国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点2

 東京弁護士会・非弁提携弁護士対策本部の委員会ブログでは以前、「国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点」という記事を書きました。そこにおいては、過去に取り扱った事例として架空の事例が掲載されていること、弁護士が一人しかいないのに24時間365日対応を謳っていること、これから取り扱い始める案件につき「専門弁護士」などと謳っていること、現実には回収困難なのにあたかも確実に回収できるかのような記載があること、LINE相談といいつつ実際にメッセージを作成しているのは弁護士資格を有さない者であること等、弁護士の業務広告で問題があるものについてその問題点を指摘しました。
 その後、他会においてもこの記事は踏襲され、また、不適切な内容の広告を適切な内容に直さない弁護士についてその実名を公表する事例もでてきました。
 弁護士の業務広告は適切な内容でなければならず、それは日本弁護士連合会の定める「弁護士の業務広告に関する規程」でもそれを求めています。

弁護士の業務広告に関する規程
第3条 弁護士は、次の広告をすることができない。

1 事実に合致していない広告
2 誤導又は誤認のおそれのある広告
3 誇大又は過度な期待を抱かせる広告
4 (以下略)

弁護士は、自らの業務広告(ウェブサイト等)については、その内容が適切であるよう、常に意識し、適切な内容を維持しなければなりません。
 それは何のためでしょうか。もちろん、相談者(依頼者)つまり一般市民に被害が生じないように、ということです。
 では、被害とは何でしょうか。
 弁護士の業務はその性質上、結果を保証するものではありませんし、むしろ結果を保証してはならないものです。従って、成果が無かったからといって、必ずしもその受任が不適切であったことにはなりませんし、その弁護士が不誠実であったことにもなりません。しかし、金銭を獲得することが目的の案件において、依頼者が弁護士に(着手金等で)支払った金額と依頼者が結果的に得る金額を比較すると、前者が後者より大きい、つまり「ペイしない」可能性が極めて大きい案件で、それを説明せずに受任するのは不適切であり不誠実です。
 そのような「ペイしない」可能性が極めて大きい案件を依頼してしまい、高額の着手金を支払って、成果が無い。これが被害です。国際ロマンス詐欺案件は、まさにそのような案件なのです。国際ロマンス詐欺案件には、次のような際立った特徴があります。

①口座凍結しても残高は少ない場合がほとんど、暗号資産で送金した場合は交換所の追跡はできても詐欺
師の特定はできない、など他の特殊詐欺事案に比較して国際ロマンス詐欺案件は被害金の回収が極めて
困難であること。

②非弁業者と提携して国際ロマンス詐欺案件を多く受任している弁護士は、回収の困難性を依頼者に説明
せず、被害者に期待を持たせた上で、被害額(国際ロマンス詐欺は被害額が多くなる傾向がある)に比
例した高額な着手金を受領している例が多いこと。

③高額の着手金を支払ったのに回収されずに放置されているという被害者の苦情が、東京弁護士会の市民
窓口に多く寄せられていること。

 そもそも、金銭を獲得することが目的の案件で、「ペイしない」可能性が極めて大きいと説明を受けて、それでも依頼する人がどれだけいるでしょうか。特に、着手金が高額(数十万円、数百万円)の場合、あなたは依頼しますか?
 一般の方からすれば、このような議論は、ある意味退屈でしょう。「そんなことは弁護士の内部で適切に対応しておけ」と思われるでしょう。一般の方にとって関心があるのは「自分が被害に遭わないためにはどうすればいいのか」ということと思います。

 結論から先に言えば「依頼する際、その弁護士の法律事務所に行き、その弁護士に現実に会い、その弁護士から直接かつ詳細に説明を聞き、紙の委任契約書に署名押印する。」これを守るだけで、被害に遭う確率を大幅に低減できます(一旦持ち帰って、家族や友人知人や他の弁護士にも相談してみる、そこまでやればさらに確実です)。
 これを守ると決意したあなたは、ここから先を読む必要はありません。

 この方法で被害に遭う確率を低減できるのには必然性があります。
 被害を生じさせる弁護士のパターンの一つに、非弁業者と提携している、いわゆる「非弁提携弁護士」というものがあります。非弁業者はなぜ弁護士と提携するのか。もちろん理由は一つしかありません。金銭です。その金銭は、前述の被害なわけです。依頼者が払った金銭が弁護士には一部しか行かず、大部分が非弁業者に行く。これが非弁提携です。
 従って、被害に遭わないためには、非弁提携弁護士に依頼してしまわないことが重要になります。では、「その弁護士」が非弁提携弁護士なのかどうか、依頼する前(委任契約を締結する前)にわかるでしょうか。
 わかります。100%とは言いませんが、高確率でわかります。

【その法律事務所に連絡する前にわかること】
 インターネットで大々的に広告をしている法律事務所が、所属弁護士が一人又はそれに近い少人数なのに、以下のいくつかの特徴を有している。
・24時間365日対応を謳っている

