときには最初からあきらめないで、 経験したことを丁寧に振り返って発令の可能性を検討してみましょう。
申立てしたら加害者がよけい怒りだすことにならないでしょうか?
保護命令が発令されても命令違反をしなければ、相手が犯罪者となるわけではありません。 前科にもなりません。このことは保護命令を説明するときにしっかり伝えましょう。
“加害者の怒り”への恐怖感に圧倒されて、申立を断念する被害者がとても多い現実があります。 人に恐怖感を強いること自体がとても不当なことです。 怒りを感じることは誰でもありますが、ほとんどの人は他者への暴力や脅迫という行為に結びつけないように心がけて生活しています。 大人であれば、さまざまなやり 方で自分の感情に対処することは可能です。 —
しかしDV加害者の多くは 「お前が怒らせるからだ」と責任をすりかえて 自分の怒 りの感情を被害者へのコントロールの強力な手段として使っています。
加害者がどんなに怒りを増幅させても、どんな行動に出ても、被害者が怒らせた ためだと捉えるべきではありません。それは加害者が勝手に選び取ったひとつの態 度です。 支援者は、加害者が自分を正当化するために使う論理に巻き込まれない ように注意が必要です。 被害者に責任は無いのです。
しかし被害者の恐れには、加害者からの暴力被害の経験と、社会のDV対策の立ち遅れという根拠があります。 被害者を孤立させず、社会全体の力で守っていく必要があります。
最終的には申立ての決定は、 被害者の意思です。なるべく安心できる環境で恐 怖感からの自由をとりもどせるように支援していきましょう。
次回3 申立てを決めたら