・全国対応を謳っている
・LINE相談が可能としている
・電話番号が日本弁護士連合会に登録しているものと違う(0120等)

 これらは、非弁業者が手配する「事務員」(もちろん案件を適切に処理する意思も能力も資格もありません)による大量定型処理を窺わせます。つまり、非弁提携弁護士であることを窺わせるのです。
 これには必然性があります。インターネットで大々的に広告をすれば、電話がひっきりなしに鳴るのであり、仮に基本的事項の聞き取り程度は事務員がやってよいとしても、毎日何件も、毎月数十件も受任することを何ヶ月も続けるとなると、個々の案件を弁護士が適切に処理するのは困難です。
 案件を適切に処理するなら、一人の弁護士が同時期に受任できる案件数に自ずと限界があります。それを超えて受任することを前提としている、と窺わせるのが上記の広告なのです。つまり、案件を弁護士が適切に処理することを最初から想定していない、非弁提携弁護士であることを窺わせるのです。

【その法律事務所に連絡した後にわかること】
 前述のとおり、非弁提携弁護士は、非弁業者によりインターネット上で大々的に広告されています。それにより毎日多数の相談の連絡(電話等)が行きます。
 しかし、弁護士も1日は24時間しかありません。それで事務員が対応しますが、事務員ができることは本来なら相談者の住所氏名電話番号等を聞き取り、依頼の種別やせいぜい概要を聞く程度です。それを弁護士に引き継ぐのです。事件の見通しや着手金の額といったことは、弁護士しか決定できません。

 本来なら、
・事件の内容を質疑応答により詳細に聞き出す
・事件の見通しを説明する
・着手金の額を決定する
・委任契約書の内容を決定する
・委任契約の内容を説明する
・委任契約を締結する
ということは、弁護士にしかできないのです。それなのに、これらを事務員がやっていないでしょうか?

 実際、「国際ロマンス詐欺案件を依頼したが、対応するのは事務員ばかりで、弁護士と話をしたことがない、弁護士と話をしたいと要求しても、事務員が取り次いでくれない」という苦情が、東京弁護士会の市民窓口に殺到しています。
 委任契約は、相談者と弁護士との間の契約です。それなのに、委任契約締結までに一度も弁護士と話さないことが、正当な処理として有り得るでしょうか。委任契約締結までに弁護士とやりとりがないという時点で、非弁提携弁護士である疑いが強くなります。もし弁護士とやりとりしていることになっていても、その方法は?

 現実に会う→電話→Eメール→LINE

 右に行けば行くほど、対応者が弁護士であると偽るのが容易になります。逆に、左に行けば行くほど、対応者が弁護士であると偽るのは困難になります。名義を偽らない場合でも、右に行けば行くほど、大量定型処理が容易になります。逆に、左に行けば行くほど、大量定型処理は困難になります。従って、非弁提携弁護士(非弁提携弁護士と提携している非弁業者)は、できるだけ右寄りの方法でやりとりをします。

 委任契約書が電子契約書(クラウドサイン等)かどうかもポイントです。
 委任契約書が電子契約書だからその弁護士は非弁提携弁護士である、という必然性はありません。しかし、非弁提携弁護士(非弁提携弁護士と提携している非弁業者)は、高確率で委任契約書に電子契約書を使います。
 これにも必然性があります。電子契約書は、相談者を法律事務所に来させず弁護士に会わせず電話だけで直ちに委任契約を締結させるのに実に使い勝手が良く、極めて迅速に着手金を振り込ませるところまで持っていけるからです。

 一般の方が弁護士に依頼するのは一生に一回ではないでしょうか。その一回を、電話して数分で決める必要があるでしょうか。弁護士と会うこともなく、それどころか弁護士と話すことすらなく、事務員と電話して数分で契約して高額の着手金を払うべきでしょうか。そのような著しい拙速を強く勧めるのには、良からぬ魂胆があると考えるべきです。

【最後に】
 ここまで読んでいただいた方に向けて付け加えるなら「インターネットで大々的に広告をしている弁護士が悪い弁護士であるという必然性はないが、非弁提携弁護士はインターネットで大々的に広告をしている」ということです。
 弁護士全体に対する非弁提携弁護士の割合は著しく小さいですが、インターネットで大々的に広告をしている弁護士の中での非弁提携弁護士の割合は、弁護士全体に対する割合よりかなり大きい、ということです。
 インターネットで大々的に広告をするのには、結構な費用がかかります。それで膨大な数の案件を受任しても、一人の弁護士が適切に処理できる数には限界があります。ここまで読んだあなたには、もう必然性がわかるでしょう。

8月7日 東京弁護士会HP

https://www.toben.or.jp/know/iinkai/hibenteikei/news/post_8.html

その1

https://www.toben.or.jp/know/iinkai/hibenteikei/news/post_7.html